中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】「TAT」始動から半年――本格的NFTゲームへの進化目指すアートコレクションプロジェクト続報
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【ブログ】緊急特集!ゲーム業界出身者が集結し、格闘ゲーム型NFTアートコレクションに挑戦
2022-09-30 12:00:00
近年、大規模に展開されていたNFTアートコレクション。とりわけ昨年はバブル的状況にまで拡大し、現在は投機筋が一巡した状態となっている。その中で筆者のTwitterストリームに一見格闘ゲームの新作かと思わせるティザー動画が流れてきた。驚いてクリックしてみると、なんとそれはNFTアートコレクション始動の報。さらによくみると、シナリオライター、ディレクターそして世界観監修などで、長年ゲーム業界でキャリアを進め、且つトランスメディアストーリーテリングの研究も進めているイシイジロウ氏も携わっているとのこと。一流のゲームクリエイターたちによるNFTアートコレクションプロジェクトの参入に驚きを感じつつ早速取材を申し込んだ。その結果、本作のトランスメディアプロデューサーを努めるイシイジロウ氏と「Twelve Anonymous Tournaments (以下、TAT)」プロジェクト全体を統括するKREATION VERSE Inc. CEOの小川 智也氏からお話を伺うことが出来た。そこで、本稿では緊急特集として「TAT」プロジェクトについてお届けする。なお、Twitterのフォロワーも9月21日にローンチして10日弱にして既に4.5万人程になっている。
YouTubeチャンネルも既に存在している
まず、ティザー動画をみると格闘ゲームの新規IPのような印象を受ける「TAT」だが、少なくとも現段階ではゲーム的雰囲気のあるNFTアートコレクションプロジェクトであるという表現が正しいだろう。具体的な近しい例としては「Bored Ape Yacht Club」や「AZUKI」などがあげられる。ただ、世界観設定の段階でイシイ氏が携わっていることもあり、その内容は本格的だ。ここではその概略を以下にお伝えする。
「TAT―Twelve Anonymous Tournaments」は世界最大のSNSサービスを展開しているCEOにより開催されるルール無し、武器無し、というグローバル規模の総合格闘トーナメントだ。世界中の視聴者が固唾を飲んで見守る中、戦利品が与えられるのは勝者のみという過酷なもの。
異種格闘技戦の中で、9人がそれぞれの思惑を持って試合に臨む。そのうちの1人はヒロ。彼は、父親が「謎の柔術大会」で殺された後、母親と一緒に日本へ帰ることを余儀なくされる。その後、日々鍛錬を積みつつ父が殺された大会に出場して復讐を果たすことを誓っていた。だが、この「謎の柔術大会」こそが、「TAT」だったのだ。
ヒロはこの戦いに勝つことが出来るのか?
4500ファイターは無料で配布。555ものレアやウルトラレアなファイターはリザーブし、コミュニティに貢献した人たちに還元―ゲームアプリ運営で学んだユーザー還元の法則を活かす
▲イシイ氏(左)、右が小川氏(右) |
まさに、典型的な格闘ゲームのようなフレーバーテキストだが、まずはこのプロジェクトは実際にゲームなのかについて伺った。
「正確にはNFTアートコレクションです。今の段階は。」とあくまでも「現段階は」という点を強調しつつもゲームではないことを説明した小川氏。だが、ゲーム的要素を多分に含んだNFTアートコレクションになるのだという。
「今までのコレクションは、一度コレクションを全開放すると、どれをもらえるかは完全にランダムという、登録者全員が一斉にガチャを引くという感じでした。なので、コレクションを売り出した瞬間が、コミュニティにおける盛り上がりのピークになりがちだったんです。」と小川氏。
これに対し、「TAT」は全体で準備した5555ファイターのうち、初回で無償提供するコレクション4500ファイターについてはランダム性を維持しつつも、コミュニティへのエンゲージメントの高い人がレアリティの高いNFTを得ることが出来るチャンスを増やしていきたいと説明する。
「リワードをもらえる構造とセットでコミュニティ運営を考えていきます。これは、アートや世界観、グラフィックというコンテンツ要素に加えて、本作におけるゲームメカニクスとしてそういった思想があるんです・」(同氏)。
これを仕組みとして実現する方法として存在しているのがローンチ後のプライズとしてリザーブされている555ものファイターである。これらはNFTのローンチ後に解放されるDiscordサーバー上で展開されるミニゲームに参加し、勝利したNFTホルダー個人に配られる予定だ。このようなリワードにもランダム性は存在するが、このミニゲームを通じてしか入手できないキャラクターを得られるという点が特徴的。
「こういった仕組みをあらかじめ準備しているNFTコレクションは自分の知る限り現在ない。」と小川氏。
