コンポーザーの下村陽子氏とアレンジャーが語る『Piano Collections FINAL FANTASY XV』と“下村節”

 スクウェア・エニックスから発売中のプレイステーション4、Xbox One用タイトル『ファイナルファンタジーXV』。そのゲーム内楽曲をピアノアレンジしたアルバムCD『Piano Collections FINAL FANTASY XV』が、2017年2月22日に発売される。

 本アルバム収録の最中、都内収録スタジオにて、『FFXV』メインコンポーザーである作曲家・下村陽子氏にお話をうかがった。今回のピアノアレンジを担当した作曲家・宮野幸子氏と、作曲家・亀岡夏海氏も同席したインタビューの模様をお届けしよう。

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▲左から宮野幸子氏(文中は宮野)、亀岡夏海氏(文中は亀岡)、下村陽子氏(文中は下村)。

こだわり抜いた『Piano Collections FINAL FANTASY XV

――まずは改めてになりますが、自己紹介の形で、皆さんがそれぞれ担当された作業を教えてください。

下村 原曲を作曲しています下村です。今回は監修という立場で、全楽曲を見ています。

宮野 今回のピアノアレンジを担当させていただきました、作曲家の宮野です。

亀岡 同じく、作曲家の亀岡です。私と宮野さんで、アレンジを分担して担当しています。

下村 宮野さんとは『PIANO COLLECTIONS KINGDOM HEARTS』のときに初めてお仕事させていただいて、亀岡さんは『dramatica』のときが初でしたね。それからはもう、おふたりにはずっとお世話になっているといいますか、無茶振りをお願いしています(笑)。

宮野 幾多の荒波を乗り越えてきましたね(笑)。

亀岡 修羅場ばかりですね(笑)。

――戦友、というわけですね。今回のピアノアレンジアルバムが作られることになった経緯とは?

下村 『FINAL FANTASY XV Original Soundtrack』の初回生産限定特装盤にボーナスディスクとして『Piano Arrangement』CDが付くことになり、そのときにピアノコレクションズみたいなものができたらいいね! っていうお話をしていたんですよね。その中で、まだ『Piano Arrangement』をお届けする前の段階だったのにも関わらず、ファンの方々からピアノアレンジ版が楽しみというお声をたくさんいただいたんです。ということは、ピアノコレクションズもいけるんじゃない? という軽いノリで(笑)、『Piano Collections FINAL FANTASY XV』がスタートしました。そして、おふたりにお声がけして……という感じです。

――収録されるピアノアレンジ楽曲は、すべて下村さんが選定されたのですか?

下村 まずは、私がこの曲を入れたいという案を出しました。そのうえで一部の曲に関しては、みんなで話し合って決めました。

亀岡 何曲かアレンジ候補があって、その中でどれにするか、決めかねている曲を選んでいきました。バトルは入れたいよね、しっとりした曲も必要だよね、という感じで。

下村 あとは、おふたりがどの曲をアレンジするのかということも話し合いましたね。もう、すごい譲り合いなんですよ。そんなに私の曲が嫌いか! と(笑)。

亀岡 違います違います(笑)。

宮野 (笑)。『ファイナルファンタジーXV』で、もともと編曲を担当している曲も何曲かあったので、それを回避するのか、みずからアレンジをするのか? というところで話し合いをしたんです。嫌いなわけないじゃないですか!

――そうですよね(笑)。アレンジに選定された曲の基準や、選んだ理由はあるのでしょうか?

亀岡 ゲーム中でよく耳にするような主要曲は押さえつつ、下村さんが選ぶのに迷ってしまう曲は、私たちも意見を出し合って選んでいく感じでしたね。

宮野 ピアノ曲にしたらどうなるんだろう? というのがピアノアレンジの醍醐味だと思うので、おもしろくなりそうな曲を中心にしています。

下村 でもお約束といいますか、ファンの方々がこの曲は絶対欲しい、こういうアレンジが聴きたい! と思われるようなものは入れているつもりですよ。

――下村さんがおふたりにアレンジを依頼する際、「こうしてほしい」というような注文はあったのでしょうか?

