作家 アレックス・アーヴァインに聞く ゲーム内“書籍”が一般人の視点から崩壊したニューヨークを描く

文・取材:古屋陽一

公開日時:2016-03-11 18:00:00

●入り組んだ構造の書籍がもたらす効果とは?

 2016年2月上旬にニューヨークで行われた『ディビジョン』プレスカンファレンス。最後にお送りするのは、作家であるアレックス・アーヴァイン氏へのインタビューだ。すでにご紹介している通り、アーヴァイン氏はゲーム中に登場するメタノベルともいうべき『New York Collapse』を執筆した方(その書籍が現実にも発売されるというから、事情はさらにややこしいのだが)。ゲーム中では、『New York Collapse』の断片を集めると、持ち主であるエイプリルの人となりや事件のバックボーンなどがわかるようになっている。『New York Collapse』のストーリーはゲームの本筋とは直接関係ないかもしれないが、作品の世界観を広げるうえでは見逃せない仕掛けと言えるだろう。

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――まずは、ゲームに関わることになった経緯を教えてください。

アレックス 『New York Collapse』を発売する出版社の編集者とは、彼がDCコミックにいたときにいくつかのプロジェクトをいっしょに手掛けました。テレビ番組『スーパーナチュラル』の関連書籍やVertigo Comicsの『The Vertigo Encyclopedia』という本を書いたりした。それから数年後に、彼から連絡があり、「おもしろいプロジェクトがある」と誘われたんです。ユービーアイソフトが、とあるふたつのストーリーが重なる、“ツインナラティブ”のストーリーを検討しているという話でした。「方向性が決まっていないので、アイデアを出してほしい」と言われて、このプロジェクトに参加しました。
 私は、既存のメディアを使った新しい方法でのストーリーテリングに興味があります。トランスメディア(異なるプラットフォームやフォーマットを使ってストーリーを展開する手法)は、以前にも代替現実ゲームでも手掛けたことがありました。いただいた提案は、そんな私の求める方向性に、まさに合致したものでした。

――最初は、実際の『ディビジョン』の関連書籍という形でスタートしたのですね。

アレックス サバイバルガイドというアイデアは当初からありました。そこで私は、そこにミステリの要素を加えて、パンデミック発生時にガイドを所有しているエイプリルが、本に書いてあることは実際にはその通りではないということに気付くというアイデアを提案したんですね。彼女は、ニューヨークの崩壊にあたって、ガイドブックを生き残るための手引きとして活用するのですが、一方で、著者が本に書かれていること以外にも何かに気づいているということを察知します。それで著者が誰なのかを知りたいと思うんです。本の中にはパズル的要素があることもわかってきます。パズルに関しては、ユービーアイソフトから使いたいという要望がきていて、これをうまくストーリーにつなげるロジックを考えてほしいと言われていました。で、エイプリルが疾病が広がった原因を探ろうとするなかで、ヒントを得られるようにしたらどうかと提案したんです。これによって本が単にメインストーリーと並行関係にあるのではなく、おもしろい関係性ができます。

――なかなかに複雑ですね。

アレックス 私は長いあいだ、まさにこんな本を手掛けたと思っていたのですが、IP(知的財産)を所有する側の保護したいという気持ちが強いため、こちらからアイデアを出しても受け入れてもらえない場合が多かったんですね。ユービーアイソフトはその点を理解していただいて、検討した結果、今回のアイデアを受け入れてくれました。その後、ユービーアイソフトサイドで、『New York Collapse』をストーリーの中に導入していき、ミッションの中で本の断片を見つけていくようにしたんです。

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▲プレヤーは、ゲーム中で『New York Collapse』の断片を集めていくことになる。

――エイプリルはどのような形で物語に関わってくることになるのですか?

