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『キングスグレイブ FFXV』主人公・ニックス役の綾野剛さんにインタビュー【前編】
公開日時:2016-06-30 00:00:00
「その瞬間瞬間はつねに燃え上がっていました」†
『FFXV』と世界設定やキャラクターを共有し、2016年7月9日に全国ロードショーされるフルCGの映像作品『キングスグレイブ FFXV』。同作品において、ニフルハイム帝国との戦いで矢面に立つ、ルシス王国・レギス王直属の特殊部隊“王の剣”の中核メンバーである主人公ニックス・ウリックの声を担当するのは俳優の綾野剛さん。映画にテレビドラマ、舞台、CMなど、多方面でその才能を発揮している綾野さんは、いかにニックスを演じ、この作品をどう解釈したのか、話をうかがった。本稿は前編で、後編は→こちら
スタイリスト:富田 彩人 |
――綾野さんが演じられたニックス・ウリックや、『キングスグレイブ FFXV』という作品の第一印象はいかがでしたか。
綾野剛(以下、綾野) キャラクターを初めて見たときは、まず単純に、何のブレもなく「ああ、『FF』だな」と思いました。衣装も含めて、『FF』特有の世界観と言いますか……。やや枯れていて、何を考えているかわからないヤツ(アーデン・イズニア)はハットかぶっていたりだとか(笑)。ライダースなど、現代の洋服をうまく取り入れていますよね。相変わらず、まったくブレていないなと思いましたし、『FF』の重厚さがより増しているところに、すごく喜びを感じました。
――改めて、ニックス・ウリックというキャラクターの人となりについてお聞かせください。
綾野 私が演じたニックスという人間は、どこか故郷に対してのジレンマと言いますか、自身に退廃した気持ちと閉塞感を抱えているように思います。「故郷、故郷」と言いながら、自分がどこへ向かっているのかということに、つねに葛藤している人間です。それは基本的に、ほとんど表には出ず、ゆえにニヒルとも映りますし、自分を隠して生きている時間が非常に長いキャラクターだなと感じます。『キングスグレイブ FFXV』では、調印式という始まりによって、ずっと抱えていたものをいよいよ本格的に始動させなければいけなくなり、そこで久々に感情的になって、心が真っすぐに動いているという認識です。“王の剣”としてのあるべき姿をまっとうすることで、ジレンマや過去、家族に対しての想いに向き合って、ようやく閉じていた扉をしっかりと開いて立ち向かい、そこから先は迷いなく進んでいく。“きちんと自分と向き合っている人”というのがいちばん説得力のある表現かもしれません。
――初めて声優に挑まれたとのことですが、俳優としてのお芝居とは違いを感じましたか?
綾野 素直に僕個人の主観で言うと、やはり自分のキャパでは足りていません。山寺(宏一)さんを始めとした数々の声優さんがこの作品に出演されていますが、役者を約13年近くやっていても正直足りず、それは素直に認めなきゃいけないと思っています。声優という職業をプロとしてやっている方々とは、根本的に演技の質が違うんです。技術的な部分も含め、“上手”というものを超えて、プロとしてのすごみを感じました。そこで「自分たちに何ができるのか」と考えて、まずそのキャパの違いを認めるところから始めたことをよく覚えています。僕も忽那(汐里)さんも役者をやっているぶん、これから声優を目指す声優志望の方よりは、ある程度いろいろなことを想像できるだけの経験が多少はあると思うのですが、そういったものを使って1ヵ月でも特訓したかったです。それくらい、圧倒的な差があると感じています。
――収録に際しては、どのような思いで臨まれたのでしょうか。
綾野 この作品において、自分たちができることを考えました。客観的な意見にはなりますが、『FF』にはファンがたくさんいますよね。第1作は1987年に発売され、当時といまの『FF』の盛り上がりかたはやはり、根本的に違うと思うんです。そのなかで、コアなファンの方々はずっと『FF』を知っていますけど、一方で『FF』に触れたことがない層もいて、僕や忽那さんは、「こういうゲーム、こういう世界観があるんだ」と広く知っていただくための要素のひとつだと思っています。そういった意味で、『FF』のファンとしても恩返しができるのではないかな、と。ですが、いざやってみると、とてつもなく難しかったです。現場のクリエイティブチームやテクニカルチームの方々からいろいろとご意見をいただいて、助けていただいた部分が大きかったですね。僕たちが収録するときには、ほかの声優の方々の声がすでに入っていました。僕たちは日本語吹き替え版で、英語では抑えた芝居が吹き替えだと誇張されていることもあるのですが、誇張のなかでも抑えたりという表現が、皆さんすごくうまいんですよ、当たり前ですが。だから、芝居をするときはつねにそうなのですが、自分たちがいまできる最大の努力をして、向かっていく姿勢だけは崩さないようにと思っていました。
――汗だくになりながら収録をされていたとうかがいました。
綾野 事前に声優の方々が収録をしているところを見たのですが、やはり皆さん、声で肉体的なことをすべて表現されていました。僕はアクションのシーンなど、たとえば首をつかまれているシーンなら、自分で首をつかまないとできないんです。足を引きずるシーンでも、実際に足を引きずって、太ももを叩きながら収録していたことをよく覚えています。そうやって体を動かしたりしていたので、録音部の方々は、「綾野さん、動かないでください」と言いたかったかもしれません(笑)。
――そんな裏側があったのですね。そのほか、収録時に努力されたことはありますか?
