中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】2021年はIPにおけるニューウェイブの台頭と新サイクルのはじまり(その3)

2021-01-26 10:00:00

(その2)からは、トランスメディア・ストーリーテリングの新形態をテーマに、TMSをハリウッドで主導してきた人物の1人と言えるジェフ・ゴメス氏と『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』(監督)、『428~封鎖された渋谷で~』(総監督)、『文豪とアルケミスト』(世界観監修)、『新サクラ大戦』(ストーリー構成)などを手がけ、昨年末に『IPのつくりかたとひろげかた』を刊行したストーリーテリング代表取締役のイシイジロウ氏との対談をフィーチャーしてきた。今回は、前回に引き続き、エピック・ナラティブ・デザインによるいくつかの作品分析からはじまり、イシイ氏によるIPの分類法、そしてそれに対するゴメス氏の見解を聞いた。

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▲イシイジロウ氏(右)とジェフ・ゴメス氏による奇跡の対談が実現した!

エピック・ナラティブ・デザインの視点から見る「スター・ウォーズ・ユニバース」のこれから



Q: ゴメスさん、エピック・ナラティブ・デザインという視点で見たとき、新三部作が終わってからの「スター・ウォーズ」シリーズをどう感じていますか?

ジェフ・ゴメス氏(以下、ゴメス):「スター・ウォーズ」ユニバースはとても良くなっています。現在、Disney+ (ディズニープラス)で複数の登場人物を主人公としたドラマシリーズが次々と放送されていく予定ですが、これらのキャラクターが総動員されたひとつの大局的な状況を映画で公開するのではと思います。日本の特撮シリーズなどで、いくつかの作品がテレビ番組として展開され、クライマックスで映画となるものがありますが、それと共通していますね。

イシイジロウ氏(以下、イシイ):たしかに「仮面ライダー」シリーズや「スーパー戦隊」シリーズが、それをやりつづけています。でも日本の場合はあくまでも子供向けに特化しているのに対し、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)は全年齢層を対象に出来たことが巨大なビジネスへとつながったのです。そこが日本人としてはくやしい(笑)。

ゴメス:私自身はこの違いに独自のセオリーがあります。私自身、日本製特撮のダークな側面が好きなので。例えば映画版の「ハカイダー」がありましたよね。ダークで、複雑怪奇で、成熟したテーマを扱っていました。ですが、MCUの場合、全体的に複雑で大仕掛けな展開の中に、ユーモアや家族愛といった暖かさを含むチャーミングさも取り入れたのです。なので、テーマとしても暗すぎもせず、子供だましといったわけでもない作品シリーズとなっていますね。

イシイ:日本のアニメーションで子供向けじゃないアニメーションが出来たことによって、逆に実写特撮がなかなか大人向けの作品が出来なくなっています。市場がそのように成立してしまったからかもしれせん。

ゴメス:映画『シン・ウルトラマン』が市場にどのような影響を与えるのか楽しみです。映画『シン・ゴジラ』は非常に洗練された政治風刺でしたね。

イシイ:「平成ガメラ」シリーズ並みに大人向けになるといいですよね。また、日本では『鬼滅の刃』という作品が出てきたので、これがどうビジネスとして発展していくのか、世界でどう受け入れられるのかが気になります。

ゴメス:私が『鬼滅の刃』について聞いたのはアニメファンからです。彼らの意見は、『鬼滅の刃』なら、アニメファン以外も楽しめるだろうということで。そこでテレビアニメ版を見る機会があったのですが、あまりにも怖くて驚きました!テーマ的にもかなり強烈で感情的なストレスが溜まります。だから北米でどの程度、受け入れられるかはまだ分かりません。個人的には大好きなのですが。

イシイ:日本は幼稚園児から大人まで好きになっているという日本文化の特殊性があります。また原作も今後、社会的な残酷性まで物語で描いていきます。逆に言えば、日本でしか語ることが出来ない物語ではありますね。

ゴメス:ウルトラマン Z(ゼット)』は北米で評価を得ていますが、この場合、主人公は怪獣を倒すことに苦悩します。仲間もそれを助けるという感じで、非常にポジティブなメッセージが評価されました。もちろん特撮を用いた怪獣との闘いが魅力的なのも重要ですが。心が平穏になり、前向きな気持ちになるんですよね。

Q: 「Ultraman」のコミックではどのような展開があるのでしょう?

