須田寓話 51FABLES

類を見ないセンスで国内外のファンから熱狂的に支持されるゲームクリエーター、須田剛一氏によるプロット・中短編・メモなどを断片的に掲げる連載。のちの作品に繋がるもの、エッセンスを残すもの、まったくの未完の欠片など、須田ワールドを形づくる珠玉の原石の数々。SUDA51のアタマの中を覗き込め。

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須田剛一による新連載! 【須田寓話】killer is dead ~殺し屋は死んだ~ #1(1/2)

2016-01-01 17:00:00

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killerisdead

#1:kills 7th

俺は七日後にぬ──。


 今、ご丁寧に配達証明付きの封書が届いた。年内中には自殺しそうな郵便局員(エモノ)は、一言も言葉を発することなく封書を届けて淡々とこなす業務(ルーチンワーク)に満足気だったらしい。ちょっと許せねぇな……。失礼な公務員を見るとついついホームランをちたくなった。得意のミッキー・マントルのフォームで、芯が頭を直撃(ジャストミート)する感覚が腕に伝わる。った瞬間、イッたと分かる、改心の一撃(クリティカルマーダー)だった。


 郵便局員(エモノ)はフラフラと与太って、俺を視界で捉えようと必死になっているが、今度は流しちで顔面に直撃(ジャストミート)。してやったりだ。ビクつく眼球は、何かを訴えかけていたんだろうが、ここでぬか自殺するかのどちらでしかない生涯であれば、奴の訴えが何らかの意味すら持つはずがない。KOされたボクサーのように、くの字型の体は顔が支点となって地面に平伏して、じっと俺の靴を睨んでいた。悪くない睨みだ。感情が伝わってくる。この男に、未練を感じるだけの証しがあったのか。それだけが今回(パターン)の収穫(サンプル)だ。


 しかし弱った……。また1体、肉袋(サンドバック)が増えやがった。


 郵便局員(エモノ)が届けた封書の手触りは、北側の女(スケ)の肌のように産毛(シルク)立っている。これだけの封書ってことは、いい知らせに決まってる。デカイ仕事(ヤマ)か? 幹部への誘いか? 違うッ、あのホテルで眼が合った上品な女(スケ)からの恋文(ラブレター)だ、絶対に。いい女(スケ)はやることが違う、古風じゃねぇか……。


 都合のいい妄想なんてのは、100%(ヒャクパー)ハズレるもんだ。


 ついてねぇ、運(ヴィーナス)は俺を見離した。几帳面な仕事人(ワーカホリック)は、の宣言(ポエトリー)を謳っていた。大胆且つ規則的な筆跡と、緻密で神経質な文面は、思考回路が壊(イカ)れた男の証明だ。やッちまった……、遂に地雷を踏んじまった。


 人生の中で巡り会ってはならない人間は、この3人だけだ。


 一、相槌(ヘッドバンキング)をうたない
 二、瞬き(ウインク)をしない
 三、無駄に笑う(バカスマイル)


 ようは、中毒者(ジャンキー)だ。3人の中毒者(ジャンキー)には死神が憑いていて、連中は地獄の住人といい人間関係を築いている。いや違う、いい死神関係? どっちでもいいだろ……。だからあれだ、オレは二、のタイプの中毒者(ジャンキー)に好かれちまった。署名は、カーティス・ブラックバーン……。凹むぜ。


 ~ぬにはいい季節だ。
 七日後、りに伺う。
 正装で迎えれば、礼節には応えよう。
 ボランジェは、味方だ。苦しみは、別離だ。
 ヴィンテージを求める。
               Curtis Blackburn~


 ここシアトルじゃ、この世界(アンダーグラウンド)で知らない者はいない超大物だ。100%(ヒャクパー)の確率で、今の俺は転落中だ。俺の人生の閉店セールを、残りの七日でやらなくちゃなんねぇ。忙しくなるぜ。


 冷静に整理をするとだ……、簡単な話だ。オレが七日後、何処にいようともだ、仕事人(ワーカホリック)は必ず居場所を突き止め、確実にりに来るって自信が封書からは漲っている。


 俺は行間を読むのが得意なんだ。いやこの場合は不得意と考えるべきだろう。普通にバカだったら、テキーラ喰らって、回した地球儀に1発ブチ込んで、穴(ブラックホール)の開いた場所へ手荷物ひとつでファーストクラスに乗り込んで《勿論、飛行機に乗る前には、上品な邸宅での強盗は必須だ》、3回の乗り継ぎのあいだにはキャビンアテンダントとよろしくやっちまって、誰も知らない外国の秘境へ辿り着き、現地でマル特スパモ級の女(ビッチ)と運命の出会い、(♂)し(♀)され、時を忘れ3ヵ月の間ひたすらベッドで抱(ハートマーク)き合うって寸法(プロジェクト)さ。そして20年後──、新天地(ニューホライズン)での俺は闇社会(ダークサイド)の大物になって、順風満帆の余生を送っているに違いない。


 ちょっと待て! 人生にはifがある。もし地球儀に開いた穴(ブラックホール)が、秘境じゃなく先進国だったらどうするつもりだ。だが心配するな。穴(ブラックホール)は貫通するから、もうひとつ穴(ブラックホール)が開く。裏(ワーム)に行けばいいんだ。都会から地球の裏側に回れば、大概が秘境だ。この星はな、人間が思うほど、狭くはないんだよ。いこうぜ、遥かグリーンランドに。


 OK! 最高の計画じゃないか。独り言が永過ぎたおかげで、逃避行(エスケープ)の準備は整った。俺がバカでよかった。ありがとう母さん(マザー)、バカに産んでくれて!

ダン:いい話だな?
オレも一枚噛ませろや
悪いようにはしねぇ……


 俺の名前は、シゲキ・バーキンだ。どうやら、七日間の余白(リミット)は夢だったみたいだ。当然、男が部屋に入ってきた。100%(ヒャクパー)ヤバイ男だ。本能がそう云ってる。こんなおっかねぇ顔は生涯の間で一度も見たことがない。黒のスーツに、でっかいリボルバー。眼から殺意がビンビン伝わってくる。コイツ……、笑ってるけど、笑顔に見えねぇよ。

cover01

ダン:オレが連れてってやるよ
恐怖の楽園(グリーンランド)に


 銃声が響くと、世界(オレ)は暗黒に支配された。

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7月1日 11:45 am
シゲキ・バーキンのアパートメントにて。

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