中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】ゲームからITまで京都から有望なスタートアップ創出を目論む行政マン
2023-08-22 17:00:00
▲「BitSummit」と「IVS2023 KYOTO」という二大イベントの立ち上げに現場側から携わった唯一の行政マン、京都府ものづくり振興課の足利健淳課長 |
筆者にとって今夏の京都は非常に興味深い年となった。アジア随一のスタートアップ系イベントが2週間という短期間を挟んでともに京都市勧業館「みやこめっせ」(以下、みやこめっせ)で開催されたからだ。そのひとつがIT系経営者や投資家と次世代の起業家が一堂に会する国内屈指のスタートアップカンファレンス「IVS」(「IVS2023 KYOTO / IVS Crypto 2023 KYOTO」/6月28日~30日開催)、もう一方は当ブログでもおなじみ、「BitSummit」(「BitSummit Let's GO!!」/7月14日~16日開催)だ。
「「BitSummit」はインディーゲームフェスでは?」というつっこみが即座に入りそうだがちょっと待ってほしい。「BitSummit」は、ゲームチームを立ち上げて数年というグループや、個人クリエイターが作品を発表する場になっており、日本のみならず世界中から次世代を担うクリエイターが集まる。さらに数多くのインディーゲームパブリッシャー、大手プラットフォームメーカーのインディー担当部門やインキュベーターなども集結し、ダイヤの原石探しを虎視眈々と狙う。そのような意味で言えば、「BitSummit」はまさにゲームやインタラクティブエンターテインメントに特化したスタートアップイベントと言えるのだ。
それよりも何よりもこれらが同じくくりのイベントだと筆者が位置づけたのは双方のイベントから感じられる「雰囲気」だ。出展されているゲームやサービスには「荒削りな部分」がありながらもそれを最高にクールにかつホットに魅せることを実現しているからだ。
これらのイベントをみやこメッセへと誘(いざな)った行政マンがいる。京都府商工労働観光部ものづくり振興課の足利健淳課長だ。今回、その足利課長が、いかなる経緯でこれらのイベントを助成、誘致するきっかけを生み出したのかについて聞いた。「IVS」関連については、足利課長に加え、同じくものづくり振興課の中原真里係長兼課長補佐(スタートアップ支援係長兼課長補佐兼任)からも話を伺った。
京都市主導の「京まふ」からの刺激が「BitSummit」参画のきっかけ
実は「BitSummit」と京都府の関わりについては、イベントがまさに立ち上がった10年前の時点で、筆者もちょっとした役割を果たした。2013年3月9日、開発会社のQ-Gamesを中心に、京都Fanji Hallでクローズドで開催された第1回BitSummitとも言うべき「BitSummit MMXIII」に参加した筆者が、その試みに感銘を受け、その2日後に、イベントの可能性について行政に紹介すべく、京都府ものづくり振興課の担当職員としてコンテンツ産業の活性化にあたっていた足利課長に連絡したのがきっかけだった。当時、既に立命館大学映像学部に所属して、ゲームを中心としたクリエイティブ産業研究に従事していた筆者は、長年京都のクリエイティブ産業と行政のパイプ役を担ってきた細井浩一教授の推薦で、京都府や京都市が展開する各種イベントやシンポジウムの企画などに2007年ごろから携わっていた。そのような経緯もあり、産学官連携の取組の一環として提案すべく「BitSummit」を紹介したのだった。
これを機に、「BitSummit」のディレクターを務め、同イベントの生みの親とも言われるゲームクリエーターのジェームス・ミルキー氏(当時はQ-Gamesに所属)ならびにQ-Games代表取締役であったデュラン・カスバート氏を足利課長に引き合わせる場を筆者がセットアップすることになった。「BitSummit MMXIII」開催から10日後の3月19日に京都のQ-Games本社にて、前述のミルキー氏、カスバート氏に同社クリエーターの冨永彰一氏(一般社団法人日本インディペンデント・ゲーム協会前理事長でもある)を加え、顔合わせが行われるのだが、ここからの足利課長による次の一手が素早かった。顔合わせ3日後の3月22日には京都府としても是非ご一緒したいという返答がある。「京都府内部でも報告し、了解を得た」と、ほぼ即決レベルだったのだ。
