スーパーコアゲーマーがクリエイターに突撃! 椿姫彩菜のゲームの話

タレントでコアゲーマーとしても知られる椿姫彩菜さんが、ゲームクリエイターの皆さんに“ならでは”の視点で切り込む連載企画。椿姫さんが注目するゲームのクリエイター、旬なクリエイターに対談形式でお話を聞いていきます。椿姫さんのゲーマー側に立った突っ込みに、クリエイターはどう応えるのか? どんなぶっちゃけトークが展開されるのか? 注目です。

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“椿姫彩菜のゲームの話”第18回バンダイナムコエンターテインメント原田勝弘氏その1 『ポッ拳』からあの『鉄スト』の話題まで!(1/2)

2015-07-11 00:00:00

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 タレントでコアゲーマーとしても知られる椿姫彩菜さんとゲームクリエイターの対談企画第18回。バンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘氏。プレイステーション4向けVRヘッドマウントディスプレイ“Project Morpheus”(プロジェクトモーフィアス)を使用したコンテンツ『サマーレッスン』から好評稼動中のアーケードゲーム『鉄拳7』まで、原田氏が手掛ける作品をお題に、椿姫彩菜さんがゲーマー視点で鋭く迫る。今回は、2015年7月16日稼動の『ポッ拳 POKKÉN TOURNAMENT』(以下、『ポッ拳』)や『鉄拳Xストリートファイター』の話題をお届け。

4回目/222

椿姫 まずお聞きしたいのが、『ポッ拳』について。発表以来、日本だけではなく世界で話題になりました。今年の春に開催されたロケテストも大盛況でしたね。これらの反響を受けて、いまのお気持ちは?

原田 正直言って、ロケテストは本当に心配だったんですよ。というのも、ポケモンという世界を扱うことに関して、僕らからしてみれば雲をつかむような話でしたから。このゲーム、株式会社ポケモンの石原恒和社長が『ポッ拳』というタイトル名を最初に決めていて制作をすることになったものなんです。

椿姫 最初の発表時にそのエピソードを披露されていましたね。

原田 いきなり名前まで決められることなんて、ほかにあるかと(笑)。石原さんからは「『ポッ拳』という名前のゲーム」、「『鉄拳』シリーズで培ったテクノロジーやノウハウを使って、ご自由にポケモンを闘わせてください」という依頼を受けたんですよ。私の場合、ポケモンとの出会いは、登場したときにはすでにゲーム業界で働いていました。で、ゲームの初体験は『ポケットモンスターX・Y』からなんです。だから、ポケモンのコミュニティーを知らないじゃないですか。話を耳にしたときは、鉄拳のキングがポケモンにプロレス技をかけるような、妙な想像ばかりしてしまいました。

椿姫 だから「雲をつかむような話」だったんですね。

原田 そうです。石原さんとも意見を交わしながら、ゲームの方向性を探っていたのですが、そこで「昔の対戦格闘ゲームはいまほどコアじゃなかった」という話が挙がったんです。確かにその通りなんですよ。過去も現在も基本的な仕組みとしてやっていることはあまり変わりません。でも、昔はいまと違ってだれもがやっていた。

椿姫 そうでしたね。スーパーファミコンを持っている人ならかならず持っていたくらいですからね。

原田 それは『ストII』に限った話ではなく、当時のどんな格ゲーだってそう。だれかの家に行って人が集まったら格ゲーで遊んでましたよね。それがいつの日か、勝てなくなったり、難しくなったりして離れていった。ゲームシステムが複雑になったから、という人もいますが、決してそうでもない。複雑さや奥深さは昔から存在していたんですが、単純に当時はジャンルとして新しかったから、現在のように深く追及が進んでなかったし、コミュニティも熟練していなかったというだけなんですよ。そんな中、石原さんはかつて体験した「闘って遊ぶこと」を再定義したいとおっしゃっていました。長年ゲーム業界でご活躍されているだけあって、あの当時の格ゲーの社会現象的な盛り上がりから、いまに至るまでの流れをずっと見つめていたそうなんです。そこで、1対1の対戦格闘ゲームにはもっと可能性があることを見出されたらしいんですね。

椿姫 『ポッ拳』の話を聞いて、おおかたの人は『スマブラ』みたいなゲームになるのか、あるいは『ポケットファイター』のような初心者にやさしいシステムが加わったゲームになるのか……と思いきや、完全に1対1の真剣勝負のゲームでしたからね。


原田 視点を変えればカードゲームだって1対1の対決ですから、ふたりが闘って勝敗がはっきり付くおもしろさはかなり意識されていたと思います。格ゲー本来が持っているその魅力を再定義したいということなんですね。いっぽう、僕らからしてみればポケモンというキャラクターを使って1対1の対戦格闘ゲームを提供すればいままでゲーセンに来なかった人も来てくれるかもしれないという思いもありました。

