中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】eスポーツの隠れた名門 ―立命館大学に在籍するプレイヤーたち
2019-06-28 12:00:00
前回、2018年に「eスポーツ元年」と言われていながら、大学における正規課外活動としてeスポーツが認知されるのにどの程度時間がかかるかという点を、筆者が所属している立命館大学の制度を例に解説した。そこで筆者が強調したかったのは、非公認サークルから公認団体にまで昇格するのに5年以上かかるという点について批判しているわけではない、ということだ。そもそもこの制度は、学生たちが考えた制度なので教員が介入する権利がないというのもあるが、大学生時代は課外活動団体を「隠れ蓑」として大学内で本来、学生が望まないような活動を行う組織が入り込んでしまう可能性があるため、そこから学生を守る手段にもなっているのだ。したがって、制度上、安易に公認可できない仕組みになっているのはむしろ学生のためでもある。
「eスポーツ」という活動が学生にとって誠に有益なものであれば、メンバー同士がその志を継承し、着実に活動を継続させ、数世代後には正面から公認団体という立ち位置を獲得すればいいのだ。実際、前述の制度にとらわれず活動の幅を広げられるのが学生の力であり、それこそが、大学そのものの活力と言えるだろう。
隠れた名門 -立命館大学に在籍するeスポーツプレイヤーたち
実はeスポーツに関して言えば、立命館大学は隠れた名門だ。前回、解説したとおり、eスポーツイベントが開催されたのが日本において比較的最初期であったのみならず、今年の「Shadowverse University League 19-20 Season1」では、立命館大学シャドウバースサークルが優勝した。さらに「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2019」 ゲーム部門でベスト32に選出され、世界大会への進出が約束された学生は立命館衣笠ポケモンサークルPTP(以下、PTP)の所属だ。これに加え、2018年に開催されたよしもとゲーミングプロ選抜トーナメントの『ストリートファイターV』部門で優勝。2019年6月2日に開催された「Beast TV杯01」でも優勝し、海外大会への渡航&宿泊チケットを獲得したカワノ氏も立命館大学在籍だ。つまり、今年、国内eスポーツにおける主要3ゲームで優勝、または世界大会への参加権を獲得している選手が在籍しているのが立命館大学なのだ。
「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2019」 ベスト32に輝いたスエフジタクロウ選手
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▲インタビューを受けるスエフジタクロウ選手 |
今回、筆者は「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2019」のゲーム部門でベスト32に選出され、世界大会への出場権を獲得している立命館衣笠ポケモンサークル所属のスエフジタクロウ選手にインタビューをする機会を得た。スエフジ選手が始めて「ポケモン」を手にしたのは4歳のとき。『ポケットモンスター ルビー・サファイア』を友達や兄と一緒にプレイしていたという。対戦するという文化を知ったのが『ポケットモンスターブラック・ホワイト』が発売された中学生のころ。ただ、「ポケモン」シリーズ以外のゲームも普通にプレイしたり、プラモデルをつくったりとあくまでも趣味のひとつという感じでプレイしてきた。
本格的に競技としてプレイし始めたのは大学生になってからだ。立命館大学法学部に推薦で入学。大学生活をエンジョイするべく自分にあったサークルを探しているときに目にとまったのが、PTPだった。前述のようにポケモンを長きにわたってプレイしてきたことから何となく参加した。1年生の際は週に2回ある活動にもほぼ毎回参加していたという。この時期から1日3~4時間はゲームに費やすようになった。
また、多数の構築記事などを確認し研究も進めていった。転機が訪れたのは、大学2年のときに体験した「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2018」。このときは、観戦者として参加したが、その雰囲気に圧倒されたという。オンラインでは、ステージでプレイされる配信卓しか見えないのだが、スエフジ選手は柵で区切られた状態で対戦しているプレイヤーたちの緊張感あふれる空気に衝撃を受けたのだ。「すごく刺激になりました!」とスエフジ選手。以降、集中してゲームをプレイするようになり、3年生進級前の春休みは、ほぼ連日ずっとプレイしたという。また、PTPのつながりで知り合いになったプレイヤーとの切磋琢磨も、ゲームプレイのスキルアップにつながった。
渡航費、オンライン対戦用情報環境の整備 ―世界大会への参加権を獲得したeスポーツ選手が大学に望むもの
そのようなこともあり、「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2019」ゲーム部門のオンライン予選を見事に突破し、本選進出者となったのだ。だが、旅費や宿泊費がない。そこで手をあげてくれたのがバイト先だ。京都のQエースというデバッグ専門の会社だったが、同社のロゴが入ったTシャツを着るかわりにと援助金を渡してくれたという。本戦で勝ち抜くための戦略も練った。今回は存在するポケモン800体と伝説のポケモン2体の中からポケモンをセレクトできるというルール。オンライン予選で使われたポケモンの組合せは公開されているので、使用頻度の高いポケモンの組合せを検討し、より有利になるポケモンの組合せを考えた。同時に全く同じ組合せになることもまずないためにアドリブで対応するための努力も重ねた。対戦相手には昨年の世界ベスト16、世界大会3年連続出場者、オンライン予選1位の選手といった強豪がズラリ。だが、このような緊迫する環境であったのにも関わらず、7戦中、4勝3敗となり、世界大会への出場が決まった。今回は、スイスドロー方式を採用したため勝ち点を計上しており、そのポイントによるランキングではベスト32位となった。現在は、平日平均3~4時間をゲームプレイに費やし、8月16日にワシントンDCで開催予定の「2019 Pokemon World Championships」の準備を着々と進めているという。本来は1日8時間プレイするのがベストだが、「留年はしたくないので」とスエフジ選手は笑いながら答える。
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▲ベスト32位の記念に他のプレイヤーとともに記念撮影をするスエフジ選手 |
世界大会参加についてQエースに報告したところ、「さすがにその渡航費などを出せる予算はない」との回答を得たとのこと。今回ばかりはすべて自費で行くしかなさそうだ。
最後に、大学に望むことについて聞いた。「やはり渡航費は欲しいですね」とスエフジ選手。さらに普通の練習ができる場所も欲しいとも。というのは現在、基本的に練習をする場所は自宅。たとえ学内でやろうとしてもWi-Fi環境がゲームプレイをするにはかんばしくなく、結局、自宅に戻りプレイすることも多いのだという。国内大会や国際大会への遠征費や、オンライン対戦用情報環境の整備……、望むものは決して多いわけではない。公認団体となればこれらを得ることはたやすいだろう。ただ幸いなことに立命館大学には、実績を残した学生であれば、立命館大学アスリート・クリエーター育成奨学金を始め、個人で申請できる助成金制度がいくつかあるので、今後はサークルの状況に関わらずそのような形で支援を得られる可能性はある。
いずれにしても、スエフジ選手のように学業とともに両立させながら国内外の大会に出場する選手が増えることで、PTPの、そしてeスポーツの立命館内での位置づけも着実に向上していくだろう。つまり、いまが団体としての踏ん張りどころだ。
参考URL
株式会社Qエース
ポケモンジャパンチャンピオンシップス2019
2019 Pokemon World Championships