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『ファイナルファンタジーXV』延期の裏側と目指す到達点――田畑端氏インタビュー【gamescom 2016】
公開日時:2016-08-26 12:40:00
2016年8月15日。『ファイナルファンタジーXV』(以下、『FFXV』)は、リリースまでひと月半という時期に、発売を2016年11月29日に延期するというアナウンスを行った。同時に、田畑端ディレクターによるビデオメッセージが公開。2016年9月30日には本作を遊べると信じていたファンたちはもちろん、業界全体に大きな衝撃が走ることとなった。
この直前、メディアには、ゲーム冒頭からチャプター3までをプレイできる機会が与えられていた。2016年8月17日~21日(現地時間)にかけて、ドイツ・ケルンで開催される欧州最大級のゲームイベント、gamescom 2016のレビュー用だ。その内容は、公開中のインプレッション記事の通り。あらかじめ告げられていた、一部機能の制限や最適化の不足などを差し引けば、仕上がりは上々と言えた。
なぜ延期したのか?
ビデオメッセージで田畑氏は、ゲームディスクに収録されるマスターバージョンは完成したが、“目指すところである最高品質に届いていない”ことや、オンライン環境の都合で全ユーザーにはパッチを適用できない現状について語った。では、どこが目標に届いていないのか? 決断までにはどんな経緯と思いがあったのか? 延期の舞台裏、そしてメディアレビュー版について、田畑氏に訊いた。
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▲田畑端氏。インタビュールームは、『FFXV』のキャンプシーンを想起させる作り。 |
延期の決断とゲーム内容の“足りない部分”†
田畑 延期してしまいました。
――それを田畑さんから切り出されるとは。今回の延期は、ファンはもちろん、各方面に影響のある重大な決断です。延期の決断に至った経緯、ご自身の心境の実際のところを、改めてお聞かせください。
田畑 わかりました。やはり、グローバルに見た時に“インターネット環境を持っていて、ゲーム機も持っているが、ゲーム機をインターネットにはつないでいない”というユーザーが、想像していた以上に多いと知ったことが大きいです。あるデータによると、日本の2割強のコンソールゲームユーザーがそうした状況でした。アメリカは日本よりも接続率が高く、ヨーロッパは日本以下、南米などは接続率が低いだけでなく、回線状況もよくない。つまり日本だけで考えても、インターネット接続せずに遊ぶことになる方が、かなりの数になるとわかりました。マスターアップがほぼ見えた段階で、残っている不具合は“Day1パッチ”(発売当日から配信される、ゲームのアップデート用データ)で対処しようと思っていたのですが、そういう状況だと、適用できない人がかなりの数に上ります。そこでひとつの手として、パッチを加えてリマスターしたディスクを配布できないかといった案も出たのですが、それはコストやオペレーション的に現実的ではないという結論になりました。
―─それ以外に、決断に至る要因はあったのでしょうか?
田畑 そのほかにも、延期を決断する後押しになった要因はいくつかありますが、それは機会があればお話します。ただ、やはりインターネットの接続率が大きい要因です。『FFXV』は世界同時発売、かつアジアや南米の言語にも対応することを僕自身が最大の目標にしていたにも関わらず、その本人が安易にパッチで済まそうとしていたことを猛反省し、考えを改めました。
――ワールドワイドで規模の大きなタイトルを手掛けるには、そこまでの意識が必要なのですね。延期によって、『キングスグレイブ FFXV』や『ブラザーフッド FFXV』など、“FFXV UNIVERSE”作品への影響はないのでしょうか。混乱はありませんでしたか?
田畑 ソニー・ピクチャーズさんやアニプレックスさんとも同時にお話をさせていただき、調整させてもらいましたが、いろいろとご迷惑をおかけしてしまいました。それ以上に混乱したのは、7月末に一度受注をまとめている日本国内の流通関係だと思います。かなりいい数字をご提示いただいたのですが、その直後に延ばすことになって……。本当に申し訳ありません。
――延期発表時に公開されたメッセージビデオについてもおうかがいしたいことがあります。その中で“最高品質の『FF』を全ユーザーに届ける”とおっしゃっていましたよね。そのために現在欠けている部分、足りない部分とは?
