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須田寓話 51FABLES

類を見ないセンスで国内外のファンから熱狂的に支持されるゲームクリエーター、須田剛一氏によるプロット・中短編・メモなどを断片的に掲げる連載。のちの作品に繋がるもの、エッセンスを残すもの、まったくの未完の欠片など、須田ワールドを形づくる珠玉の原石の数々。SUDA51のアタマの中を覗き込め。

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須田剛一による書き下ろし連載!【須田寓話】まっ赤な女の子 #4

2016-03-04 18:00:00

makka05

01.05:301号室

僕は君鹿守。

またまた魔子の話の続き。

市営団地に入っていった本城眞子を追って、
僕も団地の敷地に入り込んだ。
遠くから観察していたから、
本城眞子が3階の部屋に入ったこともばっちり目撃している。
B区の3号棟の301号室だ。
あの部屋が彼女の家なのか?

でもこの団地は人が住んでいる気配が全くないんだ。
ゴースト団地って言っても不思議じゃない。
歩いている人も少なくて、
たまに歩いている住人っぽい人はみんな外国人だ。
そういえば、クラスにもパッキャンがいる。
パッキャンはフィリピンのハーフで、
結構イケメンで女子の人気も高い。
サッカーをやってて、もっぴんの話だと
超うまくて海外のクラブチームから声が掛かっているんだってさ。
スペインに行くとか行かないとか、どっちだよって話なんだけどさ。

あっ、知ってる? 
パエリアってマドリードじゃ食べられないからね。
バルセロナとか南の方の食べ物なんだってさ。パッキャンが言ってた。
本場のパエリアはかなり塩っぱいから、
日本で食べるパエリアが一番美味しいんだって。
へえ~だから何? って感じだよね。
最近じゃさ、こういうへえ~だから何? 的なテレビが多いよね。
暮らしのためになるとか、健康なるとか、知識が豊富になるとかさ。
へえ~って思うけど、やっぱりだから何? なんだよね。

うまく整理できていないんだけど、
世の中って無駄で作られていると思うんだ。
人間ってそんなに効率よく上手に生きられないのに、
みんなそんなに効率厨になりたいのかなぁ。
現実でもゲームの世界でも、効率効率、コスパコスパってさ。
人より得するとか、誰も得しないとか、
人が人に得を説くなんておこがましいと思わない?
あっ、今、得を説くってうまい事言っちゃった。
いいよ自由にパクってもらっても。僕が許可する!

でね、何が言いたいかっていうと、
水曜日のダウンタウンは最高って事。
だって、何の為にもならないことを
全力で無駄だらけで大人が作ってるなんて、最高だよ。
誰も得しなくっていいんだよ、人生なんて、って事を教えてくれる。
何で得しなくちゃいけないの?
そんなことより、今を生きろなんだ。
必死に生きるってことを、クロちゃんは教えてくれる。
やっぱりダウンタウンとクロちゃんは神だ。

ふ~ふ~ちょっと熱くなっちゃった。

あれ? 何の話だっけ?
そうそう、パッキャンは結構いい奴だよ。
裏表のないスポーツバカでさ、ジョック風を吹かさないんだ。
いっつも新作ギャグを編み出して、みんなを笑わせている。
クリスチアーノのスライディングとか、
クリスチアーノのシミュレーションとか、
クリスチアーノのドヤ顔とか、通な笑いなんだ。
みんな、ネタ元は全然わからないんだけど、
なんかセンスいいんだよね、パッキャンのギャグは。
多分、原西さんレベルだよ、あの笑いは。
凄いんだから、キレッキレで。
今度、動画上げま~す。

スポーツ万能なのに、
パッキャンみたいないい奴ってそんなにいないよ。
だからうちのクラスにはスクールカーストはないから、
結構助かってる。
1組は酷いからね。
男子も女子も階級が決まっていてさ、カーストってなんだか嫌だよね。
カーストの頂点に7人組の男女で、S7って連中がいるんだ。
S7ってのは、スペシャルな7人衆の略でさ、バカでしょ~?
このネーミングのダサさったらさ。ドラマの見過ぎだよ。
勝手にやってろよ、SBM7。
僕らはあいつらの事SBM7って呼んでる。
そう、スペシャルバカ丸出し7人組。
あいつらにはもれなくマモラナイ4号を送ってやったんだ。
マモラナイ4号は、勝手にBluetoothが接続されま~す。
バッテリー、ガンガン食いま~す。