それまでも関西界隈で展開されるこの手の取り組みについては定期的に京都府に紹介・提案してきたこともあり、当時、即座に行政が「BitSummit」を支援し、深く関わる決断をしたことについては筆者としても以前から不思議に思っていた。そこで、今回改めてその点について聞いてみると、足利課長は「きっかけは実をいうと京まふです」と言って続けた。ご承知の方も多いかと思うが、「京まふ」とは官民連携事業として京都市が主催に名を連ねる「京都国際マンガ・アニメフェア」の略称で、「BitSummit MMXIII」開催から遡ること約半年前に第1回が開催されたばかりだった。
「よく都道府県と政令指定都市は、二重行政など悪い面が取り上げられますが、互いの働きが刺激になるという良い面もあります。京都市が中心となってマンガ、アニメの「京まふ」という本格的なコンテンツ系イベントを開催し、成功へと導いたことが、京都府のコンテンツ産業担当職員として、本格的なゲームイベントを開催したいという思いにつながったのです」(足利課長)。
すでに予算は確保、行政マンの思いは当初から「BitSummit」とシンクロしていた
「京まふ」の成功を目の当たりにしたことを契機に足利課長は一念発起し、すでに顔合わせの時点で2013年度にゲーム系イベントを実施するべく予算獲得に成功していたのだ。とは言っても、「京まふ」はKADOKAWAグループやソニー・ミュージックグループなど関東に本社を構える大手企業が軒並み開催に携わる設えで、第1回にして大規模予算を獲得した中での開催であった。これと同等の予算規模を京都府単独で獲得するのは不可能であり、結果的に「京まふ」の事業予算には遠く及ばない金額での予算成立となった。さらに、京都府はこれまで、2009年に任天堂、2010年にはポケモングループと京都とゆかりのある企業と連携してイベントを行ってきた例はあるものの、それ以降は大手企業との官民連携によるイベント実施は見送られていた中での企画立案であったことから「何をやるかは不透明のままだった」(足利課長)という。
そのようなタイミングで筆者が偶然声をかけたことで話がトントン拍子に進んでいったのだった。以降、筆者自身は企画そのものには携わらなかったものの、サイドイベントの開催や、学生ブースの出展並びにアワードでの有識者としての評価といったシーンでこの10年の間、引き続き携わっていくこととなった。
ところで、元々行政が官民連携を行う場合、大手企業やその関係企業と連携するといった保守的側面があったが、今回のケースは「インディーゲームに特化したイベント」。なぜ行政特有の保守性をぶち破ってでも、BitSummitへの支援に踏み切ったのだろうか?
これについて足利氏は、「「京まふ」を視察して、私が好きだった企画に「出張マンガ編集部」がありました。東京に集中していた出版社の編集者に、京都でも会える、自分の作品を見てもらってアドバイスがもらえるというもので、まさしく行政が行うべき事業だなあと感動しました。僕たちは「KYOTO CMEX」※などでゲーム産業に関わるイベントは開催してきたのですが、ゲーム企業の育成といったことには全然手がつけられていませんでした。ですから、今回予算付けしたゲーム展示会でも、大手よりも下請けで作っているような中小のゲーム企業をメインに据えるように予算要求をしていたのです」と語ってくれた。
イベントの主体は白紙だったが、企画書の趣旨はまさに「BitSummit」のそれに合致していたと言える。
「ちょうど官民連携、オープンイノベーションで一緒にできないかと考えていたところ、BitSummitを主催したQ-Gamesさんを中村先生に紹介してもらえることになりました」(足利課長)。
まさに筆者が「BitSummit MMXIII」を受けて京都府ものづくり振興課を訪問したのが、2013年度の新規事業をまさに立ち上げようとしていた「渡りに船」とも言えるタイミングだったと考えると、感慨深いものがある。
「BitSummit」を大きく育てたいーー行政マンの夢、動き出す
