ゲームでうまい牡蠣が食える! 異色の大会主催者が考える地方産業と子どもたちの未来

公開日時:2018-06-05 16:05:00

 世の中には“牡蠣”が賞品のゲーム大会がある。その主催者である小笠原さんとC4 LANで話をした。

※C4 LANについてはこちらの記事をどうぞ。

●ゲームやろうぜ、3日間ぶっ続けで。最高にピュアなイベント“C4 LAN 2018 SPRING”に参加した

●DeToNatorのSHAKAくんより釈迦っぽくなりたい
 

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左が小笠原さんで右は僕。C4 LANには各地からゲーマーが集まってくるので、いろいろな人の話を聞ける。

 
 小笠原さんは岡山県在住だ。2016年、家業の小笠原水産で養殖した牡蠣を賞品に、『Dota 2』のオンライン大会を開催。「ゲームでうまい牡蠣が食える」と界隈で話題になった。

 いまは“ENLIFE”というチームを設立。『Dota 2』に限定せずに、“参加しやすさ”を模索しながらイベントを企画している。

 僕は自主的にゲームのイベントや大会を開催している人と話してみたくて、とくに地方で活動する人に興味がある。どういう気持ちで、何を目的に活動しているのだろう。
 

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Dota 2』は基本プレイ無料のPC用オンライン対戦ゲーム。5人でチームを組んで敵の本拠地を破壊するのが目的で、ジャンルはMOBAに分類される。メディアでよく見る「世界大会の賞金総額は20億円以上!」のゲームは本作のこと。

★★★仲のいい人に自慢の牡蠣を食ってほしい★★★

 
 僕自身は新潟県の片田舎出身だ。実家にはネット回線もない。いまは上京したおかげでゲームの盛り上がりを肌で感じているが、地元に住んでいたら他人事のように思えていただろう。

 イベントとの物理的な距離と参加までの精神的なハードルは、ある程度は比例すると思う。小笠原さんも地元に閉塞感のようなものを感じるという。

 これはゲームのみならず日常の仕事にも関係する。外側への発信が苦手というのは地方産業にありがちだ。うまい牡蠣をネット通販で全国に届けようと提案しても、年配の人は取り合ってくれない。
 

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esports情報サイト“Negitaku.org”で牡蠣がもらえる大会のことを知ったときから、小笠原さんと話してみたいなーと思っていた。

 
 そんな中、友だちに勧められてPCオンラインゲームと出会い、自然といろいろな人の配信を見るようになった。

小笠原さん うちの子どもたちはYouTubeとかすごく見るんですよ。いっしょに見ているうちに、自分でも配信をやったらおもしろいかなと思ったんですね。
 で、(配信で家業の話をしたら)「牡蠣やってんの?」みたいな反応があったんです。(視聴者と)仲よくしているうちに、顔も本名も知らないけど、うちの牡蠣を食ってほしいって気持ちが出てきて。

ユースケ ものすごくピュアな話ですね。好きな人に自慢の牡蠣を食わせたいって。

小笠原さん 大会やりたいのは大義名分なんだと思います。意味を持たせたうえで牡蠣をあげたい。

ユースケ 大会でゲームを盛り上げようってのは後付けなんですね。コミュニケーションの一環として、ゲーム友だちに自分の好きなもの(牡蠣)にふれてほしい。

小笠原さん ですね。あとは配信。大会よりは配信ありき。配信を見に来てくれた人に恩返ししたい。ただあげるだけってのもアレだから、試合やるかなって。
 

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小笠原さんはC4 LANの会場内でずっとビデオカメラを回していた。レポート動画を作ってC4 LANのおもしろさを広めたいのだそうだ。

 
 最初は仲のいい人に牡蠣をおすそ分けしたいくらいの気持ちで始まった大会企画。小笠原さんは「田舎の人情の延長ですかね」と言いつつも、いまはもう一歩先を見ているようだ。

小笠原さん 子どもの将来の夢がYouTuberみたいな話が(テレビやWebの記事に)取り上げられると、ポジティブな内容じゃなかったりしますよね。
 そういうのを前向きに受け入れられる社会が作れたらな、お手伝いができたらな、みたいな思いもけっこうあります。

 ここに来てお父さんの視点が出てきた。子どもたちの未来のために、少しでもゲームやストリーマー(配信者)の足場を固めたいのだという。

 “自分はゲームも配信も好きだからYouTuberを目指す子どもを応援する”というだけではない。自分が意味のある活動をすることで、社会を変えるきっかけのひとつになりたいのだ。
 

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名作RTS『StarCraft II』の魅力をコミュニティーの人たちから教えてもらう小笠原さん。

