ファミ通.comインディーゲーム

家庭用ゲーム機にPC、モバイルなど、近年、幅広いプラットフォームで盛り上がりを見せている“インディーゲーム”。自作・同人ゲーム、フリーゲームなど、いわゆる“インディーゲーム”の中から、担当のアンテナが「これは!」と反応した作品を紹介するコーナー。国内外を問わず、さまざまなタイトルをピックアップ。

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“30歳以上推奨”のアクションアドベンチャーとは? 『LA-MULANA』(Windows/Wiiウェア)【ファミ通インディーゲーム】

2014-02-03 12:00:00

●インディーゲームの定番中の定番

 注目のインディーゲーム作品をご紹介する“ファミ通.com インディーゲーム”。今回はインディーゲームと言えばコレは外せないという定番中の定番、アクションアドベンチャー『LA-MULANA』をご紹介しよう。今回はWindows版をご紹介するが、ほかにもWiiウェア版が各1200円でダウンロード販売されている。

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タイトル:LA-MULANA(ラ・ムラーナ)
開発元:NIGORO(アスタリズム)
プラットフォーム:Windows(PLAYISM、Steam)、Wii(Wiiウェア)
価格:1200円[税込]
ジャンル:アクションアドベンチャー

 本作について語る前に、公式サイトでダウンロードできる説明書に付けられたアイコンに書かれた文字を紹介したい。

“このゲームには2Dグラフィックスやレトロな表現が含まれています/30歳以上推奨”

 ファミコン世代に向けたゲーム、と読み取ればいいだろうか。見た目にはスーパーファミコン辺りの世代を思わせる映像だが、あえてそれを選んで作られた作品なのだ。だから30歳以上推奨なのか!……と思うのは間違いではないが、本作はただ見た目がレトロなだけのゲームではない。それでは本編を見ていただこう。

 ゲームは考古学者のルエミーザ・小杉博士が、生命の秘宝を求めてラ・ムラーナ遺跡を探検するというもの。サイドビューのアクションゲームで、モンスターが徘徊する遺跡内を探索し、謎だらけの仕掛けや罠を突破しながら遺跡の最奥を目指す。
 意気揚々と大冒険にやってきたはずの博士は、空港でほとんどの探索道具を没収されてしまい、武器になるものは革のムチしか持っていないというありさま。現地人との売買や、遺跡の中で発見するアイテムや謎のショップで装備を整えながら進んでいく。

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▲遺跡近くの村からゲームスタート。

▲村の長老が探検中にメールでヒントをくれる。

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▲冒険に必要なモノは現地調達。

▲準備ができたら、いざ、ラ・ムラーナ遺跡へ!

 アクションはボタンを押すとムチなどの武器を振る、各種アイテムを使うというシンプルなものだが、敵はバリエーション豊かで、おいそれとは突破させてくれない。真正面から叩いても倒せない敵や、博士の何倍も大きなボスも登場する。最初のうちは、なんだかよくわからないうちに倒されてしまうこともある。
 それ以上に頭を悩ませてくれるのが、遺跡内にあるさまざまな仕掛けだ。奥に進みたいけれど道がなくて進めない、見えている宝箱が開かない、そもそもどこに行けばいいのかわからないなど、ただ敵を倒しているだけでは進めない場面があちこちにある。
 ヒントは遺跡内にある石版に書かれているが、いかにも古文書といった感じの抽象的な表現ばかり。フィールドを見て、文章の意味を考えると、たまに答えが見つかることもある……という感じ。とにかくいろんなことを試してみるという、総当たりなプレイで対応してしまうことも多い。

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▲遺跡内は、多様なモンスターが徘徊する危険な場所だ。

▲仕掛けの謎を解かなければ、先には進めない。

 初めて戦う敵になす術なく倒されたり、罠の餌食になって帰らぬ人になったりと、危険な遺跡探検らしい難易度の高さだ。幸いコンティニューは何度でもできるし、セーブポイントとなる聖杯石碑は遺跡の各所にあるし、一度チェックした聖杯石碑にはいつでもワープして戻れる。何度もやり直して糸口を見つけるタイプのゲームと言っていい。
 この感触は、ファミコン、あるいはスーパーファミコンのころに遊んだゲームの手探り感を思い出す。戦いかたがわからない敵、突破方法がわからない仕掛けに、何度も挑んで死んで覚える系のゲームだ。
 いまどきの若い子が本作をプレイしたら、「チュートリアルがなってない」とか「ヒントがなさすぎて不親切」とか言うのかもしれない。だが昔のゲームはそうだった。30歳以上のベテランゲーマーは、60階のダンジョンをノーヒントで突破するゲームすら楽しんできたのだ。それから思えば、このゲームはむしろ親切。こういうのは「歯ごたえがある」と言うのだ。

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▲遺跡内にある石版は重要なヒントだが、抽象的でよくわからないものも。

