中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」に見る日本独自のトランスメディア・ストーリーテリング

2020-10-23 12:00:00

驚愕!

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© 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 という言葉がいちばんしっくりくるかもしれない。映画の興行収益において、日本が世界でトップを飾ったからだ。欧米圏、インド圏において新型コロナの影響がいまだに色濃く劇場映画の鑑賞に影響を与えているのは間違いないが、それでもこれは快挙と言えるだろう。これはもちろん先週末の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のことを指している。

 『鬼滅の刃』とは、週刊少年ジャンプにおいて2016年11号から2020年24号にわたって連載された、大正時代に繰り広げられた人と鬼との闘いを描いた吾峠呼世晴氏の漫画作品。単行本の累計発行部数が22巻までで1億冊以上の発行部数を誇る超ヒット作品となっている。

 これを牽引したのが2019年4月~9月に放送されたテレビアニメ「鬼滅の刃」であろう。何しろ、アニメ放送直前における単行本の累計発行部数は350万部だったのだ※。実に96.5%以上の単行本がテレビアニメ放送後に発行されたことになり、今後もこの比率は上がっていくことになる。

 「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(以下、「無限列車編」)は、原作コミック第7巻、53話まで展開された、主人公、竈門炭治郎の鬼滅隊入隊までの経緯と成長を描く立志編のテレビアニメをそのまま引き継いで描かれた「血風剣戟冒険譚」だ。

 あらすじは、短期間のうちに40人以上が行方不明となった無限列車への捜査を任務として与えられた炭治郎が眠りにつく禰豆子を入れる箱を背負いながら、鬼殺隊同期の我妻善逸、 嘴平伊之助らとともに、最強剣士のひとり炎柱の煉獄杏寿郎と合流し、列車に潜む鬼に対して死闘を繰り広げるというもの。

劇場という環境を最大限に活かして「物語る」

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IMAXで鑑賞すると本作の魅力を最大限に体感することが出来る


 「無限列車編」は原作においては第7巻54話から第8巻第66話までが展開された。前半こそ登場人物がヴィランの「罠」にはまっている状況で動きが少ないが 中盤から終劇まで緊迫したアクションシーンが次々と展開され、観客はいきつく間もないまま、エンドクレジットを見ることになるだろう。

 また、全編にわたり、大スクリーンだからこそ堪能できるシーンが多数、挿入されている。冒頭に描かれた鬼殺隊当主、産屋敷耀哉が鬼殺隊員墓地を訪れていた様子を俯瞰から描いたシーンでのディテール、CGを効果的に活用して描かれた無限列車の疾走感や、本作のヴィラン、十二鬼月の下弦の壱・魘夢による「血気術」が醸し出す禍々しい特殊効果などは劇場映画としての予算だからこそ実現出来るダイナミックな表現だ。

 もちろん、その内外で繰り広げられた剣戟アクションはテレビアニメ版と同様にCGと作画を融合して生み出した躍動感あふれる描画を踏襲しており、その点においても期待を裏切らない。

 さらに見どころはこれまで描かれることがなかった、炎柱、煉獄がくりだす炎の呼吸による奥義の描写だろう。テレビアニメ版のときに神回と言われた第19話での白熱した戦いの中で描かれた「ヒノカミ神楽 炎舞」を彷彿とさせるシーンの連続をIMAXの巨大スクリーンで堪能出来るのだ。

 ここから、「無限列車編」は劇場で体験するのに適したストーリーであり、これをアニメスタジオのufotableはその特性を最大限に活かして描ききったといえる。

TMS的展開が煉獄杏寿郎への感情移入を増幅させる

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 だが、一点、とりわけ、アニメ原理主義者にとって(アニメのみで楽しみたい派)にとっては課題があった。それは無限列車編で重要な役割を担う炎柱、煉獄杏寿郎に対する想い入れを持ちにくいという点だろう。

 漫画版であれば、数巻にも及ぶ登場回数があり、これが週刊誌から追っていたファンであれば、数週間もの間、煉獄を知る機会が得られる。当然、それには脳内補完もあるが、もともと「鬼殺隊の柱」の中でも精悍な顔つきと強靭な身体を併せ持つキャラクターであることもあり、ある程度の時間、キャラクターと接することが出来れば感情移入も容易に出来るようになるだろう。

 だが、アニメ版では後半の4話に登場するが、そのうち、21話および26話はともに最後に一瞬でる程度なので実質的には2話と言っていいだろう。必然的に感情移入はしにくいのだ。

 そこで活かされたのが、入場者特典として無料配布された「鬼滅の刃 煉獄零巻」だ。この冊子には吾峠呼世晴氏による鬼殺隊員時代における煉獄の初任務、つまり、オリジン的ストーリーが収録されており、その主人公然とした性格や劇中、不自然に感じられた行動の理由も示されている。これに加え、上映直前と上映初週にあわせて2週にわたり週刊少年ジャンプで掲載された特別読切『鬼滅の刃煉獄杏寿郎外伝』を読めば柱に昇格する契機となる煉獄の活躍も読むことが出来、さらにキャラクターに対する愛着を深めることが出来る。

 これは劇場用映画、漫画とメディアの垣根を越えて世界観や物語展開を矛盾のない形で拡張させる、トランスメディア・ストーリーテリング(以下、TMS)ということが出来る。映画単体でのゲストキャラクターというよりは「鬼滅の刃」シリーズ全体を通して影響を与えるキャラクターのオリジン・ストーリーがこのような形で展開されているという点は特筆に値する。なお、少年ジャンプに掲載された外伝は別時期に特別掲載された『富岡義勇外伝』ならびにミニエピソード集の『きめつのあいま!』とともに1冊のコミックとして『鬼滅の刃』最終巻とともに同時発売される予定だ。

TMS的な発展が続くのか往年のメディアミックス的展開にもどるのか?

 気になるのは今後の展開だ。『鬼滅の刃』の原作である漫画版は既に終了しているが今回の劇場用アニメの大ヒットで、原作ファンとアニメファンの双方が今後もアニメ化を望んでいることが明確になった。

 以降、戦略的に重要となるのはどう残りの「物語」を「切り取って」いくかだろう。もちろんこれだけファンがいることを踏まえれば無限列車編に新規コンテンツを追加して、これ全体を第2シーズンとして放送することも可能だろう。そのような展開がこれまでのメディアミックスにおける王道であり、ファンはそれでもついてくる。

 その一方で、個人的成長や人間ドラマといったじっくりと時間をかけて描く部分をテレビで展開して登場人物としての魅力を最大限にし、今回のようなスケールの大きな部分は予算をかけて劇場版で展開すると明確に切り分け、必要に応じて、外伝漫画などで補足するといった展開もファンは受け入れられる可能性を今回の成功は示唆している。これはつまり、日本型TMSを更に且つ戦略的に拡張することを意味する。

 これに加えて、これらの作品の中で要的な存在となりうるのが、2021年に発売を控えているゲームだろう。テレビアニメ、劇場用アニメ、そして別冊マンガや場合によっては外伝版小説などの複数のメディアによる展開の延長戦上にゲームソフトを如何にはめ込むかも更なるIPの発展という面で重要になってくるだろう。それには緻密な計算が不可欠になるが、それが出来れば、ハリウッド映画に匹敵する熱狂をグローバル規模で生み出すことが出来る可能性を秘めている。



© 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable