中村彰憲のゲーム産業研究ノート グローバル編
立命館大学映像学部 中村彰憲教授による、その見識と取材などを元に、海外ゲーム情報を中心としたブログ連載!
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中村彰憲
立命館大学映像学部 教授 ・学術博士。名古屋大学国際開発研究科後期課程修了 早稲田大学アジア太平洋研究センター、立命館大学政策科学部を経て現職。 日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)会長、太秦戦国祭り実行委員長 東京ゲームショウ2010アジアビジネスフォーラムアドバイザー。 主な著作に『中国ゲームビジネス徹底研究』『グローバルゲームビジネス徹底研究』『テンセントVS. Facebook世界SNS市場最新レポート』。エンターブレインの ゲームマーケティング総合サイトf-ismにも海外ゲーム情報を中心に連載中。
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【ブログ】東北アノマリー 約4000名のエージェントがゼビオアリーナ仙台に集結。 大手企業もこぞって『イングレス』と連携へ
2015-06-23 19:38:00
東北アノマリー 約4000名のエージェントがゼビオアリーナ仙台に集結。 大手企業もこぞって『イングレス』と連携へ
ゼビオアリーナ仙台(以下、アリーナ)で2015年6月20日、日本では約3ヵ月ぶりの実世界アドベンチャーゲーム『Ingress(イングレス)』(以下、『イングレス』)の公式ユーザーイベントが開催された。今回は、宮城県仙台市を中心とした地域で緑の陣営であるエンライテンドならびに青の陣営、レジスタンスが一定期間、特定地域ポータルの奪取、リンク及びコントロールフィールドを展開ならびに占拠エリアの防衛でポイントを争う競技型イベント、「Persepolis(ペルセポリス)in Tohoku」と八戸市、大仙市、盛岡市、陸前高田市、石巻市、女川町、福島ならびに仙台市の東北地方8ヵ所で、各地域において定められた「ミッション」に挑戦し、街を観光しながらミッションクリアを目指すという「ミッションデー」で構成されている。
この度は、約4000名があつまり、開場前からアリーナ付近に長蛇の列が出来ていた。
行列の先の入口付近には、これまでのアノマリーと同様に、伊藤園のスタッフが緑の陣営であるエンライテンドならびに、青の陣営レジスタンスの双方向けにお茶を配布。ローソンも陣営ごとに分かれ、特別なグッズを配布するなどしていた。なおメイン会場として、今回はじめてアリーナが採用され、オープニングとアフターパーティの双方がそこを会場としたが、総勢4000名もの陣営がしのぎあうワンデーイベントであることを想定すると、まさにこれがふさわしいという雰囲気。中央モニターには、『イングレス』のロゴが輝き、両陣営の着席サイドもLED表示で指示されている。プレイヤーは、まさにこのアリーナに入ることで『イングレス』の世界にどっぷりと浸ることが出来るのだ。
『イングレス』芸人や秋田のご当地ヒーロー、超人ネイガーがエージェントを迎える
このような中、今回はじめて導入されたのが前説。既にLEVEL12にまで達した熱狂的なプレイヤーで落語家の立川こしら氏が登場。『イングレス』関連のネタを折り込みながら、コミカルに注意事項を語った。そこで登壇したのがナイアンティック・ラボ UX / Visual Artistの川島優志氏とナイアンティック・ラボアジア統括マーケティングマネージャーの須賀健人氏。
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▲ナイアンティック・ラボ 川島優志氏と須賀健人氏 |
まず川島氏から2014年にIshinomaki 2.0や石巻を中心に活動しているIT企業イトナブの協力のもと、石巻でのイベントを実施したことに触れ、当時100名規模だったのが、今回この会場がいっぱいになったことについて感慨深く語った。
次にジョン・ハンケ氏からのメッセージが読まれた。ここでも昨年の石巻のイベントについて触れられ、後半では「ぜひ復興バーに行ってほしい」とのジョン氏の意向が示された。復興バーとはIshnomaki 2.0代表理事松村豪太氏が当時来席していた多数のボランティアと地元の人たちをつなげる場をつくろうと立ち上げたバー。ハンケ氏にとって、こういった地元の人たちとの温かい交流がいまだに鮮明に記憶に焼きついているということを際立たせた。
