筆者はこれまで中国、東南アジア、ロシアなど様々な新興市場の熱狂を目撃してきた。そのような中で、ここ数年、注目してきた地域が南アメリカ、とりわけブラジルである。　ブラジルは851.2万平方キロメートルという南米大陸の半分程を占め、人口も1億9840万人と世界的にみても中国、インド、米国、インドネシアに続き第5位（※１）、GDPもイタリアやカナダの間である第9位（※2）と領土、人口、経済力と全方面において、南米最大の国家だ。

　一方、ゲームビジネスについては、筆者も「ファミ通ゲーム白書」で定期的にフィーチャーしてきた。同国は、新型コロナ禍前に開催されたBrazil Game Showには30万人もの参加者に恵まれ、ゲーム関連ベントとしては世界最大規模を誇る。さらにeスポーツ関連においても、2020年、ｅスポーツ賞金獲得額がアメリカ、中国、韓国、フランスに続き5位を獲得するなど（※3）その存在感を確実に高めているのだ。つまり、市場としても、eスポーツの興行拠点としても戦略的に重要な場所となりつつある。だが、その実態がまだあまり明らかになっていないのも事実だ。このような中、筆者はブラジル大使館においてブラジルにおけるゲーム産業振興を推進しているジョアォン・エドゥアルド・マルチン書記官ならびにギリェルメ・ゴンジン・パウロ書記官に対してメールベースで取材をする機会を得た。そこで本稿ではその内容についてお伝えする。

年間市場規模がいよいよ2000億円の大台を超えたブラジルゲーム市場

Ｑ：ブラジル市場はどのような規模なのでしょうか？

▲1ドル110円換算　出典：Newzoo（ジョアォン書記官入手によるもの） 2020年に22億ドルを達成しブラジル国内での市場規模が2000億円を突破した

ジョアォン・エドゥアルド・マルチン書記官（以下、ジョアォン書記官）：ブラジルにおけるゲーム市場の規模は2019年の段階で17億米ドル（1900億円）と推定されており、国内外の企業が注目しうる規模ですが、これは世界におけるゲーム市場の1％程に過ぎません。つまり、現地のゲーム開発者としては、たしかにブラジル市場自体もビジネスチャンスをもたらしますが、海外展開で得られる可能性は計り知れません。既にブラジルで誕生した相当数のスタジオがゲームをリリースし、そこで経験を積んできました。大学などの高等教育機関も「ビデオゲーム」をテーマとした研究領域に関心を深めており、より多くの研究論文を発表すると同時にゲーム業界に焦点を当てた大学のコースも開設されています。ゲームデベロッパー、イラストレーター、フリーランサーもスキルを磨き、グローバルゲーム企業で業務に携わったり、国際的なプロジェクトに参画したりしてその存在感を高めています。これらのすべての要因が、ブラジルゲーム業界の強固なインフラストラクチャの構築に貢献し、この国におけるゲームセクターの可能性を飛躍的に高めています。Newzooによると、ブラジルのビデオゲーム市場は2017年から2023年まで年間12％の成長が見込まれており、これは、市場が6年間でその規模を2倍にすることを意味します。

Ｑ：市場構成を教えてください。

ジョアォン書記官：ブラジルのビデオゲーム市場に関する最も信頼性の高い調査の1つである「Pesquisa Game Brasil」（PGB）の最新版によると、ブラジル人口の72％が定期的にビデオゲームをプレイしていることがわかっています。また、Newzooによると、プレイヤーの大半はモバイルプラットフォームでプレイしており（スマートフォン42％、タブレット5％）、残りはコンソール（29％）とPC（24％）に分かれています。

Ｑ：コンソール機市場についてもうすこし詳しく教えてください。

ジョアォン書記官：2021年には、PCとコンソールにおける市場規模の拡大は見込めませんが、Statisticaによると、2019年におけるコンソール機の所有率は以下のとおりです。

出典：Statistta 2021

ジョアォン書記官：多くのユーザーが複数のゲーム機を所有しているため、合計は100％を超えています。また、この分布においては、入手のしやすさが重要な要素となっています。例えばNintendo Switchは、ブラジルでは2020年9月に発売されたばかりなので、2019年にNintendo Switchを持っていた4.7％のゲーマーは、輸入品のみで手に入れたことになります。

Ｑ：コンソールゲームやPCソフトと密接にかかわるのがゲームイベントですが、ブラジルで行われているBrazil Game Showについて教えてください。

▲BIG Festivalはラテンアメリカにおいて最大規模のインディーゲームイベント

ジョアォン書記官：IGＮの報道によれば（※4）、第8回目となる2015年以降、「Brazil Game Show」は30万人以上の参加者を集めており、ラテンアメリカでは最大、世界でも最大級のビデオゲームイベントとなっています。また、ブラジル・インディペンデント・ゲーム・フェスティバル（BIGフェスティバル）も特筆すべきものです。ラテンアメリカにおけるインディペンデントゲームの最も重要な拠点とされており、2021年に開催されたオンライン版では、7,000万人へのリーチと280万のサイトアクセスを記録し、大成功を収めました。

Ｑ：興行という視点でｅスポーツはどのような規模なのでしょうか？

ジョアォン書記官：Statistaによると、ブラジルにおけるeスポーツの収益は、2018年の800万ドルから2021年には約1,000万ドルに達すると推定されており、25％の増加が見込まれています。
また、eスポーツのプロ選手や観動員数において、ブラジルはすでに主要国のひとつとなっていますが、この傾向は、パンデミックによって引き起こされた社会的孤立のために高まったものです。ブラジルには、MIBR- Made in BrazilやINTZなど、多くの競技チームがあり、MOBAからShootersまで多様なジャンルで競い合っています。ブラジルのチームとは別に、ブラジル人プレイヤーは国際的にも有名です。Rainbow Six: スウェーデンのNinjas in PyjamasチームのSiege部門は、ブラジル人選手のみで構成されており、Six Invitational 2021（Rainbow Six: Siege）でTeam Liquidを破り、ブラジル人チームとして初めてトーナメントを制しました。

このように、ゲーム市場、そして興行と２つの側面において盛り上がりを見せるブラジルゲーム市場。次回では今回カバーしきれなかったものの、最も成長しているモバイルゲームセクターの状況をお伝えすると同時に、ブラジルに拠点をもつ大手ゲーム企業や、現地の主要なゲームスタジオについて紹介していく。

※1　外務省　「わかる！国際情勢　ブラジル」 に基づく

※2　World Population View GDP Ranked by Country 2021 に基づく

※3　esportsearning.com Overall Esports Stats For 2021 Top Countries に基づく

※4　Brasil Game Show 2017 volta a ser realizada em outubro em Sao Paulo


その他出典
Newzooの資料はジョアォン書記官自身が独自に入手したもので、その一部はリンク先から確認ができる

Statisticaの資料はリンク先のデータを引用している。

Pesquisa Game Brasil