京都府とQ-Games「BitSummit」の官民連携が成立した後、足利課長はミルキー氏、冨永氏と共に京都府市内の様々なイベント候補地を巡っていった。 5月14日の段階では、16ヵ所もの会場が候補として挙げられ、みやこめっせはその段階ではまだ、一候補会場であったという。
このころから、足利課長の提案で定例会議をおこなうこととなったというが、同イベントを支援するにあたり、足利課長が一番意識したのが、「ゲーム業界に関わる人たちのセンス、考えを尊重しながら、役所としての味付けも加え、それぞれの目的を達成すること」だったという。ミルキー氏、冨永氏に、「BitSummit」の共同創設者であるジョン・デービス氏を加えての最初の会議の際、「運営メンバーの「BitSummit」開催への思い、趣旨は活かしながらも、それを大きな展示会へと生まれ変わらせたい。アワードも盛大に行って、この展示会からゲーム企業が世界に羽ばたいていくようなものにしたい」と、足利課長自身の思いをはっきりと伝えたと語ってくれた。
開催時期はこの段階で、2014年3月ごろに設定。2週間に1回くらいのペースで打ち合わせを重ねて行った。企画をするうえで意識したのは、第1回にして京都におけるコンテンツ系イベントで最大規模となった、「京まふ」との差別化だった。熱烈なアニメファンや漫画ファンをターゲットに据えている同イベントとの違いを強くイメージし、「BitSummit」については「日本のインディーゲーム市場を創造する」というビジョンを土台に「クリエイターのクールさ」を出すべく、会場はライブハウス風に暗めの会場にスポットライトを当て、スモークをたくなどの演出で「Vibe感」を全面に押し出していった。さらにゲームクリエイターによるトークショーに、ゲーム音楽のライブイベントも加えるなど、イベント内容も「インディーゲームの奨励」をしつつも「クールさ」で洗練化させ、結果的に日本を代表するゲームイベントである「東京ゲームショウ」などの雰囲気とは一線を画した、欧米で開催されるゲームコミュニティイベントに見られるような空間が生まれることとなった。まさに現在にもつながる「インディーゲームとゲームカルチャーに特化した祭典」たる「BitSummit」の原点がここに誕生したのだ。
行政の枠組みを超え、同じ船に乗り、共に汗をかく
▲「BitSummit」動員数の推移。2023年は初めてオンライン視聴回数が延べ200万件を突破。当初のコンセプトを貫くことでアジアでも唯一無二のインディーゲームとゲームカルチャーに特化したイベントへと成長した |
重要なのは、すべての段階において、足利課長がQ-Gamesのコアメンバーと共に歩んでいったという点だろう。「ゲーム業界の方々からすると、役所の私はよそ者。だからこそ、こちらでもできること、一緒にできることは極力何でもしました。会場探しも一緒にしましたし、会場の雰囲気を考えるためにライブハウスなどもよく一緒に見に行きました。」(足利課長)。
逆にスポンサー集めについては、行政との連携が実施されている企業や事業をリストアップし、最大限活用してもらった。
企画を進める上では、驚きも多かったようだ。「打ち合わせをしていても、ジェームスさん(ミルキー氏)とか、むちゃむちゃおもしろいものを持ってきていたりするんですよ。「それ、どこで売っているの?」みたいなものを持参していたり。ドラえもんを、かっこいい戦闘マシンのように描くデザイナーが知り合いにいらっしゃったり。予定調和な会議など一切なく常に驚きでした。1年間打ち合わせを重ねる中で、役所の中では、「どんなものができるの?」という不信感もありましたが、「絶対見とけよ。みんなをびっくりさせてやる」という思いでした(笑)」(足利課長)
ただ、ここは行政マン。単に「イベントで終わり」とならないような施策も準備していた。まず、「BitSummit」を京都府との連携で開催することを発表する際、映像、ゲーム、アニメなどのクリエイターを支援、育成する支援機関「京都クロスメディア・クリエイティブセンターKCC(以下、KCC)」の立ち上げもあわせて発表し、知事による記者会見を実施したのだ。これにより、イベントはあくまでも京都における経済活性化の一環であることを印象づけた。さらに、「BitSummit」開催時には、KCCによるゲーム業界向け就職セミナーと、立命館大学ゲーム研究センター主催による「京都ゲームカンファレンス~ゲーム・スタディーズの諸相~」も併催した。これにより、京都府が、「BitSummit」を支援する社会的意味を前面に押し出す形としたのだ。
