中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】新アップデート、「テサラクト・アビス2」実装記念! VR剣戟ゲーム『ソード・オブ・ガルガンチュア』キーマンインタビュー(その1)
2021-09-23 17:00:00
OculusQuestのリリースとほぼ同時に発売され、以降、VRゲームにおける剣戟ジャンルの決定版のひとつとしてブランドの確立に成功した『ソード・オブ・ガルガンチュア』(以下、『SoG』)。筆者は、同作のリリース前から開発の経緯などを追ってきた。
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発売以降、同作は継続的にアップデートを提供してきており、筆者も次の取材をするチャンスをうかがってきたが、先日、大きなニュースが立て続けに舞い込んできた。『SoG』において夏の大規模アップデート「テサラクト・アビス2」を実装したことに加え、開発スタジオThirdverseの同社代表取締役CEOにgumiのファウンダーである國光宏尚氏が就任。さらに同社が第三者割当増資(シリーズA、シリーズB)により、累計調達額20億円を実現したというのだ。そこで今回は、『SoG』におけるコンテンツ戦略や同作に関わるThirdverse構想について、同社CSOの新清士氏と、『SoG』担当ゲームデザイナーである出島大輔氏へのインタビューを2回にわたりお届けする。
Q:VR界隈では剣を使ったゲームといえば『ソード・オブ・ガルガンチュア』という位、ブランディングが定着したイメージがあります。
新清士氏(Thirdverse CSO、以下、新):そうですね。発売以降ユーザー数も増え続けていて、実は、この春から夏前のマンスリーアクティブユーザー数が歴代ピークになったんです。これは、Oculus Quest2が快調だったというのもあります。昨年のリリース(2020年10月13日)からずっと好調で、現在、全世界で500万台売れたと言われているのですが、その流れに乗ることが出来たのがよかったですね。
Q:ローンチ以降、継続的にコンテンツをアップデートしてきたのもファンを維持している理由だとも思うのですがどうでしょうか?
新:開発チームとしては実は小規模なチームになっています。スタジオの主力は次のプロジェクトに移ってはいるので。でも、その小規模なチームの中で、常にユーザー動向やユーザーからのフィードバックを見ながら、どういうことができるのかを検証し、効果的な事を選んでアップデートしていきました。大規模なアップデートを半年に1回程度行いながら、武器などを月1ペースで提供して継続的に楽しんで頂けるようにスケジュールをしてきました。開発体制としては、主に大型アップデートに向けてリソースを集中させつつ、に定期的な新武器リリースに合わせてモデリングなどの作業をサイドで行うという流れですね。
アリーナ型から、ローグ・ライト型へゲームデザインを変換することで、VRゲームの中で最も長く滞在してもらえる作品となった『ソード・オブ・ガルガンチュア』
▲ガルガンチュア |
Q:『SoG』における最初期の大型アップデートで実装された「アドベンチャーモード」のいきさつを教えてください。
出島大輔氏(『ソード・オブ・ガルガンチュア』ゲームデザイナー、以下、出島):私がこのモードを提案したのは、リリース直後でした。
Q:ゲームが完了した矢先に!
出島:リリース直後でしたが、次のアップデートで解決すべき課題が少しずつ見えてきたんです。一番の課題が、当初から100ステージほどあったものの、ステージを1面、1面とクリアするアリーナ形式だったため、継続してプレイしてもらえる仕組みではなかったんです。「もうすこし長い間、且つ継続的に遊んでもらいたい」というのが命題になり、そのための解決策として生まれたのがアドベンチャーモードでした。
Q:開発はいつごろからはじまったのですか?
出島:2019年8月から9月には開発をはじめ、12月5日にリリースしました。開発期間は短かったのですが、バージョンアップという名目だったのでやれる範囲で開発を進めました。CO-OPモードは既に実装されてはいたのですが、実際にこれを使ってみんなでワイワイ遊んでもらえるようになったのはアドベンチャーモードが実装されてからです。
Q:どのような違いが生まれたのでしょうか?
