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石元丈晴氏×野村哲也氏が初対談!『ディシディアFF NT』サウンドトラック発売記念インタビュー
公開日時:2018-03-01 14:00:00
2018年2月28日に発売された、Blu-ray Disc Music『DISSIDIA FINAL FANTASY NT Original Soundtrack』。プレイステーション4版『ディシディア ファイナルファンタジー NT』(以下、『DFFNT』)だけでなく、アーケード版『DFF』の一部楽曲のリマスター音源も収録し、100曲以上のラインアップを誇るサウンドトラックだ。
その発売を記念した本記事では、コンポーザーの石元丈晴氏に『DFFNT』の楽曲についておうかがいするほか、同氏を見出したクリエイター・野村哲也氏との対談をお届け。2017年12月28日にスクウェア・エニックス退社を公表し、現在はフリーランスとして独立している石元氏はどんな作曲家なのか、野村氏のコメントとともに紐解いてゆく。
▲野村哲也氏(左)と石元丈晴氏(右)。 |
▲『DISSIDIA FINAL FANTASY NT Original Soundtrack』は、映像とともに楽曲が楽しめるBlu-ray Disc Musicとして発売。DiscにはMP3音源も収録している。価格は5000円[税抜](5400円[税込]) |
運命的な出会いと印象深い作品の数々†
――石元さんと野村さんが対談をされるのは今回が初だとか。まずは、おふたりの出会いをお聞かせください。
野村 携帯電話用の『ビフォア クライシス -FFVII-』(以下、『BC』)のときですね。
石元 僕がまだマニュピレーターをやっていたころです。当時、なんの実績もない無名の自分をよく起用したな~と。30歳になって、これからどうしようと考えたとき、作曲をしたいと思って、コンペをやってくれと声を挙げたんですよね。それで、いくつかのタイトルでコンペが実施されたんだけど、ことごとく落ちて(苦笑)。『BC』のコンペは4回目くらいの挑戦で、これに落ちたら会社を辞めようと覚悟していました。これでだめなら、自分はここに必要ないんだろうと。いいものを作っても、力があり、認めてくれる人がいなければ世に出ることはできません。あのデモ作ってよかった(笑)。
野村 当時は、そういった石元さんの覚悟や背景は知りませんでした。純粋にデモを聴いて、これは “ロック風”の曲ではなく、本物のロックだ、と感じたんです。いい意味で、ゲームミュージックっぽくもなかった。純粋に「今後ゲームミュージックにこういう曲調が増えるといいな」と思いました。『BC』の曲も狙い通りの方向性で、見事起用に応えてもらったなと。
――そこから『クライシス コア -FFVII-』(以下、『CC』)や、映像作品の『ラストオーダー FFVII』などでの起用につながっていったわけですね。
野村 はい。ザックスをメインとしたその2作品は、自分としては男臭いイメージだったので……となると、やはりロック、ギターだなと。石元さんの曲は、そこにピタッとはまっていました。『CC』でも、これは得意な方向性だろうなというのは感じていて、アコギ(アコーステイックギター)でロックをやってくれ、とオーダーしました。
石元 最初からアコギでアコギで、と言ってましたね。あのテーマとなったアコギ曲はよかったし、『CC』は、我ながらいい仕事だったと思います(笑)。当時は、『すばらしきこのせかい』(以下、『すばせか』)と並行して作曲していたんですよ。音楽性が被らないものを、同時にやっていくのがすごくおもしろかった。
――『CC』と『すばせか』は2007年リリースで、発売月も近かったですから、両方の楽曲制作を並行していたわけですね。『CC』だけでなく、『すばせか』でも石元さんを起用した理由とは?
野村 そのころには、石元さんの人となりがある程度見えてきていました。石元さんは、“作りたい欲求”がとても強い人。『すばせか』みたいな、いろいろなジャンルの曲が入った新しいタイトルを任せたら、意欲的に取り組んでもらえるだろうと思ったんです。『すばせか』のときは、まず1曲だけ「こういうのをやりたい」とイメージを伝え、それであがってきたのが『Twister』でした。これを聴いたときに、「いける」と確信して、あとは比較的自由に作曲してもらっています。『Twister』は自分としても好きな曲で、いまだにちょくちょく聴きますよ。
――2タイトル同時で曲数も多かったと思いますが、制作に支障はなかったんですか?