ゴメス:3月に、マーベルコミックで『The Trails of Ultraman』が発売する予定です。

IPをストーリー、キャラクター、世界観の分類することはハリウッドでも直感的にやっている

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▲イシイジロウ氏による『IPのつくりかたとひろげかた』



Q: IPのつくりかたとひろげかた』で紹介した、IPの分類方法について簡単に解説していただけますか?

イシイ:私はIPを3つに分類しました。ストーリーIPと、キャラクターIP、そして世界観IPです。映画を例に説明しますと、基本のIPはストーリーから生まれます、そこからキャラクターだけが独立しても通用するようになったのがキャラクターIP、そこからキャラクターを超えて世界観だけが独立しても受け入れられるようになったのが世界観IPです。このようなIPの成長によって制作者やファンの世代交代が出来る長期的なIPに育つと考えています。

Q: ゴメスさん、このような分類方法についてどう感じましたか?

ゴメス:まず、この分類法は素晴らしいですね。もしエンターテインメント業界で明文化されていなかったともしても直感的にこの分類をしているひとは多いと思います。まさにテレビドラマ『マンダロリアン』の名セリフ、「我らの道(This is the way)」ですね。

イシイ:

ゴメス:これにもうすこし付け加えるとすれば、弊社でキャラクター、世界観、ストーリーについて分析をする際は、まず、すべての要素が「ストーリーワールド」に内包される必要があります。なので、まずIP所有者がこれらの体験によって如何なるメッセージを伝えようとしているのかを確認します。企業レベルでのナラティブ(Corporate Narrative)ですね。さらに、観客側のナラティブ(Audience Narrative)も意識します。これは、多数のナラティブを統合しなければなりません。やっかいなのは、SNS全盛の時代にあって、観客側のナラティブは常に変化するということです。これは、ハロー・キティやミッキーマウスですらそうです。ですので、弊社では、Exegesis (釈義、解説)、つまり「ストーリーの外側すらストーリーである」としてデザインするのです。またこれらについてファンと如何にコミュニケーションするかもですね。IPの展開について相談を受ける場合は、これらすべての要素を分析していきます。

イシイ:私の本でも言及しているのですが、日本にはコミケ文化があって、例えば『Fate』シリーズなどは同人、インディーズから出てきたIPです。つまり、ユーザーが応援して出てきたものです。日本の場合、逆にファンの応援によって育まれないとIPとして成長しないのであまり言及しなかったというのがありますね。

ゴメス:アメリカの場合、非常に情熱的なファンが自己組織化して団結する場合があります。何かが気に入らなかった際、皆で団結してその内容にクレームを入れるのです。結果的にIPブランドを傷つけることすらあります。例えば、映画『ワンダーウーマン 1984』はほんとんどの人にとって「普通の」作品だったのですが、いくつかのシーンが情熱的なファンの琴線に触れてしまい、ファンからの反感を買ってしまったのです。ここで作り手側がなんらかの対応をすればよかったのですが、ワーナー側はこのような場合におけるファンとのコミュニケーション手法を有していませんでした。結果的に状況が悪化し、ブランドにダメージがつきつつあります。なので、ストーリーワールドを構築する際、ユーザーコミュニケーションデザインはどうなるかをあらかじめ決めておく必要があります。『マンダロリアン』のメイキング映像を見れば分かりますが、クリエイターが話し合っている内容の多くがファンについてです。「ファンは、これを好きかな?」「こうしたらファンは喜ぶだろうか?」といった会話が頻繁におこなわれているのです。ストーリーワールドに対するリスペクトを有しながら。ですので、TMSの準備段階でこの発想は重要ですね。

