中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】「TAT」始動から半年――本格的NFTゲームへの進化目指すアートコレクションプロジェクト続報
2023-06-08 13:00:00
長年モバイルゲームに経営陣として携わり、その後、ファッションとメタバースをつなぐNFTプロダクトを手がけるクリアーション株式会社(Kreation Inc. 以下、クリアーション)を設立し CEOに就任した小川智也氏が、ゲームクリエイターであるイシイジロウ氏とタッグを組んで2022年9月に立ち上げたNFTプロジェクト「Twelve Anonymous Tournaments」(以下、TAT)。当ブログでも、プロジェクト立ち上げ直後の、まさにサービスがローンチする前夜の模様を伝えたが(2022年9月30日 ブログ記事)、それから半年以上が経過した。前回、初期段階においては“ゲーム的雰囲気、世界観を持つ格闘ファイターキャラクターのNFTアートコレクション”としてソフトローンチする旨を紹介したが、それから8ヵ月が経過し、状況が動き出しつつある。「TAT」の始動は、かつて沸騰したNFTバブルが2021年に崩壊して各アートコレクションの価値が軒並み急落し、NFTアートがまさに冬の時代を迎えていた厳しい環境下での挑戦だったが、その後の展開はどうなっているのか、前回に引き続き小川氏に聞いた。
▲小川氏のアイコン(左)と「TAT」キービジュアル(右) |
ソフトローンチとイテレーションで段階的に前進するプロジェクト
「TAT」トレイラー
以前のブログでは、「TAT」のローンチのために用意された5555ものアートコレクションのうち、まず5000コレクションをフリーで自社ウェブサイトから配布することからサービスが始まると伝えた。その後、2022年10月に、その5000コレクションのミント(MINT=デジタル鋳造。データをブロックチェーン上に書き込むことでNFT化し、代替不能な唯一無二のデジタルコンテンツとしてNFTマーケットプレイスで流通・売買できる状態にすること)が一気に行われ、ついにサービスがローンチ。約1800人のホルダーがアートコレクションを保有することになった。「TAT」の公式Twitterでは、フォロアーが一時期5万人を突破するほどの話題となる。その後は2万7000人に落ち着いたものの、実際のコレクションホルダーが1800人程度という中でのこのフォロアー数は、後述する小川氏らによる段階的なプロジェクト展開への注目度が持続していることの証明と言えるだろう。
小川氏が、当初より「TAT」を単なるNFTアートコレクションと捉えず、コレクションで描かれたキャラクター(格闘ファイター)をアバターとして活用したNFTゲームへと展開させる画(え)を描いていたことは、前回のブログでも伝えていた。アートコレクション配布は、まさにソフトローンチと言えるものだったが、次なる新たな施策がそのローンチ直後からスタートしていた。それがDiscord内で展開するテキストベースのゲームである(以下、Discord版TAT)。ゲームルールはジャンケンのような三すくみ型のシンプルなバトルゲームで、小川氏自身とエンジニア2人が3週間という超短期間で開発した。コレクション配布翌月の2022年11月21日から1週間、フリーで配布されたNFTアートコレクション以外の戦利品コレクションを争奪する最初のトーナメントとなるαイベントを行い、2022年12月4日からは2回目のウィークリートーナメントを実施。以後、継続的にトーナメントが開催されている。その内容は、「早く敵を倒す」「与えたダメージが最も大きい」など、いくつかの勝利条件によるルールに基づいたスコアを期間中(1週間)で競い合い勝利者を決定するというものだ。最もプレイヤーが多かったイベントでは、約200人のNFTアートコレクションホルダーによる400個以上のキャラクターが参加していた。このような取り組みもあって、ローンチ時に無料で提供された5000ものアートコレクションの取引総額は500イーサリアム(1イーサリアム25万円換算でおよそ1億2500万円)に達した。これはOpenSeaやX2Y2などのNFTマーケットプレイスで扱われた二次流通金額の総額だ。
既におわかりかと思うが、Discord版TATは、仮想通貨による取引価値の存在するキャラクターを介してプレイするのが特徴的だ。ゲーム世代の社会人が多いからこそ成立する「大人のためのゲーム」であると言えよう。Discord内のゲームではホルダーの10%程度が実際にゲームに参加しているというが、小川氏によれば、これは他のアートコレクション型ゲームと比較しても高い参加率である。ホルダーにはアート愛好家や投資目的の人など、さまざまな属性の人がいるため、ゲームデザインは多様なユーザー層を意識して作成する必要があり、またゲームプレイに興味がないホルダーにとっての価値も考慮することが重要である。
ユーザー層はグローバルであり、ホルダー向けに実施したサーベイによれば、ホルダーの国別構成ではアメリカが約23%と最も多く、次いで日本が16%と続く。地域別に見ると、アジア地域で全ホルダーの40%近くを占めている。