 
 小笠原さんは続ける。

小笠原さん プロゲーマーもそうですね。Nintendo Switchとかやってる子が「プロゲーマーになりたい」ってなるかもしれない。
 そういうとき、親御さんが「大変だろうけど、がんばりな」って言える社会はすごくいいと思うんです。少なくとも、自分の周りくらいはそうであってほしいかなあ。
 でも、うちの子どもが(プロゲーマーになりたいと)言ったとして、僕と嫁がケンカもなく「わかった。やってみろ」って言えるのかというと、正直まだ分からないですけど。プロゲーマーが(世間に)認められたとしても、勉強とかはやっておいたほうがいいと思いますしね。僕が後悔してるので。

 スポーツに真剣に取り組む子を手放しで応援する大人が多いのは、“スポーツ=健康的でいいこと”だからだと思う。つまり、究極的には“ゲーム・配信=いいこと”というイメージがつけば偏見は減るはず。はずなのだ。
 

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人の親としての使命感があるのかもしれない。子どもの好きなものを否定しない社会。たしかにそれはすばらしい。

 
 道は険しいものの、成果を実感できるときもある。牡蠣を賞品として送った若いプレイヤーのお母さんから手紙が届いたことがあるそうだ。手紙には以下のようなことが書かれていた。

「ふだんからゲームばかりしている子どもを怒ることもありますが、ゲームで賞品を取れたよとうれしそうに話してくれました。みんなで囲んだ食卓が、いつもより明るく感じました」

 おおお。そんなのもらったら泣いてしまう。

 もしかしたら、お母さんにとってゲームは“意味のないもの”だったのかもしれない。だが、小笠原さんの牡蠣によってゲームがプラスになった。それに、子どもが自分の力で何かを得るって、親としてはうれしいことだろう。
 

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ENLIFE公式サイト。ロゴの下に協賛企業の名前が並んでいる。

 
 小笠原さんが代表を務めるENLIFEは「人生にゲームを、ゲームに実感を」というスローガンを掲げている。

 いい言葉だと思う。とくに後半の“ゲームに実感を”がいい。先ほどのご家族で言えば、うまい牡蠣を食べたことで「ゲームをしていてよかったな」と実感が強まったわけだ。

 ぼんやりゲームをするのも楽しいが、何らかの手ごたえがあると満たされかたが少し変わる。

 昨日より強くなれた。友だちが増えた。イベントに参加した。牡蠣をもらった。うまかった。家族も喜んだ。こういう実感があれば、ゲームをもっと好きになり、人生は充実するだろう。
 

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2018年6月2日~3日に開催された大会の賞品一覧が公式サイトに掲載されていた。食べものが目を引く。

 
 ENLIFE主催イベントの賞品は多くが食べもの(地方の特産品)だ。牡蠣に始まり、肉、フルーツと協賛者も増えている。

小笠原さん 協賛してくれているところは、みんなゲーマーなんですよ。山梨のフルーツ農家さんとか、僕より年上の方なんですけど、がちがちのゲーマーで。

 ゲーマーだからゲーム大会に協力したいという気持ちは強いのだろう。加えて、Webで地域の特産品をPRできるのだから一石二鳥。「ゲームを支援してくれたから今度はお返しに買おう」と思ってもらえたら最高だ。
 

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小笠原さんのゲーミング腕組み。

 
 また、ネット文化に密接なゲーマーに自慢の品を食べてもらえば、SNSを通じてすぐに感想がもらえる。

 食品の生産者にとって「うまかった」という声はすごく大切だ。賞品を提供することは、小笠原さんたちの仕事のやりがいにもつながる。イベント参加者と主催者(協賛者)の双方に“実感”が生まれるのである。

 そう考えると、オンラインゲームのイベントとこういった地方産業は相性がいい。大会には法的に高額賞金を用意しにくい問題があるが、その対策として食べものを贈るのはアリだと思う。“10万円分のうまい肉”なんて掲げられたらインパクトは抜群だ。

 ゲームがいま以上に盛り上がるカギは地方にあると、僕は思う。毎週毎週、全国各地でひっきりなしにイベントが開催されたら。想像するだけで興奮する。
 

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関東以外の地域で開催されるイベントも増えている。これは2018年3月に愛知県で開催されたNagoya e-Sports Festival vol.0の様子。

 
 小笠原さんと話してゲームと地方産業のシナジーに気づかされた。そして、父親としての考えかたにハッとさせられた。

 みんな何のためにゲームやesportsを盛り上げようとしているのか。僕自身は“自分が楽しむため”だと思っていたのだけど、小笠原さんは子どもたちの未来も見据えていた。

 自分たちの取り組みで地方産業を活性化させれば、ゲームや配信者に対する風当たりが弱まるかもしれない。プロゲーマーやYouTuberを夢見る子どもを傷つけずに済む。

 本来、僕らおっさんが目指すべき社会ってそれだよな、と思った。
 

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ファミ通グループでおもにPCのオンラインゲームを担当。企画記事を作るのが好き。
『まいにちがβテスト』は、ミス・ユースケがPCオンラインゲームで遊んだり考えたりしたことをテーマにしたブログです。タイトルには「つねにβテスト時のわくわく感を抱きながらゲームを遊び、実験的な企画もやっていきたい」という意味を込めていると、後付け設定的に考えました。

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