中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】ゲーム・アズ・ア・サービスの2018年に学ぶ、ゲーム・サービス先進国、中国(その2)

2018-05-18 13:00:00

 現在、中国は世界最大のゲーム市場であり、同時にeスポーツが最も盛んな国のひとつでもある。かつて、アメリカや韓国の独壇場でもあったこの領域に中国は如何にして入り込みさらにはそれらの市場すらを凌駕する状況を生み出したのか? 本項は、前項の中国eスポーツ市場の黎明期に関する分析に続き、発展期から現状までを俯瞰する。

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アジア最大規模のゲームショウ、China Joyにおいてもeスポーツは目玉イベントのひとつだ

オンラインゲーム産業黎明期から、支援を進めた中国

 中国はオンラインゲーム産業黎明期から積極的にeスポーツの国内振興に努めてきた。その経緯はこちら(http://www.famitsu.com/guc/blog/108583/13085.html)を参照いただきたい。

 そのような事もあり、現在、中国はeスポーツにおいても、プレイヤー人口、賞金授与総額ならびに、市場規模といずれの視点においても世界最大の規模にまで成長した。そしてそのような大規模化の背景には、同国におけるeスポーツをとりまくビジネスエコシステムの形成とその形成に向けて積極的な支援をおこなった行政機関の存在があった。

国が支援するeスポーツ大会に賞金総額400万元(6600万円)

 まず規制などの状況だが、中国の法規制において、eスポーツイベントの主催者が多額の賞金を授与することを妨げるような規制は無い。そのようなこともあり、中国国家体育総局(以下、体育総局)は、ゲーム産業が成立した黎明期から、eスポーツの国内大会を支援してきており、eスポーツイベントの実施を支援し、これらのイベントでも賞金が授与されてきた。

 例えば、2010年、体育総局主催で開催された全国電子競技公開大会では、賞金総額32.3万元(532.95万円)が与えられている 。この大会は以降、行われることはなかったが、そのかわり2013年に、予選から数か月をかけて決勝までおこなう全国電子競技大会(National Electronics Sports Tournament、略称、NEST)を開始した。本大会は、オンライン上での選抜戦、実際の会場での選抜戦、そして統一選抜戦を勝ち残ったチームが、決勝戦で戦う方式を採用している。同大会の賞金総額は2015年に150万元(2475万円)、そして2017年には194万3000元(3205万円)にまで上昇している。

 一方、2014年から開始された全国電子競技公開大会(英語名National Electronic Sports Open 略称、NESO、以下、NESO)は、中国各地で予選を行い、各地域で最終的に参加するチーム数を確定してから、決勝トーナメントを実施するという方式だ。第一回目は『League of Legends』、『DOTA2』、『Star Craft 2』、『FIFA Online 3』、『NBA2K Online』並びに『War Craft 3』を正式種目として16もの省及び直轄市から代表が参加し、同年12月5日~7日にかけて青島国際展示センターで腕を競った。優勝賞金は80万元(1320万円)だが、参加する地域は回を重ねることに増加しており、ブランドの安定化が進んでいるのが分かる。

 さらに2016年からはCHINA TOP国家杯電子競技大赛を開催した。国家杯、すなわちナショナルカップを謳うだけあり、賞金総額も400万元(6600万円)と高く設定されている。

 いずれにしても、国家機関が賞金を拠出している段階で如何にeスポーツを中国が後押ししているかが分かる。一方、国際的な大会で上位を狙うためにeスポーツ選手の強化策も2007年から2010年に選抜制国家強化訓練としておこなわれた 。また、若い才能を育てるために2016年から高校生を対象としたeスポーツ大会も開催している。