綾野 画面だけが見えていたほうが感情を乗せやすいと思って、ほぼすべて照明を真っ暗にしていただいたんですが、そうしていざ始めたら、台本がまったく読めなかった(笑)。けっきょく、小さい照明を当ててやりました。いろいろと実験をしてみましたね。美術セットやロケセットではなく、芝居場がテレビの画面の中にあるので、その空間に限りなく近づけていくためには、入り込んでいくしかない、というか……。入り込む能力としては、役者という職業がプラスになっていて、役者だからこそできる入り込みかたがあると思います。我々ができることにただただ邁進していたというか、全力でやらせていただいたという感じです。
――そして収録を終えて作品が完成したいま、どういう想いを抱かれているのでしょうか。
綾野 声を入れてみて、思うところは多々あります。その瞬間瞬間はつねに燃え上がっていましたが、後からあら探しをしてしまいますし……。自分は声優という職業の底辺にいるんだなとは思いましたが、やはりひとりで作っているわけではありませんから、声優の皆さんの声を聞いて勉強させていただきつつ、各部署のスタッフにニックス・ウリックという人間を作っていただけたなと思っています。今後、こういう機会があるかどうかわからないですが、もしあったならば、本当に山寺さんのところに修行に行きたいです。セリフの言い回しなど、何回聞いても自分で耳コピできないくらいで、「どうやってやってるんだろう?」という。レベルが違いますね。ですが、現場は素直に楽しかったです。不安もたくさんありましたが、それに立ち向かっていく精神状態が、作品の世界観にピッタリで。怖い、どうしたらいいかわからない、でもただその瞬間は燃え上がり、向かっていくしかない。振り返れない、突き進むしかない、走ろう、と。そうしたニックスの状況とすごく似ていたので、それはプラスになりました。
――先ほど「『FF』への恩返し」という言葉にあった通り、『FF』に対する思い入れが強いのですね。
綾野 『FF』のファンだったら、「おまえは声優じゃないんだから、恩返しのつもりなら声優さんに任せろよ」と感じると思うんです。ですので今回は“恩返し”のベクトルが少し違い、単純に僕もいちファンとして、『FF』という作品をひとりでも多くの人に知ってもらいたいという想いで収録に臨みました。それが少しでも『FF』への恩返しになったらいいなという想いがあったんです。それと声優をやることとは、正直、別のベクトルだったりします。自分が若いころに『FF』やほかのRPGから受けた影響って、芝居や人生観にもちろん影響しているはずなんですよね。とくに男は単純ですし(笑)、登場人物に恋もしますし。
――声優を経験することで、改めて『FF』シリーズの魅力を感じましたか?
綾野 はい。やっぱり“光と闇”です。それは最大のテーマだと思います。『FF』の生みの親である坂口(博信)さんがテーマを確立して、植松(伸夫)さんが音楽を担当していて……“光と闇”を“最後の物語”、『ファイナルファンタジー』というタイトルで打ち出し続けているというところに、僕はまったくブレない『FF』のすばらしさがあると思っています。ですが、ブレないからこそ、新しいファンを取り込んでいく作業は非常に難しいわけですね。いまの時代にそぐわないぶん、淘汰されてしまう可能性もあるけれど、それをあきらめない姿勢がまた新しい改革につながるのではないかなと、個人的には思っています。
※後編は後日公開
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