ゲーム業界で、女性が子育てしながら働くにはどうしたらいいの? コーエーテクモ襟川恵子氏・芽衣氏に悩みを聞いてもらった【前編】

がむしゃらに働くうちに三十路になり、「いつ出産すればいいのか? 出産後、社会復帰できるのか?」と悩むゲームメディア編集者が、ゲーム業界で働く女性の先達である襟川恵子氏と襟川芽衣氏にインタビュー。襟川恵子氏がいかにして、子育てと仕事をバリバリ両立するようになったのかという経緯などをうかがった。

●妙齢の女性を代表して、赤裸々に悩みを相談してきました

 ゲームメディアのお仕事は、楽しいけれど、ラクではない。週刊ファミ通に関して言えば、毎週毎週校了日がやってきて、校了できなければ記事が白紙となるため、必死になって取り組むしかない。ファミ通.comに関して言えば、毎日毎日ニュースを掲載しなければならないし、海外で発表される情報に対応するために、深夜に作業することも少なくない。

 そんな仕事に邁進しているうちに、気づけば入社してから10年以上が経ち、年齢は30を超え、働く女性が皆ぶち当たるであろう問題に、私も頭を悩ませるようになった。それはつまり、「いつ出産するのか? 出産後、仕事を続けられるのか?」ということだ。

 そして困ったことに、私の周囲には歳が近い女性スタッフがあまりおらず、悩みを共有できる人がいなかった。社内にいないのならば、ゲーム業界の先達に聞くしかない。となれば、もうこの方しか思い浮かばなかった。コーエーテクモホールディングス 代表取締役会長、襟川恵子さんである。

 シブサワ・コウことコーエーテクモホールディングス 代表取締役社長 襟川陽一氏の奥様であり、ふたりのお子さんを育て、いまなお経営者としてバリバリ働いている恵子さん。女性向けゲームの開発の指揮を執ることも少なくない。そのバイタリティーはどこから生まれるのか、子育てをしながら働くために必要なものは何なのか、ぜひうかがいたい……!

 と、コーエーテクモゲームスさんに率直な思いを伝えたところ、快く取材を受けてくださった。そこで今回は、恵子さんと、恵子さんのご息女であり、現在はコーエーテクモゲームス 取締役 ルビーパーティーブランド長として活躍している襟川芽衣さんへの、「女性が働き続けるにはどうしたらいいか?」をテーマとするインタビューを、前後編にわたってお届け。あ、自己紹介が遅れてすみません、聞き手は私、ロマンシング★嵯峨(週刊ファミ通/ファミ通.com編集者)でお送りします。

左:コーエーテクモホールディングス 代表取締役会長 襟川恵子氏(文中は恵子さん)
右:コーエーテクモゲームス 取締役 ルビーパーティーブランド長 襟川芽衣氏(文中は芽衣さん)

▲恵子さん、芽衣さんにリラックスしてお話ししていただくため、お茶会という形式を採りました。恵子さんが茶器やお菓子を用意してくださって、感涙。

※本記事は、ゲーム業界専門の求人サイト“ファミキャリ!”のインタビュー企画“ファミキャリ!会社探訪”の特別PR企画としてお届けします。

●そもそも、恵子さんがバリバリ働くようになった理由

――今回、うかがったのはですね……率直に言いますと、私、ゲーム業界で女性が長く働くにはどうしたらいいのか? と、つねづね悩んでいるんです。先達の皆様にお話をうかがいたいと思って参りました! それで、こちらの本を読みまして……(シブサワ・コウ氏の著書、『シブサワ・コウ 0から1を創造する力』を取り出す)。

▲嵯峨の私物。印象的なページには付箋を貼るほど読み込みました。この『シブサワ・コウ 0から1を創造する力』は、PHP研究所さんから発売中です。

恵子さん 私、読んでないんです。

――ええー!?

