●リアルなニューヨークを構築するアプローチ†
さらに、2016年2月上旬に行われた“『ディビジョン』プレスカンファレンス”の模様から。3番めに登壇したのは、『ディビジョン』のアソシエイト・クリエイティブ・ディレクターを務めるジュリアン・ゲリティ氏。ファミ通.comでもゲリティ氏には何度か取材させてもらっているが、いわば『ディビジョン』のスポークスパーソン的な立ち位置のお方だ。
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▲ジュリアン・ゲリティ氏(中央)。
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■ニューヨークをゲームに再現するのは刺激的だった†
ゲリティ氏が語ってくれたのは、環境、つまり本作の舞台となるニューヨークについて。いかにリアリティーのある設定を構築しても、ゲームとしてしっかりと表現できなければ意味がない。『ディビジョン』にとってニューヨークの街並みをしっかりと再現するというのは、死活問題だと言える。ゲリティ氏と開発チームは、そんな難題を安々と乗り越えたようだ。「私にとってもっとも楽しかったのは、ニューヨークのような象徴的な都市を再構築することでした」とゲリティ氏。
たとえば、マディソン・スクエア・ガーデン。世界でもっとも有名なコンサートホールであり、スポーツアリーナのひとつである同施設を、ゲーム内に再構築する任務を追った開発チームは、まず実際にアリーナの構造を詳しく研究したという。そしてそれを再構築し、そのうえで、“パンデミック後にはどうなっているか”というフィルターをかけたという。その際には、さまざまな天災によってもたらされた事例を参考にしたという。
本作では、マディソン・スクエア・ガーデンが医療施設として使用されることになるのだが、“現在の様子”→“危機的状況が起こったとき”→“危機的状況の中で施設が変化したとき”の3段階で構築されたという。ベータテストで、マディソン・スクエア・ガーデンを実際に体験したユーザーの方も多いかと思うが、まさに「ニューヨークが崩壊したら、まさにマディソン・スクエア・ガーデンはこうなるのでは」との姿をしっかりと再現し得たのではないか。
一方で、建造物をしっかりと構築すれば、それでニューヨークを完全に再現したということにはならない。ゲリティ氏がピックアップしたのは、市民や動物など、街に息づく人や生物たち。「市民はストーリーになくてはならない存在だ。彼らはきびしい冬を生き延びるためにゴミ箱やクルマを漁る。アパートを見上げると照明をつけて音楽を聴いている人もいます。そんな彼らも生き延びようとしているんです。さらに、街には犬も鳥もネズミもいます」とゲリティ氏。そんな市民や生物が、ニューヨークに大いなる生命を吹き込んでいるというわけだ。最後にゲリティ氏は、「犬は好きなので、殺さないでくださいね」といって会場をほんのりとさせた。
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▲ゲリティ氏お気に入りの犬。愛護してあげるのがいいかも……。
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■ニューヨークをさらにリアルなものにするストリートアート†
『ディビジョン』では、ゲーム内でニューヨークをさらにリアリティー溢れるものにするために、あるひとつのエッセンスを追加している。それはストリートアートだ。ニューヨークでストリートアートというと、なかなかに絶妙な着眼点だなあ……と感心させられてしまうが、『ディビジョン』ではその取り組みかたも徹底的。開発元のマッシブ・スタジオはストリートアートに造詣の深いモノレックスの創業者にしてクリエイティブ。ディレクターのテリー・ガイ氏とコラボ。リアルなストリートアートをゲーム中で再現しているのだ。
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▲モノレックスのテリー・ガイ氏(右)。
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「マッシブさんからオファーを受けたときは驚きました。私にとってニューヨークはストリートアート誕生の地であり、自分の世界そのものなので、マッシブさんがゲームでストリートアートを再現したいと言ってくれたときはうれしかったです。今回は、ストリートアートを通して、ニューヨークを活き活きと描写することを目的にゲーム開発に参加しました」とガイ氏。ゲーム開発にあたっては、ガイ氏はニューヨークの著名なアーティスト22人に参加を募ったという気合いの入りようだ。
その制作手法も興味深い。ガイ氏は「まずは、もし自分たちアーティストがパンデミックを生き残って、残された時間は1週間ほどしかないとしたらどうするかを考えました。通常であれば行けない有名なスポットや、目立つ場所に絵を描いて、自分の痕跡を残そうとするでしょうね。自分のマークを付けるのは楽しいです」と、廃墟のニューヨークにストリートアートを記すという設定に相当クリエイティビティーを刺激されたようで、全部で1000点ほどの作品が出来上がったという。
「アーティストによる制作もたいへんだったかと思いますが、それをストリートに取り入れることでも苦労しました。ニューヨークは街に多くの広告などが展開されているので、広告とアートがうまく共存しているようにしました」とゲリティ氏。最初にできあがったアート自体はカラフルな作品だったが、“荒廃したニューヨーク”という設定のため、状況に応じてアートをあえて汚すなどの処置もしたという。ガイ氏はこれも「とてもクールで気に入った」と刺激を受けた様子。“廃墟のニューヨークにストリートアートを再現する”という行為が、新たなアートの可能性を拓いたようだ。『ディビジョン』で街を散策するときは、ぜひともストリートアートにも注目すべし。
以下、本作に収録されているストリートアートの一部を紹介。