中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】BitSummit X-Roads(クロスロード)出展者インタビュー(前編)

2022-08-17 17:00:00

200強ものエントリーの中、約20カ国から89タイトルが正式参加タイトルとして選ばれたBitSummit X-Roads(クロスロード)



 2020年は完全オンライン、2021年はメディアと業界関係者のみリアル参加のハイブリッドで実施されたBitSummit。今年は日曜日を一般デーとしてようやくリアルイベント主体のハイブリッドとして完全復活した。10回目を数える同イベントのテーマは「X-Roads(クロスロード)」。200強ものエントリーの中、約20カ国から89タイトルが正式参加タイトルとして選ばれた。期間中はそのような中から筆者がこれぞと思った作品に対し開発者インタビューを敢行。これから2回にわたりその模様をお届けしよう。

『ギボン: ジャングルを超えて』を開発したBroken Rules のプログラマー兼デザイナー Vivien Schreiber氏が語るグローバルインディーチームの底力

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▲Broken Rules のプログラマー兼デザイナー Vivien Schreiber氏



 インターナショナル賞を受賞した『ギボン: ジャングルを超えて』は、オーストリアのBroken Rulesが開発した。開発時の人員が平均して15人程度。プロジェクトとして2019年ごろからスタートしたが今回インタビューに応じてくれたプログラマー兼デザイナーのViven Schreiber氏はプロトタイプ開発が進んだ一年後にジョインした。2007年に創業し、数々のゲームをリリースしてきたBroken Rulesによる喫緊の作品、『Old Man's Journey』がNHK Japan Prize、Google Play Standout Indies WinnerならびにTaipei Game Show 大賞など数々の賞を受けてきたが、BitSummitは今回が初参戦。このような中、同社のCEOであるFELIX BOHATSCH氏が家族と動物園にいった際、テナガザルに出くわし、そのあまりの可愛さからゲームとして活用できないか検討するようにチームに伝えたのが企画の発端となった。とりわけ長い手で、木々をつたってダイナミックに動く姿に着目したという。

 企画グループがリサーチを進める中で絶滅危惧種であるテナガザルが直面する課題を理解するのにそこまで有しなかったという。だが、自分達の限られた知識でゲームを開発してしまうことを懸念し、実際にテナガザル保護に尽力するタイのThe Gibbon Rehabilitation Project、マレーシアのGibbon Conservation Societyや、Bruno Manser Fonds、Reinforest Rescueなどからレクチャーを受けた。その中でテナガザルが直面する現実に愕然としたという。森林破壊などで絶滅の危機に瀕していたテナガザルも、これらの団体による活躍である程度、状況は改善していた。だが、再び悪化させたのがSNSの世界的流行に伴う密猟の急増だ。「写真映え」を求めた旅行者により、特定のテナガザルとの記念撮影を求める声の増加に目をつけた違法業者により再び乱獲が進んだのだという。このような厳しい現実を聞いたゲームデザイナーはこの動物が直面している「今、ここにある危機」もメッセージとして伝える必要があると感じ、開発の最中でありながら、ストーリーの中核的部分をかなり変えたとVivien氏は語った。

企画を進める中でテナガザルの直面している課題が根深いことを認識し、それをそのままゲームデザインに取り込むことに

 その一方で、調整に一番時間を費やしたのがゲームバランスだったとVivien氏。ゲームメカニクスは横スクロール型の密林で、スイングと歩く(走る)というふたつのアクションを駆使して移動することでステージが進行するというシンプルなもので、プレイ時間のほとんどはこのふたつのボタンを使用することに費やされる。だが、スイングボタンを押し続けたり、ボタンから手を離す瞬間によって、木々やつたにぶら下がっている時間や移動時の距離や高低、スピードなども微妙に変化する。それぞれのタイミングがバラバラでも移動はできる。だが完全なタイミングでシンクロする時の爽快感が素晴らしく、それを実現するために何度もトライしたくなるようなゲームデザインなのだ。つまり「シンプルだけれど奥深い」を見事に体現したゲームとなっている。