往年ファンにフックするカードコレクション要素を備えた格闘ゲーム風RPG
▲メインキャラクターによる格闘シーンのキービジュアル |
現在、小川氏率いるクリアーションは、次フェーズとして前述のDiscord版TATからさらに一歩進んだF2P(フリー・トゥ・プレイ)のNFTゲームの開発に取り組んでいる。このゲームは格闘ゲーム風のRPGジャンルで、Unityをベースにし、セミオートバトルの戦闘システムとカードコレクション型ゲームのメカニズムを組み合わせたものだ。16ビット時代の格闘ゲームを彷彿させるアートスタイルをモチーフにデザインされており、往年のファンに訴求力がある雰囲気を演出している。基本的にはシングルプレイヤーが敵を倒しステージを進めていくRPGのシステムを採用しているが、スコアアタック型でユーザー同士互いに競い合うイベントも実施予定だという。
新作ゲームは、Discord版TATとは異なり、既存NFTアートコレクションのホルダーに限らずF2Pで誰でもプレイ可能とするが、これにはNFTゲームの敷居を一気に下げる意図があると小川氏。従来のNFTゲームはトークンありきのゲームが多かったが、今回は誰でも遊べるカードコレクション型のゲームを採用することで、カードそのものに付加価値を生み出してNFTゲーム自体の市場を促進する考えだ。
ゲームファンのためのNFTを目指しており、購入感覚はスマホゲームでアイテムを購入するのに近いものになるとのこと。新たなゲームローンチにあわせて、シーズンごとにデッキ構築を前提としたアートコレクションを追加していく。
ただ、アートコレクションが追加されてしまうと、オリジナルNFTの価値はどうなってしまうのだろうかという疑問が生じる。これについては「もちろん、最初期にミントした5555体はGenesisコレクションとして、特別な位置付けになります」と小川氏は即答した。これらのNFTホルダーはVIPユーザー及びプロジェクトの共同運営者という位置付けとし、ゲーム内アイテムをゲットできたり、特別なイベントに参加できるなどの特典が用意される。対して、ゲームローンチ後に提供する新コレクションは技や攻撃時に付加される能力を表現したキャラクターアートになるという。「ゲームとして面白く、かつコレクション要素の高いものにしたい」と小川氏。
▲メインキャラクターの必殺技。往年の格闘ゲームを彷彿させるアクション |
今回のゲーム開発では、引き続き無駄を省いたリーンな体制を維持しつつも前回よりも本格的な体制を整えた。イーサリアムやスマートコントラクト、サーバー関連を担当しているエンジニア1名に加え、モバイルゲーム開発のベテランがゲーム開発ディレクターを務め、Unityのエキスパートがクライアント側の開発を担当している。これに、岩本辰朗氏がデザインしたNFTアートコレクションのキャラクターやイシイジロウ氏と小川氏とで作り上げたプロジェクトの世界観を基に、新たなコレクションアートが制作されている。キャラクターアート以外のアートディレクションもモバイルゲーム業界で長く実績のあるクリエイティブチームがサポートしている。ゲーム開発者はすべて日本人ということで、日本で発展していったモバイルゲームのプレイ感覚をグローバルで遊ばれるNFTゲームへと発展させていきたいのだという。「ゲームとしての形を作り、ソーシャルゲームのようなサイクルで楽しめ、かつコレクションも出来るサービスを提供したい」と小川氏。「目標は?」と聞くと「日本のソーシャルゲームがWeb3でグローバルに通用することを証明したいと思います」とニッコリ笑って答えてくれた。
グローバルに通用する体制を整えるため、コミュニティ運営とマーケティングサポートには、オーストラリア、フィリピン、韓国、アフリカ在住のグローバルチームが組織された。報酬はすべてイーサリアムベースで支払われているというのもこのプロジェクトならではと言える。これはWeb3的であると同時にグローバルスタートアップ的な組織体制でもある。さらにジュニアモデレータというポジションも設けるなど、ボランティアが気軽にコミュニティに参加し、経験を積めるような体制も作り出した。つまり、作品に状況に応じてスケールアップが可能であることを意味している。
「TAT」とその開発元クリアーションは、2022年10月のローンチ時のNFTアートコレクション配布フェーズや11月から開始したDiscord版TATのフェーズで、ゲームクリエーターならではのNFTアートコレクション市場における新たなポジションを固めてきた。これをさらに進化させ、次のフェーズでは、一般的なブロックチェーンゲームの「トークンを集め、換金して稼ぐ」スキームから脱却し、キャラクター育成やソーシャルゲームの面白さと、キャラクターアセットとしてのNFTの価値に焦点を当てた本格的なゲームをモバイルとPCのクロスプラットフォームで開発している。これらに付随して、インターネット上に「TAT」の世界観や主要キャラクターを伝える小説も掲載するなど、メディアミックス的な展開も着実に進んでいる。NFTコレクターやユーザーがこのIP中心のアプローチにどのように反応するか、また「TAT」をきっかけにNFTに触れる新規ユーザーがどう反応するかは未知数だが、新たな化学反応を生むプロジェクトに注目が集まっていることは確かである。