中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】『ソード・オブ・ガルガンチュア』を起点に広がるよむネコのVR戦略
2019-09-25 17:00:00
ちょうど1年前の東京ゲームショウ2018において筆者が株式会社よむネコ(以下、よむネコ)による『ソード・オブ・ガルガンチュア』をプレイして衝撃を受けてから1年がたち、正式リリースが行われてから、3ヵ月強が経過した。このような中、よむネコは東京ゲームショウ2019(以下、TGS 2019)におけるVRコーナーの一角に場所を構え、『ソード・オブ・ガルガンチュア』に加え、PvP仕様に特化した剣戟対戦アクション『デュエル・オブ・ガルガンチュア』を披露していた。そこで早速、よむネコの新清士氏(以下、新氏)に状況を伺った。
リリースからコンスタントにVR関連のセールスランキングで上位を推移している『ソード・オブ・ガルガンチュア』
Oculus Questとほぼ同時の2019年6月9日リリースされた『ソード・オブ・ガルガンチュア』(以下、『SoG』。)リリース前からOculus Storeに同作が注目作としてフィーチャーされるなど、話題となっていたが、新氏によればリリース後もOculus Store並びにSteam Store のVRセクションにおいて、継続的にベストセラーにラインインしてきたとのこと。これは日本発のVRコンテンツとしては異例のヒットと言える。「日本から出ているVRコンテンツでは間違いなく最も売れている」と新氏は満面の笑みで語った。なお、『SoG』は複数のVR系プラットフォームに対応しているが、最も購入されているのはOculus Quest向けと新氏。この傾向は北米の他の会社でも見られるという。やはり、利便性の良さが本作のようなアクションゲームにとっても有効に働いているようだ。
一方、興味深いのはユーザー動向だ。当初は日本からのユーザーによる購入が多かったが「しばらくすると北米からの購入が日本を上回り、今では、全ユーザー数の内、半数が北米からになった。」(新氏)デイリー・アクティブ・ユーザーも北米からのプレイヤーが増えているとのこと。
これについて、新氏は「剣戟アクションといえば『SoG』というブランドが定着したからでは」と分析する。というのも、ソード・アクションを売りとしたVRコンテンツがいまだに少ないのだ。「4人で協力プレイができて、剣戟としての醍醐味を丁寧に作りこんでいる作品は他にはありません」と新氏は自信を見せる。ユーザー維持のための努力も怠っていない。リリース後、毎週、何らかのアップデートを続けてきたのだ。具体的には、新しい武器の追加や、プレイヤー全員で参加できるようなイベント機能を追加したりするなどだ。今後も、剣を背中のホルダーにしまい込める仕様の追加を予定するなど、ユーザーから出ている意見の実装を続けている。もちろんゲームバランスについても調整に調整を重ねている。さらにこういった変更についてはDiscordやRedditなどをつぶさに告知している。
その結果、本作は、開発当初からグローバル市場を意識してゲーム開発が行われてきたのにもかかわらず、ゲームデザインについては「すごく日本的だ」という印象を持たれているとのこと。その理由を突き詰めていくと「パラメーターにこだわって調整を重ねている点」、「敵を何回か倒していくと武器がアンロックされる」といった仕組み、「細部にわたるブロックと攻撃のバランス」といった部分に外国のユーザーは日本的なものを感じているのだと言う。一般的な欧米のゲームにおいては、ステージ全体をクリアすることで、武器がアンロックされるというようにざっくりとした仕様となっているのだ。
同時にこのような細かなパラメーター設定に触発されるプレイヤーも多いようだ。作り手の予想を超えて研究を重ねるプレイヤーがあらわれたのも、予想を超えていたと新氏は言う。どのパラメーターで、どのくらいの威力で切り込むと敵を倒せるかをつぶさに調べ上げるプレイヤーもあらわれているとのこと。とりわけ、「トッププレイヤーは本当にうまい」と新氏は絶賛。日本のトッププレイヤーにスタジオに来てプレイしてもらった上で話を聞くと、「剣の返し」ひとつをとっても少しでもうまくいかないとスコアが下がるのを恐れてゲームプレイを中断していたと新氏はトップランカーのプレイスタイルを明かした。また、トップスコアを目指して、7時間も連続でプレイしている人もいるという。つまり、それぞれのステージで身体の動きを最適化させた上で敵への対応を落とし込んでいたというのだ。
これらに加え、予想外だったのがトップランカーの外観。筋骨隆々の人が多く、普段から体を鍛えているか肉体を駆使した職務についているひとたちがトップランカーになる傾向にあるという。つまりリアルスポーツに近いのだ。これも実際に体を使って格闘する本作ならではの現象と言えるだろう。
『ソード・オブ・ガルガンチュア』が『レディ・プレイヤー1』に登場する「オアシス」ライクな仮想現実(VR)世界における最古参の一角になる日を見据えて
このように剣戟アクションとして既に人気が定着している『SoG』だが、今回、新たなフェーズに突入したことが明らかとなっている。開発当初から構想していた、MMOへと徐々に発展させていくというのだ。作品リリースにおいては剣戟の基礎を固め、そこからマルチプレイヤーまで到達した。その後、TGS 2019時までにロビー機能を実装している。喫緊の予定としてはスキン(ヘルメットや防具)の変更も可能にすると同時に、ローグライク(ダンジョン系)なモードであるアドベンチャーモードの実装も控えている。
加えて、ブロックチェーンへの対応も決定した。double jump.tokyo社と連携し、よむネコが提供するブロックチェーンゲーム開発支援プログラム「MCH+」のNFT発行・管理機能を『SoG』でも活用するのだ。具体的には『SoG』におけるクエストイベントなどにおいて獲得したアイテムをトークン化し、ゲーム外でも別のユーザーと取引ができるようにするという仕組みの実装だ。つまり、剣戟アクションである『SoG』は将来拡大していく巨大なMMOの中の最古参の一角となることを夢見ているのだ。これらを踏まえつつ、次回は2019年新たに発表されたPvPに特化した剣戟格闘ゲーム『デュアル・オブ・ガルガンチュア』の開発秘話を筆者によるプレイインプレッションと併せてお届けする。