下村 注文した曲もありますが、ほぼおふたりにお任せしました。

亀岡 私はまだゲームをプレイできていないので、どんな場面でかかる曲なのかなどは下村さんにお聞きしましたね。でも、下村さんもわからないってことがあって、結局スクウェア・エニックスのスタッフの皆さんにも確認したり(笑)。

下村 作曲した曲が、当初予定していたシーンに使われることもあれば、想定外のところに使わることもあったりしたので、どういうシチュエーションなのかを覚えきれていなくて(苦笑)。PV用の曲も、バトルシーンで流れたりしましたからね。そして今回、PV用の曲とゲームに収録されている曲の両方を、おもしろいかなと思って採用しています。『APOCALYPSIS NOCTIS』がPV版で、『OMNIS LACRIMA』はゲーム版みたいな。

亀岡 『PIANO COLLECTIONS KINGDOM HEARTS』のときは、下村さんから「難易度高め、“超絶技巧”でお願いします」って言われたんです(笑)。でも今回は、まだゲームが出たばかりで、『キングダム ハーツ』シリーズに比べると皆さん聴き慣れていないと思うので、曲の1巡目はそのままにして、2巡目からはアレンジを加えていく……というようなお話もしましたね。

下村 でも、今回のアレンジも弾くのが難しい“超絶技巧”には変わりはないですよね!?

亀岡 今回はやめてほしいと言われたので、ちょっと抑えて“絶技巧”くらいです(笑)。

――絶技巧(笑)。今回、演奏を担当されるピアニストさんたちは、どのように選出されたのでしょうか?

下村 ショパン中山(博之)さんはもうピアノコレクションズなどでお馴染みですよね。森下唯さん(ピアニート公爵)は『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』ですばらしい演奏をしてくださり、今回も参加していただきました。でも、“超絶技巧”が必要な難しい曲が何曲もあるので、さすがにそれをすべておふたりに任せるのは酷いですよね(笑)。なので、何名かのピアニストさんをピックアップして、曲ごとに選出したり。

亀岡 下村さんと私と宮野さんで、そのピアニストさんごとのカラーを踏まえ、この曲に合いそうだなっていうところを見ながら振り分けていきました。たとえば、今回演奏してくださったピアニストさんのひとり、新居由佳梨さんは、すごくお綺麗な人なのに演奏はめちゃくちゃ力強くて、男性的ですらあるんです。

下村 逆に森下さんは、演奏は女性的な演奏なんだよね(笑)。だから『LUNA』とかが、すごく向いている印象がありました。

宮野 という感じで、曲を選出して、その曲に向いているピアニストさんに演奏してもらったわけです。

――ピアニストさんの個性まで考えられているのですね。おふたりは、アレンジをされた際に気を付けていたことなどはありますか?

亀岡 もともとがゲームの曲なので、ゲームの世界観は壊さないように気を付けました。原曲の『NOCTIS』は静かな曲ですが、やはりノクティスの男らしい部分を押したくて、キレキレの曲にアレンジしていたのですが、ちょっと世界観と違うのかなと思い、また違った趣向にしています。ピアノアレンジって、オーケストラアレンジよりも難しかったりするんですよね。

宮野 物によりますが、確かにそうですね。

亀岡 私の場合は弾きながらアレンジすると、自分自身の手癖みたいのが付いてしまうので、そこが付かないようにも気を付けました。

宮野 当たり前かもしれませんが、私は弾けないものは楽譜にしないようにしました(笑)。

下村 私の曲はもともと、ピアノで弾けない曲ばかりだけどね(笑)。

宮野 原曲はひとりじゃ弾きにくいかもしれませんね(笑)。そこを、ひとりで弾けるようにしつつ、ひとつでも難易度の高いところがあるとピアニストさんのプレッシャーが大きくなり、「この曲イヤだな」という印象が強くなってそれが演奏にも出てしまうので、そういった箇所をなるべくなくしていきました。

――下村さんは、おふたりのアレンジされた曲を監修する際にこだわったポイントはありますか?

下村 いやー……。ほかの人からあがってきた曲に、何かを言うだけって簡単なお仕事だなーって(笑)。

一同 (笑)。

下村 申し訳なく思ってます(笑)。でも、長年やってきているので、おふたりが「下村はこういうの好きだよね」ってパーツを織り込んでくれるんですよ。

宮野 下村さんに言われなくても、こういうのが好きだろうなっていうのは入れていますね。

――それはたとえば、どのような?

