中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】「和装コスの聖地」太秦上洛まつりに見る、コミュニティ形成とブランド確立の関係性

2018-11-26 17:00:00

「和装コスの聖地」太秦上洛まつりに見る、コミュニティ形成とブランド確立の関係性

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「歴女」ブームが落ち着いても上洛まつりに参加するコスプレイヤーの推移は安定して1000名前後で推移している


 今年も例年とほぼ同時期の2018年11月17日と18日、東映太秦映画村において、歴史系ポップカルチャーに関する祭典、太秦上洛まつりが開催された。今回は、刀をテーマとして歴代3度目にあたることから「刀(SWORD)参章」として開催が行われた。

 当日は2日間にわたり快晴に恵まれたことにくわえ、東方Projectや、VR、ARなどの先端映像を研究している東映ツークン研究所がブースを構えるなど、バラエティ豊かな展示も行われた。また、映画村内で同時期に展開されている「刀剣乱舞-ONLINE- ~京の軌跡スタンプラリー参~」や、特別展、「京(みやこ)のかたな匠のわざと雅のこころ展」が京都国立博物館で開催されていたことも相まって、会期中はコスプレイヤーの来場者数が2日間で1150人、全来場者数7700人を記録した。

 今回、主催者側として、何人かのコスプレイヤーとも交流出来たが、前述のような「刀剣乱舞」シリーズのキャラクターや「Fate Grand Order」シリーズの和系サーバントといった、近年の主要キャラクターは勿論のこと、「戦国無双」シリーズや「戦国BASARA」シリーズといった、歴史系ポップカルチャーコンテンツの元祖とも言える作品群のコス、「銀魂」シリーズや「るろうに剣心」シリーズなどの少年漫画雑誌から生まれたキャラクター、さらには「薄桜鬼」シリーズ、「曇天にわらう」から「ドリフターズ」まで、歴史系ポップカルチャーコンテンツのあらゆる作品のコスプレイヤーが一堂に会すという雰囲気だった。

 また、来場者からの声を聴く限り、「秋の太秦と言えば和装コス」というブランドも定着しつつあるように見受けられる。これも12年以上、欠かすことなく開催日初日にナイトロケを入れるといった施策による恩恵とも言える。

東映ツークン研究所の最新テクノロジーが実現する「経験」のお土産

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 コスプレイベントの他にブース出展もおこなわれたが、出展者はそれぞれのブースで新たな知見を得られているようだった。まずは東映ツークン研究所だが、同拠点はVR、ARといった映像関連の最新技術を研究する拠点。これまで携わってきた作品についても実写版『銀魂』を皮切りに、『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』や『モンスターハンター:ワールド』 のような映画やゲームの超大作から、Virtual Human Project「SAYA」と言った話題のプロジェクトまで燦然たる実績を連ねる。今回は「ショートムービー撮影~動画合成してみた!~」として、映画村内の会場内いっぱいにグリーンバックを張りめぐらすと同時に本格的な撮影カメラと合成機材も搬入されていた。

 また、合成用素材としては、激しく燃え盛る炎や、桜吹雪などが準備され、参加者はその場で合成結果を確認しながら、これらの動画をバックに自身の殺陣シーンなどを撮影したうえでそれをUSBで持ち帰ることが出来たのだ。

 そこでは多くのコスプレイヤーが自分のお気に入りのポーズを見せ、上述の作品などに携わってきたスタッフ自らの演出により撮影シーンに臨んでいた。写真といった静止画のみならず、本格的な動画も持ち帰ることが出来るという発想自体が斬新で、コスプレイヤーに加え、一般参加者もブースに訪れ、撮影に臨んでいた。

東方Project×太秦上洛まつり「博麗神社~秋祭り2018」

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 もう一方は、東方Project×太秦上洛まつり「博麗神社~秋祭り2018」。東方Projectも太秦上洛まつりには初めての参加となる。ブースには、同コンテンツの主要キャラクターがところ狭しと掲示されており、会場は特別グッズが陳列され、多くの人たちが立ち寄って、グッズを購入していた。

 その中の多くのが、コスプレイヤーだったが、それに加え多かったのが小中学生であったという。東方Projectの動画や音楽などが動画共有サイトなどで公開されているため、そこからファンになっている子供たちも多いのだ。そしてもともと小中学生が来場していることから、自然にこれらの子供たちがブースでグッズを購入していた。これも東映太秦映画村という場所で、イベントをやることの相乗効果と言えるだろう。

コミュニティ形成のもとに確立した「和装コスの聖地」としてのブランド

 当然のことだが、東映太秦映画村は時代劇のテーマパークということもあり、東映撮影所所属の俳優も、新選組隊から、浪人など様々なキャラクターで村内を歩きまわっている。また、村内では貸し仮装サービスもおこなっていることから、姫様、舞子、侍、忍者などに扮した一般客も多数、村内を闊歩している。つまり、一般客とコスプレイヤーが場をともにしていても全く違和感が感じられない場所になっているのだ。おそらく一般客の中には、コスプレイヤーの方々を東映の俳優さんと勘違いしてる人もいることだろう。

 さらにコスプレイヤーの皆さんもお互いに対しても、映画村のスタッフに対しても大変気遣いをしてる姿が見受けられ、ナイトロケには全員が遅れることなくロッカー室に戻っていった。結果的にスタッフ側の夜の撤収も20時後半には終わるほどだった。ここから、如何に和装コスプレイヤーの皆さんが、このナイトロケを大切に感じてるのかが分かる。このように互いに気をつかうべきところは気をつかいつつ、それぞれの「好き」を追求することが、主催する側にとっても、持続的にこのようなイベントを開催することの原動力となるのだ。

 あらゆるトラブルを回避することが、主催側、参加側双方にとって、疲弊することを防ぐ唯一の道でもあるからだ。重要なのはこのように双方がイベントを良くしていこうとする努力の積み上げの末にコミュニティが形成されている事実だ。つまり「和装コミュニティの形成」と「和装コスの聖地としてのブランドの確立」は相互依存関係にあると言えよう。今後の太秦上洛まつりの発展が注目される。