渡辺篤史さんのゲームオフィス探訪~コーエーテクモゲームス編~

日本でもっとも有名な“建ものの探訪者”渡辺篤史さんがゲームメーカーを訪問。各社のワークスタイルを探ります。今回は業界有数の歴史を誇るコーエーテクモゲームスを訪れました。

●渡辺篤史さんがコーエーテクモゲームスにやってきた

「職場」とは従業員にとって家と同様に大切な空間――。今回の企画では、日本でもっとも有名な“建ものの探訪者”であり俳優の渡辺篤史さんが、ゲームメーカーを訪問。建物に造詣が深い渡辺篤史さんの目を通して、「優れた職場とは何か?」を考えていく。

 渡辺篤史さんが訪れたのは、『信長の野望』や『三國志』、『無双』シリーズなど、数々の人気タイトルで知られるゲームメーカー“コーエーテクモゲームス”。それではオフィスを巡ってみましょう。

▲この企画はファミキャリ!の提供でお送りします。

 都心からほど近い、神奈川県の日吉に本拠地を構えるコーエーテクモゲームス。東急東横線の東側には石造り風デザインの本社ビル、西側には太陽の壁面アートが印象的な別のビル(通称:ジェミニビル)が建っている。

 今回の取材で初めて本社ビルに訪れた渡辺篤史さんは、社屋の外観を見た瞬間からすでに興奮気味。「この建物はよくある企業とどこかが違いますね……」と目を輝かせた。

 そして、「ようこそいらっしゃいました」と渡辺さんを歓迎したのは、コーエーテクモゲームス 広報担当・桂毅氏。今日は桂氏の案内で社屋を探訪していく。

▲社屋を案内していただいた、コーエーテクモゲームス 広報担当・桂毅氏(写真左)。

●本社ビルの屋外から、すでに渡辺篤史さんの興味は尽きない

「では、お入りください」と、桂氏が社屋に招き入れようとしたところ、渡辺篤史さんは足を止めた。どうやら屋外の床に描かれた装飾が気になるようだ。

 コーエーテクモゲームスの正面入口の外には、天使と星の装飾が施されており、その周囲には石のタイルが放射状に伸びている。まるで宇宙の誕生をイメージさせるデザインである。渡辺さんは「こういうのを見るとさ、建物に入る前からワクワクするよね!」と期待で胸を膨らませた。

▲金属の天使と、その周囲の星の装飾に興味を示す渡辺さん。

会社の入り口に、こんな立派な装飾があるなんて珍しいですね。

ありがとうございます。気に留めていただいて光栄です。

完成したデザインを見て、こうやって感想を言う我々はいい身分だよ。これを作った職人さんはたいへんだよ。どうやって作ったんだろう?

そうですね。設計図に沿って、一枚一枚丁寧に石を張ってくださったんだと思います。

そうだよね? これは石工さん泣かせだよ(笑)。でも、こうやって完成したモノを、多くの人が見て感動する。建築物はおもしろいよね。

▲入り口横にある池のオブジェも確認。桂氏によると、中国の故事“鯉の滝登り”がモチーフになっているそうだ。

 本社ビルをじっくり見回した渡辺篤史さんは、振り返って線路の反対側にあるジェミニビルと対比する。ジェミニビルは壁面に大きな太陽のイラストが描かれており、一度目にした人は忘れないほどインパクトがある有名な建物だ。

 これらのデザインは、日本を代表するグラフィックデザイナー、アートデザイナーである永井一正氏によるものとのこと。桂氏によると「太陽が本社を照らしている」という意味で描かれているそうだが、渡辺さんは「それとは別の意味もあるのではないか?」と言う。

 曰く、目立つ建物はその街の象徴になり、目印として機能していることが多い。渡辺さんが長年出演しているテレビ番組『建もの探訪』では、毎週のように印象的な建物が紹介されている。「おそらく太陽の建物は、地元の目印として地域に貢献している」と、長年の取材活動で培った氏ならではの感想を述べた。

▲ジェミニビルの外観を見て、あれこれ想像を膨らませる渡辺さん。建築物ファンなのがよくわかります。

●いよいよコーエーテクモゲームス社内に訪問

 そして、いよいよ社屋へ。コーエーテクモゲームス本社の入り口では、二頭のライオン像がお出迎えしてくれる。渡辺篤史さんは「まるで三越のようだね」とジョークを交えながら、桂氏に案内されて建物に入っていった。