Q-Gamesのコアメンバーのひとりとしてイベントに関わった冨永氏いわく、「開催後に「でこぼこ感、ハイブリッド感があって良かった」と評価され、涙が出そうになった」という。同イベントは10年近く経った現在も続き、ゲーム産業におけるベンチャー企業、特に京都拠点の企業の存在感は着実に増している。「BitSummit」が始まった当初、京都に拠点を構えるゲームスタジオは15社だったのに対し、現在は60社以上に成長している。いかにゲームなどデジタルクリエイターにとって京都が魅力的に映っているかの証左と言えよう。
「IVS 」の京都開催で「BitSummit」連携当初の高揚感再び
▲ IVS2023メインゲートステージ。この先に京都府関連のブースが |
京都府が「BitSummit」に関わるようになって10年近く経ち、足利課長はかつてその立ち上がりで得たある種の高揚感を久々に感じることになる。それが、冒頭で言及したスタートアップカンファレンス「IVS2023」と「IVS Crypt 2023」を京都で開催する提案を受けたときだった。
本イベント実施の背景として、まず外せないのが2018年の西脇隆俊氏の京都府知事就任だった。西脇知事は知事選において、もともと公約として起業家支援を掲げており、提示したビジョンや当時の国策の状況を受け、2020年4月からものづくり振興課内にスタートアップ支援係を創設することになったのだ。
この時、同支援係への異動を名乗りでたのが、後に足利課長の右腕として「IVS2023」と「IVS Crypt 2023」の京都展開における総合窓口的な役割を果たすことになる中原真里課長補佐であった。もともと中原課長補佐は自治振興課に在籍し、公益活動などの行政的仲立ちや中小企業に対しての助言や後押しをする役割を果たしてきたが、ものづくり振興課に異動する2年前に大学院への職員派遣で東京に出向していた際、ワークショップやイベントなどで、熱意をもった起業家や大企業新規事業課で活躍している人たちを眩しく感じたこともあり、同係創設の話にとびついたのだという。
「IVS」との連携は、海外で多くのスタートアップ投資を成功させてきたHeadline Asiaパートナー(顧問)の岡本彰彦氏が、京都スタートアップ・エコシステム(産官学一体となって京都に起業家を育む目的で設立した組織)のアドバイザーに就任した際に、京都でスタートアップを経てグロースした人材が少ない現状と、外部人脈とつながる機会を生み出す方法について相談したところ出てきたひとつのプランだった。
経営者や投資家が集まる場との連携に可能性を感じた中原課長補佐は、まず「IVS」に常連として参加してきた人たちにオンライン上で京都府内の起業家との「壁打ち」(事業案をブレスト的に相談し起業での成功経験のある方からの知見を得るミートアップ)をしてもらいつつ、関係を構築した。さらに2022年には「IVS2022 NAHA」に京都府内のスタートアップとともに参加。ネットワーキングなどに意義を見いだしたことから、京都府内のスタートアップも外資系VCやスタートアップ先駆者との連携で海外資金の獲得が必要だと考えるようになっていく。
同時にIVS運営側でも日本におけるベンチャーエコシステムを構築する上で、世界のスタートアップを呼び、コミュニティを作るべきとの声が出ていた中で、2023年の「IVS」開催候補地として京都があがるようになった。足利課長によると、「IVS」は過去に4回ほど京都で開催されたことがあったと言うが、「京都経済と関わることがなかった」(同氏)。
だが今回、「IVS」側が京都を開催候補地とした意図は違っていた。これまでは原則、クローズド、招待制で行ってきたイベントを、起業に関心のある一般層にまで広げた公開型でいくことを提案してきたのだった。これを聞いた足利課長は、「まさに「BitSummit」のメンバーが京都府にアプローチしてきたときと同じだと思った」と言う。
候補地としてみやこめっせがあがっていたことから、足利課長の提案により、「BitSummit」の模様を「IVS」のメンバーに見せた。これにより、一般公開を想定した「IVS」開催の具体的なイメージが広がり、2022年秋には前述の岡田氏が「IVS」運営の代表を務める島川敏明氏らともに西脇知事を訪れ、「IVS」「IVS Crypto」を2023年夏に京都で同時開催ことが決定し、2022年10月5日にプレス発表するに至った。