恵子さん だって、パチンコ屋さんにいつもいたとか、ロクでもないことが書いてあるんだろうと思って(笑)。

芽衣さん そんなことないですよ(笑)。

恵子さん ちょうど、私も執筆を頼まれているころだったので、人の原稿を読んでいる場合じゃなくて(笑)。

――(笑)。私は最後まで読ませていただいて、コーエーテクモゲームスの歴史を改めて知ったのですけど、恵子さんは、コーエーテクモゲームスの前身である光栄の立ち上げ時から、ずーっと陽一さんとお仕事されていますよね。

恵子さん それより前は、シブサワ・コウは私のバイトだったんですよ。部下としてこき使っていたの(笑)。

――えっ、バイト?

恵子さん 当時、私はテレビ局で作画の仕事をしていて、スタジオで紙芝居のようなものをめくるバイトとして襟川と友人を雇っていたんです。1時間か2時間で、4000円と当時としては高額を支払っていました。それなのに、秒読みの段階で現場にいないのよ。どうしたのかと思ったら、隣のスタジオの歌番組を見に行っちゃっていたんです。当時人気絶頂の小川ローザや弘田三枝子、ブルーコメッツなどが出演していたから。本当にロクでもないバイトだったんですよ(笑)。その(上司と部下の)立場が、光栄になってひっくり返って、またひっくり返って。ふたりでシーソーしてきましたね。

――光栄設立は1978年で、そこからはずっと恵子さんも光栄の社員として働かれてきたと思うのですが、「旦那様とともに、仕事の最前線に立とう!」と思ったのはなぜですか?

恵子さん ぜんぜんそんなこと思ってもいなかったです。私の子どものころからの夢はね、白馬に乗った大金持ちの王子様が迎えに来てくれて結婚すること。これが理想で唯一の望みだったんですけど、ぜんぜん違う人生になっちゃった(笑)。

――てっきり、恵子さんは昔から、バリバリ働くつもりでいたのかと思っていました。

恵子さん 私は父を早くに亡くしたのですが、母はおっとりした人だったので、父の役割は自動的に私が担うようになったんです。いろいろなことを考えて、自分で決めて。それで、自分が自発的な人になっちゃったんじゃないですかね。

――私の家は、父が働いて、母は家で家事や子育てを担当する……という、当時としてはごくごくふつうの家庭だったんです。でも恵子さんは、そのころから営業電話をかけたり、自分でデザインの仕事をしたりしていますよね。まさに働く女性のパイオニアだなと思うんです。

恵子さん そうでしたね。どうしてそうなっちゃったんですかね。

芽衣さん もともとの性格じゃないですか?

恵子さん 考えてみると、私の祖母がそうだったの。祖母はもともと自分で仕事を持っていて、発明してパテントをとったり、料理研究家として本を書いたりして働いていましたから。ですから、そういう血筋なのかもしれません。

芽衣さん もともと外向きの性格だと思いますし、愛すべきものの守りかたがすごいというのもありますね。“社長(襟川陽一氏)がゲームを作るなら、それを多くの人に買ってもらうための仕事は全部自分がやろう!”と、決意したらもう、動きが早かったということじゃないかと。「私がやるしかない!」という発想ですね。

恵子さん あと、私は美大出身ですからね。美大って、もう昼も夜もなく、何かやっているじゃないですか。男性も女性もなく、合宿では雑魚寝という感じで、平等にもの作りをしていましたから。

芽衣さん いえ、でもやっぱり、もともとの性格もあると思いますよ。

――芽衣さんは、バリバリと働くお母様を見て、幼少のころはどんなことを思っていましたか?