野村 石元さんは本当に意欲的で、曲を上げてくるのも早く、詰まることはなかったですね。
石元 逆に複数の曲を同時に作っていくほうが、僕はやりやすいんです。早く上げるのは、後悔したくないから。ギリギリまでかかって「時間ないからこれでいいや」ってなってしまうのは、もったいない。一度形にしてから磨く時間を取ることで、納得できるものができると思っているので。
野村 どんな変化球のオーダーでも対応してくれるという安心感もあり、すごく頼みやすい作曲家のひとりです。ロックという軸がありつつ、極端なジャンルに振ってもきちんと対応してくれるという幅広さも持っていて、それってなかなかないんじゃないかなと。本人の熱心さ、“作りたい欲求”の強さゆえなんでしょうね。
石元 確かに“作りたい”という気持ちは強いです。僕には音楽しかないから、やりたいことが。でも、これは音楽家として特別なことじゃないと思いますよ。
――野村さんから見た石元さんは“作りたい欲求”の強い人とのことですが、石元さんから見た野村さんは、どんな人ですか?
石元 ほかに代わりがいない人。それは真のクリエイター、アーティストとして当たり前だけど、大事なことなんですよね。野村さんが有名とか無名とか関係なく、無名でも同じようにいっしょに仕事をしていただろうな、と思える人でもあります。目先の損得で動かない、頑固さもいい。“頑固”って、日本語だとネガティブに感じるかもしれないけど、モノづくりでは大事なんですよね。口で言うことと行動が違う人もいるけど、野村さんはそれがないし、曲のオーダーに際しての感覚も共有しやすい。ただ、職種が違っているからうまくやれてるんだとは思います。同じ職種だったらぶつかってたかも(笑)。
野村 (笑)。
石元 あと、野村さんは簡単に人を変えない。「こういうことやりたいから、そのエキスパートであるこの人を入れました」とか、「話題作りのためにこの人を起用しました」という判断をするのはよくあることですけど、野村さんは基本的に「同じ仲間で新しいことやろうよ」という方向。それで、僕らにいろいろなことを味わわせてくれる。オーダーがくるときに、ワクワク感がすごくあるんです。『DFFNT』のファイナルトレーラーで、いままでと違う路線のことをやったのもおもしろかったな。
――そのファイナルトレーラーに関する曲(サントラには『DISSIDIA FINAL FANTASY NT [JF 2018 Trailer]』として収録)のオーダーとは?
石元 サビはキャッチーにするけれど、その前に少し雰囲気を出すというか……。映画のトレーラーのような。あれは野村さんじゃなかったら、オープニングの曲をただつまんだものになったんじゃないかな。
野村 「こういうテイストで」という音楽性についてのオーダーではなく、映画のトレーラーのような構成にしたい、という趣旨をまず伝えたんですよね。映画のトレーラーって、曲がずっと流れてるわけじゃなく、ゆったりとしたところから“ドン!”と強い音が入ったり、逆に無音部分もあったりするので、そういうイメージを伝えました。でも、もちろん伝えたそのままでは上がって来ないわけで、どういう解釈をして、変換されてくるかはオーダー先のセンス次第。映像の編集は自分がやるので、どんな曲でもうまく仕上げる自信はある。大丈夫だから自由にやってほしい、と伝えました。
石元 オーダーに対して、求められる以上のことを出したいのは当然として、僕はたとえオーダーと違ったとしても、「おもしろい」、「これはいいね」と言ってもらえるものにしたい。今回のトレーラーは、その形のひとつかなと思います。
――『DFFNT』のファイナルトレーラーのほかに、印象深いお仕事や出来事というと、何を思い出しますか?
