中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】BitSummit大賞を獲得した『Dap』の開発秘話に迫る!
2021-12-30 13:00:00
これまでに示したように京都ではeスポーツ大会や、コスプレイベントなど、リアルイベントが徐々に再開しつつあるが、その中でも嚆矢となったイベントがBitSummit THE 8th BITであった。メディアと出展者をリアルにつなげるという視点からハイブリッドで行われたのが2021年9月2日~3日。まさに緊急事態宣言下でありながらも万全を期して開催し、全く事故なく現在に至っている。まさにその後の京都におけるリアルイベント開催におけるベンチマーク的存在となったのだ。
このような形で実施したことで、結果的に200を超える作品がエントリーし、そのうちの約半数にあたる100作品ほどが出展された。その頂点にあたるVERMILION GATE AWARD / 朱色賞を獲得したのが、オーストラリアのインディーズ、Melting Parrotによる『Dap』だ。
『Dap』とはサイケデリック・ホラー・アクション・アドベンチャーを銘打った新感覚のアクションゲームだ。プレイヤーは「ダップ」、「ダップ」とだけ叫ぶ小人のようなクリーチャーを操りながら、同類の仲間を見つけ、互いを守りながら世界を探索していく。
▲Melting Parrot のIris (左)、Paul(右)、夫婦でゲーム開発をしている |
キービジュアルでも実感できるとおり、本作にはかなり奇天烈な雰囲気が漂う。逆に言えば、まさに「インディーズ」という言葉がピッタリな作品であるともいえる。プレイしてみなければ分からない、いや、プレイしてもわからないその作品の真意。一体、どんなクリエイターたちが作ったのか気になり、BitSummitが提供していたDiscordから連絡をとるとなんとインタビューに応じてくれるという。そこで本稿では、そのインタビューの一部始終を公開する。
離島の農村でボランティアをしながらゲーム開発に携わることを決意!
Dap - Into the Forest Trailer
Q:『Dap』を開発する前はどのようなことをしてきたのでしょうか?
Paul:実は、僕らにとってこれが最初のゲームなんだ。だから、ゲーム開発者というのも、その道のプロと名乗るのもためらわれるね。子供の頃はクラシック・ピアノを10年ほどやっていて、それからギターをとにかくたくさん弾いてきた。そんな中で出会ったのがIrisだったんだ。2013年ごろさ。そして2014年には結婚していたよ!
Iris:私は出身がドイツなんですが、そこで写真を勉強したあと、見聞を広げるべくオーストラリアへ旅に出ていました。Paulとはその時に出会ったのです。
Paul:僕はメルボルン出身なのだけれど、当時は、2人でオーストラリア中をバックパックで旅行していたのさ。タスマニア島に行って、そこの農場で働くかたわら、ラップトップPCでゲーム開発をはじめたのさ。「Game Maker」っていうゲームエンジンを使ってね。当初はチュートリアルを見まくったよ。とにかくゲーム開発に取り組みたかったので、いくつかのゲームを模倣しながらミニゲームをつくってみたんだ。そのうちのひとつを少しずつ膨らましていったものが『Dap』なのさ。本当に偶然の産物というか。
Q:ふたりの役割分担は?
Paul:ふたりともゲームデザインをしているけれど、僕はどちらかと言えばゲームデザインよりかな。Irisがアートデザインとプログラミングをしているからね。
Q:いまの『Dap』になっていったのはいつ頃の話ですか?
Iris:それも説明するのが難しいわね。本当にゆっくりと自然に生まれたという感じなので。開発を進め、それを改善しながら、ある時期に「これは単なる実験ではない。ゲームだ」って感じられるようになったのです。
Q:いつごろですか?
