中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】『タイムディフェンダーズ』、近未来SF x 骨太戦略RPGの新境地(後編)
2021-08-12 14:00:00
王道の欧米ファンタジーとアニメのようなストーリーテリングで話題となった『キングズレイド』を世に出した、Vespaが取り組む「近未来SF」をテーマとした骨太戦略系RPG、『タイムディフェンダーズ』の開発秘話を、Vespa事業総括であるLuke氏と、事業PMのZenas氏、Sunday氏、Tes氏から伺った第二弾。ゲームデザインについて深掘りした前編に続き、今回は本作におけるストーリーテリングと日本先行展開について聴いた。
日常から非日常へ、現実世界からタイムディフェンダーズの世界へとユーザーを誘う
『タイムディフェンダーズ』MV
『タイムディフェンダーズ』のメインテーマソング「Never Too Late」はアニメのオープニングソングを彷彿とさせる
前編で示したとおり、Vespaは『タイムディフェンダーズ』(英語名『Time Defenders』、以下、『TD』)を開発するにあたり、ゲームデザインにおいて数多くの新たな試みにチャレンジしてきたが、ストーリーテリングにおいてもこだわりをもって取り組んでいる。
まず、設定を、近未来である2034年にしたのは、現代を生きるユーザーにとって「想像できるリアリティ」を楽しんでもらいたかったから。必然的に、物語冒頭において舞台となった東京や、ロンドンといった実在の場所を数多くゲーム内に登場させている。これらも、ゲームをプレイする主要デバイスとなるスマートフォンが、日常的に持ち歩くものであることから、日常生活に世界観を少しでも近づけたいとの意図が込められている。
また、主人公キャラクターであるジンも、「東京のどこにでもいる普通の高校生」を基本設定とし、「派手すぎないビジュアル、少し不器用で不愛想な性格」とした。これにより、ユーザーとゲーム世界との距離感を縮められると感じたからだ。
これら一連の設定は「日常から非日常へ、現実世界からタイムディフェンダーズの世界へ」、ユーザーが入り込むことを意識したという。
ただ、主人公キャラクターが単純に「普通の高校生」だと、人物としての厚みがなくなってしまう。そこで、ゲームプレイ時、英雄たちがジンと会話をする際は「ミッションを共に遂行する仲間」という視点から話しかけるようなシナリオを用意し、それに対するジンの返答などを通して、ユーザーがジンの人物像を立体的に捉えられるように努めたという。
なお、物語展開において注意を払ったのは、王道であること。「少年漫画を読むような視点の楽しさ」を意識したという。実際、物語が進行するにつれ、架空の世界や異次元世界なども登場するようになる。
また、敵をデザインするうえで注意したのは、「魅力的で、強そう」であること。そうでないと、倒したときに達成感が得られないからだ。ただ、単に強いだけではなく、印象に残るキャラづくりも忘れない。冒頭で登場する敵キャラである、リリスとルシフェルには明確なチャームポイントを設定し、キャラクター性をアピールした。
スキル発動時は、如何に熾烈な戦闘時でも声優による渾身のセリフが完璧に聞こえるように調整を図る
▲英雄がアクティブスキルを発動すると、そのキャラクターがクロースアップで表示される |
物語体験を向上させるうえで、重要なのがサウンド関連。これらについてもVespaのこだわりを実感できる。まず、声優の配役だが、キャラクターとシナリオの企画担当を務める8~10名のVespaスタッフが、キャラクター設定をはじめたときから、特定の声優を想定しながら内容を固めていったという。というのも、もともと、開発スタッフの多くが日本のアニメやゲームで活躍している声優の才能をリスペクトしていたからだ。
BGMについてはハリウッドっぽいサウンドとハーモニーを意識したという。また、ゲーム内に存在する守護世界において、多様な文化背景を持つ英雄たちが同じ空間を共にする設定などを検討して行きついたのがジャズだったという。このように、キャラの個性にあったジャンルを組み合わせることで、サウンドにもこだわりのある作品になったとのこと。
サウンドエフェクト(以下、SE)においてとりわけ気を配ったのは戦闘ステージ。最大で英雄が12名、モンスターが30体くらいで同時に戦闘することがあるため、これらのSEを一斉に流そうとすると、ごちゃごちゃになってしまう。そこで、SEを3種類以上同時に流さないこととし、そのために、サウンドAが流れているところでサウンドBが流れそうになった際は、サウンドAをフェードアウトさせるといった調整をした。また複数のサウンドが重層して流される場合でも、最優先で流す音は、キャラクターのセリフとした。英雄のアクティブスキル発動時に発せられるセリフが完璧にユーザーに伝わるようにすることで、各キャラクターの性格がユーザーに伝わるようにしたかったのだ。
主要キャラクターや英雄は日本のアーティストにより2Dデザインがおこなわれ、Vespaチームが3D化するほどのこだわりよう
▲『TD』の序盤を先導するキャラクターたちも「平凡な雰囲気」の鳴神 陣とくらべ個性豊か |
『TD』は、日本で先行展開されるが、開発スタジオが韓国にあるのにも関わらず、なぜ先に日本で先に展開されるのかという素朴な疑問がわいてきた。これについては、まず、同社の前作である『キングズレイド』(以下、『キンスレ』)が全世界で配信する中、日本で最も人気を得たのがある。ただ、それだけではない。『キンスレ』のときから日本人ユーザーが求めるクオリティに合わせることで、ゲームが発展することを直に感じたからだ。ゲームデザインをどう変更してほしいのか、どの方向性で発展させればいいのかを明確に示してくれるため、開発の参考になるのだという。このような背景もあり、『TD』においては、5月に3000人ものユーザーを対象にクローズドβテストを行ったのだ。この経験で、日本のユーザーは、ゲームのディテールまで大切に感じており、一寸の譲歩もなく、すべてにおいて最高のクオリティを求めるのだと改めて実感したとのこと。とりわけ、ゲームバランスには細心の注意を払う必要があると感じたという。Vespaとしては、今後も自軍を適切に配置、コントロールしたうえで、英雄のスキルを絶妙なタイミングで発動させるときに得られる爽快感などをさらに追及し、これらをユーザーが直感的に体得できるように調整を図っていくとのこと。
ゲームデザイン以外の面についても当初から日本のファンに届くようにゲームは設計されている。まず、シナリオは日本の感性にあうように日本人のシナリオライターが採用された。またキャラクターデザインについても、日本のキャラクターデザイナーによって2Dでデザインされたものを、韓国のVespaに所属する3Dアーティストが3D化しているという徹底ぶりだ。また、このような日本への先行展開を前提とした体制を支えるために、翻訳、マーケティング、各種イベント、クリエイティブなど担当する約 30人以上の人員が 2年以上もの間、準備してきたという。つまり、『TD』はまさに韓国と日本のクリエイティブが結集されて生まれた作品と言える。
今後の展開について聞くと、まずは「ユーザーと一緒に作るゲーム」として『TD』自体を最高のクオリティに育てていきたいという。ユーザフレンドリーなコミュニケーションを意識し、 ユーザーに近い距離から意見を積極的に取り入れたうえで、迅速にそれらをゲームへと反映するなどして最善を尽くす予定とのこと。同時に、新規英雄の実装や大規模アップデートも準備中だという。また、様々なコラボイベントを通して『TD』の世界観と境界線を拡張しながら、同作をVespaの代表的なIPとして位置づけられるようにしたいという。
『TD』とともに日本市場から世界を望む、Vespaの挑戦はまさに次のフェーズに突入したと言える
▲現在、『TD』は事前登録が開始され、8月24日には正式にリリースされる予定だ |