中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】『El Shaddai - エルシャダイ』Steam版発売、そのオリジンについて(その3)

2021-09-01 14:00:00

発売直前!『El Shaddai - エルシャダイ』のSteam版が9月2日にいよいよリリース! その創造主である竹安佐和記氏にオリジンについて聞いた!(その3)

エルシャダイ10周年 スチーム版トレーラー40秒バージョン



竹安佐和記氏(『エルシャダイ』ディレクター)と元イグニション関係者との出会いから、『エルシャダイ』の開発秘話までを伺った本シリーズ。(前回の模様はこちら)第3弾はいよいよ同作のプロモーション展開から関連作品リリースの背景、そして、Steam版での再リリース以降の展望まで伺っていきます!

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▲小説版『エルシャダイ』のイーノック

あのPVで日本を席巻! ネットミームとしての社会現象化を実際のプロモーションにどう活かすか?

Q:いよいよ、東京ゲームショウ2010であのPVがお披露目されたわけですよね! 当時、ニコニコ動画ランキングの全ジャンルで1位をとるなど話題になりましたが、ゲームのプロモーションにはどのように活かしたのでしょうか?

元イグニション関係者:正直、私の心境は複雑でした。白組さんの試写室で、あそこまで感動した映像が、一般ユーザーにはネタとして扱われていたので。ニコニコ動画の住人は自分の感性をはるかに超えているんだと思いました。

竹安:私は試写室で見たときから「バズるな!」と思っていました。まず、イーノックの顔つきが面白かった。なので、白組のスタッフには「これ、すごい顔ですよ!」と伝えていたんです。日本人が見た外国人の顔になっていながら同時にオリエンタル的にもなっていた。だから、もともと目的としていた無国籍感は実現したなと。なので、当時から、「まあ、良いかどうかは別としていろんなユーザーが気になる顔立ちだ」と関係者には伝えていました。日本人が考える顔って、ほりが浅くなるんです。外国人のほりの深さが理解できない。なので、ハーフのような顔になってしまった。イケメンなんだけど、ちょっと不思議なイケメンになったというイメージでした。でも、試写した当時は誰も笑いませんでしたね。これは過去のゲームの際もそうですが、ユーザーの反応を見るまで全く分からないというのがありました。毎日関わっているスタッフは皆、真面目につくっているし、プロデューサーは投入している予算を背負ってそれらを見ているので、ユーザー目線とはどうしても変わってしまう。

Q:「だいじょうぶだ。問題ない」が流行語大賞に選ばれたときの気分はどうでしたか?

元イグニション関係者:ネガティブな意味ではないですが、「え?」という気持ちでした。と言うか「意外」でしたね。だから、天狗になったりとかは全くなかったです。ただ、世間が喜んでくれているのは普通に嬉しかったです。その反面、期待度がかなり上がり、プレッシャーが半端なくありましたね。

Q:この流行はゲーム販売においてどこまで活かすことが出来たと感じましたか?

元イグニション関係者:顕著に表れたのが、体験版をリリースしたときです。ゲームが販売される前の2011年2月位のことです。それまで体験版は有料だったのがこのタイミングで無料になったんです。そして、そのダウンロード数を聞いた時は正直震えました。プレッシャーも倍増です(笑)。

Q:ルシフェルがEDWINのジーンズを履いているという設定もユニークでしたね。

竹安:そうなんです。EDWINが1960年位からしか歴史がないのに、なんでルシフェルのような昔の人が持っていると思われそうですが、ルシフェルはどの時代からもアイテムを持ってこれるという設定があるから、ユーザーも納得するんです。このように、裏付けとなる設定があることが重要だと思っていて、設定がしっかりしていると辻褄あわせも美しいものになるんです。この点はコンテンツづくりでも非常に大切だと思いますね。

元イグニション関係者:ゲームをつくる以外の要素、つまりEDWINとのコラボジーンズにしても、ゲームをプロモーションするための一要素です。我々はゲーム開発をしながらマーケティングプランも同時に考えていました。兎に角、面白そうでやれる事は全て検討しました。ほぼやれたと思います。EDWINさんの件は、報告を聞いて即承認しました。というか、私自身アパレル業界出身なので企画段階からかなり乗り気でした。