石元 やはり、抜擢されたときのことですね。あれで、すべてが変わったから。デモテープって、全部が決定権のある人のところにまで届くわけじゃない。それが、野村さんに届いたことすら奇跡だった。あのデモ出してなかったら、『すばせか』や『BC』はほかの人がやっていたのかと思うとゾッとします(笑)。仲がよかったとか、知り合いだったとかじゃなく、正当にデモを聴いて起用してもらったのがうれしかったし、まさにあれが自分のターニングポイントでした。
野村 自分も『BC』、それから『すばせか』ですね。『BC』は石元さんとの出会いの作品でもあるし、それまでにないテイストの曲を作る人が出てきた、という発見の喜びがありました。『すばせか』は、「この人、なんでもできるな」という驚きを覚えました。ボーカル曲をやるのは、とても難しいことだと思っているのですが、ゲームミュージックという枠を超えたものを上げてきてくれる。そんなケースはなかなかなくて、本当にすごい人だと感じた作品でもありました。
――その『すばせか』は、ニンテンドースイッチで『すばらしきこのせかい -Final Remix-』として帰ってくることが発表されています。新要素の追加があるそうですが、新曲もあるのでしょうか?
石元 ありますよ。いま、何曲か新曲を作っています。既存曲も、結構な数をリアレンジしたり、収録しなおしていたりもします。既存曲は、当時DSのROM容量に入りきらず短くした曲もあるので、『-Final Remix-』では長いアレンジにしたりしてますね。ホントはこういう曲だったんだよ、ということで。
野村 『-Final Remix-』での新曲については、いままでの作品でテイストは確立されているので、石元さんの好きにやってくれればいいかなと思っていて、自由に手掛けてもらっています。
石元 どうせならおもしろいことをやりたい。『すばせか』は、自分の物差し、指針でもあるんです。『BC』や『CC』は“『FF』シリーズの一部”ですが、『すばせか』の曲は、自分がイチからすべて作り上げたオリジナルなので、気合が入りますね。ぜひ続編もやってほしい。
野村 石元さんはずっとそれを言ってくれていて。ありがたいですね。
石元氏の独立、そして野村氏からの新たな発注†
――石元さんの独立についてもお話をおうかがいできればと思うのですが、今回、その道を選んだ理由とは?
石元 僕は1998年に入社して、いま45歳、5月で46歳になるんですが、以前から「この先どのくらい曲を作れるのかな」という思いがあって。これからの作曲人生を、社員としてではなく、スクウェア・エニックスっていう看板を1回取り払ってやってみたかったんです。裸になったときに、どれだけやっていけるのかを試したくなったというか。
野村 じつは独立については以前から何度か相談されていて、これまで自分は引き留めていたんです。でも、これだけ精力的に作曲活動を続けていて、大型のタイトルもいくつか担当してもらって、いまや独立したときに困らないような「これをやった」という代表曲もある。挑戦したいという思いを尊重して、今回は送り出す決断をしました。
石元 独立するのは年齢的に遅いほうで、もっと早くてもよかったと思うんですけど、社には野村さんも在籍していて自分としても情が残っていたんですよね。ありがたいことにずっと仕事が途切れずにいたこともあり、目の前の作曲に集中し続ける期間が続いていました。そんな中、『DFF』のアーケード版の作曲がひと段落したときに、今後についてじっくり考える時間ができて、改めて先にことを考えるようになりました。また、上国料(勇)さんや直良(有祐)さんが退社されて、新しい挑戦をしているのを知り、自分としても独立という選択肢がよりはっきり見えてきた部分もありました。
――いろいろなタイミングが重なって、決心された独立だったのですね。
石元 はい。会社には去年の春くらいに話をして、社員として在籍するのは12月まで、『DFFNT』が終わったら退社すると決めていました。だから、『DFFNT』の曲は、どれだけたいへんでもひとりでやろうと思って。今回やり切って、自分としては区切りがついたなと思っています。
――そして2017年12月、退社を発表されたと。
野村 辞められる際、自分と仕事をしてきたことを、石元さんがいかに大切に思ってくれているかが感じられる、とても感激するメールをいただいたんです。そのとき、メールをLINEに転送してもらっていたので、だいぶログが送られてしまって……いまパッと見られないんですけど(苦笑)。
石元 えー!(爆笑)。退社の際はお互いに忙しかったので、メールだけでもと思い送りました。野村さんもクールそうで熱いとこあるし、気持ちは伝えないと意味がないですからね。再送しましょうか?(笑)
野村 大元のメールは残っているので大丈夫です(笑)。
石元 辞めるときには野村さんの家までご挨拶にうかがって……すごく心配してくださったんですよ。ちなみに、退社のことを知った間(一朗)さんに、「話があります」と呼ばれて行ったら、開口一番「できるだけ安くお願いします!!」って言われましたけどね(笑)。野村さんに相談して、「独立したらバリバリ稼がないとね」と言ってもらったとき、隣りにいたのに(笑)。
野村 間は、すぐ電卓叩き出すから(笑)。
――さすが間Pです(笑)。独立後、立ち上げた新会社について教えていただけますか?
