中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】『デュエル・オブ・ガルガンチュア』は次世代VRスポーツの基礎技術を確立するのか?
2019-10-08 13:00:00
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▲新清士氏(左)高野政徳ディレクター(右) |
先日、フェイスブックがOculus Connect 6においてVR SNS「Facebook Horizon」を発表。マーク・ザッカーバーグが、同サービスはこれまで「FacebookやInstagramで展開してきたソーシャルツールも統合し、従来のSNSにおいても実現してきたクリエイティブな経験を、VRの空間内でも実現できる」と表明し、広大でかつグローバルな仮想空間の実現にさらに一歩近づいたという印象を与えた。
この構想は、まさに前回の記事において、よむネコの新清士氏が言及した「オアシス構想」に近しいものであるが、Facebookの発表では、非常にマクロ的な案が示されているのに対し、よむネコの戦略はVR剣戟アクションである『ソード・オブ・ガルガンチュア』(以下、『SoG』)プロジェクトの開発を中心に据えつつ、マルチプレイヤーとして行うゲームにおけるソーシャル空間の在り方(ロビーシステム)やVR空間ならではの課金システム(ブロックチェーン)の実装といった、より広大な仮想空間を実現するにあたって必要となる個別案件に対し、具体的な解決案を提供していこうという姿勢が見られ、そのアプローチの違いが興味深い。前述のような施策に加え、同社が現在取り組んでいるのがVRで実現するマルチプレイヤーによるリアルな格闘体験の実現だ。その最新成果として示されていたのが、『デュエル・オブ・ガルガンチュア』(以下、『DoG』)なのだ。ここでは、筆者のプレイインプレッションをお届けしつつ同作のディレクターであるよむネコCTOの高野政徳氏へのインタビュー内容を紹介したい。
プレイヤーがより正確に剣を操れば操るほど感じられるアバターとの一体感
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『DoG』におけるゲームステージは『SoG』とほぼ変わらない、ストイックな中世ファンタジーの世界観だ。プレイヤーアバターも『SoG』と同様に同時代の重々しい甲冑を身にまとい、ロングソードを手にしている。ただ、盾が『SoG』と比較するとずいぶん小さい。その分、キャラクターアバターが体の動きに素早く反応するような感覚を得た。どうやら筆者の対戦相手も準備ができたようだ。向かい合って、一般的な3Dゲームの剣戟対戦アクションよろしく戦いを開始する。驚かされるのは、人対人のネットワークプレイなのにも関わらず、もっさり感がなく、むしろ、相手と刃を交わすときの感覚が実にリアルだという点だろう。盾で剣を受けたとき、剣で相手の足や胴体を斬り付けると、その武具にぶち当たり、鈍い音とともに剣がはじかれたことによる衝撃が腕にも伝わってくる。相手の俊敏な動きも逐一確認することができたが、その動きは、従来、筆者が相手にしていた、A.I.でコントロールされたアバターとのそれとは明らかに違う……。プレイを一通り終えたところで「身体を使って技を熟練させる必要があるデジタルゲームの時代がまさに始まるな」という実感を受けた。
2019年初頭から始まった開発
開発がはじまったのは2019年の初頭から。つまり、『SoG』の開発が佳境にある中からはじまったことになる。よむネコの開発スタッフは30名ほどだが、企画とプログラマーチームの数名がそのときから『DoG』プロジェクトを進めていった。グラフィックデザインチームは『SoG』のスタッフが兼務しており、多くのグラフィック素材も『SoG』から共有している。そのような視点で『DoG』はかなり効率化した開発スタイルが採られた。
エンジンについても『SoG』と同様にUnreal Engine 4(以下、UE4)を採用している。だがVRでの対戦格闘ゲームを実現する上で大幅にカスタマイズせざるを得なかったという。
描画まわりはUE4の機能が使われているが、内部の物理エンジンはUE4のものではなく「Bullet」という独自の物理エンジンをC++でカスタマイズしているという。つまり、プレイヤーの動きを同期させるシステムが完全によむネコ独自のシステムなのだ。これについて「ゲームのロジック部分については絶対同期が外れないようなゲームシステムを実現した」と高野氏はその理由を述べた。
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実際、前述でしめした『DoG』のプレイフィールも、剣の扱いに慣れてからの感想だ。つまり、剣の扱いに慣れてくれば慣れてくるほど、画面内に投影されている剣や腕などとの一体感を得られる。逆に、ガチャプレイをしているうちは、何となく体がふわふわしたような感覚に襲われるのだ。これについては「剣で攻撃や防御をする際も、守るときはちゃんと腕でとめて、相手の剣を受け止めないと自分を守れません。適当な動きをすると、アバターとプレイヤーがシンクロしなくなってしまうのです」と高野氏は解説する。「ですので、シンクロしなくなってくると、ハプティックスでそれが伝わるように工夫しました」(同氏)。
これにより、「剣戟にすぐれたプレイヤーはクールな動きを実感するだけでなく、それを見ているひとも、楽しむことができる」と高野氏は自信を見せる。盾が『SoG』と比較して小さく設定されているのも競技としての面白さと、パフォーマンスとしてクールさを実現するため。大きい盾だと、どのような攻撃でも防御できてしまうため、対戦としても醍醐味が味わいにくくなるのだという。なお対戦は、インターネット回線を通してサーバー経由で行われている。この通信システムも『DoG』が活用しているのはUE4にあらかじめ統合されているものではなくよむネコで独自に開発したものであるという。
身体的な活動や熟練が要するゲーム性の実現で「スポーツ」への境界性に限りなく近づく
これらを踏まえると『DoG』は、まさに「VR」技術をフル活用した「スポーツ」というのにふさわしい、本格的なデジタル競技の実現を目指して開発が進められていると言える。
今後はアリーナの形状などで広い場所や狭い場所などいくつか準備をするものの、基本は対戦用のアリーナを中心としたバトルステージになる予定だという。
さらに将来的には複数のプレイヤーによるバトルも想定してはいるが、現段階は2人による対戦を重視して開発を進めている。 また、使用可能な武器なども『SoG』とグラフィックなどを共有しつつ増やしていく予定だという。今回は、あくまでも技術デモという位置づけであり、これが『DoG』のDLコンテンツとなるのか、単独サービスとなるかも決定している段階ではないが、今後の開発動向や、本作品と「オアシス構想」との連結も気になるところだ。