Paul:あれは、たしか、2017年の大晦日だったかな。ふたりでディスカッションしていたときにかなり盛り上がったからね。Irisは「完全に見えるわ!」って言っていたよね。
以前、作っていたゲームは小さなおたまじゃくしかバクテリアのようなものが増殖するようなものだったんだ。どうしてそんな発想が生まれたのかも覚えていない。結局、そのゲームは完成することはなかったけれどね。それをいろいろいじくったり、試行錯誤したりしながら、「こうやろう」、「ああやろう」とアイデアをまとめていったよ。
Iris:バクテリアがコロニーを作り、それを増殖させるというアイデアがうまれ、それを一案として維持すると同時に、ちょうどゲームの作り方も学んでいた最中なので、典型的なトップダウン型シューティングゲーム的なものから作っていったのです。なので、シューティングゲーム的メカニクスとこれまで考えてきたアイデアが融合していったのです。
Q:シューティング要素もありながら、ただ敵を倒すわけでもないという不思議なゲームバランスですね? やはりこういったアイデアが出てきたのは2017年の大晦日だったのですか?
Iris:ふたりで一緒にいながら話し合っていたときに突然インスピレーションが湧いたのです。すごく興奮しました。もともと、そのようなアイデアを望んでいたわけではないのですが、このビジョンを感じたときに自分たちが作るべきものは「これだ!」という確信を持ったのです。
Paul:とにかく情動のようなものを感じたね。アイデアというよりは。『Dap』そのものというわけでもなかった。
Iris:何を作るかすらも、この時は関係なかった。
Paul:強烈な意思だよね。とにかく「これを作るのだ」というドライヴが生まれたのさ!
Iris:そうそう。「ゲームを作るの」という意思が点火された気分だったね。
Q:では、そこからゲーム開発をずっとやったわけですね?
Iris:ただ当時は、ちゃんとした収入がなかったので、私はカフェで働いたりしていた。
Paul:農場での仕事は賃金の変わりに住む場所を提供するという条件だったのさ。そこで朝4時から働きに出て、数時間農場で働き、夜はそれぞれ仕事をしていた。僕自身はそのとき、サイバーパンクをテーマにしたピクセルアートを描いたり、いろいろな物語を書いたりしていた。しかし、これらはゲームとは全く関係ない内容で、心の中では「あの時のインスピレーションをいったいどうしたらゲームに出来るのだ!」って、考えていたんだ。
Q:では実際に『Dap』らしいものになったのはいつごろですか?
▲『Dap』の原点となった小人のようなプレイブルキャラクター |
Paul:Irisがいまのキャラクター(小人のような)をデザインしたときかな。
Iris:このキャラクターをデザインしたのは2018年になってからだわ。『Fez』や『もののけ姫』に出てきた「こだま」とかに影響を受けた。どんな人でも自分自身を投影出来るものにしたかったので、男性的にも女性的にもするのではなく中立的なキャラクターにした。
Paul:もともと、Irisが操作用としてデザインしたこのキャラクターを、僕がゲームエディター画面で、ステージ内に山ほど置いてみたのだ。その雰囲気がクールで、そこから、OK、森の中に小人たちがいて、もし、彼らに話しかけられたらどうなるか、と考えてみたのさ。あと、話しかけることで、主人公キャラクターについていくことにしたら…と発想が生まれてきたのだ。当時、『エイブ・ア・ゴーゴー』をプレイしていたから、それもインスピレーションになったよ。
Q:クリーチャーたちが話す言葉はどうやってデザインしたのですか?
Paul:実はあのサウンドは僕たちにとって、とても古いんだ。以前から作り上げていた「ダップ」、「ダップ」というサウンドサンプルを言語的に追加してみたのさ。いろいろなサンプルがあったから、その中から「Hello」的な雰囲気なものや、「ついて来て!」的なサウンドを選んでいったのさ。
Iris:偶然よね。
Paul:ここから、クリーチャーが集まったら互いに話しているような形にしていったんだ。完全にランダムだけれどね。これで「群れになる」っていう感じになったよ。
Iris:主人公キャラクターに「ついていく」というメカニクスを導入してから、では、これらのキャラクターに何か役割を与えるべき、という発想が生まれ、そこからさらに発想をふくらませたのです。
Q:その他、ゲームデザインとして大きく変わった点は?