亀岡 ドラマティックな感じですね。クラシックで言うとやりすぎくらいの手前で、でもちょっとメロディアス、みたいな。

下村 大好きですね。タメとか大好き(笑)。自分で弾くときはタメが大好きすぎて、タメてタメて弾くから曲がガタガタだったんですよ。でも人が弾いているのを聴くと、いかに自分が弾けてなかったのか、冷静に見られますね。あそこもタメたい、ここもタメたい……でも、ひとつの部分だけに絞ってタメる、みたいな。ピアノだからこういうフレーズができるんだって思えたりもします。そういうのが見えてくるのは、自分が弾き手じゃなくて、監修という立場ならではです。皆さんのおかげで新しい発見ができました。曲が新たに生まれ変わるようで、すごくうれしいです。

宮野&亀岡 ありがとうございます。

下村 おふたりは本当に、いつもすばらしいアレンジをしてくださって……。

亀岡 原曲あってこそ、すばらしい曲にできているんだと思います。

下村 いやいや、おふたりはきっと「また下村の曲か~!」って、頭を抱えてると思うんですよ(笑)。

亀岡 下村さんの曲って「きたきた! ここ!」って思うポイントがあるじゃないですか。

下村 あと、「きたきた! ……と思ったら、またきた!」っていう(笑)。

宮野 それが、“下村節”と呼ばれるものだと思うんですよね。限界って言ってるのに、さらに限界を超えてくるんです(笑)。

下村 そういうのをずっと作ってると、抑えようとしても「物足りないんですよね」とか、ディレクターさんに言われちゃうんですよ(笑)。だから私の曲は、“最初からラスボス”とか言われちゃうんですよ!

一同 (笑)。

下村 皆さんには本当に苦労させてしまっているのではないかと思うのですが、こうやって素敵なアレンジを作っていただき、素敵なピアニストさんに素敵な演奏をしていただき、素敵なミックスで素敵な曲になって、たくさんの方へ届けられるというのは本当に幸せだなと思います。

やっぱりピアノが好き!

――2009年に発売された『PIANO COLLECTIONS KINGDOM HEARTS』から約8年ぶりになるんですよね。久々の発売となりますが、その間に作りたかったピアノコレクションズはありますか?

下村 やりたかった部分もありますね。ただ、“下村節”というわけではないですが、タメてタメて一気に出す! みたいなポイントがあるかのように、ココで作るべきだ! っていうポイントもあるんじゃないかと思っていて。それが今回、全部いいタイミングで重なったんだと思います。

――いまが出すタイミングだったと。では、下村さんはピアノが好きだと以前からおっしゃられていますが、なぜピアノが好きなのでしょう?

下村 なんででしょうね? 誰かに教えてほしいです(笑)。私自身はそこまで弾けないですし、私の作る曲はピアノで弾きにくいのに……。

亀岡 ピアノコンチェルトは多いですよね。

下村 やっぱり、ピアノコンチェルトが好きなんだろうね。

宮野 あの音が好き、ということですか?

下村 ガツーンっていうところから、キラキラした音まで、すごく幅広い表現があって。あと、音には金色とか赤色とか、さまざまな“色”があると思うんですが、ピアノは基本、白と黒なんですよ。モノトーンで、色がついていない感じ。ピアノの見た目もそうで、それも込みで好きなんですよね。もちろんほかの楽器もそういう幅はあると思いますが、何か特別な幅を感じるんです。ピアノは減衰音(鳴った瞬間から音が小さくなっていく音)しか出ないので、そこが弱みっていう意見もありますけどね。

宮野 でも、ピアノはいちばん高い音からいちばん低い音まで出る楽器ですよね。確かに下村さんの言う通り、幅はかなり広いと思います。

下村 やっぱり、単純にピアノが好きなんでしょうね。まだまだいいピアノ曲が書けるんじゃないかなと、可能性を感じています。

――これからの下村さんのピアノ曲にも期待大です。今回のアルバムはまだ収録中ですが、これまでの収録でのエピソードなどはありますか?

下村 毎回長丁場なので、今日の収録もまだまだ終わらないと思います(苦笑)。あっ、そうそう、『PIANO COLLECTIONS KINGDOM HEARTS』のときの話になるんですが、1曲を15時から0時を過ぎるくらいまでずーっと収録していたことがあったんです。アレンジを担当していた宮野さんもピアニストさんも何か違うってことで、ずっと納得いかなくて。それで、そこまで収録していたものを全部ナシにして、収録しなおしたら1発でオーケーっていうことがあって。

――そんなことがあるんですか!?

