中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】グローバルゲーム産業最前線:ブラジル市場の現在とこれから(その2)
2021-09-14 14:00:00
中南米で最大の市場にして世界で最もeスポーツが盛り上がっている地域のひとつであるブラジル。本稿は同地域におけるゲーム産業振興を推進している駐日ブラジル大使館のジョアォン・エドゥアルド・マルチン書記官ならびにギリェルメ・ゴンジン・パウロ書記官から話を伺う第2弾(前回の内容はこちら)。
今回は、ブラジルで人気のスマートフォンアプリから現地に拠点を持つ大手ゲームパブリッシャーならびに現地の著名ゲームスタジオについて伺っていきます。
▲今回メールベースでの取材に対応いただいた、ジョアォン・エドゥアルド・マルチン書記官(左)とギリェルメ・ゴンジン・パウロ書記官(右) |
Q:モバイルゲーム市場はどうでしょうか?
ジョアォン書記官:調査会社Newzooによると、市場の成長率が鈍化しているPCやコンソールゲーム市場に比べ、モバイルゲーム市場は成長を続けています(2020年比11,8%増)。この成長によりゲーム市場全体では2020年比5.1%の成長が見込まれています。
モバイルゲームの占有率も拡大しています。2017年には市場の37%を占めていましたが、2020年には44%に。その後も年間19.7%の成長率が見込まれることから、2023年にゲームプレイヤーの過半数以上がモバイルプラットフォームでゲームをするようになると予測されています(シェア51%)。
なお、ブラジルにおいて人気のゲームタイトルについては、調査会社Appannieが、2020年、ブラジルで最もダウンロードされたゲームならびに収益の高かったゲームを発表しました。
人気ジャンルに関しては、Newzooがコンソール機向け、PC向けならびにモバイルゲーム向けで発表しています。
▲各種調査会社に基づくブラジルに人気のゲームアプリ、各プラットフォームで人気のゲームジャンル |
ゲーム会社の存在感は年々大きく変化
Q:日本、欧米、中国、韓国のゲーム会社で、ブラジルに支社を設置している企業はありますか?
ジョアォン書記官:ゲーム会社の存在感は年々大きく変化しており、10年前、ブラジル拠点の設置は費用対効果に見合わないと判断され、閉鎖されたこともありました。しかし、ここ数年は、ブラジルレアルの対ドルレートが下落して運営コストが下がったこと、ビデオゲーム市場が拡大してゲームユーザーが増えたこと、政府がゲーム産業への投資を促進する政策をとっていることなどから、この傾向は変わりつつあります。シンガポールに本社をおくSEA系列のGarenaは、ブラジル人ゲーマーの間で『Free Fire』が人気を博していることを受けて、オフィスを開設することを決定しました。その他、Riot Gamesや任天堂もブラジルにオフィスを構えており、事業の拡大を考えているようです。また、ソニーやマイクロソフトもブラジルに進出しています。
Q:前述のようなグローバルゲーム企業との連携実績のあるスタジオはありますか?
ジョアォン書記官:ブラジルには、海外のスタジオと提携している企業がいくつかあります。まず、KokkuはActivision、Warner Bros. Gamesa、Paradox Interactiveなどの企業から業務を受託しており、これまで『Horizon Zero Dawn』、『Call of Duty Black Ops Cold War』、『Sniper 3: Ghost Warrior』に携わってきました。
また、Diorama Digital Studioは、『Elder Scrolls Online』、『Just Cause 2』、『Star Wars Galaxies』、『DC Universe Online』などに協力しています。
これらに加え、Puga Studiosは、2019年だけでも、世界13カ国で18社もの新規クライアントを獲得し、38のプロジェクトに携わってきました。
このようにブラジルのアウトソーシングスタジオはプロトタイプイング、2D、3D、ピクセルアート、コーディング、さらにはエンドツーエンドのゲーム制作や発売後のサポート、クラウドサービスなどゲーム開発におけるあらゆる側面のサービスを提供しています。
Brazilian Game Weekは多岐にわたるブラジルゲーム市場を把握するチャンスに
Q:では最後にブラジルを代表する自社作品としてゲームをリリースするスタジオとその代表作を教えてください。
▲現在ブラジル国産ゲーム代表作Aquirisによる『Horizon Chase Turbo』 |
ジョアォン書記官:ブラジルのゲーム開発スタジオの数は増え続けており、あらゆるプラットフォームに向けて、ゲームを作っています。まずAquirisは、批評家とプレイヤーの両方から高く評価されたドライビングゲーム『Horizon Chase Turbo』をモバイル向けにリリースしていくつかの賞を受賞した後、他のすべてのプラットフォームでリリースしました。
Mad Mimic Interactiveは、最近PCとコンソール向けに『Dandy Ace』をリリースし、こちらも高い評価を得ています。このゲームはローグライクなハック&スラッシュ的なゲームなのにも関わらず、クールなグラフィックとコミカルは雰囲気がひとつになったユニークなゲームです。
Behold Studiosの『Knights of Pen and Paper』やそのスピンオフ作品でよく知られていますが、日本のスーパー戦隊や特撮をオマージュにしたターン制戦略ゲーム『Chroma Squad』も話題になりました。同作はBandai Namco Entertainment Americaからリリースされています。最近では、協力型のパズルゲーム『Out of Space』を発売し、こちらもユーザーからの評価を得ています。
一方、インディースタジオとしては、Pocket Trapが『ドッジボール・アカデミア』をPCとコンソールで発売しました。これはRPGの要素を取り入れたドッジボールゲームで、素晴らしいビジュアルと楽しいゲームプレイが特徴です。ストーリーやキャラクターもしっかりしている点にも注目です。
ブラジル産ドッジボールRPG! 『ドッジボール・アカデミア』紹介
Q:VR関連はどうでしょうか?
ジョアォン書記官:VR関連はARVOREが『Pixel Ripped 1989』と『Pixel Ripped 1995』を制作しています。それぞれ、80年代と90年代へのオマージュであり、プレイヤーをアーケードゲームとコンソールゲームの初期に連れ戻すノスタルジックな作品です。最近はVRで弾幕とローグライクをミックスした革新的な作品『Yuki』をリリースしました。
と非常に盛況なブラジルゲーム産業だが、市場の拡大やアカデミックにおけるこの分野の関心の高まりとともにその領域は広範囲で広がっており、本稿ではカバーしきれないのが実情だ。そのような中、この度、駐日ブラジル大使館主催によりデジタルイベント第1回「Brazilian Game Week」(ブラジリアン・ゲーム・ウィーク)が開催される。2021年9月20日(月)から9月24日(金)まで行われる同イベントでは、ブラジルにおける市場の概況、ブラジルにおけるゲーム企業の現状、eスポーツ、シリアスゲームならびにVRと1日1テーマでそれぞれのテーマについて講演が行われる予定だ。
今回の特集で興味を持った皆さんはぜひ、参加してはいかがであろうか? 最新情報は、駐日ブラジル大使館Facebook、Twitter、Instagramなどで確認できる。