▲渡辺さん「ここは三越百貨店……じゃなくてコーエーテクモゲームスさんだったね(笑)」。

 コーエーテクモゲームスに入った渡辺篤史さんは、「すばらしいエントランスだ」と目の前に広がる広大な空間を見渡す。コーエーテクモゲームス本社ビルのエントランスは、床一面を大理石が埋め尽くし、ところどころに星座モチーフのマットが敷かれている。また、壁面には大きな絵画や、星座のイラストが飾られていた。

▲とても広いエントランスには、隅々まで陽の光が差し込む。

 装飾品や家具をチェックし始めた渡辺篤史さんは、待合スペースに置かれた“ル・コルビュジエ”のソファーに腰を下ろした。じつは渡辺さん、椅子に関してはかなりコダワリを持つ人物なのである。

▲家具の中でもとくに椅子が好きな渡辺さん。気になる椅子は、必ず座って確かめる。

とても広くて、装飾品も豪華。会社のエントランスとは思えないですね。

ありがとうございます。我々はゲームというクリエイティブなものを作る会社なので、社内にはたくさんのアート作品が飾ってあります。

どなたの意向なんですか?

会長の襟川が美大出身で、芸術に詳しく、こういった作品が好きなんです。

▲渡辺さん「大理石の模様は自然が描いたアート。このフロアはうれしいね。これだけの面積を大理石で埋めるのはたいへんなことだよ」。

▲受付のスタッフに「この建物のいいところはどこですか?」とインタビューすると、「たくさんのアートが飾られていて美術館にいるようなところです」と返答。

▲ル・コルビュジエのソファーに座った渡辺さんは、「スイス人の建築家なんだよね。そして仕事のパートナーがピエール・ジャンヌレ。雨でもないのに“ジャン濡れ”なんちゃってね(笑)」。ダジャレも冴え渡ります!

 エントランスを散策しているとき、渡辺篤史さんは中庭を見て「これは?」と近づいていった。桂氏によると、この中庭も建物をデザインした永井一正氏の作品。

▲「想像の中からいいアイデアが生まれる」というメッセージが込められているそうだ。

 この作品は、硬い石の中から豊臣秀吉の旗印でもある“ひょうたん”が誕生したように見える。さらに周囲には丸や三角、四角のオブジェを配置。説明を聞いた渡辺篤史さんは、「なるほど、破壊と再生をイメージさせられますね」と分析してエントランスを後にした。

▲巨大な星座の壁面。エレベーターに描かれた彗星。渡辺さんは「ふつうの会社だったら、ここまで何もかもデザインするのは許されないよね」と、コーエーテクモゲームスが特別な企業であると実感。

▲渡辺さん「この装飾があるから、ここは居心地がよいのかもしれない。入り口から入っただけなのに、すでに何かが生まれそうな空間です」。

●コーエーテクモゲームスの待合室は“源平”がテーマ

 エントランス横の応接室に通された渡辺篤史さんは、部屋に入ると「ほほぅ!」と笑顔で室内を見渡した。ここは“源平合戦”をイメージして作られたコーエーテクモゲームス自慢の部屋。壁には源頼朝と平重盛の肖像画も展示されていて、数々の歴史シミュレーショーンゲームを生み出してきた同社らしい一室だ。

▲日本の芸術と建築について桂氏とトーク。源氏物語の舞台になった平等院の逸話から、ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライトなど、有名な建築家の話まで、話題は尽きない。

 室内を見渡す渡辺篤史さんは、ある装飾品を見つけた。“顔のついたクワガタとカブトムシ”のオブジェだ。クワガタが源氏、カブトムシが平家で、源平の“一ノ谷の戦い”を現した作品とのこと。

 渡辺さんは「すばらしい作品ですね。力強い目と、背中に書かれた龍と鳳が美しく、世界が広がっていくように感じる」と気に入った様子。じっくりと鑑賞していた。

▲源頼朝と平重盛の肖像と記念撮影。

●ギャラリーのような廊下を通った後に渡辺篤史さんが注目したものは……

 エントランスと待合室を堪能した後は、廊下を通ってオフィス棟へ案内された。移動中に通った廊下にも、何枚もの絵画が飾られている。等間隔に並んだ通路の絵画を、一枚一枚ゆっくり見ながら歩いていると、美術館を訪れたような錯覚に陥る。