芽衣さん そうですね、子どものころは……。

恵子さん あの話をしたの、覚えてない? 「世の中の母親はみんな家にいて、子どもの面倒を見るものだ」と。「仕事を辞めるべきだ」って、姉妹揃って言うんですよ。そういうときだけ連合艦隊を組んで(笑)。

芽衣さん 連合艦隊なんか組んでいましたっけ(笑)。まったく覚えていないんですけども。とにかく、家には父も母もいなかったので、私が妹の面倒を見なければいけなかったので、私はそれが面倒だったんじゃないでしょうか(笑)。うちの家庭は、世間一般からするとおかしいんじゃないかって考えたんだと思います。

恵子さん ふたりに詰問されましたよ。でも、私の場合、母がふたりの面倒を見てくれましたから。

芽衣さん でも、おばあちゃんが家にいるのと、母が家にいるのは違うじゃないですか。ほかの家と違うな、と思っていました。

恵子さん 学校の行事には出られませんでしたね。娘が劇の主役をやるとか、書道の作品が貼り出されていると聞いても、ぜんぜん行けませんでした。

芽衣さん ただその代わりに、長い家族旅行をしてくれていました。夏は川奈ホテルに行ったり。海外に行ったこともありますし。必ず思い出になるような旅行に、年に数回連れて行ってくれましたね。

――それは素敵ですね。

芽衣さん ですので、両親は家にはいなかったんですけれども、両親との思い出がないということはないです。それで、だんだん歳をとっていくにつれて、両親が家にいないことに慣れていって、小学校中学年くらいになると、「いないほうがラク」だなんて思うように(笑)。

――(笑)。

芽衣さん ああでも、そういえば、忙しい中でも洋服をたくさん作ってくれましたね。

恵子さん そうですね、子どもにはお揃いの洋服を作って。襟川のセーターとか、夜によく作っていましたね。私、ずーっと仕事してるんですよ、1日中。

――やっぱり、もの作りがお好きなんですね。

恵子さん お料理もしますよ。「えっ、お料理するんですか」と言われることもありますけど。おネギを持って歩いていたら、友だちに「似合わない」って言われたこともあります(笑)。でも、ちゃんと作るんですよ。作ることが好きなんです。

――ルビーパーティーも、恵子さん発案のチームだと聞いています。1981年には、もう女性向けゲームを作ることを考えていたとか。ということは、そのころから、“女性が働ける会社にしよう”という意識があったんですよね。

恵子さん そうです。うちは最初から男女平等のお給料ですし、人類の半分は女性なので、女性目線でゲームを作れば、喜んでくださるユーザーさんがぜったいにいる! って、勝手に確信していましたからね。

――事実、喜んだ女性ユーザーがたくさんいたわけですから、かなりの先見の明だと思います。

恵子さん 「市場もなかったのに、よくそんな風に思い込めるね」なんて、佐藤さん(カドカワ 取締役相談役 佐藤辰男氏)に言われました(笑)。

――そこに、恵子さんの確固たる信念を感じるんです。ファミリーコンピュータ版の『信長の野望・全国版』を卸すうえで、流通業者相手に、半金前払いを譲らなかったというエピソードも、信念ゆえのものですよね。

恵子さん 勝負の場だから、負けたくないんですよね、きっとね。

――ちなみにいま、コーエーテクモゲームスの女性スタッフの割合はどのくらいなのですか?

芽衣さん 会社全体では30%ですね。

恵子さん すごく増えましたね。前は10%もいませんでしたから。

――とくに女性が多いのは、どのチーム?

芽衣さん ルビーパーティーブランドと、CG部です。CG部の中では、40%が女性です。ルビーパーティーは60%くらいですね。

恵子さん 企画チームにも女性がいたほうがいいですし。女性のプログラマーも積極的にチームに入れたいと思っています。

――女性スタッフは、男性スタッフと比べると、どんなところが違いますか?

