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第4回: なぜひどい品質の翻訳が世に出てしまうのか?(スケジュール編: 前編)
公開日時:2013-05-07 00:00:00
こんにちは、LYE です。今回からは「なぜひどい品質の翻訳が世に出てしまうのか?」シリーズ最後のテーマを扱っていきます。 スケジュールについては長くなってしまうので、今回はまず基本的な業務の流れと、ローカライズ品質問題の本丸とも言うべき SimShip (同時期発売、説明は後述) について説明し、後編にてより深く切り込んでいきたいと思います。今回もどうぞお付き合いくださいませ。
あ、あとLYEがこのブログに込めている思いを主催する架け橋ゲームズのブログに書きました。長いのでアレですが、興味があったらぜひご覧ください。
それでは、どうぞー!
■発売時期と2つのパターン†
まずはゲームのローカライゼーションスケジュールの基本から。
ゲームのローカライズプロジェクトが始まるタイミングは大きく分けてふたつのパターン、すなわち全世界同時発売するぜ!というパターン(あとで詳しく説明)と、オリジナル版が発売してからローカライズを開始するパターンがあります。後者はシンプルで、すでに完成しているオリジナル版を土台に翻訳などが開始されます(つまり前者はそうはいかないわけです)。
品質だけを考えると(さまざまな要因もあり)完成後にローカライズ開始がベストなわけですが、現実にはこのパターンはどんどん少なくなっています。最近はこのパターンが使われるのは、身も蓋もない言い方をすれば、ローカライズ版の売上が、同時に出しても時間をかけてもあまり変わらない程度という予測がおおよそついてしまっているニッチな市場/タイトルなんですね。
このようなケースでは、ゲームの完成間近、あるいは完成後にローカライズの話が持ち上がります。具体的には、本国パブリッシャー/開発会社がローカライゼーションサービスプロバイダー (LSP) にコンタクトしたり、現地パブリッシャーが本国パブリッシャー/開発側にコンタクトしたりといった感じですね(それぞれどういう役割の人達なのかは前回参照)。
■脱線話†
なお余談ですが、このへんはデジタル配信時代+インディーの隆盛により大きな変化が生じてきているエリアでもあります。というのも、デベロッパーが自腹で作ったゲームがこれほど流通する時代は過去になかったからです。
物理的にパッケージを作らなくていいため、国 / 地域ごとにパブリッシャーを立てる必要がなく (App Store や Steam でダウンロードできるインディー系ゲームはパブリッシャー欄と開発者欄が同じですよね) 、おまけに製造コストもかかりません。ローカライズにかかる手間とコストが安くなっているんですね。
しかしそれは逆に、これまで経験値を蓄積してきたパブリッシャーやローカライゼーションベンダーの方々抜きにローカライズが進むことが増えることでもあり、ノウハウを持たない人たちがローカライズに携わるケース (インディー開発者が少し日本語話せる友だちに翻訳を依頼するみたいな極端なケースから、エンジニアリング的なノウハウ不足までさまざま) が増えるということでもあります。これについては、LYEは放っておけば2万字でも書いてしまうので今回は紹介までということで。
ちょっと長くなりましたが、話を本筋に戻します……。
■同時発売のパターン†
次に、先ほど挙げた「全世界同時発売するぜ!というパターン」について。このパターンは業界的にSimShip(シムシップ) と呼ばれています。
コイツは要点だけまとめてしまえば、“複数のバージョンを複数の地域でほぼ同時にリリースする”ということです。細かく言うと“Simultaneous Shipment”の略語で、Simul~の部分は“同時”を意味します。“同時通訳”の“同時”も“Simultaneous”です。一方“Shipment”は“出荷”を意味します。先ほど「ほぼ同時」と書いたのは、発売日が完全に同一になるのはごく一部のタイトルに限られるためで、実際には数日から2~3ヶ月のズレが生じることが多いでしょう。完全同時にならない理由は地域によって流通経路の速さが違ったり、マーケティング上の決定であったり、純粋に他言語の対応に時間がかかりすぎてしまったり、と色んな要素があります。
最近ではコンソールの大作はだいたいSimShipされていますし、比較的小型のダウンロード配信専用タイトルなんかでも珍しくなってきています。マルチプレイヤーモードのあるタイトルだと“オンラインの旬”(発売後にたくさんのプレイヤーが集まるのでゲームを楽しみやすい)などの要因もありますし、マーケティング予算を効率的に使いたいパブリッシャーとしても、予算をかけたゲームはSimShipしたい、というのが当たり前になってきています。実際、「(ほぼ)同発だから日本語版買おう」なんて人もいるんじゃないでしょうか。これSimShipがマーケティング的に効いているということです。
ただここには、猛烈に穿った見方をすれば、“先攻地域での評判が確定しちゃう前に全世界で出荷体制を固めちゃう方が安全だよね”みたいな要因もあったりなかったりするでしょう。
とはいえ、どのような思惑があれど、SimShipが“早く大好きなタイトルを遊びたい!”というゲーマーの気持ちに応えてくれてるのは間違いありません。しかし光あるところにまた闇あり。コイツのせいで一体ローカライズ品質にどんな影響が出てきてしまうのか……!
と、超絶面白くなってきたところで前編は終了とさせていただきます。書いている当人が本当に2回で終わるのか?と心配になってきましたが、できる限り面白く読んでもらえるよう頑張っていきますんで、続きをお楽しみに。
それでは次回まで、ハッピーゲーミング!
今回の英語表現:Indie/インディー
今回は、ブログ中で少しだけ触れた「インディー」という表現について。
Indie という単語については、日本でも海外でも結構人によって定義がさまざまです。最近はバズワードとして見られるようにもなりつつありますね。なので「これが絶対的Indieの意味だ!」というわけではない事だけ最初に記しておきます。
日本での受け取られ方としては、どこかの子会社じゃなくて、自腹で全部作ってるのは全部インディーじゃねえの?というのが定義のように感じていますが、どちらかと言うと商業的な形式よりも、ゲーム作りにおける魂の持ち方についての側面のほうが強いように感じています。
英語話者にとってのインディーとは、音楽シーンにおけるそれのイメージが強く、「ふぁ○○商業主義!俺は俺の好きなものを好きなように表現するぜ!という気持ちでもって作られる何か」という感じなんですね。
第1回でも紹介した米国のインディーゲーム製作者を取材したドキュメンタリー映画「Indie Game: The Movie」 でも、「Braid」作者のジョナサン・ブロウさんが「もし貴方の作るゲームがじゅうぶんにPersonal (個人的) だと感じられないのなら、それはインディーじゃない」(LYE訳) と言っており、さらに架け橋ゲームズで相棒のアメリカ人と話し合った結果もまったく同じ意見だったのでそう大きく外していないだろうと思います。
ちなみにSteam で「Indie」が「独立系開発会社」になっているのは、そろそろ「インディー」でいいんじゃないかなーなんて個人的に思っています。
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