クリエイティブ・ディレクター マグナス・イェンセン氏に聞く なぜRPGだったのか?

文・取材:古屋陽一

公開日時:2016-03-07 18:00:00

●チームはみんなRPGのファンだった

 2016年2月上旬にニューヨークで行われた『ディビジョン』プレスカンファレンス。同イベントに合わせて同作のクリエイター陣にお話を聞く機会を得た。まずは、『ディビジョン』のクリエイティブ・ディレクターを担当するマグナス・イェンセン氏へのインタビューの模様をお届けしよう。

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――なぜ、RPG要素を取り入れたいと思ったのですか?

マグナス マッシブ・スタジオでは、これまでおもにRTS(リアルタイムストラテジー)やシミュレーションゲームを開発してきました。それで、「何か違うことをやりたい」とスタッフのあいだで思ったんですね。ちょうど2008年~2009年くらいのことでしょうか。チームはみんなRPGのファンなんです。RPGにもいろいろな種類がありますが、個人的には、己の分身をレベルアップしてパワーをもらえる感覚や、何をするか自分で決断できるところが好きです。そしてとくに、RPGの戦略的な戦闘パート。「ここでこのガジェットを使う」、「この銃をここで使う」というように、自分の判断で決めていくところが楽しいのです。
 と、こんなことをユービーアイソフトの方に話したところ、「それを『トム・クランシー』でやってみないか?」とオファーされたわけです。RPGは大好きだったので、「ぜひやらせてほしい!」と、飛びつきました(笑)。

――本作では壮大なストーリーが魅力ですが、開発するにあたっては、ストーリーが先だったのですか? それともゲームデザインありきのストーリーだったのですか?

マグナス ゲームデザインが先でした。真のRPGと言えるシューターを『トム・クランシー』シリーズで展開したいと思ったんです。ただ、それに見合う既存の『トム・クランシー』シリーズの作品がなかった。それで、特別な世界観を新しく作る必要があったんです。RPGの特徴は、何もないところからスタートして、やがて強くなっていくことです。最初に登場するエージェントは、能力も低く、ろくな装備もありません。それが経験を積むことによって、力を身につけてく。そんな真のRPGを実現するための世界観が必要でした。

――ということは、ゲームデザインがストーリーにもけっこうな影響力を及ぼしたのですね?

マグナス そうですね。ただ、ストーリーが出来上がっていく過程で、ゲームデザインに関してもさまざまなアイデアが生まれていきました。ゲームデザインにも大きな影響を与えていますよ。たとえば、ダークゾーンのメカニズムなどは、ストーリーの要請から生まれたものです。ストーリーはゲームシステムと分かちがたく結びついています。

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――ダークゾーンはとても興味深い場所ですが、通常のフィールドとダークゾーンを分けた理由は何ですか?

マグナス ダークゾーンはストレスのかかるフィールドです。多くのゲームユーザーにとって脅威を感じる危険な場所になっています。マルチプレイに抵抗を感じるプレイヤーも数多く存在していて、彼らのためにも"『ディビジョン』はシングルプレイでも快適に遊べなければならない"ということが前提としてありました。ほかのプレイヤーと関わることは、プレイヤー自身の決断であるべき必要があるわけです。そのためには、明確に別の区画でなければならないという発想があったんです。いつほかのプレイヤーに攻撃されるかわからないという状況は、つねに緊張感がつきまといますよね。通常のフィールドとダークゾーンは、ある意味で違う種類のゲームであり、個人的にはダークゾーンは緊張感が強すぎるのかも……とは思っています。マルチプレイが苦手な人をダークゾーンに誘いたくはないですが、入るときはプレイヤーが"入りたい"と主体的に思って入ってほしいです。

――ダークゾーンに入りたいと思わない人は、あえていかなくてもいいのですね?