ごめんごめん、またパッキャンの話に戻りま~す。
この間のバレンタインデーのパッキャンのモテっぷりは凄かった。
休み時間に、別のクラスの女子や下の学年の女子も
ゾロゾロ群がってチョコを渡していったんだ。
羨ましいかって?
そりゃもちろん羨ましいけどさ、
散子からもらったからまあいいんだけどさ。
まあ手作りだし、義理だけどね。でも手作りだし。
じゃあまあいいかなって感じで今年は納得している。
散子が他の男子に渡してたのは、買ったチョコだったからね。
僕のは義理でも手作りだから。
お父さんに作ったチョコの余りだって言ってたけど、手作りだから。
別に自慢していないよ。
毎年の屈辱に比べたら、溜飲は下がったよね、正直。
まあ、もっぴんには自慢したけどさ。
まあチョコはどうでもいいんだけどさ。
でも実は、鞠子からチョコをもらったんだ。
鞠子はクラスでも超地味な子なんだけど、
眼鏡の奥の眼が大きくて、
まつげがネイティブで長いことを僕は知ってるんだ。
隠れ美人認定していた鞠子が僕にチョコをくれた。
この真相にはいずれ迫るつもりだ。
勿論、鞠子を尾けてね。

続報を待て。

そろそろ、団地に場面を戻します。
ああ~、思い出したくないけど、思い出して書きます。

本城眞子が入っていった301号室の様子を見ようと、
僕は差し足忍び足で団地を進んだんだ。

「何してるの?」

301号室の部屋の窓から、本城眞子が僕を見下していた。
怖い目だと思った。
初めて除しを怖いと思った。
咄嗟に逃げようと思った。
ここにいちゃマズいと思った。
最悪の事態だって思った。

本城眞子は僕に気付いていたんだ。
僕はひょっとして本城眞子の罠にわざとかかったのだろうか。
まるで、女王蜘蛛に誘い込まれたバッタだ。
僕はピョンピョンと飛んで跳ねて、ここに来た。
でも逃げよう、まだ遅くない。

「逃げなくていいよ」

女王蜘蛛が威厳を帯びた口調で、僕を制した。
本城眞子は部屋の扉を開けて、
ずっと僕を見下しながら階段を降りてくる。
今が最後のチャンスだ。
必死に逃げようと思ったけど、僕は逃げられなかった。
本城眞子の視線で動けなかった。
固まってしまったんだ。
僕の目の前の本城眞子の体には、不思議と血が一滴も無かった。

「約束だよね。私を守って」
「どうすればいいの?」
「部屋に来て」

僕は覚悟して頷いて、本城眞子に従った。
この階段は、天国への階段なのかな~。
僕は、腹を括ったんだ。



【続く】



■編集部解説

 いくつもの物語を並行して掲載し、須田氏の混沌を楽しんでいただく“須田寓話”。今回もジュブナイル、“まっ赤な女の子”の第4回をお届けしています。今回はいつも以上に脱線気味ながら、だんだんと核心に近づく君鹿守の語りでした。須田氏によれば、この連載はひとまず6週連続の予定。あと2回で物語はどこに到達するのか、かなり目が離せません!



■須田氏近況

 月刊コミックビームに原作を提供し、作画の竹谷州史氏とタッグを組んで好評連載中のコミック、『暗闇ダンス』の単行本1巻が絶賛発売中!


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 時速300kmに挑み生死の境をさまよった男・海道航は、3年間の入院を経て退院。彼が育った街・波道市は大きく様変わりし、航は衝撃を受ける。そんな彼に新たに出来た“王国”から招待状が届き……。この不思議で不可解な旅の物語からも目が離せない!