eスポーツで稼ぎたいビジネスマンは興味があるはず。書籍『DeToNatorは革命を起こさない』を作った理由

公開日時:2019-04-03 22:35:00

 久しぶりに本を作る仕事をした。

 プロゲーミングチーム・DeToNatorで代表を務める江尻勝さんの著書『DeToNatorは革命を起こさない ゲームビジネスで世界を目指す』だ。

 エンタメの本ではない。ビジネス書だ。編集者になって20年近く経つものの、そういう本は作ったことがない。

 リハビリせずにいきなり全力疾走するような話である。
 

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「DeToNatorは革命を起こさない ゲームビジネスで世界を目指す」。価格は1300円[税別]。全国の書店などで発売中。

 作った経緯などをつらつらと書く。

★★★編集者冥利に尽きるひと言★★★

 きっかけは2019年1月7日。『ユーキャンクエスト』の取材が終わり、最寄りの駅まで歩いているときのこと。

 江尻さんと世間話をしていたら「本とか書いたらどうですか? ってよく言われるんですよ」という話題になった。

 DeToNatorは人気も実績も申し分ないゲーミングチームだ。海外展開を重視していたり、ストリーマー(配信者)の人気がすごかったり、ほかのチームとは運営の方向性が異なる。

 彼らの方法論をまとめるのもいいなと思い、Gzブレインから本を出版する際の流れを説明した。

 内容にもよるが、完全書き下ろし本の制作には3ヵ月くらいかかる(印刷期間も込みで)。少部数だと単価が上がる。なるべく安くしたいので、ある程度の部数が売れる見込みがないと厳しいかも。などなど。

 その日はいったん持ち帰って書籍系の部署に相談することにして別れた。

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プロゲーミングチーム DeToNator代表 江尻勝さん。

 日を改めて打ち合わせ。江尻さんの脳内にある本の内容を整理していく。

・チームを健全に運営したい。
・ゲーム業界でビジネスを展開して売り上げを立てることが重要。
・DeToNatorの今後の展開をまとめたい。

 だいたいこんな感じだ。DeToNatorは世界のeスポーツシーンで戦うチームだが、日本のeスポーツを発展させるとか自分たちが引っ張るとか、そういう大きな話ではない。

 軸は“江尻勝としてのビジネス論”。だからこそ、いま出版しておく価値があると思った。

 じつは最初に相談された時点で本を作る気でいた。最後に背中を押したのは、「ファミ通とじゃなく、ユースケさんと仕事がしたいんです」という江尻さんのひと言だ。編集者冥利に尽きる。

 会社に戻ってファミ通書籍の編集長に相談。「こういう本を出しておくことは、会社としても意義がある」と理解を示してくれた。1月中に立て込んでいた作業を片付け、2月頭から制作スタートすることになった。

★★★この本は僕だから作れた★★★

 DeToNatorは2019年3月に大きな動きをすると聞いた。

 東海テレビでの冠番組の放送とサンリオピューロランドでのイベントだ。本もその近辺に合わせたほうがいいだろうと、発売日は3月30日に決まった。

 困った。さっき書いたように、制作には3ヵ月くらいかかるのだ。ふつうにやると5月上旬に発売する本を3月30日に出す。がんばって時空を歪めた。

 『DeToNatorは革命を起こさない』という書名は僕から江尻さんに提案した。返答は「まさに、こういうことだと思います」。eスポーツ業界以外にも通じる内容が多いので、書名に“eスポーツ”とは入れなかった。

 江尻さんには激情家の一面もある。言い回しが過激すぎるとその印象に引っ張られて内容が頭に入らなくなるので、表現は調整した。ただ、攻撃的な中にも必要な部分はある。そういうのは皮肉に変えたりして残している。

 修正作業には江尻さんとの長い付き合いが活きた。これまでにいろいろな話をしてきたので、「攻撃したいわけではなく、こういうことを書きたいはず」と何となくわかるのだ。ゲーム業界と江尻さんの意見&性格に明るい編集者はたぶん僕しかいない。