ハンケ氏のメッセージに続き、地元にゆかりのある特別ゲストからビデオメッセージが。なんと、会場上部のモニターにご当地キャラクターとして東北地域で絶大な人気を誇る超人ネイガーがレゾネーターを破壊しつつ、颯爽と(?)登場。「スマホを使いながら田んぼのあぜ道に落ちないように」と秋田なまりで注意を促した。これをうけ「ネイガーのツイートを見て、この世にXMを肉眼で見られる人がいるんだ」と驚いた川島氏。会場の爆笑を誘っていた。
なお、時間を繰り上げて開会したことの影響で予定より早く終了しそうだったことをふまえ、「ちょっと時間があまったので、その時間を使ってパルコで食事をしてほしいと」と須賀氏。今回のイベント開催を受けて、パルコでは、Welcome Agentsという垂れ幕を自らつくってくれたのだという。そして最後は川島、須賀両氏が「しっかりと闘いきってほしい」とのエールを送り、セレモニーを締めくくった。
香港、台湾など海外からのガチ勢も合流。緑は大規模多重フィールド、青は集中リンク、スーパーノヴァで応戦
今回も、アジアを中心に海外からの人たちが訪れた。筆者が確認出来たのは香港のチーム20名と、台湾チームの20名。台湾チームについては3日前からすでに活動していたという。一方、香港チームのTシャツには「天啓」の文字が。確かにエンライテンドのEnlightとは通常「啓蒙」を意味するが、そこに、Shaperという異世界の存在からメッセージを受け入れる側ということで「天啓」としてしまったのだろう。これは若干、正義はエンライトンドにありというイメージを与えてしまいアンフェアとも感じられるが、クールな名前を思い立った事で団結力を高めるのが狙いか??
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一方、実際のバトルだがオープニングセレモニー終了直後は、既にアリーナ全体が青色で染まっていたこともあり、一見レジスタンス側にとって有利になるかと感じさせたが、13時には反転。仙台全体が緑に染まる。レジスタンス陣営がこれまでのような日本全体を覆う超大規模CFを意識し、国内各地から、中国大陸、南国の島々と方々に防衛リンクを張っている中、まずは、北泉力岳山頂板-猫神社-不忘の碑の3点を繋がれてしまったのだ。さらに14時には栗駒山-金山灯台-不忘の碑で囲んでしまうなど多重リンク展開で、その姿はまさに曼荼羅。天啓のなせるわざ、というところか。最も、仙台内というミクロレベルでは、単なる濃い緑でしかなく、レジスタンスにとっては非常にプレイしにくい展開となった。
なお、今回は、4セッションとも地下鉄に近接した地域でのバトルということで、かなり多くの人たちが1日券を購入していたようだ。地下鉄関係者に伺うと先日、超メジャーグループがコンサートをしたが、今回の状況はそれをはるかに上回る規模と喜びを隠せない様子。このような地下鉄を中心としたフィールド展開は、別の意味でも功を奏した。それが雨だ。第2セッションの始まる14時30分ごろ地上にたたきつけるような雨が会場を襲った。しかし地下鉄内、ビルの軒下などで適宜雨宿りをしつつ、傘をさせるひとは傘をさすなどして果敢にフィールド攻略にいそしんでいた。
勾当台公園付近あたりからは、雨もやみ、皆もくもくとプレイ。次の榴岡公園とならび緑の映える展開となった。だが、このまま沈むわけにはいかないと動き出したのが青陣営。あるひとつのヵ所を中心に、終了前後でひとつのポータルに数十ものリンクを張るスーパーノヴァを発動したのだ。終始、天啓型巨大グリーンフィールドが青陣営のプレイを邪魔していただけに、このスーパーノヴァのリンクがカウントされたか否かが文字通り勝敗を決定する瞬間となる。だがそれが計測されたか否かについてはその場で確認出来ず、クロージングでの最終発表に委ねられることとなった。
アフターパーティでは、まず冒頭でとある男性エージェントが登壇。「Darsana」(東京)で出会い、「Shonin」(京都)である約束をし、「Persepolis」(東北)でその約束を果たすと宣言し、ある女性エージェントに登壇するよう依頼。そして4000人が見守る中でプロポーズ。半分はにかみながらも感動で涙を流しながら女性がこれを了承した瞬間、会場は拍手喝采で2人を祝福した。
「Shonin」でもひとりの女性が『イングレス』で鬱病を克服したといった報告がなされたが、今回もそういったドラマを目の当たりに出来た。これは、川島氏による突然の計らいだったとのことだが、それだけパーソナルなストーリーを大切にするのも『イングレス』コミュニティだ、というメッセージを強く発信したと言えるだろう。
自治体との連携、こだわりの企業連携アイテム、これらすべてを内包するジョン・ハンケ氏の理念が『ファミ通ゲーム白書2015』で明らかに!