竹安『神話構想』とトランスメディア・ストーリーテリング

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▲神話構想の図表
竹安神話構想の全体像。この図によると『エルシャダイ』は、全9章のうちの第4章にあたる


Q:エルシャダイ』は新規IPだったのにも関わらず、ライトノベル、小説、コミックと、ゲームを中心に、前日譚『Gideon‐ギデオン‐The man whom God Disliked』、『エルシャダイ』の時代から数世紀を経たバベルの時代(『なんでおまえが救世主!? バベルの塔の女子高生』)、現代『AMON(アモン)』、そして、『エルシャダイ』の直前譚であるマンガ『エルシャダイ外伝エクソダス』や絵本『ネフィリム~ずっとわすれない~』などゲームにあわせて同時進行で様々な媒体によって物語展開もしましたね。また1年後は、原作小説の中で、ゲームでは描き切れなかった後日談も濃密に描きました。なぜこのように展開を進めたのでしょうか?

竹安:ものづくりって、作らせてもらえる機会を得られるだけでも稀有なことなので、その中でチャンスが来たから作れるだけ作ろうと思ったのです。また、同じことをやっても面白くないので、多様な表現を使ったというだけです。

Q:これら数多くの作品は、ビジネス的にゲーム版『エルシャダイ』のパブリッシャーであるIgnitionとどう約束を取りつけたのでしょう?

竹安:原作小説以外は、私個人が創作したものという位置づけです。許諾が必要だったわけでもないです。僕自体が外注という位置づけなので、可能でした。

元イグニション関係者:ゲーム発売前から、ゲーム発売後は、事実上、事務所閉鎖の方向で進んでいました。この事は日本で私しか知らなかったので苦しかったです。竹安さんがマーベルのような世界観を構想していたのはこの頃から知っていました。私は竹安さんと一緒に彼が考える「神話構想」を作っていきたいと思いにかられました。たとえ、イグニッションがなくなってもそれは竹安さんの世界なので、止める必要がなかったし、逆に協力しました。

竹安:当時としては、理解されにくいやり方でした。いまでこそ、メディアミックスがはやってますけど、長い間、版権や許諾は線引きとしてしか考えていなかったと思います。いまはこのような展開はわりとよくやるパターンですね。

Q:でも、複数メディアに多様な物語をここまで展開するというのは当時のスタジオ規模からしても異例です。

竹安:スタジオの閉鎖があったのでこのままではコンテンツが死ぬと思ったからです。ユーザーが望むものに『エルシャダイ』の派生的な作品があっても、ゲームが出た後のタイミングでは、作れなくなってしまうので。そのような状況で、コンテンツを多様な形で存続させるには、いまでいうマーベル・シネマティックユニバース(以下、MCU)のような展開しかなかったんです。

Q:必要性がこの手法を生んだと…

竹安:もし、イグニッション・ジャパンが存続して続編制作に目途がたっていれば、普通に『エルシャダイ2』に取り掛かっていました。

Q:例えば『AMON(アモン)』の初版は2011年の7月に発売……。

竹安:はい。その時点でイグニッション・ジャパンは実質上ないに等しかったんです!なので結果的にMCU的展開を先駆けてやったという気分です。だから今になってMCUの展開を見ていると歯がゆいんです。もともとそのようなことをやりたいと思っていたので。ただ、私の実力不足もありこの考え方を理解はされるのは困難でした。やはり1人では難しかったです。もう少し理解ある仲間が欲しかったですね。

Q:トランスメディア・ストーリーテリング的に見て面白いのは、やはりルシフェルの存在ですね。というのも、時間と言う流れに捕らわれることなく存在できる設定のルシフェルと堕天後のサタンは同じ時空に存在していることになるので…

竹安:そうですね。『AMON(アモン)』を書いていたときは、ルシフェルではないという前提で書いていて、設定も全部変えていたので。ですが、MCUでいま話題になっているマルチバースがありますが、あれを当時から構想していたというのはあります。

Q:でもなぜ、当時、ほとんど考えられなかったような複雑な構想をこの時点でしていたのでしょう?

竹安:「エルシャダイ」シリーズを活かしたかったからです!それだけですね。いまでこそ、「エルシャダイ」シリーズのIPは私が所有していますが、当時はそうなるとは全く思っていなかったので、コンテンツとしては関連性を示唆しながら別モノとしていたんです。

Q:この竹安さんの想いにスタッフは何を感じていましたか?