 この本は僕にしか作れなかっただろうなと自負している。違うな。自画自賛か。

★★★ビジネスマンが本書に興味を持たないのはおかしい★★★

 ここ数年でにわかにeスポーツが盛り上がっているみたいで、ゲーム業界の外からも参入する企業が増えている。ストレートに言えば「eスポーツで稼ぎたい」と考えるビジネスマンがたくさんいるわけだ。

 そういう人たちは「eスポーツを日本の文化に」なんてお行儀のいいことを言いがちだが、個人的には正直に「めちゃくちゃ稼ぎたいっす!」でいいと思う。

 何だかんだ言って、稼ぐには楽しいコンテンツを投入するのが効率的だ。そのためにはゲーマーの趣味嗜好を理解する必要がある。

 きちんとゲーマーに寄り添って、おもしろいゲームや大会、イベントが増えたら誰も損をしない(ゲーマーに限らずおたく的な素養を持つ人は自分の仲間じゃない人を敏感に察知するので、その辺はうまいことやってください)。

 eスポーツに対する知見がなくても適当にリサーチすればDeToNatorには行きつくだろうし、稼ぎたいビジネスマンからしたらDeToNatorのやりかたには興味があるはずだ。

 というか、興味を持たないのはおかしい。大手企業でもないのに、いったい何をしたらサンリオピューロランドとコラボできるのか、気になるじゃないか。
 

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帯にはDeToNator×サンリオキャラクターのロゴデザインを載せている。コラボしたくてもできない企業は多いだろうが、DeToNatorはできている。その違いは何か。

 eスポーツで成果を上げたいなら、すでに一定の成功を収めているDeToNatorのやりかたを真似するのはひとつの手だと思う。少なくとも参考にできる部分は多い。

 この本はHow To本ではない。「eスポーツを盛り上げるにはこうするべき」みたいに直接的な答えを提示するのは、江尻さんの思想とは異なる。情報誌でもないので、びっくりするような最新情報を載せているわけではない。

 それでも、現在と未来の日本eスポーツ界のために各々が何をするべきか、読み解けるはずだ。「DeToNatorはこうやっていきます。あなたは?」というメッセージも込められていると、僕は思っている。

★★★きみが何とかしたら?★★★

 この本を作ろうと思った理由はもうひとつある。

 最近、何かみんな議論してるなと感じる。日本でeスポーツを盛り上げよう。文化にしよう。そのためにはこういう問題点を解決する必要があって……。私は業界をよりよくするために問題提起します! 闇を暴いて、問題点を指摘して、意見を出します!

 それはいいのだが、僕は心が狭いので「そこまで言うなら、きみが自分の手で盛り上げたら?」と思ってしまう。

 プレイヤーどうしの議論は活気にもつながるのでいいことだと思う。ただ、そこで中心人物として立場を確立してやろうとか儲けてやろうみたいな人が出てきたら少し嫌だ。とくに理由のない感情論だが、何となく嫌なのだ。業界ゴロがのさばったら嫌だなーという気持ちもある。

 僕は編集者だ。裏方が性に合っている。みんなを先導するタイプではないし、eスポーツを何とかしようみたいな強い気持ちはあまりない。ただ、ゲーマーたちがわいわいしているのをぼんやり眺めるのは好きだ。

 DeToNatorは自分たちなりの考えを持って戦っている。同じように、多くの人が「おれも動こう」と立ち上がったらおもしろい。だから、参考資料にもなる江尻さんの本を作った。

 これが僕のeスポーツだ。
 

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ファミ通グループでおもにPCのオンラインゲームを担当。企画記事を作るのが好き。
『まいにちがβテスト』は、ミス・ユースケがPCオンラインゲームで遊んだり考えたりしたことをテーマにしたブログです。タイトルには「つねにβテスト時のわくわく感を抱きながらゲームを遊び、実験的な企画もやっていきたい」という意味を込めていると、後付け設定的に考えました。

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