中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】サイバード代表取締役社長 内海州史氏講義録PART2:選択と集中で実現したモバイルサービスの老舗、サイバード再生の軌跡

2018-09-18 14:00:00

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内海氏が代表取締役社長を務めるサイバードの代表作、「イケメンシリーズ」


 今回は前回に引き続き、立命館大学映像学部「グローバルコンテンツ経営」で行われていたサイバード代表取締役社長 内海州史氏による特別講義の後半部分を公開。

 具体的にはゲーム業界のノウハウとディズニー・ジャパンの映画興行ノウハウの融合で実現した『キングダムハーツ』のプロモーション、キューエンタテインメントでの成功譚、そしてサイバード再生の軌跡に関する講演内容をお届けする。

ディズニー独自のシステムを活用して、これまでにないゲームのプロモーションを展開

キングダムハーツ』プロジェクトに、本社からゴーサインが出た後、さらにディズニーとしての力を遺憾なく発揮できたのは、作品プロモーションの時だったと内海氏は語った。同社が得意としていたタイアップを推進したのだ。まず、音楽については野村哲也氏のリクエストとして宇多田ヒカル氏が候補にあがった。通常、そのようなトップアーティストを起用するには、ディズニー側の法務、宇多田ヒカル氏の事務所、レコード会社などと交渉する煩雑な調整が必要となる。だが宇田ヒカル氏がもともとディズニーの大ファンであったこと、ゲームがグローバルに販売される見込みがあったことも好材料となり、日本語版と英語版の楽曲提供に基本合意してくれたのに加え、音楽パブリッシングの窓口がディズニーになることも了承してくれたのだ。

 結果的に、『キングダムハーツ』の主題歌「光」は、宇多田ヒカル氏にとって初めて海外で展開された曲となった。同曲は発売以来3週連続のオリコン1位を獲得し、以降、宇多田ヒカル氏の楽曲は、『キングダムハーツ』シリーズにおけるテーマソングの代名詞となった。

 また、映画上映時に他の企業と組んでプロモーションをするという“co-promotion” という仕組みを『キングダムハーツ』でも導入。三井ホーム、日清、そしてアサヒ飲料とco-promotion 契約を結んだのだ。とりわけ、アサヒ飲料とは当時ゲーム業界史上最大規模となるco-promotionを実現できたと内海氏は当時を振り返る。

 バヤリース オレンジと三ツ矢サイダーを対象に、『キングダムハーツ』のボトルキャップとデザイン缶キャンペーンを実行したのだ。同時にテレビCMでは、これらの商品広告で、前述の主題歌「光」を起用した。デザイン缶は10パターン、『キングダムハーツ』に登場するスクウェア・エニックス側のキャラクターとディズニー側のキャラクターと双方を扱ってもらえたこともあり、結果的にプロモーション効果も高まった。ボトルキャップとデザイン缶を併せた『キングダムハーツ』仕様のドリンクは3000万缶近く作られ、コンビニでもこれらの商品が一斉に並べられたと内海氏は当時について述懐した。これに、SCEとスクウェア・エニックスが展開したテレビ広告も加わり、結果的に『キングダムハーツ』シリーズは、スクウェア・エニックスの主力IPへと成長している。

『ルミナス』でダンスミュージックXパズルという新境地を切り開く

 その後、ゲームクリエイターである水口哲也氏と立ち上げたキューエンタテインメントでの代表的な例として、内海氏があげたのが、『ルミネス』シリーズだ。創業時、チームは3Dアクションゲームの開発を望んだが、スタッフが総勢5名だったこともあり、カジュアルな『Rez』をコンセプトに開発を進めた。

 簡単に言えば、「『Rez』Meets『テトリス』」だったと内海氏はまとめた。ただ、当時、『テトリス』のライセンス獲得が困難だったことから、水口氏のクリエイティブに歩み寄りながら、『Rez』のゲーム性と「簡易パズル」の融合を進めて生まれたのが『ルミネス』だったのだ。同作は、国内ではバンダイ(当時)から、その他の地域ではUbisoftからPlayStation Portableのローンチタイトルとして展開され、グローバルな成功を収めた。