竹安:正直、スタッフも含め、みんなこの流れについていけなかったと思います。「神話構想」をやりたいといっても、多くのスタッフから反対されましたし。スタジオが閉鎖するというのは既定路線でした。でもユーザーが盛り上がってきており、まだまだ止まらないだろうなというのもありました。なので、強烈な孤独感に苛まれました。たぶん、朋友だった木村雅人プロデューサーですら理解は難しかった思います。今だったら、僕の伝えたかったことが分かるんだと思いますが。コラボも当たり前になっているばかりか、しないとダメという風潮になっています。ソーシャルゲームとか完全にそうですよね。さらにコラボするときに世界観をしっかりつなぐという点でMCUがやっていますよね。この論法が当時はなかったんです。

イグニッション・ジャパンが閉鎖されても「エルシャダイ」シリーズを存続させるために

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▲小説版『エルシャダイ』のルシフェル


Q:元イグニション関係者さんはイグニッション・ジャパンの閉鎖が決断された後、『エルシャダイ』をIPとして活かすためにどのようなことをされましたか?

元イグニション関係者:閉鎖を進める中で飛び込んできたニュースが、UTVがディズニーに買収されると! びっくりしたと同時に「ヤバイ」と思いました。聞かされたのは買収完了の3ヵ月ほど前でしたから。その時ふと思いました、「買収後は絶対に『エルシャダイ』をサルベージできないな」と。なので、すごく考えました。3ヵ月間で竹安さんに『エルシャダイ』を託す方法を。UTVオーナーと交渉し、売却目標額の最低額と最高額の予算を握った後、国内10社を選択し、交渉し、UTVオーナーに逐一レポーティングしました。最終的に竹安さんの会社crimが交渉権をどの様に得たかは守秘義務上お話し出来ませんが、全て私のシナリオ通りに進みました。その時、権利取得後の最初のプロジェクトをやる企業まで想定していました。どこか分かりますよね? UTVからの英文契約書数種類で50ページほどありましたが、私が全て日本語に翻訳して竹安さんにチェックしてもらいました。最終的にcrimが契約書にサインし、締結済の契約書が私の手元に発送されてきた際、同封されていた「ネズミ」マークのメモ用紙を見た時、凄いことやったと言う実感が湧きました。2013年5月31日のことです。

Q:そのようなこともあっていよいよSteam版を展開することになったわけですね。どのような心境で取り組みましたか?

竹安: 1byte studioという開発会社と、当時のプログラマーとあわせて10人体制でやりました。もう2年位前から進めていたので。でもクリアするべき問題も多く、なかなか解決できず大変でした。当時は、Widows XPで開発されていたうえ、使用していたゲームエンジンのサービスやサポートも既に終了していましたからね。

Q:販売サイドとしてはどうでしょうか?

元イグニション関係者:有り難い事に、今でも『エルシャダイ』のことを好きで覚えている人がいて、今回のニュースを聞きつけて、私に連絡してきた元英国本社出身で現在、PR会社にいる方がいて、海外のプロモーションを手伝いたいと言ってきてくれました。すぐに
竹安さんにお繋ぎしました。

竹安:海外のひとにとっては、初めての体験になると思うので是非、楽しんでもらいたいですね。

Q:続編については、どうでしょう?

竹安:Steam版の開発で手一杯だったので、そこまで考える余裕がないです。ですが、「エルシャダイ」シリーズはこの10年目で区切りをつけようと思っていたので、まずはここで終わりたいと思っています。他の仕事も忙しいので。あとはユーザーの反響によりますね。

Q:もし実現するとしたら続編はどのようなものにしたいでしょうか?

竹安:開発当時、スタジオ閉鎖も決まっていたので、中途半端な形で出してしまったという悔いもあります。なので、もし、続編が出来るのなら原作小説を完全にゲームで再現したいですね。

Q:ありがとうございました!


というわけで、『エルシャダイ』が9月2日にSteamからいよいよリリース。「噂には聞いていたが」とか、「PVの名台詞は小さいときに聞いたことがあったけど」というみなさんは、これを機にぜひ、ダウンロードしてみてはいかがだろうか?