中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】【BitSummit取材記】学生初の最高インディーゲーム賞受賞作『Death the Guitar』開発秘話
2023-07-28 19:30:00
京都から世界へ日本のインディーゲームを発信することを目的に毎年開催されている「BitSummit」。前年も同イベントを取材し、その時を代表するインディーゲーム作品を選ぶバーミリオンゲート賞にノミネートされた開発者にインタビューを行ったが(2022年8月17日 ブログ記事)、今回は学生として初めてバーミリオン賞を受賞した開発者に聞いた開発秘話をお届けする(本年の同イベントは「BitSummit Let’s Go」と題し、2023年7月14日~16日に京都・みやこめっせで開催)。
同イベントには、ゲーム業界出身者から、学生、海外からの参戦者まで、様々な背景の開発者たちが出展し、賞にノミネートされているが、今回はその中から、多摩美術大学に在学中の学生によるトロヤマイバッテリーズフライドが開発した『Death the Guitar』がバーミリオンゲート賞を獲得した。これまでも学生作品が賞の候補となったことはあったが、今回初の最高賞受賞となった。
正式出展91作品の頂点は楽器モチーフの2Dアクション
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▲学生ながらバーミリオンゲート賞受賞のトロヤマイバッテリーズフライド氏 |
『Death the Guitar』は、多摩美術大学(以下、多摩美大)情報デザイン学科メディア芸術コースの大学2年生であるトロヤマイバッテリーズフライド氏(「BitSummit Let’s Go」においてはバッテリーズフライド名義で出展。以下、トロヤマイ氏)によるアクションゲーム。エレキギターをモチーフとした新機軸の横スクロール2Dアクションタイトルだ。
トロイヤマイ氏は、同大学に入学してから、エントリー向けのゲームエンジンGame Makerを使って1作目のゲーム開発に着手。多忙を極めてしまった人類がゾンビに変わってしまった世界に、1人のサラリーマンが立ち向かっていくというものだった。半年ほどで7ステージのゲームを開発し、インディーゲームの配信プラットフォームitch.ioにリリースしたところ、多くの人たちから感想を得ることができ、評価を得た。これを受けて、本格的にゲーム開発をやってみようと一念発起。2022年の「デジゲー博」出展を目指して開発を始めたのが『Death the Guitar』であったという。
エレキギターが持つ「音と電気の要素」をゲームデザインに結びつける発想力
発想の起点は、デジゲー博応募時に単に「アクション」と書いてしまったというだけのシンプルなもの。だが、その後の発想の広がりがトロヤマイ氏ならではものであった。まず、2Dアクションに落とし込んだときに面白そうなモチーフを考えた。そこで行き着いたのが「エレキギター」だった。音の要素のみならずエフェクターにつなげることで音色を変化させられたり、電気的要素を加えたりできる。この音と電気の要素がつまっているのが面白いと考え、それをアクションに落とし込めれば面白くなるのではというところから発展させていったという。
世界観やクリエイティブにも開発者のこだわり
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▲メインキャラクターのエレキギターが人間への復讐を果たす |
ただ、一般的なアクションゲームであれば、電気や音をモチーフとした独自のキャラクターを生み出せばいいところ、敢えて「エレキギター」そのものをプレイヤーキャラクターとした理由について聞いてみると、「もともと人じゃないキャラクターが好きで、創作をするときも、人間がいるところに全然人間じゃない生き物が当たり前のようにいるという不条理っぽい世界観が好きだった」とトロヤマイ氏。結果的にステージ設定を世紀末の「当たり前であることが当たり前に存在しない」状況で設立されている音響生命科学研究所とした。またプレイキャラクターとなる「エレキギター」は、研究員たちによって幽閉され、キャラクターの持つ音色と波長が研究対象となっているという背景が設定され、「その研究所から脱出する」というゲーム目標が生み出されていった。
脱出する過程では、脱出への道筋をたどりながら研究員をエフェクターで生み出される音波や電気で倒していくこととなるが、その一見かわいい風貌とは裏腹に、倒された研究員の様はまるでスプラッター映画のようだ。だがこのクリエイティブについてもトロヤマイ氏の明確な意図があった。「ロックの破壊的イメージと反体制っぽい感じを持ちつつも、ポップなものが好きなので、自分の好きな“可愛さ”とギターの持つ“暴力性”をあわせて絶妙なバランスを追求しました」(トロヤマイ氏)。
学業を効率的に両立させ、Steamでの2024年冬リリースに向け開発三昧の日々
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▲BitSummit最高賞受賞作のタイトルバック |
開発進捗は15%。Steamでの2024年冬のリリースを目指し、今ある研究所ステージに他の建物などを加え世界を広げていく予定だ。Steam Storeページも立ち上げたばかりとのこと。
気になるのは学業とゲーム制作の両立だが、これについて尋ねると、現在は「結構1日ずっとやっていますね(笑)」(トロヤマイ氏)という状態。トロヤマイ氏が所属する多摩美大メディア芸術コースのカリキュラムは「エンターテイメントからアートまでを基礎から学び、メディア・アーティストや映像作家などの人材を輩出する」目的があるが、学業ではゲーム開発を生み出したものをうまく課題制作へと変換することで対応しているとのことだ。
参考URL
BitSummit: https://bitsummit.org/en/2023/
https://bitsummit.org/11th/