 結果的にアメリカのレビューサイト『Metacritic』で、総得点89点、PlayStation Portable用ゲームソフトの評価ランキングの総合第4位を記録している。

 なお、余談として現在、水口哲也氏が開発中なのがVR対応ゲーム『TETRIS EFFECT』であることに触れ、元々のコンセプトが10数年越しに実現化に向かっていると感慨深く語った。

選択と集中でV字回復を実現したサイバード

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広がる「イケメン」ワールド


 これら、ゲーム産業でのプロジェクトについてひと通り語ったあと、内海氏はいよいよサイバードでの取り組みについて語った。サイバードと言えば、第1世代移動通信システム稼働時の1998年にモバイルコンテンツサービスを早々に展開して成功を収めた老舗のモバイルサービス企業である。だが、老舗であるが故に、スマートフォン時代から更に新たなテクノロジーの時代への潮流に苦戦していたときに、内海氏が代表取締役社長として就任したのだ。

 ここでもまず、内海氏がおこなったのはSWOT分析だ。その結果、選択と集中がサイバードのとるべき戦略であると判断。とりわけ、「イケメンシリーズ」に熱心な女性ファン層がいることに着目。シリーズの強化を進めていったという。これは、ゲーム市場自体の飽和が進む中、女性市場の拡大が進んでいるというデータを元に判断したこと。だが、その考えが確信となったのは、2016年に池袋で開催されていたAnimate Girls Festivalに参加したときだ。1000円の入場券で乙女向けアニメやゲーム関連の商品を買えるイベントだが、その会場の熱気に圧倒された。

 内海氏は、以前、オタク誕生時の秋葉原で同じ現象を見ていたことから、まさにビジネスチャンスだと確信した。そこで、サイバードのリソースを「イケメンシリーズ」に集中させていった。ゲームアプリを中心に、ドラマCD、舞台、アニメ、出版、書籍、コミックといったコンテンツ展開から、アクセサリーをはじめとしたグッズ展開、さらには飲食コラボやカフェ、自治体コラボなどのサービス展開まで、「イケメンシリーズ」に関わるあらゆるコラボレーションを矢継ぎ早に展開したのである。これらを通し、内海氏はSNSで話題を振りまきやすいさまざまの施策を次々と考案し、実行していくことが「イケメンシリーズ」ブランド向上に不可欠だったと指摘した。

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「壁ドン」が世界共通語に?

 現在「イケメンシリーズ」は累計会員数2000万人を突破し、同コンテンツのリアルイベントへの集客も、2015年のイベントでは500名にも満たない状況だったのが、2017年の夏フェスには1500人以上を動員していたのだ。

 また、最近は、イケメンボイスによるUIを堪能できる、「Voice UI」や、イケメン編集者による2.5次元ジャンルを扱った女性をターゲットにしたメディア「numan(ヌーマン)」を展開していることを告げ、さらに女性市場に訴求するサービスを充実させていることを強調した。また、グローバル展開の本格化も視野に入れていると内海氏。具体的な事例として、2017年、ロサンゼルスのAnime ExpoやシンガポールのC3 Anime Festival Asiaの際、サイバードブース内で展開した「壁ドン」展示が大盛況だった様子を示した。「これらを楽しんでいる人は、すべて海外の人たちです。そして彼女たちはこの模様をソーシャルメディアで拡散するのです。これが、わたしたちが作りあげているものです。」と内海氏は力説したうえで、「いま、わたしたちは“Ikemen”を英語化しているが、さらに“Kabedon”も英語にしていきたい。」と抱負を述べた。

 内海氏のキャリアの軌跡を講演で伺うにつけ、同氏の足跡は正に日本におけるゲーム業界の変容を如実にあらわしていると実感した。今後の内海氏ならびにサイバードの躍進に期待が膨らむばかりだ。

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中村彰憲 著
中国ゲーム産業史 テンセント・NetEaseなどの企業躍進の秘密
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