出島:既に存在している100ステージを、100ステージある1つのダンジョンという仕組みに変え、「ゴールの101面にいるガルガンチュアに挑む」という流れに変えました。これに付随して、入手した武器などを強化出来るようにしたり、回復アイテムを獲得してプレイヤー同士で使いあったりといった、マルチプレイで遊べる要素を増やしていきました。
新:リリース直後は純粋に剣戟を楽しむといった内容だったのですが、経験値を獲得して自分を成長させたり、剣を成長させてたりするという要素が実装されたことで、「実際の剣戟を体験する」VRからマルチプレイとして継続的に楽しむことができるローグ・ライト的なシステムへと転換したんです。
出島:ローグ・ライト的ゲームの仕組みには繰り返し遊べるという魅力があります。自分たちのチーム体制を考えてもこれが最適でしたね。
Q:アドベンチャーモードを実装した後、どのような効果が見れました?
新:それまでは1ユーザーあたりの平均滞在期間が十数分とまさにVRでの剣戟体験のみで満足してプレイを終了してしまう程度のプレイ時間だったのですが、アドベンチャーモードが実装されてからはより長く滞在していただけるようになりました。プレイヤーの評価も、『SoG』は他のゲームと比較しても長期間遊べるという認識が定着しました。もともとVRゲームは短い時間しか遊ばれないというイメージがありますよね。ですが、すくなくとも『SoG』では「101面までのクリアを目指す」という明確なゴールが設定されているので、プレイヤーの方たちに101面に到達するまでやめないというプレイスタイルが習慣化していったのです。また剣の収集などもプレイを続けるうえでの重要な要素になっていますね。『SoG』のアップデートはユーザが求めているものから優先順位をつけたうえで実装しています。
Q:このようなユーザーからのフィードバックで仕様変更した具体例など教えてください。
出島:リリース直後は剣戟としてシビアに当たり判定を入れていたので難易度が高めだったんですけれど、アドベンチャーモードを実装するにあたって、冒険のたびに一部のパラメータが変化するようにしたのです。「プレイする度に難易度が変わってもいいのでは」といった発想の転換です。同時にダンジョン攻略で皆がワイワイできるためにどうするべきかを考えていきました。
新:パリイ(つばぜり合い)をするのが剣戟においての醍醐味なのですが、タイミングをあわせる部分が難しいとのフィードバックを多数受けたので、ではそれをどうバランス調整するのかという点でも出島がリードし、すべての武器を調査したうえで全調整していきました。この調整後のアップデートでユーザー評価を高くいただけました。
Q:アクションゲームとしての「剣戟」はどのようにデザインしていったのでしょう?
出島:最初、攻撃に対する敵の反応をある程度固定化し、決まったモーションが再生されるようになっていたのですが、それだとどうしてもある程度プレイすると飽きが来てしまうので、剣戟のたびに反応が変わるよう、物理挙動を実装していきました。これについては『アリゾナ サンシャイン』などの海外で開発されたVRアクションゲームを参考にしましたね。
新:この際、実は技術的に大きなチャレンジがあったんです。「マルチ環境で物理挙動を入れて機能するのか」というものです。当初、意図的に物理挙動を実装しなかったのも、マルチ環境での物理挙動実装による計算爆発によってフレームレートが低下するリスクを排除したかったからです。今回、物理挙動を入れるというタスクは、今夏の大規模アップデート「テサラクト・アビス2」向けに入れる機能として上位にあがっていたのですが、エンジニアチームが頑張ってくれたおかげで、マルチ環境でも実現できる目処が早めに付き、2021年3月25日に「Death Impact」として実装しました。
「テサラクト・アビス2」とともに登場した新キャラクターとその世界観
▲ガロッサス |
Q:「テサラクト・アビス2」では、新ボスや敵キャラクターも実装されましたね。
出島:ガロッサスですね。これまでガルガンチュアが最終ボスとして立ちふさがっていたのですが、ガルガンチュアと対峙する場合、プレイヤーはどうしても巨大な人型のキャラクターが故に足元に群がって倒すというパターンになっていったのです。なので、ガルガンチュアとは違った攻略法を持つ第2のボスを実装する必要があるという話は以前から出ていたのですが、今回、満を持して実装することになりました。ガロッサスの場合、前かがみの姿勢になるので、プレイヤーと直接対峙させることが可能になりました。更に動きも素早く、攻撃頻度も激しいうえに攻撃パターンも豊富なので、様々な攻略法が考えられます。また、前かがみになる分、スケール感も全然違ってきます。
Q:CO-OPプレイヤーモードもありますが1人でも倒せるのですか?