PCオンラインゲーム、ゲームアプリ、ともに最も人気なのは、eスポーツの正式種目

 このような流れの中、eスポーツ向けゲームもほぼ同時期に、人気が高まっていった。2010年ごろからクライアントダウンロード型オンラインゲームの中でeスポーツ向けと世界的に評価の高い、『World of Tanks』、『League of Legends』、『Dota2』などが中国国内においても支持を得ていたのだ。ゲームアプリにおいても2015年に11月にリリースされた『王者栄耀』のような多人数オンラインバトルアリーナ(英語名 Multiplayer Online Battle Arena、以下、MOBA)は、社会現象を巻き起こした。同作の人気は維持されているが、2017年後半からは同年初旬にリリースされたPC向けゲームソフト『Players Unknown Battle Ground』(以下、『PUBG』)の爆発的人気を受けて隆盛した「バトルロイヤル型」シューティングゲームのモバイル版も各パブリッシャーからリリースされている。NetEaseからは『荒野行動』並びに『ターミネータ2:ジャッジメントデイ』がリリースされた一方で、テンセントはPUBG Corporationからモバイル版『PUBG』のライセンス許諾をうけ、リリースしたばかりだ。

 MOBAに加え、バトルロイヤル型シューティングゲームにおいてもモバイルゲーム向けに最適化が行われ、中国ユーザーにより支持されつつある。つまり、eスポーツというジャンルはモバイル分野にも広がっている。

中国におけるeスポーツをとりまく周辺産業の発展

 eスポーツはコンテンツそのものだけでは成立しない。ファンならびに潜在的にファンになりうる層をもとりまくコミュニティの存在が不可欠だからだ。そこで重要な役割を果たすのがイベント運営並びにゲームの状況を実況する配信サービスである。中国においてはこういったサービスをおこなう事業も徐々に生まれてきた。まず、NESOを共催している上海岡映文化伝播有限公司はゲーム業界における新世代の娯楽媒体として2006年に創立した。同社は中国において、NESOを共催しながらeスポーツ関連の情報発信及び配信について主要のメディアとなっている。一方、2016年6月20日、NEOTVが、グループ会社としてモバイルゲーム向けイベント運営会社として立ち上げたのがVersus Programing Network(略称、VSPN、以下、VSPN)だ。創業後は、『クラッシュロワイヤル』、『王者栄耀』、『ハースストーン』といった、著名なモバイルゲームを種目としたプロ・リーグによる大会のイベント運営をおこなっている。VSPNはイベント運営が中心で、配信やメディア機能はおこなっていない。この他に運営を主体にしている企業にAlibabaグループの傘下であるAliSportsが、配信を含めた事業をおこなっている企業にVLONG.TVがある。

 このような事もあり、中国においてはeスポーツの大会が多数開催されている。具体的にはNEO TVが運営する、『Star Craft2』のトーナメントNEO STAR LEAGUE(以下、NSL)、Mars Mediaが運営する『Dota2』のトーナメントイベント、Mars Dota2 League (以下、MDL)、ならびに中山電競文化節(中山eスポーツカルチャーフェスティバル)運営によるZhongshan Pro League(以下、ZPL)といった、イベントだ。これらに前述の国家機関主催によるNEST、NESO、China Topなどが加わることで、年間を通してeスポーツへの動員を進めると同時に、高額賞金を目指したプロ・リーグや、プロ・プレイヤーの持続的活動が実現するのだ。

 そして、このような環境とともに成長するのが、プロ・プレイヤーやプロチームである。中国においては、2005年、希瑪(上海)文化伝播有限公司によってWE電子競技倶楽部(英語名、Team WE)が設立された 。これが中国初のプロチームと呼ばれている。この他、著名なチームには、2009年に設立された、LGD-Gaming電子競技倶楽部がある。競技種目は『Dota2』、『LOL』並びに『王者栄耀』などだ。なお、LGD-Gamingのスポンサーである杭州威佩網路は2.8億元の投資を獲得した。このような経緯もあり、中国のプロ・プレイヤーの年間賞金獲得金額は2014年以降、世界トップを維持している 。 興味深いのはこれらプロ・プレイヤーの賞金獲得の推移だ。

