中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】ファクトチェック:任天堂「スイッチ」中国展開について現在明ら かなこと
2019-04-22 18:00:00
中国ゲーム産業関連で久々にメディアが沸き立っている。
''任天堂「スイッチ」中国へ 初の本格販売、マリオも認可
(朝日新聞)
任天堂「スイッチ」の中国販売、当局がテンセントに認可
(ブルームバーグ)
「スイッチ」中国進出へ 任天堂、テンセント通じ
(共同通信)
任天堂の「スイッチ」、中国で発売へ ロイター報道
(日本経済新聞)
China approves Tencent to distribute Nintendo Switch video game
(Reuter)''
などだ。
ただ、これらは全て誤解が生じやすいヘッドラインとなっている。そこで、本稿では、現在どこまで明らかとなったのか整理していこう。
事実1 テンセントが任天堂と「スイッチ」の中国展開について協業していることが明らかになったこと。
![]() |
この表には、テンセント(騰訊科技(深セン)有限公司)が申請した、「Nintendo Switch遊戲機《新 超級馬力欧兄弟U 豪華版(体験版)》」が第106項目目にリストされている。(赤丸は筆者の強調) |
これで従来噂レベルであったテンセントと任天堂の協業が、広東省文化観光庁(原文:文化和旅遊庁)による認可で事実であるということが確認出来た。事実という点においては、これが一番のスクープとなる。
事実2 中国におけるゲーム展開を認可する行政機関のひとつがその展開について認可
![]() |
ゲーム産業認可に関する行政機関 |
中国国内でゲームを展開するにはまずコンテンツの審査を受ける必要があるが、それを司っているのが文化観光部(文化和旅遊部)と、中国共産党中央宣伝部傘下の国家版権局(なお、同局は新聞出版広電総署としての機能も司ることから「一機構二つのブランド名」を採用している)となる。今回は、文化観光部管轄の広東省文化観光が、2019年4月18日、テンセントに対し、Nintendo Switchと「New スーパーマリオブラザーズ U デラックス」(試遊版)の生産及び販売に対し認可をした事実が明らかとなった。だが、コンピュータープログラムの頒布は電子出版行為にあたるためこれらの出版物の認可を司る国家版権局(新聞出版広電総局)からの認可も必要となる。同局は2019年4月2日に認可した作品をリストアップしているが、そちらに「New スーパーマリオブラザーズ U デラックス」(試遊版)は掲載されていない(http://www.sapprft.gov.cn/sapprft/channels/7027.shtml ) 。
事実3 Nintendo Switchと「new スーパーマリオブラザーズ u デラックス」の販売は現段階では決まっていない
現段階では決まっていない。理由は事実2で示したとおり。国家版権局(新聞出版広電総署)のから版号を取得しない限り、中国国内での販売は出来ない。なお、2018年、中国においてオンラインゲームサービス並びにゲームアプリの審査が凍結されたのが話題となったが、凍結した機関は行政改革に伴う管轄が変更となった国家版権局だ。つまり一方の機関が許可したからといって、安易に中国展開が出来ないことはここからも明らかだ。
事実4 任天堂による中国展開は今回が「初の本格販売」ではない
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任天堂の中国展開の軌跡を理解したい場合は拙著『中国ゲーム産業史』を薦めたい |
任天堂は2002年、顔維群博士(Dr. Wei Yen)をパートナーとし神遊科技という合弁企業を立ち上げ、2003年から全国に神遊機というハードを展開している。中国各地にある大規模デパートや携帯機の流通網をパートナーとして展開していたのでその際の試みは実質上の中国主要都市を対象とした大規模展開であり、これは「本格的展開」であったと言える。その後も携帯用ゲーム機はニンテンドー3DS LLまで展開している。さらに神遊科技は2008年末、共同創設者の顔氏による同事業からの撤退するのを受け、全株式を取得し子会社化を進めた。このような中、これまでのハード展開も徐々に縮小し、現在は任天堂のグローバル市場に向けた作品の開発支援業務を行っており、ハード並びにソフトの展開は全て停止している。
その一方で、ソフトの供給は2017年12月にリリースされたNvidiaのゲーミングハード、SHIELDでは、『スーパーマリオギャラクシー』『New スーパーマリオブラザーズ Wii』と『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス 』、『PUNCH-OUT!!』が発売されている。
中国における任天堂展開の鍵はやはりテンセント
ここまでは、現在における一連の報道について確認出来る事実関係だが、一方の機関が許諾をし、他方が許諾をしない場合、静観するというのが最も正しい選択だろう。行政関連については2018年8月における『モンスターハンターワールド』の配信停止、2009年~2010年におこった『The World of Warcraft Wrath of the Lich King』への大幅アップグレードにおける許認可騒動などを見ればテンセントがここまで「ノーコメント」を貫いているのもうなづける。今回の許諾をみても、ソフトとして認可されたのは同梱予定のソフト、1タイトルであることから、このままでは現段階において、中国全市場の1%にすら満たない家庭用ゲーム機市場にどう打って出るかも明確ではない。テンセントのこれまでの姿勢を見れば明らかな通り、正式販売となればしかるべき場所で発表をするのが常だ。そこで明らかとなった事実はスクープとはなりにくいが、こういった、報道の過熱化自体、行政側の判断に影響を与えかねない場合もあるため、ここは、公式情報を待つことを強く薦めたい。
なお、こういった展開をより詳しく理解した方には拙著『中国ゲーム産業史』も紹介しておく。