 「ゲームデザイナーと3Dプログラマーなどみんなで集まってゲームをリリースする直前まで調整した」とViven氏は言う。また、物理的な挙動が要であることから、この部分については、物理プログラムの専門家Eddy Boxerman氏をわざわざカナダから招き入れた。「ステージ上の樹木、林冠、枝、つるなどをわたり歩くモーションはプロシーシャルで行われている。テナガザルによる流れるような動きはこのようにして実現したのです」とViven氏。

 これだけではない。「アートディレクターはロンドン在住で『Tangle Tower』や『Snipperclips: Cut it out together』で知られるCatherine Unger氏が、ストーリー展開やアニメーションのディレクションはポルトガル在住のSimon Griesserが、音楽はアメリカシアトル在住のANDREW 'SCNTFC' ROHRMANN氏が担当しているのです」とViven氏は誇らしげに語った。「世界中からどうやって才能を集めたのか?」との質問に対し、「これまでも世界各地で作品を出展したり講演してきたりしているのでCEOのネットワークがすごいのです!」と目を緩ませた。

 前述の通り3年ものプロジェクト期間を平均して15名程度と小規模チームでありながらオーストリア、UK、ポルトガル、カナダ、アメリカから優れた才能が結集して作り上げられた『ギボン: ジャングルを超えて』。インディーシーンがグローバル規模で盛り上がりを見せるからできた作品とも言えるが、Viven氏によれば本作は企画当初からApple Arcadeでの展開が決まっていたこともあり、ライトユーザーを意識し、映画の鑑賞時間と同程度の時間でストーリーモードはクリアできるようにしているという。筆者もストーリーモードをクリアしたが、だれでもすぐにでも遊べ、且つ爽快感すら感じさせるようなエンターテインメント性を有しながら、中盤以降は、ゲームプレイの「意味」がナラティヴの力によって根本的に変化するゲームデザインを目の当たりにして舌を巻いた。これらは、テナガザルの生息地にある保護団体と交流しその実態をゲームデザインに反映している事実を如実に示している。そのような意味では教育者や研究者にはぜひプレイしてもらいたい一作だ。

『Never Awake』を開発したネオトロの 佐渡大志氏は自身のゲームに対する情熱をビジネスに

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▲Never Awake』を開発したネオトロの 佐渡大志氏


 『Never Awake』はゲームシステムの構想に7~8年、2020後半から、エンジニアとデザイナーを務める本人とイラストレーター、ふたりのサウンドデザイナーという4人体制をベースに、3Dモデリングなど都度なんらかの必要がある際には外注するといった形で本格的な開発に着手した。ゲーム内容は「少女が、悪夢の中で自分の嫌いなものをモチーフとしたモンスターと戦い続ける」シューティングゲームということになる。出展は昨年に引き続き2年目。したがって今年度のバーミリオンゲート賞は満を持しての受賞であった。BitSummitのファウンダーで現クリエイティブディレクターのJames Mielke氏をもってして、「こんなゲームは絶対、日本以外では作れない!」と言わしめたこの作品は如何に生まれたのか? 今回は『Never Awake』のエンジニア兼ディレクターである佐渡大志氏に開発秘話を伺った。

 ネオトロを2017年に創業する前は広告業界の技術畑を歩んでいたという佐渡氏。Webプロモーションコンテンツやアプリ開発、その他、テレビとの連動コンテンツなど広告にまつわるあらゆる技術的な部分を担ってきたが、本格的なゲームを作りたいという想いを叶えるために2017年に独立を果たした。

 シューティングゲームとしては、『Never Awake』の前に「VRITRA」シリーズをリリース。ゲームアプリとして開発された同作のPC版を「VRITRA COMPLETE EDITION」として2018年8月にSteam上で展開したが、アーケードゲームキット、exA-Arcaiaを国内外のゲームセンターへ納品しているShow Me Holdingsよりアーケードゲーム化の打診を受け、『VRITRA HEXA for exA-Arcadia』として2020年11月から国内各地のゲームセンターで稼働が開始した。「VRITRA」シリーズはシューティングゲームファンをかなり意識した作りになっており、名作ゲームのオマージュもいくつか実装されている。また、アーケードへ移植するにあたり、1プレイ100円で初心者からシューティングゲームファンまでが満足してもらえるような修正を大胆に施したという。これについては、佐渡氏自身が執筆したnoteに掲載されている。