石元 社名はTHRILL(スリル)株式会社です。人生ハラハラドキドキ、作る音楽もハラハラドキドキでありたいという意味を込めています。僕のイニシャルであるTとIが入っているのもポイントです(笑)。布袋寅泰さんの『スリル』じゃないですよ?
野村 いま、完全に頭の中で流れてた(笑)。
――現在は石元さんおひとりですが、今後会社として作曲家を増やしていったりは?
石元 予定はないですね。社長業をやりたかったわけではないので。もし先々、誰かを入れるとしても、尖った人のほうがいいかな。「俺はたまたまお前の会社に入ってきただけだから。俺は俺でやる」みたいな人(笑)。そういうほうが僕は好きだし、会社としてはさまざまな色があったほうがいいですから。まあ、いまはいただいた仕事を全力でやるだけです。
――それでは野村さんから、石元さんにひと言いただければと思います。
野村 石元さんには、これまでも『キングダム ハーツ』シリーズの曲を何曲かやってもらっていますが、『キングダム ハーツIII』でも、関戸(剛)さんとともに参加してもらうことが決まっています。いままでより曲数も増えて、重要なバトルでかかる曲などもお願いする形になるので、これからもお付き合いを続けていただければ。今後とも、よろしくお願いします(笑)。
集大成となったサウンドトラック†
――ここからは、石元さんに『DFFNT』のサウンドトラックについておうかがいしていきます。今回のサントラは、100曲越えの大ボリュームで、Blu-ray Disc Musicでの発売となります。アーケード版でのみ流れる曲も入っていますが、そういう仕様にした意図とは?
石元 細かく言うとアーケード版の曲は全部は入っていないのですが、集大成のような1枚にはなっていますね。アーケード版があるのは日本だけなので、世界に向けて発信できるのはPS4版の『NT』が初になります。つまり、世界の方々はアーケード版の2枚のサントラについては知らないので、このサントラでは『DFFNT』の曲を重視しつつ、アーケード版の曲もなるべく詰め込んでいるんです。
――海外ユーザーのためでもあるんですね。アーケード版のサントラVol.2には入っていなかった、『FFXV』関連の曲は今回が初収録ですが、『FFXV』の曲のアレンジはいかがでしたか?
石元 『FFXV』だからこうだ、とかはあまり考えないですね。スタンスはこれまでと変えずにやっていった感じです。
――では、『DFFNT』のオリジナル曲を制作するにあたってのコンセプトをお聞かせください。
石元 アーケード版の曲は激しめのロックが多いのに対し、『DFFNT』の曲は落ち着いた感じを出しています。ロックであっても、あまりハードすぎず、ポップ寄りのものがあったり。全体的には、メロディーを重視したものになっているかな。そうしたことで、ハードな既存曲とのメリハリが利いて、だいぶバランスがよくなったかなと思います。
――PVなどでユーザーが比較的聴くフレーズが使われていて、オープニングでも流れる『At Long Last』について、制作はいかがでしたか?
石元 そんなに悩まず、自然と出てきた曲でした。僕は曲ができないというのがないんですよね。作りたいものが多すぎて。
――召喚獣戦の曲は1曲ずつテーマが違いますが、こちらもさほど苦労されずに?
石元 そうですね。自分はいつも、3、4曲くらいを同時に作るんです。そうすることで、似た曲ばかりができないようにしています。そもそも飽きっぽいこともありますが(笑)。1曲目が煮詰まったら2曲目を作り始めて、2曲目が煮詰まったらつぎを作って、3曲目、4曲目……それでまた1曲目に戻ると、もう一度取り掛かるときには「あ、ここを広げられるな」と気づく部分があったり、「ここは最初に思ったほどよくないな」と修正できたり、客観的になれるんです。
――1曲に根を詰めすぎず、客観性をもってバランスよく作曲していくと。曲作りの際は、どういう手順で手掛けられているのですか?
