中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

  1. ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com>
  2. 企画・連載>
  3. 中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編>
  4. 【ブログ】日本の大学におけるeスポーツ活動の現状と今後の展望

【ブログ】日本の大学におけるeスポーツ活動の現状と今後の展望

2019-06-14 17:30:00

CAPtitle

▲たしかにeスポーツは盛り上がりつつあるが大学は?
(写真はTaipei Game ShowでのXFLAGによるモンスターストライクSpecial Exhibition)

 2018年に「eスポーツ元年」と言われて以来、国内各地でeスポーツを部活動とする高校が生まれたり、全国高校eスポーツ選手権が開催されたりするなど、盛り上がりを見せるが、大学での動きが余り見えてこない。では、大学においてeスポーツが行われていないかというとそうではない。事実、筆者は立命館大学映像学部の自主ゼミであるゲーム研究会の担任を務めているが、そこに在籍している学生たちの要望でRits-eSports Festivalの開催を教員の立場として2009年12月からサポートしてきた[1]。以降、同研究会はアークシステムワークス、SNKなど様々な企業からの協力を受け、eスポーツのイベント活動を行ってきた。「ゲームを使って競技的な活動をする」という視点で考えてみれば、大学という場はむしろ理想的ともいえる。10代後半から20代前半の若者たちがあつまり、新しいモノに対しても極めて欲張りな世代であることから当然だろう。実際、デジタルゲームの競技は1972年10月、スタンフォード大学Artificial Laboratoryで初めて開催されたとされる。競技種目は『Space Wars』で10数名が参加し、ブルース・バウムガート氏(Bruce Baumgart)が優勝したことまで記録に残っている[2]。また、Nintendo of Americaも欧米版スーパーファミコンであるSuper Nintendo Entertainment System発売前後の1991年から1992年にNintendo Campus Challengeを開催。アメリカ、カナダであわせて50校でゲーム大会が実施され、『Super Mario Bros3』『PinBot』並びに『Dr Mario』がセットとなったゲームのプレイスコアを競っていた[3]。ただ、アメリカにおいてもeスポーツ活動の本格化が進んだのは2009年ごろからだ。リアルタイム戦略ゲーム、『Star Craft:Brood War』の大学トーナメントが開催、そこに25校が参加した。これにより、大学間のリーグ戦を定期的に行うThe Collegiate Starleagueが設立され、同リーグは現在、毎年900もの大学、30,000人ものプレイヤーが活発にリーグで対戦をしている[4]。これに加え、2013年にはBlizzardが大学トーナメントを支援するためにテキサスeスポーツ協会と連携を開始し、2014年、ライオットゲームズがLOL大学プログラムの支援を開始している。さらに2016年、NPO法人The National Association of Collegiate Esports (NACE) が設立され、130校が参画、3000以上の学生アスリートが同団体主催の競技に参加し、総額1500万ドルにも及ぶ奨学金による支援を受けた[5]。

中国でも進展するeスポーツの大学への取り込み

 中国では2003年11月の段階で国家体育総局がeスポーツを第99番項目の『スポーツ』と認定するなど積極的に取り込んできた。これらを踏まえ「大学電子スポーツ協会(大学電子競技協会)」というキーワードを百度百科で調べその設立年を確認すると、湖南省・湘潭大学、福建省・福州大学、吉林省・吉林大学などが2003年には協会を立ち上げ、2005年には重慶郵電大学、復旦大学 江西財経大学の設立を確認できるなど、早期から、大学においてeスポーツを承認する動きが出てきた。だが中国がeスポーツ産業振興を本格的に進めていったのは2010年前後からで、その点については拙稿「ゲーム・アズ・ア・サービスの2018年に学ぶ、ゲーム・サービス先進国、中国(その2)」で示している。このような環境下、2016年、2018年と、中国大学生eスポーツリーグが開催され、今年もそれは継続されている[6][7]。