 廊下を抜けると、渡辺篤史さんが“階段”に目を輝かせた。金属と木材で作られたよくある階段のようだが、渡辺さんの眼には特別に映ったそうだ。

▲「この階段はすばらしい!」と足を止める渡辺さん。

 「こういう階段は好きだなぁ。どうしても誘われちゃうよね!」と、階段をあらゆる角度から入念にチェックする。硬いメタルと柔らかいウッド、相反する素材でデザインされた階段。設計した建築家の意図を読み解きながら建物を散策するのが、渡辺流の楽しみ方だ。

 階段を上がった先のフロアには、大きなソファーが置かれていた。陽の光がたくさん入る明るいスペースで、まるでホテルの待合室のような空間。渡辺篤史さんは鼻歌を歌いながらソファーに座り、「はぁ、気持ちいい……」としばしの休息。

 そして渡辺さんは、「まだ見学している最中だけど、この建物には装飾品に強いこだわりを感じます。会社だけど、とても居心地がよい空間だとわかりました。建物のどこに何を配置するかが“空間造り”なんです。管理をしている方のセンスを感じられます」と、感嘆した様子だった。

▲渡辺さん「どこに何を置くか。それだけで空間造りが決まります。家はセンスの集合体なんです」。

●講堂のように美しく設計された大会議室

 続いては社内でもっとも広い会議ホールに移動。この部屋は会議室ではあるが、よくある白く硬い壁に覆われた会議室ではない。木材がふんだんに使われた温かみのある講堂のような空間だ。

▲企業の会議室のイメージとはかけ離れた雰囲気。

 部屋のドアを開けた渡辺篤史さんは、「おお、これは広い! まるで舞台のようで、音響設備にもこだわってそうですね」と、我先にと入室。桂氏によると、この部屋は社内の大きな会議をするだけでなく、報道機関向けに製品発表会を開くこともあるそうだ。

 桂氏から大きなスクリーンと7.1チャンネルの音響システムの説明を受けた渡辺さん。気分がよくなったようで、得意の歌『ククルクク・パロマ』を披露した。大会議室に響き渡る歌声を聴くと、まるでここが本物の舞台のよう。

▲『ククルクク・パロマ』を熱唱。気持ちよさそうです。

●『信長の野望』でお馴染み、信長のタイルアートは渡辺さんの目にどう映る?

 大会議室を後にし、再び廊下を通って移動。移動中も渡辺篤史さんは、観葉植物や椅子など、あちこちの装飾品や家具に興味を示す。そしてここでも、もっとも注意深く見ていたのは階段だった。階段という当たり前のものだからこそ、そこに住まい、働く人の空気がにじみ出てくるのかもしれない。

 コーエーテクモゲームスの階段は日が差し込む明るい場所が多く、「単なる階段でもしっかり考えて設計されている。階段を昇り降りしているときも、ホッとできていいよね」と感心する。

▲明るく清潔感溢れるコーエーテクモゲームスの階段。壁や天井を入念にチェック。

 そして階段を通って廊下を歩いていると、桂氏が「窓から下をご覧ください」と案内。その方向に目を向けると、なんと眼下に広がる中庭に“信長”のタイルアートが描かれていた。

 タイルをドットに見立て、信長の顔が描かれているユニークな中庭に、渡辺さんは「これはすばらしい。信長に守られている感じがする。下に見に行きましょう!」と興味を示す。

▲中庭に織田信長の顔が描かれている。

 桂氏の案内で階下の中庭に出ると、地面いっぱいに巨大な信長の顔が広がっていた。渡辺篤史さんは「これは感動する! 色違いのタイルを並べただけなのに、こうやってデザインすると楽しくなるんだなぁ」と感激していた。

 さらに渡辺さんは、中庭が吹き抜けになっていることにも注目した。中庭に面する部屋は開発ルームが多く、日中は多くの従業員が働いている。彼らの作業部屋にいつも陽の光が差し込むのは、とても健康的な職場環境だ。

▲渡辺さん「近くでみると、こうなっているんですね」。

この信長の中庭を囲むように建っている社屋はなんですか?

こちらは開発エリアです。部屋に入るとキーボードを叩く音が鳴り響いています(笑)。

なるほど。みなさんお忙しそうに働いていらっしゃいますね。信長さんが見守る場所で。いい環境だと思います。

▲手で直に触れてタイルアートのぬくもりを確認。よく見ると、偉大な歴史上の人物に敬意を表して靴を脱いでいる。

▲渡辺さん「中庭から空を見上げると、少しだけ樹木が見えるんですね」。