アレックス エイプリル画本を使い始めるのは、ニューヨークが隔離された日からです。本は、彼女の夫がジョークのつもりでプレゼントしたもので、彼からのメッセージが書いてあります。ある日彼が仕事から戻らずに、エイプリルはブルックリンからマンハッタンまで、彼を探しにいくことになります。そこで隔離されてしまう。ここから本を使うことになるんですね。

――三重構造なんですね。執筆の手順が気になりますね(笑)。まずはガイドブックの部分を書いて、その後夫のメッセージを書き、最後にエイプリルの立場になって、書き込みを入れたのですか?

アレックス はい、まずはサバイバルガイドのパートを書きました。実際に使えるようなちゃんとしたガイドにしたかったので、時間をかけて調べました。できる限り正確で現実的なものにしようと努力しています。つぎに、エイプリルの夫であるビルからのメッセージを書きました。それがエイプリルの手にわたり、彼女は5週間にわたって、この本を使うことになるんです。最初のメモが書かれたのは12月1日ですね。ちなみにメモは最後のページまで時間軸にしたがって書かれていくわけではなくて、けっこう飛び飛びに書かれているんです。色違いのペンが使われていて、同じ色は時系列に沿っている。つまり、同じ色を追って読んでいくと、ある程度彼女の行動がわかるわけです。

――それはまた入り組んでいますね。この発想はどこから来たのですか?

アレックス ここまで詳細には詰めてはいないですが、構造的には似ているものもありました。J・J・エイブラムスが原案を担当した『S.』という本です。私もユービーアイソフトのライターも『S.』のことを知っていて、「もっといろいろな方向にアイデアが活かせるのでは?」と思ったんです。

――エイプリルの存在は、『ディビジョン』に何をもたらしたと思いますか?

アレックス エイプリルのストーリーは『ディビジョン』のメインストーリーではありません。彼女は一般市民ですし。もし、エイプリルが『ディビジョン』に何かを加えたとしたら、ストーリーに異なる視点を当てたことですね。『ディビジョン』では、プレイヤーはエージェントとしてスーパーヒーローになるわけですが、エイプリルは違います。彼女は何の特殊訓練も受けていない一般人として、パンデミックに向かうことになります。正しいことをして、1日1日を生きていこうとしているんですね。

――エイプリルが主人公の小説も書けそうですね。

アレックス もっとストーリーはあると思います。私もこの先どうなるか見たいです。

――最初に『ディビジョン』の世界観を聞いたときは、どのように感じました?

アレックス とてもクールなアイデアだと思いました。誰でもエージェントになれるというのはおもしろい。話しをしていても、そのときが来るまでは、お互いエージェントだと知らないで接しているわけですからね。これはおもしろいコンセプトです。有事の際は、トップダウンで政府が仕切るのではなくて、一般の市民が正しいことをしようと動くことに魅力を感じました。

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▲エイプリルを巡るストーリーが世界観に深みを与える。

――ちなみに、『ディビジョン』の世界に投げ込まれたらどうします?

アレックス 『New York Collapse』には参考になることがたくさん書かれているので、まずはこれを参考にするかな(笑)。で、隣人関係がしっかりしている信用できる人の多い地区に行きますね。高層ビルは水が届かなくなるなどの危険性があるので、低い建物に留まります。以上の条件から判断して、私はイーストビレッジか、ロウアー・イースト・サイドのようなところに行くだろうなあ。あのあたりは小さいアパートがたくさんあって、コミュニティーがしっかりしているんです。住人が地域に根付いているんですね。生き残るためには、まず隣人関係がしっかりした地区に移動するのがベストです!

――書籍は日本語に翻訳するにはなかなか難易度が高いと思いますが、日本のゲームファンに向けてひと言お願いします。

アレックス 翻訳されるといいなと思いますが、まずは英語版を読むことを検討している方たちに向けて……。『New York Collapse』と同じような本はそうそう見つからないと思います。本書を読めばゲームを遊びたくなることは間違いありません。私自身も“新しい取り組みができた”と自負しています。

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