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中国人プレイヤーの賞金獲得者が2014年から急増したのが分かる

 このからも明らかなとおり、2014年以降、プロ・プレイヤーの賞金獲得金額トップ10の内、5人以上が中国人プレイヤーで占められるようになったのだ。そしてその金額は往々に100万ドル(1億600万円)を超える。まさにeスポーツを介したチャイニーズドリームを体現しているわけだ。画像2で示した通り、2014年は高額賞金獲得プレイヤートップ10のうち、第9位を除くすべてが中国人プレイヤーで占められた。

 一方、配信アプリの代表的なものとしてあげられるのは斗魚(2014年1月、ACFUNから改名)、触手(2015年7月)、熊猫直播(2015年10月15日)などだ。これらはいずれも14年~15年の間にサービスが始まっている。この他に、大手配信サービスのbilibiliもeスポーツの配信業務に参戦している。

ビジネスエコシステムが形成された中国eスポーツ産業

 つまるところは中国において、eスポーツは産業として成立し、持続的な成長を実現したということだ。それらを示したのが以下の図だ。

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中国ではeスポーツをとりまくビジネスエコシステムが形成された

 つまり、中国においては、eスポーツをとりまくビジネエコシステムが形成されたのだ。そして、少なくとも中国においては、賞金総額の上昇が重要な役割を果たしたのは明らかだ。賞金金額の増加は、プロリーグの運営会社、プロを目指すゲームプレイヤーまたはチームにとってはビジネスチャンスとなり、総じてそれは、チームを後押すするスポンサー企業の台頭を意味する。少なくともここ数年における中国eスポーツの活況は、それが実情なのだ。事実、2014年226.3億元(3666億円)だった市場規模は2016年には504.6億元(8175億円)、そして2017年には730.5億元(1兆2053億円)とここ数年で市場規模を3倍以上に拡大した。とりわけモバイルセクターでは、2016年から2017年のたった1年で市場規模が倍となった 。もちろん本稿ではあまり言及していなかったが、eスポーツ用PCデバイスや周辺機材の存在もエコシステムの存在を示している。これらが競技としての「ゲームプレイ」を成立させるうえで重要な役割を担うからだ。こういった企業のいくつかは既に専門のショップなどを中国内の主要都市で展開をしており、そこからも中国eスポーツの効果を窺い知れる。このような企業の中には、イベントの増加や賞金金額の高額化による話題の創出など、数字で示しやすい判断基準のもとに事業へ踏み切ったところもあるだろう。そしてその口火を切るかのように行政側が支援する方向に大きく舵を切ったことの意味は大きい。「計画経済」を国家の精神的支柱とする中国であればなおさらだ。

 今後注目すべきなのは、中国産のeスポーツゲームが世界進出を果たすかどうかだ。だがそう言っている合間に既に2018年アジアオリンピック競技大会の公式公開競技「e-Sports」のなかに『Arena of Valor』(『王者栄耀』のグローバルブランド名』が選ばれた。すなわち、ついに中国国内で開発されたゲームそのものが、グローバルでの競技種目として注目されはじめたといえ、市場規模、プレイヤー規模に加え、いよいよゲーム開発においても最前線を走り始めたと言える。このような中で日本は如何なる一手を出すべきなのか? 官民一丸となった次の手が問われるはまさにこの時だと言えよう。


参考

「全国電子競技公開赛 総奨金32.3万元」「騰訊科技」[2010]

关于组建2007年度电子竞技国家集训队的通知」[2008]「中華全国体育総局網站:中国電子競技官網」

「Team WE」「斗魚」

「電競倶楽部LGD-Gaming完成3000万A輪融資 曾獲2.8億元投資」「捜狐新聞」

Eスポーツ EARNINGS <eスポーツearnings.com> のcountries項目から各年の状況を参照

CNG (2017) 「2016年中国電競産業報告(摘要版)」:p.7

GPC、CNG、IDC[2018]「2017年中国遊戯産業報告(摘要版)」