石元 パソコンで作業するのですが、自分は最初にテンポを定め、つぎにコードをメジャーかマイナーか……明るいか暗いかを決めます。まあ僕の作る曲は9割ぐらい暗いので(笑)、「明るい曲で」と言われない限りはだいたいマイナー。マイナーコードじゃないと、“攻撃的な曲”にはなりにくいというのもあります。その後はコードを軸に作曲するんですけど、僕は和音がひとつでも鳴っていれば、メロディーはいくらでも考えられるんですよ。もう、無限に。
――無限ですか。さすが、“作りたい欲求”の強い石元さんですね(笑)。
石元 やりたいことはいっぱいあるから(笑)。ただ、1日で作曲を終わらせることは絶対にしません。たとえば1日作業して、夜に曲がだいたい見えてきたとして、「これはいい!」と思ったとき、そう信じ込んでしまうのは主観が入りすぎている。“自分が作りたいもの”に酔いすぎるのは危険です。一度寝て、朝起きて、客観的に聴いて、その曲が本当にいいのか判断する。翌朝に聴いたら「あ、寝ぼけていたんだな」ということも(笑)。「やっぱりこれはキャッチーでいい」と思えたら、本腰を入れていくという感じです。
――本当にいいものかどうかを判断するために、時間を使っていると。召喚獣戦の曲も、そうしてローテーションや冷却時間を設けることで、バリエーションが生まれたわけですね。
石元 そうですね。通常のバトル曲がかなり激しいので、召喚獣戦でも同じように作ってしまうと変わり映えしないなというのは思っていて、全部空気を変えようというのは最初に決めていました。
――『イフリートバトル』では力強いコーラスが印象的です。
石元 あれは「ウォーウォー」言っている曲を作りたかったんですよね(笑)。『バハムートバトル』も、当時自分が作りたかった方向性の曲で、こちらは誰でもノリやすいというか、バンドとシンセ(シンセサイザー)をうまく組み合わせたものにしたくて。『リヴァイアサンバトル』も、これまでのアーケード版でのバトル曲とは違った方向性を強く意識しています。メインのメロディーを用いている『オーディンバトル』は、召喚獣戦の中ではいちばん正統派かもしれません。
――『アレクサンダーバトル』も、メロウな雰囲気でおもしろいですよね。
石元 これは自分でも好きですね、哀愁漂う感じで。もしかしたら、召喚獣という雰囲気ではないかもしれないけど(笑)。『DFFNT』の召喚獣戦の曲では、自分がいままで影響を受けてきたものを詰め込んでみたいというのもありました。いままでの経験含めて、いろいろなジャンルをやりたいなと。
――バトル曲では、ラスボス戦の曲も書き下ろしです。『Dare to Defy』と『The Dragon Sups』の2曲についてはいかがですか?
石元 第1形態の『Dare to Defy』は、ちょっとオープニングを意識しつつ、いわゆるラスボス戦らしい盛り上げかたを演出しています。第2形態の『The Dragon Sups』は、そのさらに先ということで、重さを出しています。『DFF』はずっと同じメロディーを使っているので、違うタイプのものもやりたいと思い、それにチャレンジしていますね。
――『DISSIDIA NT -ending-』は、いろいろな要素がつながった構成になっています。これにはどのようなコンセプトがあったのですか?
石元 PSP版の『DFF』のエンディングほどは尺がなかったので、全部のタイトルをメドレーで流すのではなく、『FF』や『DFF』のテーマなど、ピックアップした要素を数分ごとにメドレーにするのがいいのではないかという話になりました。全部を少しずつメドレーにしてもいいんですが、それは以前やっているので、それぞれを少し長めに取りつつ違う方向にしています。
――ちなみに、サントラには収録されていませんが、今回はThe BONEZさんの『NICE TO MEET YOU』も『DFFNT』のバトル曲として採用されています。曲の制作には石元さんも関わっているのですか?
