中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】2020年は「混沌」の1年。これまで育まれたカオスが次世代の機動力に

2020-01-07 15:30:00

 2019年はトランスメディア・ストーリーテリング(英語 Transmedia Storytelling、以下、TMS)を代表するサーガが次々と最終幕を迎える1年であった。マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)における「インフィニティ・サーガ」、スターウォーズシリーズにおける「スカイウォーカー・サーガ」、そして『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下『GOT』)シリーズなどだ。MCUはファンから絶大な支持を受けたものの、それ以外は賛否両論を呼び起こした終幕ではあったが、これらの作品全てが興行収益や視聴者数で歴代トップクラスの実績をあげている。さらに、すべてのシリーズにおいて、今後もTMSとしての展開が確定しており(『GOT』に関してはこれからTMSとして本格的に進められる)、もはや欧米における大規模シリーズプロジェクトとTMS的展開は切っても切れない関係になっている。

TMS的展開が様々な形で示された日本のエンタメ業界

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▲ 「インフィニティ・サーガ」はアメリカのみならず中国も巻き込んだ社会現象に



 メディアミックス大国、日本においても、TMS的展開が進展したシリーズがある。例えば、『機動戦士ガンダム』シリーズの「宇宙世紀サーガ」において、『UC NexT 0100』を立ち上げることが発表された。『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』の正統的な続編であると同時に、時系列的には『機動戦士ガンダムUC』後の宇宙世紀105年に位置づけられる『機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ』を皮切りに、従来、系統だって描かれることがなかった宇宙世紀100年以降も描いていくこと匂わせている。

 一方、「Fate」シリーズはゲームアプリ『Fate/Grand Order』で従来のパッケージゲームや同作など、その登場人物の時空間軸を中心とした作品群の展開から、大きく世界観を拡張しつつ物語自体もスケールアップすることで、TMSとして独自な展開が進んでいる。2019年にはアニメ『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』 が始動。同作はアプリ第一部第七特異点のシナリオを中心にアニメ化してためTMSではない。このように「Fate」シリーズは、『Fate/stay night』を中心とした作品群と「FGO」によるTMS的発展(ゲームアプリ化の特性を踏まえたうでの物語及び世界観の拡張)、「FGO」の一部を原作とした他メディアへの作品群という形で従来のメディアミックスとTMSが交互に展開されている。

 また、『鬼滅の刃』は、2019年夏のテレビアニメ第1シーズン放送時から社会現象となり国内のコンテンツ業界をもりあげたが、早くも劇場用アニメの上映が決定している。無限列車編は比較的短い期間で、激しい戦闘シーンが続くパートであるため、2時間程度の上映時間で密度の濃い物語体験が期待できそうだ。

 従来、マンガを原作としたテレビアニメが映画化された場合、テレビアニメ版の総集編か、外伝または、エピローグ的なものが展開されてきた。マンガの実写化の場合、『信長協奏曲』が本能寺の変編を劇場用映画で(原作マンガの進行を飛び越えて)展開。『のだめカンタービレ』が巴里編を『最終楽章前後編』と2作にわたり劇場用映画化し、それぞれ好評を博した。ただいずれも、物語終盤のクライマックスを劇場用映画にした例だ。これに対し、今回は、連載中のマンガ原作における中盤を劇場で展開する例になる。このまま第2シーズンのテレビアニメ化が進んだ場合、映画を鑑賞せずに第2シーズンを見始めると、かなり重要な部分を未見のまま臨んでしまう。これはプロデュースする側にとってひとつの賭けになるだろう。SNSで炎上することなく、かつ興行収益も想定範囲の数値を叩き出すことができれば、新たなビジネスモデルが誕生することを意味する。

ポストMCU「インフィニティ・サーガ」の時代を作り出す日本的(発)TMSは生まれるのか?

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▲ハリウッド型TMSとは違ったモデルに生み出されるのか?


 さらに気になるのは、西野亮廣氏と株式会社NISHINO(西野亮廣エンタメ研究所)が展開している「えんとつ町のプペル」シリーズ(以下、「プぺル」)の行方だ。同シリーズは42万部を売り上げた絵本を皮切りに、その物語と世界観を追体験できるVRを展開したのに加え、国内外で光る絵の展示を続けてきたが、その会場自体はプぺルの世界観をそのまま踏襲した空間デザインを設計した。また、渋谷で、無料でコーヒーを試飲したり、西野氏の絵本やグッズを購入したりできる「無料のコーヒー屋さん」、SHIBUYA FREE COFFEEも展開しているが、この拠点もプぺルの世界観を踏襲している。これらの施策は受け手を「プぺル」の世界へと没入させる、または、世界に参加(ボランティア活動も含め)させる要因となっている。いずれもTMSを成功させる上での重要な要素だ。

 また、2020年は劇場用アニメーションが控えているが、同作は絵本での物語を端緒として物語を大幅に拡張して展開すると発表されている。これは媒体の特性にあわせて物語を展開し、後につなぎ合わせることで重厚な世界観や物語体験ができるTMSの構成だ。注目されるのは、こういった様々な仕掛けを西野亮廣氏というクリエイターと、同氏を支えるプロ、ファン、そして有志が一体となって生み出している点だろう。このような組織形態は、米国法科大学院出身のエリート集団で法務部が固められているハリウッドメジャー系では生み出しようがない体制だ。

 確かに、西野氏の取組は日本を含め前例がなく、一般的な企業がこの手法を模倣することはおそらく不可能であるため、これは日本的というよりは日本発TMSとした方がより正確だろう。いずれにしても、日本的(発)TMSは2019年、たしかに台頭してきており、事業展開としての類型が明らかになるのは2020年なのだ。世界観を深堀りする展開と、メディアやグッズを横断させてタッチポイントを広げる仕掛けをどう配分するかが成功につながるのか注目されるところだ。

eスポーツ、5G、8K,あらゆるものが交差する2020年

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▲ルーカスフィルムシンガポール(通称サンドクローラー)。ここでスターウォーズの新シリーズの一部が制作されている



 ただ、2020年の動向はこれまでにとどまらない。昨年はeスポーツについても、様々な団体や協会が群雄割拠して台頭したが、現段階で明確なのは、こういった興行は、ゲームそのものに対するプロモーション効果はあるものの、中国や欧米のようなビジネスエコシステムが構築されるかは未知数であることだ。今後の協業と淘汰ならびに行政側の規制緩和などがうまくつながれば、中国や欧米並みの競争力と影響力を持つ分野になる可能性はあるものの、現在は事業基盤を根付かせるべく先行投資をしている最中だ。これに、通信業界における5G、そしてテレビにおける8Kの本格化が同時進行でうねりのごとく進められるのだ。

 まさに2020年は「カオス」という言葉がしっくりくる1年になる予感がする。だが決して悲観的な「カオス」ではない。むしろ、これからの日本におけるゲーム、さらにはエンタメ業界を決定づける1年になることだろう!