宮野 収録しなおしたら、一気に演奏が変わったんですよね。

下村 みんなで「そうそう、いまのだよ!」って言ってたら、宮野さんがブチギレて「……それを何で最初に弾かないの!?」って、スゴイ剣幕で怒って(笑)

宮野 それ、盛ってます盛ってます(苦笑)。

下村 ごめんね(笑)。でも、演奏って何かをきっかけに、本当にパッと変わるんだなって思って。

宮野 たぶん、心の持ちかたなんだと思いますね。指はピアニストさんってみんな回るわけですから、それをどうコントロールするかは、気持ちの問題なんだと思います。

下村 それをピアニストさんに伝えるのも難しいんだよね。「違うの、もっと透明感があって、せつなくて、儚くて……」って言っても、それを理解して弾くのは大変ですから。だから、お互いが合致する演奏って本当にすごいんですよ。

亀岡 奏者と編曲者の相違もありますよね。演奏的なミスがあったとき、編曲者側はぜんぜん気にならないけれど、ピアニスト的にはこの間違いは直したいって思っていたり。

下村 ああ、あるかも。ココちょっと音外れてるけど、勢いがすごくあって、この流れや音はもう二度と出せないからオーケーにしちゃう、みたいな。でもそういうときは、奏者さんはすごく気にされてることが多いね。

亀岡 いいの! このニュアンスが欲しかったの! っていう感じですよね。

宮野 たぶんそこから同じことをやっても、同じ勢いや音が出せることって本当にないですから。

――演奏は本当に生ものなんですね。演奏する側、作る側では見るポイントも違うと。それでは、ガラリとお話は変わりますが、今回の取材が今年初めて下村さんにお話をうかがえる機会ということで、今年の目標などをお聞きできれば。

下村 毎年言っているんですが、余裕のある生活を送ることです(笑)。

宮野 欲しいですね。余裕がアッチから来てほしいです!

亀岡 ちなみに、叶ったことは……?

下村 ない!

一同 (笑)。

下村 今年も引き続き、1月から余裕がありませんが、がんばっていきます!

――ありがとうございます(笑)。では最後に、今回のアルバムの聞きどころをお聞かせください。

亀岡 今回はピアニストさんがいっぱいいるので、それぞれの曲のカラーや演奏の違い、私と宮野さんとでの個性の違いなど、ピアノアレンジとひとことで言っても、色とりどりに楽しめると思います。そして、やはりゲームを思い出しながら、曲を楽しんでいただけたらうれしいですね。

宮野 “下村節”というものがありつつも、それぞれの料理の仕方が違うのがポイントですね。そして原曲はもちろんすばらしいですが、それがピアノ曲になったらこんな風になるんだ! というところを楽しんでいただけたらなと思います。

下村 今回の楽曲は、私自身がアレンジしているわけではないので、初回生産限定特装盤のボーナスディスク『Piano Arrangement』と同じく、私がそれぞれの曲を聴いて、日本語名のタイトルを付けています。『Piano Arrangement』は見事に、すべての曲が“夜”をイメージした曲になっていたのですが、今回も“夜”を連想させるような曲にすべて仕上がるような気がしますね。そういった、音楽そのもの以外の部分も意識して作っています。皆さんにどのように受け止めてもらえるかわかりませんが、感想をお聞きするのがいまから楽しみです。ぜひ、楽しみにお待ちいただければと思います。

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▲インタビュー後に公開された『Piano Collections FINAL FANTASY XV』のジャケットは、『FFXV』において数々のキーアートを手掛けてきた松澤雄生氏の描き下ろし。“夜に満ちる律べ”と、“夜”をフィーチャーしたサブタイトルが添えられている。

 収録時に少しだけ立ち会わせていただいたときは、『綺羅星円舞曲』のアレンジ収録真っ最中。終始ピアノの音と演奏者の熱に圧倒されっぱなしで、熱量の高さを実感できた。そこでは、ピアニストさんと、亀岡氏、下村氏が何度も何度もやり取りをして、収録を重ねる様子を目の当たりに。音楽に関して素人の記者には、録り直しによる明確な違いや良し悪しがわからず、全部すばらしい演奏に聴こえたのだが(苦笑)、スタッフの方々が演奏の細部までしっかりとこだわっていることが伝わってきた。そんな楽曲が10曲も収録された、『Piano Collections FINAL FANTASY XV』は、間違いなくすばらしいものに仕上がっているはずだ。

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