中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】『タイムディフェンダーズ』、近未来SF x 骨太戦略RPGの新境地(前編)

2021-08-05 14:00:00

『タイムディフェンダーズ』、近未来SF x 骨太戦略RPGの新境地(前編)

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 王道の欧米ファンタジーに相応しい、重厚なサウンドと、美麗なグラフィックデザイン、そして、仲間たちの絆を実感できるアニメのようなストーリーテリングで話題となった『キングズレイド』(以下、『キンスレ』)を生み出したVespa。当然、次の作品も本作を踏襲したRPGだろうと想像していたら、なんと、「近未来SF」をテーマとした骨太戦略系RPGだということが明らかとなり、多くの『キンスレ』ファンを驚かせた。

 『タイムディフェンダーズ』(英語名『Time Defenders』、以下、『TD』)と言われる同作は、2034年、時空の亀裂から突如現れ、世界各地に侵略をはじめた“ディフマン”という異形の存在と、とある理由で戦いに巻き込まれた主人公、ジンが、地球で“ディフマン”と対峙出来る唯一の超時空秘密組織、『TD』に属する戦闘員や英雄とともに、東京から、ロンドン、そして異世界へと世界や次元をまたにかけて壮絶な戦いを繰り広げるというもの。

 ゲームジャンルとしては、いわゆる「タワーディフェンス」型に属するが、単にキャラクターを配置するのみならず、70人にも及ぶ英雄(キャラクター)を集めるコレクション要素、バトルフィールドの特性にあわせて、12人の英雄でチームを構成する戦略性、各キャラクターの特性を育てる育成要素、リッチな3Dキャラクターにより織りなされる3D ADVパートのドラマ性など単に「タワーディフェンス」としてくくることが難しいオリジナリティを兼ねそろえている。そのような意味で、Vespa自身が同作を「未来型戦略RPG」と銘打っているのもうなずける。

 さらに、『TD』は5月初旬に3000人によるクローズドβを実施。テスターとコミュニケーションを図るためにDiscordを開設し、綿密にフィードバックを得ながらその結果をオープンにしたのだ

 このように、作品内容や、ユーザーに寄り添いながらモノづくりをする姿勢が気になっていたところで、なんと、開発元であるVespaの事業部(左奥から時計回り)事業総括のLuke氏と、事業PMのZenas氏、Sunday氏、Tes氏とインタビューをすることが実現したのだ。そこで、本稿ではその時の内容を盛り込みつつ、『TD』の誕生秘話を語っていきたい。

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▲Luke氏(左奥)、Zenas氏(右奥)、Sunday氏(右前)、Tes氏(左前)

開発チーム80名が3年の歳月をかけて生み出した新機軸の未来型戦略RPG

 『TD』は前作『キンスレ』がリリースされて程なくしてから開発がスタート。開発チーム80人、その他サポート部署の人数まで合わせると合計100人以上の人員が投入され、約3年間開発を進めてきたという。これだけの時間と人員を投入するのであれば、『キンスレ』の成功を踏襲するのがビジネスとしては無難だろうが、そこはクリエイター集団。これまでの方式を超えた、次世代と言われるRPGゲームを作ることを目標に、RPGとしての楽しさの本質は守りつつ、ゲームとしてより戦略性が高く、登場するキャラクターの特性を考えながら活用出来るジャンルを考えた結果、タワーディフェンス方式の戦闘システムを採用するに至った。これだと、RPGの本質である「役割分担」の要素を最もよく活かせると考えたからだ。

 だが、単に同ジャンルのゲームを参考にしたわけでもない。「まず、参考にしたゲームは囲碁です」(Luke氏)。囲碁のように、小さな1手を重ねていくことで、大きな結果を得られるようなカタルシスを体験してもらいたかったのだ。実際、いくつかのステージは一筋縄ではいかないようになっている。つまり「ガチャプレイ」で押し通すといことが出来ないようになっている。だが、これもクリエイティブな判断のもとデザインされている。「単純に多くのアイテムを収集して成長し、戦闘力を基盤に突破できるゲームを作りたくはありませんでした。 ユーザーがステージに入る前に、十分悩んで戦略を頭の中に描いてみた後、難題をクリアした時の快感を得られるよう設計したのです」とLuke氏はその意図について解説した。