新:もちろん!
出島:大変ではありますが1人でもクリア出来るのは確認しております(笑)。
新:シングルだと大変ですが、バランス調整は非常に丁寧にしてあるのでマルチでやれば比較的初心者でも倒せるようになっています。ガロッサスは75面にいるのですが、マルチの場合、各プレイヤーがレベル20位になっていれば、75面には到達出来るようになっています。
Q:ガロッサスとガルガンチュアはボス攻略としてはどのような違いがありますか?
新:ガルガンチュアは上から剣を振りかざしてくるのですが、ガロッサスは四つん這いになって突進してくるイメージですね。これまで『SoG』で登場した敵は剣戟がメインだったのですが、ガロッサスは横から大きく腕を振りながらパンチを繰り出してくるので、ここの攻略が重要になってきます。
Q:どのように難易度バランスを調整しましたか?
出島:基本的には複数プレイヤーでプレイしてもらい、そこから意見をくみ取りながらパラメーターを調整するの繰り返しです。
新:4人プレイを毎日のように繰り返してバランスの絞り込みがおこなわれました。
▲・クノイチ(左) |
Q:この他に今回実装された敵キャラクターについても教えてください。
新:今回、ガロッサスに加えて、クノイチとタンクエリート(通称、ゴールデンタンク)を追加したのですが、それぞれに対して新しいモーションや攻撃方法を追加しています。例えばクノイチは、強烈な突き攻撃を繰り出したり、ジャンプした瞬間にテレポートして後ろから襲ってきたりします。タンクエリートもジャンプして1回転してうえから強烈な攻撃をみまったりなどいままでの『SoG』では体験することが出来ない新たな遊びを意識的に選んでいれています。その辺はユーザーの皆さんには喜んでいただきました。そこはすごくホッとしましたし、丁寧に準備して良かったと感じました。
出島:新しいアクションが多かったので、不安はあったんですけれども、今までのゲームの形とはまた違う挙動や戦闘バランスに対して素直に喜んでもらえたので嬉しいです。モーションキャプチャーのデータはあるのですが、これらのデータをそのまま実装するとどうしてもゲームとして「大人しめ」なってしまうので、もうすこしオーバーな動きを入れてもいいのかなという感じでモーションを調整しました。
新:例えば、クノイチは連続突き攻撃をしてくるのですが、モーションキャプチャからのデータだと動きが速すぎて誰も捌けなかったんです(笑)。なのでそれを意図的に遅くしたり、「タメ」を作ったりしました。ユーザーにとってはリアルな剣戟の体験と言うよりは剣戟をやっている楽しさの方が重要なんです。なので、敵が攻撃してくる時も「来るぞ」っていう事が分かるほうがいいわけなんです。 それが分かるとユーザー側で攻撃を受け止めて逆転出来るようになりますので。逆に、リアルな表現を正確に実装すること自体はすごく簡単なのですが、そのような作り方はしないようにしました。
まさにVR剣戟ゲームの開発蓄積で得られた知見です。
と、今回は、夏の大規模アップデート、「テサラクト・アビス2」の実装内容を中心に伺ってきたが、次回は、『SoG』の運営体制やユーザー特性、そしてそこから見受けられるThirdverseの戦略までを伺っていく。