中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】『ぶんまわしヒーロー』に見る学生時代から本格的なアクションゲームを作り上げるための処方箋

2019-03-18 16:00:00

 一般的な大学の学生たちにとってはこの時期、春季休暇の最中となるが、芸術系大学にとっては非常に重要な時期となる。学びの集大成ともいえる卒業作品を一般公開する卒展の季節だからだ。これは立命館大学映像学部にとっても例外ではない。2月22日から24日 イオンモールKYOTO Sakura 館内にあるT・ジョイ 京都及びKOTO ホールにて立命館映像展が開催された。

 そのような中で、筆者が注目したのがゲームコーナーに展示された『ぶんまわしヒーロー』だ。

 一般的にアカデミックな論文とともに提出される4年生大学という環境では、実験的なゲーム的インタラクティブ作品を個人又は2-3人の共同研究者で開発したものを展示するのが常だが、『ぶんまわしヒーロー』はステージ数や、グラフィック面のクオリティに至るまでフルゲームといっても差し支えないほどの作りこみが行われいた。同作には公式ホームページも存在しており、そのスタッフクレジットを見るとプロトタイプからあわせ総勢11名が開発に携わっている。

 さらに、驚いたのは展示会場そのもののデザイン。BitSummmitや東京ゲームショウの「インディーゲームコーナー」などの展示デザインのような雰囲気になっていたのだ。これら全体をとりまとめたのが、すえなみかつみ君。同時に彼は『ぶんまわしヒーロー』のディレクターでもある。

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突然のインタビューにも快く対応してくれたすえなみ君

『ぶんまわしヒーロー』は展示も含めて4年間の学びが詰まっています!


 もともと、すえなみ君は、ゲームづくりに興味があり、立命館大学映像学部を目指したという。そのようなこともあり、1年生のときから、自主ゼミに参加するなどしてゲームづくりに取り組んできた。さらに、同じ志を持つ学生と交流し、それぞれの視点からゲームづくりについて共に励んでいきたいという想いで2016年5月には、関西学生ゲームコンソーシアムCONNECTを立ち上げ、京都、大阪、岡山の大学や専門学校に在学中の学生たちとつながることでネットワークを学外へと広げると同時に、グローバルゲームジャムに参加するなど業界や一般的なゲームコミュニティとのつながりも強めてきた。結果的に、学内で教えられているUnityやMaya、Zbrushなどの他に、Sprite Studioの勉強会などを開催したり、Substance Painterを独学したりする学生などもあらわれた。

 実際、『ぶんまわしヒーロー』オープニングのアニメや、ゲーム内でストーリーを解説するキャラクターアニメはSprite Studioで開発されている。また、敵キャラクターや、ボスキャラクターなどは、ZbrushやSubstance Painterなどが活用された。ゲームステージの全体構成はもちろんUnityだ。「『ぶんまわしヒーロー』は参加した学生たちそれぞれが学びんだ成果がすべて入っています」とすえなみさんは自信を見せる。

 また、ゲームの開発方法もインディーズコミュニティから学んできた。同作は、プロトタイプ開発を2017年10月ごろから開始し、2018年5月12日、13日に開催されたBitSummit Volume 6の立命館ブース内で初出展。そこでのユーザーからのフィードバックを反映させ、2018年9月20日~23日に開催された東京ゲームショウ2018インディーゲームコーナーで単独出展を果たした。ここでもユーザーの声をゲームデザインに盛り込んでいったという。その一方で、指導教員に対しては、定期的に行われる指導の他には難問に直面したときのみ、アドバイスを伺う程度にとどめたという。「ゲームを教える立場の先生としてではなくクリエイターとしての本質的なことを学びたかったから」とすえなみ君。

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ゲームデザインにおいては武器を「ぶんまわす」ことの爽快感と「飽きのこない」サイクルを意識したという

 もちろん他のゲームの良さを吸収しようという姿勢も。例えば巨大なオブジェクトを「ぶんまわして」敵をなぎ倒すという爽快感は、昨今のスマホ向けアクションRPGの終盤ステージや、『ドラゴンクエストヒーローズ』シリーズなどを参考にしている。また冒頭、派手なアクションで敵を倒すというシーンを入れてから、チュートリアル的なステージに突入することで、ユーザーのゲームプレイに対するモチベーションを高めるという手法は、自身のゲームデザインの研究テーマ「飽きをこさせないゲームサイクル」が実装された。

 ただ、こういったノウハウをゲームデザインに落とし込んだは終盤であったという。東京ゲームショウでの出展以降、ゲームステージ用のフィールドや、3Dモデルなど全体的な作り直し、作りこみが行われたのだ。同時にステージ自身も10X10のモジュールを活用してステージをデザインするなどして、コンピュータの処理を速くするような工夫も施されたという。

ゲームデザインだけでなく出展方法も作品の一部として扱いました

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口コミが広がり取材時も多くのひとがゲームプレイに興じていた

 出展方法についても、ゲーム展示用キャビネットや、ライティングランプの設置方法はBitSummitや、東京ゲームショウのインディーズゲームコーナーを観察しそれらを忠実に再現。その一方で、キャラクター原画などの展示については、大阪で開催されていた「ピクサー展」のギャラリーを参考にしたという。

 これらの努力は、確実に実ったようだ。実際に展示が開始されてから程なくした時、「『ぶんまわしヒーロー』ってマジ面白い」と話している来場者の声を聞き、思わず泣きそうになったという。「もともと、初めて自分たちのゲームを展示したとき、何回も何回もブースに戻ってゲームプレイしてくれたお子さんが忘れられなくてクオリティを高めてきただけに、このときの感動は格別。」とすえなみ君は感慨深く語った。すえなみ君は、既にゲーム事業をグループ傘下に持つ大手IT企業への採用が決まっているが、そこはすぐに社員をグループ会社の社長に据えることで知られている。もしかしたら、ミリオンセラーを狙う新たなグループ会社が生まれるのも、そう遠い日ではないのかもしれない。