田畑 欠けているのは快適性です。まず、最適化が不十分なところがあります。いろいろな不具合も相まって、ゲームのフレームレートが落ちてしまう箇所があります。あとは、ゲームの進行上は問題ないのですが、キャラクターが不自然に浮いたり、見た目がおかしくなるような不具合がけっこう残っています。そういった部分を直します。もうひとつ、ゲームバランスをもっと磨きたい、というのもあります。具体的には、ユーザーが何も見なくても、自然に楽しめるようなバランスにもうちょっと寄せたい、ということです。
――それはゲームの難易度的な意味ですか?
田畑 難易度よりも、プレイヤー視点でのゲーム進行の最適化です。現在は、ある地点に到達するまでに、特定のシステムを理解してもらう前提で、強敵の仕様を決めたりしています。これは従来の『FF』シリーズのやりかたです。しかし、『FFXV』はフィールドを自由に歩けるし、モンスターが出てきたらそのままアクションでのバトルが可能で、最初からフリーに遊べてしまう。そうすると順を追ってシステムを理解しながら遊ぶ、という思考になりにくいんです。なのでガイドのしかたも、本作のゲームスタイルに合わせた調整が必要だと思っています。あとは没入感を阻害している要素もいくつか取り除きます。これは見た目がおかしくなる不具合だけでなく、たとえばNPCの反応などで、急にゲーム然とした“生きていない世界”になるときがあって。そういった要素も解消する予定です。
――ああ、確かに……gamescomのレビュー版をプレイした際の個人的な感想になりますが、シリアスなシーンの直後でも、ノクトたちの通常会話のノリが軽いことは少し引っかかりました。ゲーム的な都合を感じるというか。
田畑 そのあたりはかなりの作業量になるので、Day1パッチで修正予定でした。会話はAIで制御しているため、デバッグにすごく時間がかかってしまうんですよ。
――もとからDay1パッチで対応する予定だったものもいくつかあったわけですね。
田畑 そうです。ただ、ファストトラベル系の読み込みの軽量化だけは、Day1パッチでの対応は間に合いそうにないことはわかっていました。というのも、現在はフラグ(ゲームの進行状況)を保持するセキュリティーの優先度が高くて、絶対に安全な手法でセーブやロードを行っているんです。絶対安全を期するがゆえ、同じエリア内を移動しただけでもマップから何からすべて読み込み直しているんですよね。この“フラグ絶対主義”と言えるデータ管理手法はオープンワールドにマッチしないため、もう少し工夫を凝らした形に改善したいと考えています。
DLCには衣装や料理レパートリーが! VRコンテンツとは別もの†
――先日、DLC(ダウンロードコンテンツ)やシーズンパスの販売についてもアナウンスがありました。そちらの制作は、後回しになるのですか?
田畑 そうですね。もちろんDLCも、プランはもう決めてあります。本編の発売延期に合わせて全部スケジュールを切り直しているところなので、いまは具体的に言えることはないのですが。
――DLCは、現在発表されている6つですべてなのでしょうか。
田畑 すべてではないですね。現在発表しているものは、確実にやると決めたものになります。
――それでは、シーズンパスを買った人も、今後追加のDLCがあった場合、改めてそちらを購入することになる?
田畑 はい。現在販売しているシーズンパスに含まれていないDLCが決まれば、そうなります。まだはっきりとしていない部分が多いのですが。
――すでに購入されている方も多いと思うので、その際はアップグレードなどがあるとうれしいですね。今回の試遊では、衣装の変更ができましたが、DLCで追加する予定はありますか?