椿姫 この座組じゃないと生まれない、新しい可能性がそこにあったわけですね。

原田 そのふたつがうまく融合してプロジェクトにゴーサインがでたときは、まず弊社の随一のポケモンマニア、星野(星野正昭氏。『ソウルキャリバー』シリーズプロデューサー)を交えて新しい客層が来てくれるゲームを目指すことにしたのです。「このゲームは『ポッ拳』という名前だけれど、『鉄拳』とは違うんです」とは社内でもずっと言い続けていました。『鉄拳』は従来通りゲームセンターに来る気マンマンの人が遊ぶゲーム、『ポッ拳』はポケモン好きの人たちがゲームセンターに集まってくれるゲーム……と言い続けていましたよ。

椿姫 最初から目指すべき方向はまるで違うもの、とアピールしていたんですね。

原田 社内でも「そんなことできるかい」という微妙な空気は流れていたし、プロジェクトとしてもできる確証はなかったと思うんですが……。そこで冒頭の話に戻るのですが、だからこそ、ロケテストの反応は本当に心配だったんですよ。

椿姫 ポケモンといえば以前はキッズのものというイメージがあって、最近では大学生のファンも多いですよね。先日、ポケモンセンターに行ったら、女の子が本当に多くて驚いたんですよ。そのうえで、キッズもたくさんいて賑わっていますしね。そういう広い層の支持をみると、どういう人たちに向けて作ったらいいのか迷うことはあったんじゃないですか?

原田 近年の『ポケットモンスター X・Y』や『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』も18~23歳の層が非常に多いですよね。小学生のころにポケモンを体験している世代なんですが、彼らが『ポッ拳』があることでゲームセンターに来てくれたらプロジェクトとしては本望ですよ。そんな事情で、ロケテストでは単に売り上げがいいだけではダメでした。あの場でクリアすべきテーマは、この世代の人たちが来てくれるかどうかだったんです。それもドキドキしていた理由。

椿姫 単に売り上げというならば、ポケモンのゲームですからプレイされるかたが大勢集まって当たり前ですものね。

原田 確かにそうなんです。ガチな格ゲーマーばかり集まっていたらどうしよう、と思っていましたが(笑)、おかげさまで2度のロケテストともに、カバンにポケモングッズを付けているような女性も多くきてくださりました。こういうかたって普段、ゲームセンターに足を運ばないだろうだけにうれしかったですよ。

椿姫 狙い通り! という思いだったんですね。

原田 1回目のロケテストは東京と大阪で店舗間通信対戦をしていたのですが、店舗間通信が話題にならなかったんですよ。『鉄拳7』に続いてアーケード業界では珍しい2例目のはずなのに、『鉄拳7』のときは大騒ぎになってヤフーニュースのヘッドラインになったくらいなのにね(笑)。どうしてかなと思っていたんですが、狙い通りの客層……つまり普段ゲームセンターに来ない人が大勢集まったからなんです。

椿姫 店舗間通信対戦が前例のないスゴいということを知らないんですね。

原田 むしろ対戦相手は大阪でも隣のプレイヤーでもいっしょという感じ。だから、バズらないもの当然なんです。これがガチな格ゲープレイヤーだと、ラグがどれだけあった……という会話になりますが(笑)。もうひとつのおもしろい話として、2回目のロケテストのことなんですが、景品がもらえるプライズゲーム機ってありますよね? ロケテストのおかげで周辺のプライズゲーム機の売り上げが一気に上がったんですよ。

椿姫 ロケテストの相乗効果で、ゲームセンターにあまり来ない人がゲームのついでに遊んだということですね。

原田 プライズゲーム機だから、気軽にできるんですよ。このこともほかのゲームと客層が違う証明にもなりましたね。あと、見ていて思ったのはカップルの多さ。彼氏に付き合ってロケテストに参加しているみたいで、ゲーム画面を見ると彼女がだいたい「あ、ピカチュウだ」というんですね。それで彼氏が知ったかぶりをして「これ、『鉄拳』のポケモン版だよ」って答えていたり。いや、内容は違うからね、と(笑)。まぁ、それはともかく、狙い通りのプレイヤーが集まってくれて、プロジェクトメンバーがほっとしているのがいまの状況です。

椿姫 専用の筐体で出すことについて、悩んだりしたんじゃないですか? 家庭用ゲーム機のようなコントローラーで操作するのは驚きました。

原田 じつはあれは、開発側のアイデアじゃないんですよ。そもそも営業の人間が、「『ポッ拳』が新しい客層を開拓する」という僕らの話を信用していなかったんですよ。「そんなことあるかい!」って感じで。逆に、彼らは「新しい客層が来るというなら、そういう人たちは従来のレバーとボタンについてどう思うんだ?」と言ったんですね。それを聞いて僕らは、なるほど! と思ったんです。確かにゲームセンターのゲームになじみがない人にとって、レバーを見た瞬間に「難しいゲーム」と思われるかもしれない。家庭用ゲーム機風のコントローラーを付ければいいじゃない、と営業部から言われて僕らも気づいたんです。それで慌てて変更したんです。

椿姫 私はそもそもゲーマー寄りの発想しかないから、汎用のゲーム筐体でいいんじゃない? と思っていました(笑)。

原田 僕もそう思っていました。でも、営業からのツッコミは目から鱗が落ちる思いでした。コンセプトを貫くならば、ここまで徹底しなければならないな、と。実際にロケテストでも思ったとおり、高い評価をいただきました。