「少女の悪夢」を物語の舞台とすることでカジュアル層でも楽しめるシューティングゲームを目指す

 「VRITRA」シリーズと、『Never Awake』のそれではコンセプトから根本的に違っており、その点も興味深い。『Never Awake』はもともとPCに加え、コンシューマゲーム機向けを念頭に開発を進めたことから「2022年のコンシューマ機でリリースする上で最適な形」を考えつつ開発を進めたと言う。まず、ターゲットをカジュアル層に据えた。現在、シューティングゲームは難しいという意識が浸透しているが、本作はシューティングゲームが苦手な人にもプレイしてもらうことを想定している。スキルを学んだり、習得したりするのに時間がかかってしまうことがゲームプレイの障害になっていることを踏まえ、1ステージあたりのプレイ時間を短く且つループを繰り返す仕組みにすれば短時間で提示されたスキルをマスターし、ステージを進めることが出来ると思ったのだ。ただ、一般的なストーリー展開で同じステージを何度もループする設定では違和感が生じてしまう。そこで思いついたのが「夢の世界」とすることだ。「夢」であれば、何度も同じステージをループするのも不思議ではない。またカジュアル層をとらえたいという思いから「目が覚めない少女」を主人公にすえ、夢の中で自分が嫌いなものと戦い続けると言う設定まで決定した。このコンセプトをベースに佐渡氏とキャラクターデザイナーとでワサビ、ブロッコリー、ナスといった幼少期に苦手と感じる野菜が襲ってくるステージを皮切りに、病院、学校などをテーマにさまざまな敵キャラクターをデザインしていった。

 同時にプレイヤーキャラクターをアシストするアイテムを「アクセサリー」とし、リング、カチューシャ、シュシュなどを装着することでパワーアップできる設定にした。あるボスの登場ステージでテストプレイを行った際、国内トップクラスのシューティングゲームプレイヤーがボスを倒すまで何十回ものリプレイが生じたのに対し、初心者は数回でクリアしていたのを観察した。これについて、コアゲーマーは自分の腕に頼る、脳筋進行となる傾向にあるのに対し、初心者はアクセサリーでパワーアップすることになんの違和感も覚えなかったからだと結論づけた。つまり、幅広い層のプレイヤーが自身のプレイヤースキルにあわせてゲームプレイのチャレンジ具合を自ら調整していたことをこれは意味する。このように、あたり判定など全ての要素について改めて考え直したと佐渡氏。初心者に対するテストプレイとステージクリア率を検証し開発サイクルのイテレーションを進め、ステージクリア率を改善していった。この結果、シューティングゲームをこれまで未経験だったプロジェクトメンバーのイラストレーターもステージクリアが出来たという。またグラフィックテイストも佐渡氏個人的な好みから、萌え要素を排除し、新しいものに対して敏感なアーリーアダプター層が好みと感じられるようなアートスタイルをゲーム及びキービジュアルで貫いた。この他、ゲーム内オブジェクトには3Dポリゴンで表現されているものと2Dで表現されているものが混在しているが、これは中核となる物語展開と関わってくる意図的なデザイン配置であると佐渡氏は微笑みを浮かべつつ解説した。『Never Awake 』はPS4、PS5、Switch、PCでのリリースが決定している。Xbox シリーズは未定だが佐渡氏個人としてはSeries Xをハードとして高く評価しているので、ぜひXboxでもリリースしたいと展望を語った。展示会場のデモでは、少女の境遇もある程度は明らかとなっていたが、物語の行方まではつかむことが出来なかった。80ステージの先にどのようなストーリーテリングがあるか今後も注目していくべき一作だろう。