恵子さん ぜんぜん違いますよ。同じ人間と思えないほど違います(笑)。行動パターンも思考回路も、女性と男性では違っていて。男性は段階をおって理解するけど、女性は直観的にわかったりします。男性のほうが、デリケートでやさしいのね。それで単純。わかりやすいの。女性の方が複雑で、なんて言うのかな、体温が毎月変わるなんて男性は考えられないでしょうけど、感情の起伏があります。安定しているのは男性のほうです。

――一般的には、女性のほうがやさしいというイメージがありますが……。

恵子さん もちろん女性もやさしいですよ。でも、鈍いんです。子どもを育てないといけないから。あんまり敏感だったら、子どもなんか育てられないですよ。だから女性は鈍くて、男性はけっこうデリケートで傷ついちゃったりする。それがわかっていても、私はギャーギャー男性を怒っちゃうんですけどね(笑)。

――(笑)。確かに、女性の鈍さゆえの強さというものはある気がします。

恵子さん 女性は強いですよ。それから、男性よりしっかりしています。言語能力や勘は女性の方が勝っています。気の配りかたも。本当に、やろうと思えば女性は仕事ができるのに、ちょっと日本の女性はずるいところがある。ご主人が望んで「(妻に)家にいてほしい」と言うならそれでもいいんですけど、男性が働く一方で、女性はお友だちと遊んだりして、夫をかまってあげなかったりするじゃない。それはちょっとかわいそうだなって。

――とはいえ、「仕事も、家のこともやらなきゃ」と思うと、女性は躊躇してしまうのかも。

恵子さん そうですね、仕事をしている者どうしという目線で襟川のことを見ると、「自分は料理もして、子育てもしているのに、手伝いもしない」と腹が立つので見ません。だから見ない(笑)。男性は子どもなんですよ、70歳でも80歳でも。女性が男性を産んで育てるんですから。だから女性は、もっと心を大きくして見て。私は大きなペットを飼っていると思えば腹の虫もおさまります(笑)。

芽衣さん せめて子どもと言ってください(笑)。

恵子さん でも男性には、やっぱり女性にはないパワーがありますからね。瞬発力とか。仕事の面でも、被災地の救援活動やエレクトロニクスやメカニカルなものは男性が勝りますね。

――男女比が6対4のルビーパーティーブランドは、ほかのチームと比べて、男女の数が近いゆえに際だっている点などはありますか?

芽衣さん 考えの違いという点では、男性どうし、女性どうしでもそれぞれ違いますので、ほかのチームと大きく変わるところはないと思います。ただ、空調の温度を1度下げただけで、女性陣は「寒い」と言って、男性陣は「暑いからもっと下げて」と言うんです。温度管理は、ほかの部よりも繊細かもしれません(笑)。

――ああ、それはわかります! うちの編集部でも、女性陣は寒そうにしていますし。

芽衣さん でも困るのはそれくらいで、実際ゲームを作っているときに、大きく意見が食い違ってケンカになるとか、そういったことはあまりないですね。とはいえ、女性だからこそ出てくるアイデアは確かにあって。男性って、数字はそのまま画面に出すんですよ。パラメーターとか。でも、ルビーパーティーが作っている女性向けのゲームでは、男性との親密度は、ハートマークなどで表示するんですよね。あれは、親密度を50とか60の数字だけで見ても、楽しくないからなんです。

――言われてみると、ハートや星で表示されていることが多いですよね。

芽衣さん 女性はポイントカードなどが好きで、スタンプを集めることが楽しい。ある一定の親密度になったらハートが出てきて、ハートが貯まったらイベントが起こるというような、視覚的に楽しめるUI(ユーザーインターフェース)作りは、女性ならではのものだと思います。

▲『アンジェリーク ルトゥール』より。男性との親密度が、数字だけではなく、ハートの大きさでもわかるようになっている。

▲『金色のコルダ4』より。男性との恋愛の進行度を示す“恋の音”を、♪マークで表現。


後編では、女性が子育てをしながら働くために必要な環境や覚悟についてインタビュー。コーエーテクモゲームスでは、女性がどのように活躍しているかについても聞きました。ぜひお読みください!
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