椿姫 本当にステキなコントローラーでした。握り具合が良かったですし、頑丈ですし。

原田 twitterで「あのコントローラーもいいんですが、従来のゲームみたいにレバーとボタンのついたアーケードスティックを取り付けることはできませんか?」と質問する人もいるにはいるんですが、わりとそういう人のプロフィール欄を見ると、アイコンが『鉄拳』か『ストIV』のキャラクターになっているんです(笑)。

椿姫 あはは。わかるわかる(笑)。そういう人って、たいていレバーとボタンが付いているのは当たり前と思っているんですね。

原田 ついでに言うと、最速風神拳が出せるレベルだったりしますから(笑)。話を戻すと、評価してくれる人からは「これなら遊べます」という意見をいただいています。

椿姫 レバーとボタン、コントローラーの両立は最初から想定していなかったんですね。一時期、アーケードゲームでも両方付いているものがありましたよね?

原田 どんなものでもコンセプトの時点で理解されるかどうかってとても重要。『ポッ拳』の場合、両方付いていたら、いろんな誤解を与えてしまいますよね。「これ、どちらも使うの?」なんて思われることもあるでしょう。だから、操作はコントローラーだけということは徹底しました。逆に言うと、『鉄拳』ならば多様なプレイヤーがいるから両方付けてもいいかもしれませんね。

椿姫 『ポッ拳』は今夏稼動ということで、いまは開発は大詰めかと思います。まだ明らかになっていない情報や参戦するポケモンもたくさんあるかと思いますが。

原田 いまは言えないですよ(笑)。でも、時期が来たら発表しますのでご期待ください。開発当初、参戦してほしいポケモンをtwitterで募ったことがありますが、そのご意見は集計しています。人気の高かったポケモンはゲームとしてのおもしろさの検討や株式会社ポケモンさんとの話し合いを経てゲームに反映していますからね。

椿姫 昨年そういうキャンペーンをされていましたね! 

原田 スイクンは実際に人気があったんですが、本当に登場したことは意外と思われたかたも多かったのでは? このときはプレイヤーさんがかなり喜んでくれたので、こんな感じで参戦ポケモンをどんどんお披露目できたらと思います。

椿姫 星野さんという熱狂的なポケモン好きも開発に加わっていることで、ゲームでは端々でポケモンファンが喜ぶ仕掛けやシーンが見られましたが、なぜかピカチュウが最速風神拳を出すという格ゲーファンが喜ぶ仕掛けも入っていましたね(笑)。これは、あえて格ゲーファンに向けて取り込んだんですか?

原田 そのシーンだけ見ると、まるで僕が強権を発動して無理やり導入したみたいに見えますが、違うんですよ!(笑)。むしろ、株式会社ポケモンさんがいいですね、と言っていた案なんですよ。『鉄拳』のキャラクターそのものを出すのはさすがに違いますが、「せっかく『鉄拳』とのコラボなんですから、それらしさを打ち出す小ネタもあり?」という案が株式会社ポケモンさんとの話し合いの現場から上がってくるんです。僕が気づいたころには、ピカチュウがどっかで見たことのあるモーションの技をだしていて「マジかよ!」とツッコんだぐらいなんですから(笑)。でも、意外と自然に見えるので「これはいいね」となったのです。

椿姫 両社の開発に携わる人たちによって、自然な流れで取り入れたものだったんですね。

原田 「こういうコラボなら、アリだよね?」というノリで進めていました。株式会社ポケモンさんもかなりノリノリでしたよ。

椿姫 あとぜひお聞きしたかったのは、『ポッ拳』ではポケモンのタイプ相性がないこと。『ポケットモンスター』ではポケモンどうしやわざのタイプの違いによって、わざの効果が増えたり減ったりして、これがバトルのキモになっていました。『ポッ拳』ではなぜそうしたのかを教えてください。

原田 開発当初は現場でも、取り入れるべきだという声が多かったのですが、対戦ゲームとして重要なのはそこじゃないんじゃないか? という気がしたんです。この意見は石原さんからも僕からも挙がりましたね。ちなみに私自身も開発スタート時はタイプはしっかり理解していなかったのでこれは数が多くなって複雑だな、と思いましたし。

椿姫 実際に対戦をしてみると、タイプ相性がなくても特に違和感はなかったですね。「あ、そういえばタイプ相性がないや」くらいな感覚でしたしね。

原田 ついでに仕様について言うと、サポートポケモンも当初は”どうぐ”がその役割を担っていたんです。トレーナー(プレイヤー)がポケモンに対してどうぐを与えるというイメージですね。でも、プロジェクトメンバーが何か味気がなくておもしろくないと言うんですよ。だから、対戦とは別の役割を持つポケモンを「サポートポケモン」として出すことになりました。このような仕様の検討・変更を経て、独特の駆け引きの要素が増していったんです。ポケモンのコミニュティーにいる人たちもこのバトルをすんなり受け入れてくれたみたいで、よかったという思いです。