キャラクターの「アクティブスキル」を発動することでド派手で且つ緊迫したバトルシーンを実現

『タイムディフェンダーズ』公式 PV



 タワーディフェンス方式のゲームというと、小さな部隊が多数細々と戦いをしている様子をプレイヤーが俯瞰するというゲーム性を想像しがちだが、『TD』のバトルシーンはこれとは全く違う。なぜなら、これまでのタワーディフェンス方式ゲームで不足しがちなダイナミックでアクティブながらも、自由度の高い戦闘方式を導入することを当初から決めていたからだ。これを実現するために設計されたのが、各英雄が有する「アクティブスキル」だ。プレイヤーは、配置した英雄の個性的な「アクティブスキル」を発動することで、一発逆転、または一騎当千的な瞬間を生み出すことが出来るため、ケレン味たっぷりの戦いを体感できる。

 だが、「アクティブスキル」を発動するタイミングも大挙して押し寄せて来る敵の方向や属性にあわせて戦略を検討しなければならない。いわば、リソースマネジメント的な考え方が必要となるのだ。これについては、リアルタイムストラテジー(Real-time Strategy、RTS)ゲーム、とりわけ「三國志」系のそれを研究したという。「三國志系のRTSは指揮官が部隊を指揮するゲームだったからです。本作ではプレイヤーに指揮官となってもらい、様々なキャラクターを指揮している感覚を得てもらいたかったのです」とLuke氏は解説した。

 このようにして、ゲームプレイ時にじっくりと英雄の配置場所を考える戦略性と、各キャラクターを成長させ、その特性にあわせて使い分けるというRPG的要素が組み合わされていった。

70人もの英雄は、ユーザーひとりひとりにとって想い入れのあるキャラクター育成を促す

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▲クローズドβの人気英雄ランキングでトップとなったのがメルクリア。最大レベルの英雄ランキングでも2位にラインインしていることから、ゲームプレイでも重宝されていたことが分かる。



 戦略的要素とRPG的要素を掛け合わせる中で重要なのは、多様なプレイヤーの好みに合うように個性的なキャラクターを数多く準備することだろう。そのような意味で『TD』は、リリース時で既に70人もの英雄が準備されている。これらのキャラクターをデザインする際も、Vespaはかなりこだわりをもって取り組んだ。英雄を単なる戦闘のコマではなく、戦いながら共に成長していく仲間として考えてもらいたかったからだ 。そのようなこともあり、デザインするうえでは、ユーザーひとりひとりがすべての英雄に対して愛情をもって成長できるように仕上げたという。

 また、設定上の工夫もある。ジンが所属する組織が『TD』、つまり「時間を守る存在」という超時空的秘密組織であり、英雄召喚時は「タイムエンジン」というデバイスを使用する設定であることから分かるように、英雄は時間の壁を越えて招集出来る設定となっている。これは、過去、現在、未来と行き来出来るという要素を取り入れたかったからだという。「ゲームは現実では不可能なことを実現することが重要」(Luke氏)。なお、キャラクターデザイン面で意識していたのは「アニメ」らしさだという。今回、英雄とはいいながら、過去の偉人や武将、騎士などを召喚するのではなく、特定の時代や地域文化ならびにその時代ならではのプロフェッショナルを体現化する存在を召喚するという設定になっている。従って、キャラクターデザインにおいても、その設定に応じて敢えてクラシック風にしたり、近未来感を出したりしたという。もちろんロビーで展開されるキャラクター紹介ステージでの3Dキャラクターアニメーションは、Vespaクオリティ。各キャラクターの性格を表した躍動感のある演出がなされている。

育成しがいのある魅力あるキャラクターと骨太な戦略性の組み合わせで生み出された新たなゲームの方向性

 このように、キャラクターデザインやゲームメカニクス共々、王道として抑えるべき要素は抑えつつも、新たなに組み合わせるべき要素は大胆に組み合わせることで、新機軸を打ち出そうとチャレンジしたのが『TD』だ。では、「RPG」と銘打つだけのストーリーはどの程度、如何にして生み出したのか、さらに声優の配役はどのように行われたのか、また、正規リリース前にクローズドβを行い、それらの結果をかなり赤裸々にオープンにした背景はどこにあるのか、本稿の後編はその点を中心にフィーチャーしていく。