これを経て、仙台副市長と宮城県農水部次長の登壇。こういった『イングレス』を迎える地域の首長によるあいさつも、Shoninの門川京都市長に続くパフォーマンスとなる。この度は、市と県がともに登壇するといった形式で、双方が『イングレス』イベントを快く迎え入れた形となった。宮城県農水部次長は、なんと、伊達政宗の甲冑で登壇。終始、伊達政宗を演じ切り会場を沸かせた。
さらにこの度、伊藤園、三菱東京UFJ銀行、ソフトバンクが『イングレス』と連携することを発表。伊藤園は毎月第1土曜日に開催するイベントに緑茶(エンライテンド向け)と、ウーロン茶(レジスタンス向け)を提供する(ただし数量に限定あり)とともに宮城県、東京都、大阪府そして京都府に『イングレス』カラーの特別自動販売機を設置することを発表した。また、全国2000台に設置されている災害対応自動販売機をポータルにすることも発表され、会場は歓喜の声であふれた。
三菱東京UFJ銀行も、全国にある店舗をポータルにすることを発表した。さらに驚かせたのが新アイテムの提供だ。新アイテムとは、ズバリ「MUFGカプセル」。銀行が提供するカプセルということもあり、金利で貯金を増やすが如く、アイテムを収納すればするほどそのアイテムが増殖するというのが特徴。大規模イベントや地域イベントでは、往々にして高レベルのXMPバースター不足に悩まされてきただけに、このフィーチャーは喜びを持って受け入れられた。
これに続き、ソフトバンクも各店舗のポータル化を進めると同時に新アイテム「SoftBank Ultra Link Amp」(以下、SULA)を提供することを発表。Link Ampとは、ポータルのリンク可能距離を2倍にすることが出来るアイテムだが、SULAはそれ以上の長距離でもリンクを可能にするという。ただ、これまで一般的に都市部では使いにくいアイテムでもあったことと、防衛用MODではなかったため、使うことはかなり敬遠されていた節があるが、今回は、これを装着することで16ヵ所のポータルにリンクすることが可能にある。かねてから1ポータルから発信できるリンク数については、多くのユーザーにとって課題となっていたためにこの事実が明かされた瞬間、会場は歓声につつまれた。このリンク能力の向上はソフトバンクの携帯電話サービスにおける「どこでもつながる」というビジョンと直結している。
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このようにプロダクトプレイスメントをする先の企業理念を、『イングレス』の世界観と完全にマッチするようにアイテムを生み出すナイアンティック・ラボの世界観デザイン能力には、常に驚かされる。
この他に今回さらに強化されたのが地域との連携だ。アフターパーティ恒例の即売会だが、これまでの同人やコミュニティに加え、地方自治体ブースが設置され非常に活気あふれる形でグッズ販売がおこなわれていた。この辺の今回の『イングレス』と地方自治体や地元ボランティアとの協力体制については、次回に譲りたい。とにかく、ついに日本の大手企業がこぞって『イングレス』への参入をはじめた。従って、本イベントにおける一連の流れ、すなわち、アリーナ的会場、初日の競技型イベントと翌日の周辺地域でのミッション、地方自治体との連携表明、大企業との連携、そしてパーソナルなユーザーストーリーは今後、ワンセットとして定式化されることだろう。つまりオンラインエンターテインメントの大規模オフイベントにおける『イングレス』モデルの誕生だ。
だが気になるのは、なぜ本格的なサービスインがはじまってから1年強の『イングレス』が、ここまで独自性あふれる大規模イベントを実施できるようになったのか? そして、なぜプロダクトプレイスメントひとつをとってもここまで徹底的にユーザー志向のこだわったアイテムをつくりあげるのかという点だろう。実はこれらの疑問については、既に3月来京時に筆者がナイアンティック・ラボ創始者であるジョン・ハンケ氏に伺っていた。そして前述のような『イングレス』の展開はすべてハンケ氏の理念に沿ったもののようなのだ。この点に興味がある人はぜひ『ファミ通ゲーム白書2015』を購読いただきたい。