日本の大学におけるeスポーツの展開も2009年ごろから

 実は、日本の大学におけるeスポーツの活動も決してアメリカや中国と比較して極端に遅いという訳はない。例えば本稿が連載されているファミ通でも2009年6月14日、オール早稲田eスポーツ選手権を開催した旨を報じている[8]。また、筆者が属する立命館大学も、同年12月から継続的にeスポーツイベントを行ってきた。この他にも駒澤大学ではeスポーツオープン選手権大会が、電気通信大学ではUEC e-CUP 2009などが開催されている[9]。このように各大学で単発的に行われはじめてから程なくしてeスポーツ学生連盟などが発足されたが、同連盟は現在休眠状態となっている[10]。このようにいくつかの団体の活動が一進一退を続けつつも、2013年には全国ポケモンサークルリーグが開催。日本各地の大学サークルから派遣されたチームの団体戦によるトーナメントが行われ、同全国大会は現在も続いている[11]。日本各地の大学サークルから派遣されたチームの団体戦によるトーナメントが行われ、同全国大会は現在も続いている[11]。また、2014年に格闘ゲーム大学対抗戦が開催され、現在は100以上の大学所属の現役学生がトーナメントに参加している大規模なトーナメントへと成長した。2019年には10回目のトーナメントが進行中だ[12]。この他に、2016年からはライアットゲームズジャパンがソフトバング系列のゲームバンクとともに『League of Legends』の学生コミュニティ支援プログラム、e-Sports Student Partnerプログラムを開始[13]、その成果の結実として2018年7月15日には全日本大学『LoL』選手権が開催されている[14]。また『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズの対抗戦を行っているサークルも多数あり、2018年には関西にて大学対抗戦が開催された[15]。これに加え、Cygamesも2019年4月から『Shadowverse』の大学生リーグを開幕中だ[16]。

大学eスポーツを盛り上げるために必要となる組織化

CAP003

▲総合大学で見るスポーツや文芸競技関連の部活動の構造は予想以上に複雑だ。eスポーツの団体も他団体と同じ手順を踏まない限りその存在を高めることはできない。
※年代は、Twitter登録年を指す

 このように日本の大学におけるeスポーツとしての活動そのものは、アメリカ、中国と比較しても極端に遅れていたわけではない。むしろ、ゲームセンターなどにおける非公式な(またはカジュアルな)大学対抗戦などが行われた可能性なども考えると、実はデジタルゲームを用いた競技という活動自体は日本の大学生の間で、かなり長きにわたり行われてきたと推測される。では、なんとなくイメージとして日本における大学eスポーツが遅れているように見えるのはなぜか? それは「組織化」の欠如としかいいいようがない。例えば、昨年近畿大学において『Shadowverse』のイベントが行われ、話題にもなったが[17]、近畿大学のクラブ情報サイトには主催した団体、近畿大学eスポーツサークルの名前はない。これは同サークルが非公式サークルと言われる団体だからだ。実は筆者が所属している立命館大学にも数多くのeスポーツに関連した団体はあるが、大学ホームページとしては登録団体の「文化系その他」に立命館PTPとBKCポケモンサークルと2団体しか示されていない[18]。なぜか? それは、課外活動団体の登録を司るのが学生自治組織であり、さらにその活動状況に応じて、団体の位置づけを審査するが、大学内における組織での存在感を高めるには継続的な実績の積み上げが必要だからだ。

 どの程度の積み上げが必要なのか? 目安にするために大学の課外活動における花形と言えるアメリカンフットボール部(アメフト)や、囲碁研究部などと比較してみよう。現在立命館大学にはおおよそ、450もの課外活動団体が存在するが、アメフトや囲碁研究部は「重点強化クラブ」に位置づけられる。いわゆる、リーグ戦などで善戦したり、全国大会で上位になったりした際、学内広報ページや、ときにはニュースで扱われる部活動のほとんどはここに位置づけられる。ここまでくると、活動に教職員から顧問がつくのに加え、遠征費、外部指導者(コーチ)への謝礼、強化合宿費などが助成される。だが、ここまでたどり着くのは450団体のうち15程度(2018年度は17)と狭き道だ。教職員が顧問としてつき、一部遠征費などの財政支援などが得られるのが公認団体で、これが、150ほど存在(2017年度)する。だがこれらの組織はかなり歴史のある団体が多い。その理由については、この制度自体と関係しているので後述する。この公認団体に昇格するまえの段階に位置づけられる団体が同好会や、任意団体だ。最も多いのが登録団体と言われるもので、2017年度の段階ではおよそ250がそれに位置づけられるとされた[19]。では、eスポーツサークルの場合はどうか? 実は大学側に申請もしていない非登録団体が多いのだ。では、非登録団体から公認団体へと昇格するには何か必要なのか? 端的に言えば「時間」だ。定期的に活動し、実績を重ねていかなければならない。活動をはじめてから登録申請をするまで規約違反などなく活動し、2回の程の審査を経た後、晴れて登録団体へと昇格する。前述の立命館PTPやBKCポケモンサークルは2013年から継続的な活動を続けることで登録団体に昇格したのだ。ただここから任意団体に昇格するのには1年以上、同好会になるにはそこから2年以上の活動実績と非公認団体会議への出席が義務づけられ、そこから審査を経てこれらのポジションを得ることができる。本来、立命館PTPや、BKCポケモンサークルは、任意団体として認定されてもおかしくない活動実績があるが、審査を申請していないか、これ以上、団体としての位置づけを昇格することに意義を見いだしていない可能性がある。ただ公認団体になるには、そこからさらに2年活動を継続し、会計報告なども提出が義務づけられる。その上に更なる審査が入るため、そのまますぐに昇格するとは限らないのが実情だ[20]。つまり、これだけで6年はかかってしまうということだ。この時点で最初にサークルを立ち上げた学生は、卒業してしまう。また、多くのサークルの中には歴史も実績もありながら、登録団体のままというところも多数あり、そのような中で、最短期間での公認団体入りを目指すのは容易ではないだろう。ただ、公認団体のみに認められた財政支援もある。したがって、国内外における大会の遠征費、最新PCや、マウス、キーボードなど最新機材の有無によって勝敗が左右されるプレイヤーにとって、これらの支援を受けられないのはかなり厳しい。だいたい総合大学における課外活動の制度はこのような内容を踏襲しているために他大学に属するeスポーツアスリートも全く同じ境遇にあると考えられる。