Paul:銃器を無くしたということかな。もともとトップダウン型のシューティングゲームとして開発を進めたからね……リロード機能まで備わっていたものを……(笑)。しかし、2019年のクリスマスごろに、ビクトリア州で森林火災が起きたんだ。自然破壊を目の当たりにして思ったのさ。「なんでこのゲームに重火器を入れてあるのだ!」ってね。そこで、まず、重火器を全て削除し、しばらくはステルス系のゲームになっていた。しかしそうするとつまらなくなってしまったんだ。個人的にも攻撃的なゲームが好きだからね。そんなときにIrisが言った「攻撃用の呪文を入れたわよ」ってね。
Iris:Paulはバイオレントなゲームが好きだが、私自身はコンストラクション系が好きなの。あと「ゼルダの伝説」シリーズとかね。
Q:世界観はどう生まれたのでしょうか?
▲Paulが進めたサイバーパンク的要素とIrisの興味関心である自然や環境といったテーマが融合して独自の世界観を生み出した |
Iris:もともとは、Paulが考えていたサイバーパンク的なものから始まったのですが、途中から私がアートをリードするようになったので、個人的に好きだった樹木や自然のモチーフがステージの反映していった。また、環境汚染などを描くためにこれまでの色彩を反転させたりしてかなり赤味の多いステージも作りましたね。
Paul:こういったプロセスはまさに発掘作業に似ているのだ。いろいろやりながらいいものを取り入れるという方法さ。
Q:多くのひとがこのゲームから環境破壊に対する警鐘などメッセージを受け取っているようです。
Paul:それはすごいことだよ。正直に言うと、そこまで深く考えながらゲームをつくっているわけではないのだ。しかし『Dap』をプレイしているゲーム実況を見ていても、僕らが思いつかないことを考えていてくれたりとか驚くことばかりさ。しかし、あまり僕らから発言しないようにしているよ。プレイヤーが何を感じてくれるかが大切だからね。
Iris:それぞれ開発を進めながら独自のメタファーを表現したと思う。そのような思いがゲームを意味のある形でひとつにまとめることにつながったのです。しかし別の意味でとらえてもらっても構わない。一つの考え方に固執する必要はないので。
Q:新型コロナの状況はゲーム開発にどのような影響を残しましたか?
Paul: かなり集中して開発出来る機会を与えたよ。同時に狭いアパートにずっと籠もらなければならなかったのが大変だったけれどね。一緒にいれることは最高なことだけれど、ずっと一緒というのは時にはイライラにつながることもあるのさ。
Q:夫婦としてゲーム開発をすることのメリットは?
Iris:利点としては、夫婦でしか共有していないこともゲームの中に取り入れることが出来るのでより深く且つ独自なものも生み出せるという点だね。
Paul:欠点は先ほど言ったことと同じだよ。常に一緒にいると些細なことも問題になることだね。しかし、今回は双方が完全なパートナーという立場でコラボレーションが出来たことがすごいことだと感じているよ。
Iris:そうね。夫婦として私たちは常に何かを一緒に生み出すことを運命づけられていると思うの。私たちはある視点からは考え方に違いがあり、興味深い点で類似しているので。そのような意味で、今回のプロジェクトには満足しているわ。
Q:このゲームを最後までプレイするために必要な時間は何時間程度ですか?
Iris:5~7時間程度だね。
Paul:ふたつのエンディングも準備していることやコレクション要素も入れてあるので何度も楽しめるようにはなっているよ。
Q:では、最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
Paul:私たちは皆さんからの現代に対する痛烈な批判を聞いた!すごく難しい問題だが、これからそれに対する答えを示すことが出来ればと考えている。
Iris:是非、プレイして楽しんでださい!