イシイ:日本はこの点について、もともとそういうことがあったと思います。ゲームの中でも運営型のゲーム、MMORPGやスマートフォン向けゲームなどがありますが、すごくファンの声が強いですね。僕自身、ゲームクリエイターなので、ファンの強い声にさらされているところがあります。なので、その経験から言うと、ゴメスさんが言われていることと全く同じです。私はこれを「The People's Champion」と言っていますが、やはり、 ユーザーが応援している中から出てくる作品でないと成功していません。つまり、作り手が「これはいいよね」といって作品を与えてユーザーの反発を受けながら成功したものは日本には大変少ないと思います。

ゴメス:それは興味深いです。そのようなことがあったとは気づいていませんでした。

イシイ:日本もアメリカも多分、一緒ですが、作品の成功と失敗は、ユーザーが決めるという風に思っている人たちがいるんです。「自分たちの声が成功と失敗を決める」という層ですね。なので、このようなお客様たちの声を聞かないとネガティブキャンペーンでIPがダメージを受けてしまう。しかしそれだけでは縮小再生産になってIPが死んでしまう事例が多々あります。大変難しい問題です。

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▲『The Rise of Ultraman』はマーベルコミックによる「ウルトラマン」シリーズ第一弾。表紙は第5号(最終号)これに3月に発売予定の『The Trails of Ultraman』が続く。



ゴメス:これに対抗する方法があります。僕たちはこれを「リジェネレティブ・リスニング(Regenerative Listening)」と呼んでいます。もし、ファンから反発があっても、しっかりとその声を聴き、クリエイターが気にかけてくれることを理解させるようにコミュニケーションをとることが出来ます。もし、「ワンダーウーマン1984」プロジェクトに弊社が関わっていれば、事前にこの状況を察知していたでしょう。また、どのように反応するかについても準備出来ていたと思います。物語の展開について具体的に説明したり、いくつかの内容については「ミスがあったこと」を素直に認めたりするなどです。実際に「ミスを認め、将来的に改善する」という意向を伝えれば、ファンは自身が認められ、作り手側との会話に参加していると実感することが出来るのです。

イシイ:既に出来上がっているIPではゴメスさんが言われるようなコミュニケーションをとることは大事なのですが、非常にパワーが必要になります。なので、僕はインディーズIPの段階、つまり、コアファンとともにIPをつくりあげて、コアファンが守ってくれるというものをつくらないとうまくいかないなという感覚は受けています。

ゴメス:それは天才的ですよ!

イシイ:日本にはアイドル文化があるのですが、この場合、レコード会社がいきなりトップダウンで売り出すのではなく、小さなライブハウスで下積みを通してコアファンをつくってからヒットさせないとうまくいかないというのがあるのですが、実はゲームや映画などクリエイターでも同じだと感じています。

Q:北米ではこのような形でIPを育てるのは可能でしょうか?

ゴメス:まさに「ウルトラマン」シリーズでそれを実践しています。最後の「ウルトラマン」シリーズが北米で展開されたのが1990年代でした。なので、まず、アメリカ国内のコアファンを探しました。だいたい5-6万人程のファンがいることを確認しました。年齢層も私と同じぐらいです。つまり父親または母親になっています。中には私と同様にメディア産業に従事しているひとたちもいます。なので、これらカルトファン層から話を伺いつつそこを基盤にIPを広げていくことにしたのです。ほとんどインディーズのようですね。ここから、ウルトラマンの要素を抽出し、その他の日本的コンテンツ「Power Rangers」、「Pacific Rims」、「Godzilla」との違いを明確に打ち出してきて今に至っています。


 今回も、日本と北米におけるIP展開についてさらに深いところまで言及が進んだ。イシイ氏が提案したIPの分類方法を皮切りにユーザーコミュニティの関わり方などもそれぞれの視点から提示され、その展開方法においてかなり共通点が見いだされたことが興味深い。これらを踏まえ、いよいよ次回は、複雑化が進むメディアミックスならびに北米やヨーロッパ圏で受け入れられつつあるトランスメディア・ストーリーテリングの潮流において、ゲーム、そしてゲームクリエイターが如何なる役割を果たしうるかについてのディスカッションをフィーチャしていく。