田畑 もちろんあります。衣装だけでなく、料理のレパートリーも増やす予定です。といっても、ひとまずは本編の磨き込みが最優先になります。それがひと段落したら、DLCやVRコンテンツの開発を本格化させようと思っています。ちなみに、シーズンパスとともに発表したエピソード系のDLCと、VRコンテンツは別物です。
――ああ、そうなんですね。E3 2016に出展されたプロンプトのVRコンテンツは、シーズンパスに含まれるDLCのプロンプトのエピソードとは別ものだと。
田畑 はい。E3でお見せしたものは、あくまでVR用のもので、今回のDLCとは別です。
――公式ホームページの“FFXV 拡張パック(仮)”の説明文に“全く新しいファイナルファンタジーXVがプレイ可能となる”とあるのも、何か大掛かりなものがあるのかと気になっているのですが……。
田畑 そういう書きかたをしてるの?(苦笑)。なるほど、その記載はちょっと語弊があるかもしれませんね。DLCは、あくまで『FFXV』を遊んでくださっている方々に、さらに豊かな体験を提供するという方針です。おそらく、“新たなゲーム体験を届けますよ”と言いたいのだと思います。何か別のものになったりするわけではありませんよ。
ゲームはチャプター0~15まで、メイン部分のみで40~50時間†
――gamescomの試遊バージョンについてお聞きします。こちらは完成度で言うと、どれくらいのものなのでしょうか。
田畑 9月30日の発売予定で考えていたマスター版、つまりディスクに入っているものとしての品質で言うと、90%くらいです。
――試遊バージョンでは、細かいところまで作り込まれた世界に衝撃を受けました。探索がとても楽しくて。
田畑 ありがとうございます。ただ、現状の段階では「惜しい」という感触なんです。友だちに勧める際、「ここの部分はこうだけど、おもしろいよ」と条件付きになるような。もうちょっとだけ磨かれていれば、手放しで「絶対におもしろいからやってよ」と人に勧められるなあ、と思っているのですが……。
――ああ、意欲的な新規タイトルに見られるような、粗削りな部分があるのは感じました。
田畑 ですよね。そこを、なるべく粗削りに感じないよう、洗練させたいんです。ただ、オープンワールドを採用して、プレイヤーにかなり自由を許しているゲームなので、プログラムやデータ的な不整合をすべて取り除くのは不可能とも考えています。なので、メインルートを優先して入念にチェックし、そこはなるべく完璧な状態で遊べるようにする考えです。
――プレイ中、すでに発表されているコールマン以外にも、タイアップ関連とおぼしき要素を確認できました。こうした現実で目にする要素をいくつか入れ込むというのは、『FFXV』の間口を広げる施策なのでしょうか。
田畑 そうです。いつも目にしているものが景色の中にあると、それだけで入りやすいですよね。純粋にうれしいですし。ただ、ゲームのキャラクターと現実の要素をリンクさせ、『FFXV』への窓口とすることも大切にしつつ、タイアップそのものを商業的にしすぎないようにしています。タイアップするなら、ちゃんとゲームの世界観として意味のある、必要なものにしていきたかったので。いずれそのCMなんかに、ノクトたちが採用されるとうれしいんですけど(笑)。
――現実側に進出するわけですね(笑)。それから、料理のことも忘れてはいけません。新たな画像が公開されると、とくに反響が大きいのが料理です。ゲーム中でも、「今日はどれを食べよう」と、モチベーションのひとつになります。
田畑 料理のグラフィックは、基本的に長谷川が担当しています。
――今日は長谷川さんにインタビューに立ち会っていただいているので、少しお話をうかがえれば。長谷川さんは、実際に料理が得意なんですよね。
長谷川 いろいろと作りますね。ゲームには、僕やスタッフが実際に作った料理の写真をデータとして取り込んで、反映させているものもあります。おにぎりは最初、そうした方法ではなくふつうにモデルを作っていたのですが、完成したものがおいしそうに見えなくて……。やっぱり実物を取り込んで作ろう、と方向を変えました。そこからさらに試行錯誤を重ね、クオリティーがグッと上がったんですよ。
▲『FFXV』のシェフ、とも言える長谷川朋広氏。『FFVIII』、『FFIX』、『FFX』、『キングダム ハーツ』シリーズなどに携わってきた。 |
田畑 そうそう、ようやく、おにぎりがおいしそうに仕上がったんだよね(笑)。
長谷川 後から資料を振り返ったら、10バージョンくらい作っていました(笑)。
▲照りや独特の透明感といったお米の表現や、海苔の具合、形状など、研究に研究を重ねられたおにぎり。そして「最終的にはCG的にリヴァイアサンと同じスペックに…!」という驚愕の高クオリティーを誇るに至った! |
――そ、そこまでのこだわりが!
