中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編

立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!

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【ブログ】TGS 2016はやはり、ゲーム「新時代の到来」

2016-09-23 21:00:00

 9月15日~18日までの間、幕張メッセで恒例の東京ゲームショウ2016(以下、TGS 2016)が開催された。筆者もそれぞれのホールを訪れる機会に恵まれたが、ゲームをテーマとした総合イベントであるだけに家庭用ゲーム機、携帯ゲーム機などのゲームソフトからオンラインゲームイベント、実況イベントなど実に様々なイベントがおこなわれ連日盛り上がった。その中で、やはり目立ったのはVRだった。今年はソニー・インタラクティブ・エンターテインメントブースのおよそ半分がPlayStation VRで占められ、ファーストパーティのみならず、カプコン、バンダイナムコエンターテインメント、セガゲームス、ユービーアイソフト、ワーナーブラザーズジャパンといったサード・パーティの作品も軒並み出展。ブースには長い列が出来ていた。だが筆者として最も注目したのが、数多くのベンチャー企業がVR作品を出展していたこと。本稿ではその中でも興味深かったサービス群をいくつかフィーチャーする。

台湾のアウトソーシングスタジオ大手XPECがVRでゴッド・シムを表現

 台湾の中でもゲームアセットのアウトソーシング最大手として位置づけられるスタジオにXPECがある。Xpec Art Centerも含めると1000人ほどが同グループのプロジェクトに従事しているということから、中華圏としても大手スタジオとして位置づけることが出来るだろう。もっとも、同社は自社IPも定期的に開発してきた。そのような中、PlayStation VRのローンチを踏まえて自社IPとして取り組んでいるのが、『O! My Genesis VR』。同社はひとことで言えば自らが神となって、惑星の繁栄を助けるといういわゆるゴッド・シム。代表的な作品としては日本でも根強いファンが多い『ポピュラス』シリーズのようなゲーム・メカニクスをVRに応用したと言えば分かりやすいだろう。今回は、PlayStation Moveを用いてのプレイだったが、驚いたのは、ゲームの「手触り感」がゴッド・シムに非常にマッチするのだ。地球を回転させるときは、まるで手で土をこね回した感覚を。住人を移動させるために拾い上げる瞬間は、Moveがブルっと震え、これらの人たちが如何にかよわいかを実感できる。更に隕石などの障害物が地球に襲ってきた際は、自らの手をもって地上に降り注ぐのを防ぐ必要がある。それをすることで実際に自身が地球を守っているような感覚に襲われるのだ。まるで自身が創造主になっているような感覚(とはいっても、神話や聖典で聞いたものを人間が想像したものということになるが)に襲われるのには驚いた。まさにシミュレーションを調節したシミュレーションと言える。

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ゲーム開発者出身のゲーム・ジャーナリストが目指したVR体験の最適化『エニグマスフィア~透明球の謎』

 ここ数年、VRビジネスが急速に開花した感があるが、その旗振り役的な役割を果たしてきたのがゲーム・ジャーナリストの新清士氏。同氏が一気に書き上げた著書『VRビジネスの衝撃』が各界でも話題になったため、記憶に残っているひとも多いのではないだろうか。そんな同氏が「ミイラ取りがミイラ」になったかの如く自ら世界で最前線の人々に聞き、デバイスを実際に試しながら研究しつくしたうえで生み出したのがVR脱出ゲームと銘打った『エニグマスフィア~透明球の謎』だ。

 プレイヤーはスーパーエージェントとしてアンドロイドを操作して悪の帝国が設置した惑星破壊兵器内に潜入。設置された制御装置の「スフィア(透明球)」を制限時間内に全て破壊して地球を救うのがミッションとなる。

「脱出ゲーム」と銘打ってはいるものの、一般的な謎解きとは違い、どちらかといえばパズル的要素の強い作品となっている。ここでも重要な役割を果たしているのがOculus Touchによって再現された「手触り感」。「スフィア(透明球)」はハンマーを使って破壊しなければならないのだが、直接かち割ったときや、遠隔から投げて見事粉々にしたときの爽快感は際立っている。また、2人同時プレイの際もステージクリアの場合は2人でゴールド色に輝くスフィアに双方の手を入れて機動停止させる必要があるなど、協力が必須となるがそういったゆるやかな協力は他人同士がプレイしても楽しめるようにデザインされていた。最も、製品版はシングルプレイヤーも用意されるとのことで、パーティ・プレイでワイワイやるのにも、一人でじっくりするのにも適した作品として完成される模様だ。東京ゲームショウ会期中は連日午前のはやい時間で予約がいっぱいになる盛況ぶりで、インディー・スタジオによるVRゲームとして今回最も話題となった作品のひとつと言えるだろう。

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KDDIとゲーム研究開発の技術集団モノビットの協同でうまれたVRコミュニケーション・エンターテインメント

 最後に紹介するのが、なんと通信会社大手であるKDDIが安定したネットワーク技術で定評のある技術集団、モノビットとの協同で生まれたVRコミュニケーション・エンターテインメント『Linked-door loves Space Channel 5』。こちらも『エニグマスフィア?透明球の謎』と同様に予約が早期に埋まってしまうという状態が続いていた話題作だ。

 ただ、本作は、KDDI主導のプロジェクトであることもあり、ゲームというよりは、コミュニケーションツールといえる。プレイヤーはビーチ、夕暮れのパーティ会場、そして題名にあるように「スペースチャンネル5」のリポートショーをその場で楽しみながら他のプレイヤーと音声チャットなどを通してコミュニケーションを果たすことが出来る。子犬や、ダーツなどインタラクションのあるギミックがあり、これらとの感触を楽しみつつ、他のユーザーとコミュニケーションが出来ることが重要で、それを実現したのが、これまでモノビットが多数のMMORPGなどの開発で培ってきたノウハウを結集してつくりあげたリアルタイム通信ミドルウェア、モノビットエンジンだ。いよいよ、ゲームで培われてきた技術が汎用的なコミュニケーションツールの基幹技術として導入される時代の到来を予感させる瞬間と言えよう。

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ベンチャー企業が次の時代を開拓する

 以上、今回の東京ゲームショウは、多分にVRエンターテインメントの本格的到来を予感させるイベントとなった。VRデバイスがプラットフォームであるか否かというのはいまだに議論の余地はある。しかし、VRデバイスが「新しいユーザー体験」をもたらすことに疑問を持つひとはいないだろう。そしてそれがユーザーにとって従来のデバイスと違ったかけがえのない価値をもたらすのであれば、それがハード単体としてではなく、別ハードの周辺機器としてリリースされているHMDであってもそれらのアーキテクチャに最適化したソフトウェアサービスの提供に向けての模索が始まる。この最適化に向けた模索とうい点においてはベンチャー企業も、アウトソーシング専門スタジオも、大手ゲームメーカーも同じスタート地点に立っているということが出来、そのような意味では、企業の規模に関わらず皆にチャンスが与えられていると言える。そのような意味で、今回紹介したプロジェクトはそれぞれの立ち位置から競争優位な状況にあるということが出来、今後のこれらの動向はVRエンターテインメントのこれからを占ううえでも重要な役割を果たしていくと言えるだろう。


【参考URL】
Xpec 『O ! My Genesis』

よむネコ 『エニグマスフィア~透明球の謎』

KDDI &モノビット 『Linked-door loves Space Channel 5』