この時点で具体的に「何をするか」まではこの時点でほとんど決まっていなかったが、「BitSummit」の立ち上げを経験してきた足利課長がまず打ち出したのは「行政ができる限り汗をかく」という方針であった。「BitSummit」において「ゲーム業界のメンバーが目指すイベントの輪郭を形にするべくあらゆる努力をした」という成功モデルを、「IVS」における一連のイベントにおいても転用し、「IVS」やスタートアップ界隈の人たちと意識をともにし、「自治体がここまでやってくれるの?」と思ってもらえる程の努力をするべきと考えたのだ。ただ、「BitSummit」と比べると、開催規模のスケールが当初から大規模であったことから、「BitSummit」時代は一担当として足利課長がすべてに責任を負ってきたが、「IVS」においては、ものづくり振興課全体を巻き込むことにした。
一般公開型へ移行する上での施策としては、コミュニティイベントに加えて展示エリアを設け、スタートアップ企業が自社のプロダクト、サービスのプレゼンを競う「IVS」恒例のピッチコンテスト「IVS LAUNCHPAD」において優勝賞金1000万円を拠出しての京都府賞なるアワードを新たに設けることとなった。また、京都の人たちを巻き込むうえでは単に助成金を出すというスタンスではなく、Headline Asia、IVSに加えて、京都府、京都市、一般社団法人京都知恵産業創造の森が参画する実行委員会形式を採用。これらも「BitSummit」の運営方法を踏襲している。
「本当にある意味、同じやり方だったのです」(足利課長)。
夏の2つのイベントは、京都発ベンチャーのクラスター化に寄与するか
企画案の具現化と展開の施策は2023年3月から集中して行われた。「この時期から開催まで課のリソースをかなり集中投下しました」(足利課長)。スタートアップ係の中原課長補佐を実質上の総合窓口とし、各係にはそれぞれ主体的に動いてもらったという。
「この点も本当に「BitSummit」と同じでした。ギリギリまで企画が固まらないこともあった。しかし、「BitSummit」で経験済みなので心配はしていませんでした」
興味深いのは、今回のイベントが、知事を中心に京都府をあげて取り組んできた起業支援がテーマであったこともあり、上層部からの注目度も高かったことだ。足利課長自身は既に統括する立場で、各係の進行は現場に任せていたいが、その進捗について府庁内で尋ねられる局面が多くあったようだ。ただ、それに対して足利課長は、「BitSummit」の際と同様に「のらりくらり戦略」を採った。
「実際に蓋を開けて見てもらうという感じでしたね」と足利課長は語る。企画進行時も各係に詳細は任せ、なにをどこまで進んでいたかは明確ではなかったというが、自分自身の「BitSummit」での経験で「皆が活き活きと動いているので大丈夫」と判断したのだという。結果は事後のプレスリリースが示すとおりである。
今回、このような形でスタートアップイベントを経験して何を実感したか伺うと、「これまでもオープンイノベーションとか業種交流イベントなどさまざまなことを行ってきましたが、この規模でやることのインパクトの違いを改めて実感しました」(足利課長)。
今回はものづくり振興課のリソースを集中投下する戦略をとったが、今後実施される際はここで得た知見を整理し、庁内の観光課や伝統工芸課などいろいろな部門、分野に波及させなければならないと感じているという。また、オール京都体制も大切だと足利課長は語る。対象もスタートアップのみならず、大学や先端研究など教育・研究機関にいかに結びつけるかも課題であるとした。
本イベントにはWeb3系ゲーム会社も多数参加しており、ゲーム業界も今回密接に関係していくべき隣接する業界とも言える。「BitSummit」と同様の効果があると想定するのであれば、「IVS2023 KYOTO」をきっかけに今後、「BitSummit」の10年間で形成されたように京都をきっかけとしたゲーム企業を含むベンチャー企業のクラスター化が想定できるのか、そのビジョンに近づけるのか否かにも期待がかかる。今後の足利課長らの一手にかかってくることだろう。