団体として囲碁将棋、競技かるたなどと同等の扱いになるには最短でも6年は必要

 ただ、救いがないわけではない。大学側も優れたクリエイターやアスリートという個人を助成する制度も確立している。これまで、少なくとも立命館においてはeスポーツでこの制度を活用したプレイヤーはまだ存在しないものの、もし採択されれば、団体に対する支援自体はしばらく先になる可能性があっても、個人に対しての支援は実績さえあればすぐに得られる可能性はある。ただいずれにしても、少なくとも総合大学においては、野球や、アメフト、囲碁、将棋、競技かるたなどと同じような形でeスポーツを扱えるようになるのは最短でも5年はかかりそうだ。eスポーツアスリート個人による総合大学での孤軍奮闘はもうしばらく続かざるを得ない……。

■参考資料・参考URL
[1]2009年12月20日(日)実施された。競技種目は『FIFA09 WORLD CLASS SOCCER』と『ぷよぷよフィーバー2』<http://gamestudy.web.fc2.com/>
[2]Lecourt, H (2018) “First eSport Tournament” be-quipe https://bequipe.com/first-esport-tournament/
[3]Guinness World Records 2017 Gamer‘s Edition p. 54 で優勝したのは11,765,000点を獲得したChris Bidwellとある。
[4]CSL https://cstarleague.com/about
[5]What is NACE? <https://nacesports.org/about/>
[6]首届中国大学生電競聯賽精彩表演迎賽事開戦(2016/7/22)鳳凰網電競<http://games.ifeng.com/a/20160722/44425658_0.shtml>
[7]公式ホームページ https://sports.qq.com/uclesports/
[8]小里浩一(マグナマ吟)(2009)「あのサンプラザ中野くんも駆けつけた! 早稲田大学でeスポーツイベントが開催」<https://www.famitsu.com/game/news/1224992_1124.html>
[9]電気通信大学で eスポーツイベント『UEC CUP 2009』が 11 月 21 日(土)に開催(2009/11/9)Negitaku.org https://www.negitaku.org/news/n-11641
[10]eスポーツ学生連盟(eSPA)ニコニコミュニティ<https://com.nicovideo.jp/community/co1649307>
[11]全国ポケモンリーグ http://pokecircleleague.blog.fc2.com/
[12]格闘ゲーム大学対抗戦運営ブログ<http://www.fg-univ-compe.xrea.jp/>
[13]学生コミュニティ支援プログラム<https://jp.leagueoflegends.com/ja/news/community/university/gakusei_community>
[14]League of Legends 公式ホームページ<https://jp.leagueoflegends.com/ja/news/community/university/gakusei_community>
[15]「スマブラforWiiU 第2回 関西 大学対抗戦 & U-18大会 は終了しました。」『Cyclops: Athlete Gaming』<http://cyclops-osaka.jp/2018/05/12/6910/>
[16]Shadowvers University League<https://shadowversecampus.jp/league/>
[17]「近畿大学esportsサークルがオープンキャンパスで『シャドウバース』の公式イベントを開催!人気ゲーム実況者もこうとの対戦会も!」Kindaipick<https://kindaipicks.com/article/001518>
[18]立命館大学 Culture団体紹介<http://www.ritsumei.ac.jp/sports-culture/culture/group/>
[19]立命館大学学生部(2017)「課外自主活動ハンドブック2017年度立命館大学課外自主活動の手引き」<http://www.ritsumei.ac.jp/file.jsp?id=332996>
[20]立命館大学学友会芸総部規約< http://www.ritsumei.ac.jp/file.jsp?id=227682&f=.pdf>