マグナス はい。ダークゾーンに入らなくても、ゲームはちゃんとクリアーできるようになっています。ここは重要なポイントですね。ダークゾーンに行かなくてもすばらしい装備を入手することはできます。ダークゾーンに行くのは完全なオプションです。とはいえ、もちろん私たちしてはダークゾーンに行ってほしいと思っています。

――先日行われたクローズドベータテストでは、プレイヤーからどのようなフィードバックがあったのですか?

マグナス 非常に多くの肯定的な意見をいただきました。「ダークゾーンが気に入った」という意見が多かったのは、とてもうれしかったです。シューターのメカニズムで、たとえばカバーもいいとのご指摘もありました。反対によくないと言われた部分もありますが、そちらにはもちろん対処しています。私たちはコミュニティーの意見にはちゃんと耳を傾けています。ローンチに向けて、多くのバグ取りや修正、バランス調整を行っています。ベータテストの意見は、ゲームをよくするために、とても役立っていますよ。

――ベータテストでは、送り手が思わなかったような遊びかたをプレイヤーがしたりなんてことも?

マグナス ダークゾーンでは、こちらが想定していたよりも、プレイヤーはフレンドリーでした(笑)。当初は、ほかのプレイヤーが目に入ったら、すぐに攻撃するだろうくらいに予測していたのですが、恐れていたほどではなかったですね。もちろんそういうケースもありましたが……。皆さん思っていた以上にフレンドリーでした。

――ダークゾーンではPvPが可能という仕様についての、プレイヤーの反応は?

マグナス 意見はふたつに分かれました。「ほかのプレイヤーを攻撃できるのはひどい、この仕様はなくすべきだ」という人もいる一方で、「緊張感が高まっておもしろくなる」という意見もありました。ダークゾーンについてはたくさんのご意見をいただいているのですが、おおむね肯定的でした。私たちも、予想以上にうまく行ったと思っています。

――いずれにせよ、ベータテストではいろいろな意見が出たようですね。

マグナス フォーラムにいろいろな意見が出るであろうことはわかっていました。もちろん、フォーラムに投稿してくれるファンの声を聞くだけではなくて、自分たちもプレイしてきちんと経験する必要があります。そして、声の大きな少数派の意見だけではなくて、全体の意見にも耳を傾けないといけない。そのうえで、最終的には長期的に見て、“これがいちばんおもしろい!”と私たちが思ったゲームにしていきたいと思っています。

――対人攻撃をすると、アイテムなどを奪えるかわりに“ローグ(ならず者)”となってしまいますが、メリット、デメリットのゲームバランスをどのように考えていますか?

マグナス バランスに関しては、時間をかけて詰めました。“ローグ化”は、とても新しいアイデアなので、ほかのゲームでのノウハウは一切使えません。すべて自分たちでくり返し検証してみる必要がありました。最終的には、バランスを取るために、とても複雑なシステムになっています。たとえば、誰かを撃ってもすぐにはローグにはなりません。誤射を勘案してのバッファーが設けてあるんです。また、ローグにもレベルがあります。ざっくりとご説明すると、ひとり倒したらレベル1、大量に倒したら凶悪なローグに認定されるわけです。最凶ランクのローグは、周囲に周知されてその首に賞金がかかることになります。レベルの低い段階のローグが倒されたら失うアイテムはひとつですが、凶悪なローグだったら、倒されたらすべてを失うわけです。ローグになる長所や短所を調整して、デリケートなシステムを構築しています。

――ダークゾーンについて、もう少し具体的に聞かせてください。通常のフィールドで入手した武器をダークゾーンに持ち込んだ場合、ローク化して倒されるとその武器も失う可能性があるのですか?