田畑 おにぎりって、日本人のソウルフードじゃないですか。最初のほうは、全然うまそうに見えなくて。ここを妥協しては台なしになるので、「ぜんぜん食べたくならない。“飯テロ”になってない」ときびしく伝えていました。そうしたら、そのうち長谷川ではなく、おにぎりのデータ作成を担当している女性スタッフが、直接確認用のデータを持ってくるようになったんです。それで、長谷川よりは若干気を使って、「よくなってきたね。でもごめん、やっぱりこれでも食べたくはならない」みたいな(笑)。
長谷川 いや、あれはもう田畑さんと彼女の真剣勝負だったんですよ。僕は入らず、彼女と直接やり取りしたほうがいいだろうと思って(苦笑)。
――料理にはひとつひとつにエピソードが詰まっていそうですね(笑)。では、ゲームについて話を戻します。UI(ユーザーインタフェース)はこれで完成版ですか?
田畑 いえ、まだ更新します。当初は、Day1パッチで変える予定でした。デザイン部分というより、表示がわかりにくかった部分や不具合の修正がメインです。初めて触った人でも、正しくゲームの情報が理解できるようにしていきます。
――歩き以外だと、試遊ではクルマやチョコボでの移動がメインでしたが、都市間のファストトラベルはできるようになりますか?
田畑 もちろんあります。一度訪れたパーキングポイント間をファストトラベルすることが可能です。
――それは、たとえばクルマを改造して飛空艇仕様にしてからとかではなく、純粋にシステムとして?
田畑 はい。飛空艇は、クリアー後のやり込みとして使うのが主目的になります。通常のメインルートを進めるときには、クルマかファストトラベルです。
――バトルでは連携や魔法など、ひと通りの要素を体験できましたが、召喚獣は最終的な仕様を確認できませんでした。基本的には、『FFXV -EPISODE DUSCAE-』と同じく、ピンチのときに駆け付ける存在なのですよね。
田畑 基本的にはそうです。呼べる召喚獣が、シチュエーションやそのときの環境で変わります。仲間がピンチのとき、自分がピンチのときだけでなく、水辺があれば呼べる召喚獣、どこでも呼べる召喚獣など、ちょっとした違いもあります。
――バトルのカメラの制御は、このバージョンが完成形ですか?
田畑 プログラムは完成ですね。あとは敵ごとに細かいデータ的なチューニングを入れていきます。
――なるほど、わかりました。ところで今回遊べたチャプター3までは、ゲームの進行度で言えばどの程度なのでしょうか。
田畑 15%程度だと思います。チャプターは0~15まであります。
――相当、詰め込んでいる印象ですが、この内容の濃密さで終盤まで?
田畑 『FFXV』は、ゲームの全体の構造として、オープンワールドのパートとリニアのパートを両方入れています。前半はオープンワールドがずっと続くのですが、後半はストーリー主導でリニアに進みます。そうすることで、オープンワールドに飽きることなく、ゲーム全体が引き締まりますし、従来の『FF』的な進行も味わえるようにしています。前半と後半のメインルートだけを遊んだ場合の想定プレイ時間は、40~50時間となります。
――チャプター3まででも相当遊び込めるので、サブクエストなどをやっていたら何倍もかかるでしょうね。では最後に、最高のものを届けるという決意を、改めてユーザーにお伝えいただければと思います。
田畑 いま率直に思っているのは、2ヵ月延ばしてしまって本当にごめんなさい、ということです。ユーザーさんに、そして各所の関係者の方々に多大な迷惑をかけてしまって、申し訳なく思っています。こうして時間をもらった分、いいものを完成させて返すしか報いる手段がありません。11月29日には、皆さんに2ヵ月の磨き込みを「結果的によかった」と感じてもらえるようにがんばります。
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