石元 曲作りには関わっていません。メンバーのT$UYO$HIとZAXは、『FF零式』からずっといっしょにやっていて、「なんでもいいので1曲やらせてください」と申し出があったんですよね。そのことを野村さんに伝えたらオーケーということだったので、1曲提供してもらいました。立場上、僕が「こういう曲がいい」と言っちゃうと、ただの仕事になってしまうから、楽しんでもらうために「自信のあるものを出して」とだけ伝えて、上げてもらった曲なんですよ。
生まれ変わった『Massive Explosion』†
――今回もロンドンで収録されてきたとのことですが、やはりアビー・ロード・スタジオで?
石元 はい。アビー・ロードのスタジオ2(※ビートルズなど著名なミュージシャンが使用していたスタジオ)と、教会の大聖堂を改装して作られた、こちらも名門のエアー・スタジオに行ってきました。オーケストラの曲と、ストリングスのパートだけを、計20曲分くらいですかね。
――石元さんが、海外のスタジオで収録する理由とは?
石元 日本だけでは視野が狭くなるので、広い世界で刺激を受けたり、ときに打ちのめされることも必要だと思っていて。音の響きがどうこう、というより、自分の場合はそれがいちばんの理由です。音に関しては、レコーディングエンジニアの仕事というのが大きいと思うんですよね。音って神経質に完璧を目指してしまうと、逆に失敗するような気がしてしまう。音楽は、ある程度は雑なほうがおもしろかったりもしますし。
――勢いとか、味のようなものがあったほうがいいと。
石元 そうですね。もちろん、今回も演奏はよかったです。「この人たちが自分の曲を演奏したらどうなるんだろう」という期待感や、「きっといいものにしてくれる」という感触がありました。ただ、作曲家として演奏に納得いかないときもありますし、実際キレたりもしましたけどね。通訳は嫌がってたけど(笑)。結果、きちんと向き合って話をして、いいものにできたと思います。
――『Massive Explosion -arrange- DISSIDIA FINAL FANTASY NT』も、ロンドンでの収録でしたね。今回、歌い手としてナディーン・ベンジャミン(Nadine Benjamin)さんを起用されたいきさつとは?
石元 アーケード版の『Massive Explosion』を、『DFFNT』でアレンジする際には、イメージを変えるために歌手を違う人にお願いしようというのは決めていました。日本から連れていくと渡航費もかかるので(笑)、現地で探すことにして、紹介してもらった中にいたのが、オペラ歌手のナディーンでした。
――彼女を採用した決め手は?
石元 テープを聴いていい声だと思ったし、歌っているときの表情もよかったんです。僕はゴスペルやソウルも好きで、パワフルな声を持つ黒人の女性に、自分の曲を歌ってもらいたいと以前から思っていて。とはいえ、「この人でやる」と決めても、現地で本当にいいパフォーマンスができるかはわからなかったりするので、不安な部分はありました。緊張して、パニックになってしまうこともあるし、そこのケアは作曲より難しい(苦笑)。
――ナディーンさんの様子はいかがでしたか?
石元 最初はアビー・ロード・スタジオということで興奮気味でしたけど、収録のときには問題なかったですね。今回のサウンドトラックでいちばん思い入れが深いのは、この曲になるかな。印象の面で、彼女の声に救われている部分はとても大きいと思います。
――ナディーンさんの力もありつつ、曲もアレンジが入っていますよね。どういう方向性を目指したのでしょうか。
石元 アーケード版のときはヘビーな曲になったので、今回は聴きやすさを意識しています。サビ以外は、ポップさを出してアレンジしていますね。
――では最後に、『DFFNT』のサウンドトラックについて、改めてファンの皆さんにコメントをお願いします。
石元 今回のサントラでは、関戸さん、河盛(慶次)さんとともにやってきたこれまでの作品と違い、自分ひとりで手掛けた『DFFNT』オリジナルの楽曲を中心に据えています。『DFFNT』の曲は、よくも悪くも僕のもので、独立という節目にそのサントラを出せたことをうれしく思っています。サントラのアピールポイントとしては、100曲超えという曲数もすごいとは思うんですけど、僕はもう麻痺しちゃってきたかな(笑)。ただ、この曲数で多ジャンルの楽曲を網羅しているところはほかにない魅力だと思いますし、自分らしさがけっこう出せた1枚になっていると自負しているので、ぜひ聴いていただければと思います。
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