E85M1: 『Scorn』これはただのホラーFPSではない。ギーガー的世界に放り出される特濃体験だ!

文:BRZRK 編集:ミル☆吉村

公開日時:2022-10-14 19:00:00

 ドモー。少しずつ気温が下がってきて、秋になってきたなぁと感じておるBRZRKです。来年こそ夏らしい何かをしたいな……なんて思っていながら全然何も出来ていないね。

 そういや全く関係ないけどセガ・サターンのピックアップユニットがヘタれちゃって読み込まなくなったのがスゲェショック。久しぶりに『ゲイルレーサー』で遊びたかった……。

 今回紹介するタイトルはセルビアのEbbSoftwareによって開発された『SCORN』(Xbox Series X|S/PC、公式サイト)。本作は2014年に発表され、Kickstarterでのクラウドファンディングを経て、その後は紆余曲折ありながら遂に発売を迎えたタイトルだ。

■ギーガー的な異形の世界に放り出される濃厚体験

 本作の特徴のひとつがその世界観だ。これは、唯一無二なイラストを世に送り出し、映画『エイリアン』のデザインなども手掛けた故H・R・ギーガーのバイオメカなモチーフから強い影響を受けている。

 そんなグロテスクながら美しい世界でプレイヤーが操作する人型の生物は目覚め、あてのない歩みを進めていくことになる。

Scorn

 この『Scorn』はパッと見だと普通のFPSに見えるかもしれないが、実際にプレイしてみるとFPSの要素自体は控えめ。基本的には、マップを徘徊しながらギミックを解き明かし、謎の施設(遺跡?)を進んでいくのが主体のファーストパーソンアドベンチャー(FPA)となっている。

 そんなわけで謎解きアドベンチャー要素が色濃い本作だが、難度はどうかというと高め。というのも、プレイヤーキャラの突然意識が覚醒したところから全力で放り出される。

 基本操作を教えてくれるチュートリアルもないし、何が目的かも教えてくれない。最初から文字通り“手探り”でこの世界を進んでいかないといけないのだ。

Scorn

■環境から“手掛かり”を見出す

 ゲーム中はどこに行けばいいか、何が必要かも教えてくれないし、セリフも一切ない。標識や看板といった情報を表すものも存在しない。注意深くマップやオブジェクトを観察することで、“発見や気付き”を得て糧とする作りだ。

 たとえをあげるなら「このレールはどこに繋がっているんだろうか?」とか「このパズル装置全体のデザインを見ると……この意匠に意味がありそうだな……」といった感じ。そこに気付けるかどうかが攻略の大きなポイント。

Scorn

 なお、筆者みたいに世界観に圧倒されていると重要な装置などに気付かないでスルーしてしまい、広大なマップを右往左往して詰まってしまうなんてことも多々アリ。

 それで「ンギギギィ! 進めない!」とかイライラしていると探索が疎かになり状況は悪化してしまうわけで、プレイする場合はリラックスして気が高ぶらないようにするのがポイントだ。

 一方で、怪しいと思った装置やオブジェクトに近づくと、操作可能なものならシルエットが白く表示されるといった配慮はされている。まぁそれでも、薄暗いダークな環境なので見つけるのは若干難しいんだけどね。

Scorn

 探索要素を主軸と前述したが、敵性生物が出てこないわけではない。序盤は本作の行動指針を示すために謎解き要素がメインに押し出されているが、やがてプレイヤーの行動を阻止しようとするかのように奇怪な見た目のクリーチャーが登場する。

 その攻撃手段は、ダメージの高い酸を飛ばしてきたり、中には突進で近接攻撃を加えてくるタイプなんかも。

Scorn

 そんな危険な生物には、道中で手に入るバイオウェポンといった見た目をした銃を用いて迎撃が可能だ。

 この武器には近接・溜め撃ち(精度と集弾性上昇)・散弾といった異なる効果があり、そのどれもが高い威力を誇っていて数発でKO可能。

 だが連射ができなかったり、リロードが長かったり、そもそも弾薬(※蓮コラみたいなグロい見た目の入れ物に格納する)が少ないといった制限があるピーキーな仕様。なので、各武器の“正しい運用法”を見つけるのもプレイヤーに求められる“気付き”の一部、といったところだ。

Scorn
Scorn

 とはいえ、出てきた敵すべてに対して真面目に撃ち合ってるとジリ貧となってしまう。

 なので、敵の行動パターンを観察しながら「こいつは戦わずに無理せずスルーして進もう」といった生存のための戦略も考えながら行動しなければならない。筆者は敵それぞれにどの攻撃が効果的なのかを試したりして多少大立ち回りができるようになったが、それでも複数の相手が出現したときは滅茶苦茶キツかった。

■考察を刺激するだろう意味深な内容

 そんな感じの『Scorn』なんだけど、正直言ってしまうと語れることが多くない。というのも、本作は明確にテーマやストーリーを語らずにアート的に語るタイプの作品となっており、それが何を意味するのかはプレイヤーが考察するしかないのだ。

 ちなみに、本作のレビューを担当した世界中のレビュアーが集まったDiscordチャンネルでは早速「これはこういうテーマが込められているのでは」といった様々な考察が繰り広げられて、最終的に「仕事ほったらかして俺たちはなにをやっているんだ?」となったとか。

Scorn
Scorn

 筆者はそこまで深掘りできなかったが、この施設は巨大な“ただこういうシステム”であり、プレイヤーキャラクターはその一部として生まれ出て、他の力尽きた被検体を乗り越えつつ歩みを進め、システムにとっての部品へと昇華していく過程を追っていく内容だと感じた。まぁもしかしたら消費社会の物悲しさとかそういうのもあるかもしれないけどね。

 恐らくどういった解釈をするかはプレイヤーに委ねられていて、その考察合戦も含めて『Scorn』の遊びといったところだろうか? 筆者個人としては「遊べる芸術作品」という印象で、間違いなく記憶に残る作品だと言える。

 ただ、この世界観とグロいデザインがダメな人にはハードルが非常に高い内容となっている点は注意が必要。もしも大丈夫なら、一度は触ってこの重厚な世界観を是非味わってほしいかな。秋の夜長のお供にどう?
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著者近況: 筋膜リリースを体験してみたいなぁ
編集者近況: TASCHENのギーガー画集を読み返したくなった。

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BRZRK
週刊ファミ通やファミ通Xboxに“スオミ松崎”名義で執筆していたFPS歴15年のフリーライター。現在は他媒体でも使用しているBRZRK(バーサーク)名義に変更し、執筆活動のほかにゲーム大会の実況・解説やインターネット番組に出演したりしなかったり。まぁ、そんな感じでイロイロやってます!

BRZRKの「うるせー洋ゲーこれをやれ」(仮)