マグナス 失うことはありません。ダークゾーンでは、ダークゾーンで見つけたものしか失うことはないです。さらに言えば、一端ダークゾーンから通常フィールドに持ち帰ったダークゾーン産の装備は、再度ダークゾーンに持ち込んでも、今度はロストすることはありません。

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――RPGを好む日本のユーザーは多いのですが、そんな日本のユーザーに向けて、とくにオススメの要素を教えてください。

マグナス “スキル”には自信を持っています。スキルは初期段階ではふたつ装着可能なのですが、どれを選ぶかによって、自分の好みにカスタマイズできるようになっています。たとえば、チームの回復役になりたいと思えば、ふたつのスキルを回復系に割り振ることもできますし、ガンガン攻めたければ、攻撃系のスキルに特化することも可能です。シングルで行くつもりならひとつを回復系、もうひとつを攻撃系に使うとバランスが取れでいいでしょうね。
 なお、スキルのうちの9つにはそれぞれ3つずつスキルMODがあり、それによってスキルが大きく変化します。たとえば“タレット”のスキルは、スキルMODで火炎放射器に変えることができるんです。スキルにも多様性があります。RPGは“どうプレイするか”の選択と表現が醍醐味だと思うのですが、スキルはその重要な部分を占めます。

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――舞台となったニューヨークの話を聞かせてください。なぜ、ニューヨークを舞台にしたのですか?

マグナス マンハッタンは半島なので、隔離する場所としてふさわしいというのがひとつ。そしてもっとも大きい理由のひとつが、ニューヨークが文明のシンボルだということです。芸術やエンターテインメント、建造物、食など、人間が達成できるもののシンボル的存在です。社会がつまずいて転ぶさまを描くなら、ニューヨークをおいてほかにありません。ニューヨークは最先端まで進化しているので、転んだときの衝撃も非常に大きい。眠らない都市にパンデミックが発生すれば明白に認識できます。大災害やエイリアンによる攻撃を扱った映画に、ニューヨークがよく使われるのも同じ理由ですね。危機的状況がいかに文明に影響を及ぼすかを表現するのに、これ以上効果的な都市はありません。

――オープンワールドでニューヨークという都市を作り上げることはたいへんでしたか?

マグナス 率直に言って、とてもたいへんでした。スタッフが実際に何度もニューヨークに訪れていますし、専門家にも相談しました。法的な課題もありました。「自分の家を勝手に使われては困る」という人もいますので。そういう意味では、架空の世界に比べて、実在の場所を使うのはたいへんです。まあ、実在の場所を使う利点は、認知度の高さですね。エンパイア・ステート・ビルディングやマディソン・スクエア・ガーデンなど、ひと目見ただけですぐにニューヨークとわかる。現実に“自分がそこにいる”と感じられるんですね。これが人工的に作ったエイリアンの世界では感じられないことです。

――ニューヨークの街並みで、とくに注目してほしい場所は?

マグナス すべて(笑)。すべて好きなので、ゆっくり見てほしいのですが、強いて言えば地下鉄かな。トンネルに入ったりしてみてほしいですね。地下鉄の中は探索できるところもありますよ。


――本作のリリース後、1年後までダウンロードコンテンツの予定があるようですが、今後の方針みたいなものがありましたら。

マグナス やりたいこともたくさんあるので、詳細なプランを立てているのですが、開発はまだ始まったばかりです。数週間前まで、ゲームのメインパートを作っていて、スタッフもそちらにかかりきりでした。ようやく一部のスタッフがダウンロードコンテンツに取り掛かれるようになった段階ですね。ダウンロードコンテンツのプランは柔軟性をもたせているので、プレイヤーの皆さんからのフィードバックを取り入れて変更していくことも可能です。たとえば、ダークゾーンの人気が高ければエリアを増やせますし、もっとミッションを遊びたいというリクエストがあれば、それに応えることもできます。いずれにせよ、プレイヤーの皆さんに満足していただけるものにすることはお約束しますよ。

[編集部注]先日ダウンロードコンテンツに関する詳細が、トレーラーにて公開された。以下のトレーラーでご確認を。

――最後に、日本のファンに向けて本作の遊びどころを!

マグナス ユービーアイソフトが、キャラクターが成長していく真のRPGをコンソールでリリースするのは久しぶりです。日本の皆さんがお好きなRPGを、コンソールで出せることになって、とてもうれしいです。ぜひ、楽しんでみてください。

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