これについては小川氏がAkatsukiの取締役CFOとして得たモバイルゲーム業界での経験が活かされている。フリーミアムモデルを採用している点も同様だ。これはNFTアートコレクションや仮想通貨自体が2021年にバブル化してその後、一巡したということもあるが、レアなコレクションの獲得要因がコミュニティ内のエンゲージで決定するという仕組みに関心を持った層が、無料配布されたファイターの二次流通の際で改めてファイターを獲得し、イベントに参加してもらうことを可能にしたかったからだ。つまり後から参加した人たちにもチャンスを与えたいという発想からこの仕組みが導入されている。当然、最初から有料でリリースしていないため、短期的な自社への売り上げ自体は少なくなる。
これに関し、小川氏は「たとえ、最初の売り上げが少なくともコミュニティが盛り上がり、結果として長期的に収益が上がってくれれば嬉しい。」とにっこり。
「逆転裁判」シリーズ、「アニメ モンスターストライク」「D×2真・女神転生リベレーション」を担当してきた岩元辰郎氏がキャラクターデザインや世界観をビジュアライズ
▲まずはアートコレクションから。だがその人気度にあわせたプロダクトロードマップも既に考えているという。 |
まさにゲームの世界観と一体化したコミュニティづくりを構想しているのだ。こういった世界観を確かなものにするのに必須なのがアートディレクターの存在だが、そこを担うのが岩元辰郎氏。もともと「逆転裁判」シリーズ、「アニメ モンスターストライク」「D×2真・女神転生リベレーション」などゲーム関連のキャラクターデザインに長年携わってきた同氏を本プロジェクトに招き入れたのはイシイ氏だ。
「以前、お仕事をご一緒させていただいたとき、お仕事ができるということ、何よりもゲームの現場をよく知っている方という印象を受けていました。また小川氏からこの話をいただいた2022年2月の段階で、ローンチを9月末ごろに想定した際、確かなクオリティとスピード感を持ってアートワークを提供できるのは岩元さんしかいないと確信していたんです。」とのこと。
実際、ローンチまでに必要となる5555体のためのグラフィック素材を全て完成している。ジェネレーティブアートとし生成するにしても5000体以上の独自デザインを生み出すためのバリエーションをアセットとして生み出すのは容易なことではない。
さらに1体、1体のファイターデザインにもこだわりを持って取り組んでいる。よく見られる「横向き」や「正面」ではなく格闘ゲームのキャラクターとしてふさわしいアングルから描き起こすような方向性も岩本氏からのアイディアだ。
キャラクターや各パーツについても一度、リアルな筆を使って紙上に描いたものをスキャンしてデジタル化しているというのだ。
これについては「筆のかすれなどの微妙な表現はデジタル筆を使うと不自然に見えてしまうんです。なので、非効率的な方法ではあったのですが、この不合理性を乗り越えれば絶対に唯一無二のコレクションになると思い意思決定しました。」と小川氏が語った。
このようなモノづくりにおけるこだわりポイントを堅持するかどうかについてはまず小川氏とイシイ氏とでしっかりと決めてから臨んだという。実際に岩元氏による豪快な筆跡についてはPVやキービジュアルにもしっかりと反映されている。
ただ、一般的な格闘ゲームを期待するのは時期尚早だ。
「そもそも、NFTアートコレクション界隈のコミュニティからするとシンプルなゲーム的要素が導入されるだけでも新しい。これがどこまでNFTの世界で受け入れられるのかを検証することから始めたい。」と小川氏。
このような意味から、このプロジェクトは初めからゲームで収益を稼ぐことをベースに生まれてきた、NFTゲームとは違う。ただこれに関しても小川氏はこう付け加えた。
「本当にゲームスタジオとしてスタートアップするには最初から何億円と準備しなければいけない。しかしこれはスタートアップとして我々がとるアプローチではないと思うのです。なので、IPとコミュニティを育てることに重きを置くことで、本格的なゲームを作ることも将来的なロードマップに入れつつ、ゲーム要素を取り入れたNFTアートコレクションから始めるというアプローチにしました。これでコレクションホルダーが初期段階からきっちりと楽しむことができます。」(小川氏)
「そのために僕や岩元さんが参加しているんです。」とイシイ氏。
「基本的にプロジェクトとしてのロードマップを考えて作っているNFTは存在しないと感じています。これに対し、私たちは、アニメーション、漫画、コンソール機向けゲーム、動画配信サービス向け実写ドラマといったストーリーベースを既に考えています。IPとして立ち上がったら、それができる準備はもう出来ている。」(イシイ氏)。
多くのプロジェクトが、数百億円を集めていても、現段階でホルダーに還元しているものの多くがデジタルアートによるキャピタルゲインである中、そこから獲得した資金に基づき、TMS展開をロードマップとして準備しているTATプロジェクト。コアチームがゲーム業界の経営、ゲームデザイン、キャラクターデザイナーとして経験豊富であること、そしてトランスメディアプロデューサーとしてこれらを長年実践しつつ研究も重ねたイシイ氏も参画していることから説得力も十分にある。イシイ氏は兼ねてから尊敬する人にマーベルシネマティックユニーバスを立ち上げたケヴィン・ファイギ氏を上げていたが、もしかしたら、小川氏、イシイ氏、そして岩元氏の3人がステージに立ち、TATプロジェクトのTMSロードマップを発表する時が来るかもしれない。