▲各エリアの最後には、巨大なボスモンスターも登場する。

 そういうゲームが好きなマゾいオッサンゲーマー(筆者含む)が、もうひとつ気にしてしまうのが、ゲームのボリュームだ。インディーゲームは物量の作り込みというのが難点で、プレイ時間が短いなと感じるものが多いのが事実。
 本作もアクションゲームなので、その点はあまり期待できない……と思っていたのだが、これがまったくの予想外。ちょっと遊べばわかるのだが、とにかく先が長い。数時間プレイしてからアイテム欄を見ると、まだスカスカなのだ。開発者によるクリアーまでの想定時間は、何と20時間。さらにすべての要素を拾おうとすると、50時間を超えることすらありえる。
 ただ謎が難しくて時間がかかるというのではなく、マップがじつに広大なのだ。グラフィックスがレトロだからと言って、ゲームのボリュームまでもが古めかしいということはない。しかもいくつものエリアに分かれた遺跡内は、それぞれまったく違った色合いのマップとモンスターたちが見られる。レトロな見た目でも、手抜きの水増し感はない。

 古きよき時代のテイストを発掘しつつ、ボリュームは時代なりのものを生み出したというのが、本作の見どころであり、30歳以上推奨の種明かしだ。シンプルなゲームシステムに楽しさを見出し、無数の謎に頭をひねりながらも挑める、ある意味、大人のためのゲームなのである。
 ちなみに本作は英語版も用意されており、既に世界中のプレイヤーに向けて展開されている。インディーゲームと言うと、一般流通のゲームより格が落ちるという印象を持つ人も多いと思うが、インディーだからこそ作れるゲームで、インディーだからこそ世界に出られるというのが、本作を遊んでもらえれば体感できるはずだ。

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▲遺跡で発見したお宝は、その後の冒険にも役立つ。

▲エリアが変わると、ビジュアルやBGMもがらりと変わる。

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▲遺跡の謎を解き、どんどん奥へと進んでいこう。

▲ボスを連続で倒すタイムアタックモードも用意されている。

●“レトロゲームのおもしろさを大容量で”

 現在は、『LA-MULANA2』のKickstarterプロジェクト(※関連記事はコチラ)でも注目を集めているが、今回は、この『LA-MULANA』について、ディレクターを務める楢村匠氏に開発時のエピソードなどを語っていただいた。

楢村氏

▲ディレクターの楢村匠氏。

――2Dグラフィックスのゲームを作ろうと決めたきっかけ、経緯を教えてください。
楢村匠氏(以下、楢村) 自分の年代は、2Dゲームから3Dゲームへの移行を体感してきて、とくにどちらかでなければダメだというこだわりもないんですが、自分で作りたいと思ったのは、頭に浮かんできたものが2Dだったというだけです。
 ただ、グラフィックス担当は自分だけなので、3D、とくにリアリスティックなものは作業量が多く手が出せないと思っています。3Dグラフィックス自体は経験があるので、2Dグラフィックスのベースとして利用したりしますし、最近の『マリオ』シリーズのように、3Dモデルを使って2Dアクションの可能性も探ってみたいです。
――開発期間とスタッフの人数を教えてください。
楢村 自分がアマチュア時代に声をかけたプログラマーふたりといっしょに、3人で現在も作っています。NIGOROとして活動を始めてからは運営担当がひとり、デバッグや手伝いなどで人を集めることもあります。最初に作った『LA-MULANA』は、3人おのおのが仕事をしながら趣味で作っていましたから、開発には5年ぐらいかかっています。
 Wiiウェアでリメイクを作ったときも、2年かかっています。Wiiウェアという、安価な市場に出すゲームとしては時間をかけすぎていますが、時間をかけて完成度を高められたからこそ、PCやプレイステーション Vitaなどの移植にも耐えられるし、何年も話題に挙げてもらえたと思っています。
――非常にボリュームのあるゲームですが、最初から意図した内容なのでしょうか?
楢村 もともと趣味で作っていたときから、「レトロゲームのおもしろさを大容量で」というテーマで作っていました。やりたいと思ったことを徹底的に作り込んだものなので、水増ししたものではありません。ですから、長いゲームですが、最初から最後まで密度が薄まることなく楽しんでもらえると思います。
――英語版も用意されていますが、日本国内と海外、それぞれの反応はいかがですか?
楢村 とくに広い人に遊んでもらいたかったわけではなく、自分と趣味の合う人に遊んでもらえればいいという考えでした。すると国内で広まり、知らないうちに海外にも知られていました。海外のファンの方からは、「翻訳パッチを作りたい」と声をかけられました。
 高難易度に加え、腰を据えて遊ばなければ太刀打ちできないボリュームのゲームなので、人を選ぶと思うのですが、国内でも海外でも好みがぴったりとはまった人が熱心に遊んでくれているという感じです。海外のファンの方は、「もっと難しくしてくれ!」って言いますね。
――おっしゃる通り、かなり歯ごたえのある内容だと思います。何かアドバイスはありますか?
楢村 はっきり言えば、遊んだ人全員がクリアーできなくてもいいと考えています。なんだか最近は、買ったゲームはクリアーするまで、コンプリートするまで遊ぶことが義務っぽくなっているような気がします。
 『LA-MULANA』は、無理に急いでクリアーする必要はないです。1ヵ月遊んで投げ出してもいいですし、その半年後にふと思いだして再開してもいいです。攻略サイトに頼っても、プレイ動画を見ても、ネットでヒントを探してもいいと思います。自分も子どものころにクリアーできなかったゲームを、大人になってからクリアーしてリベンジしたことがあります。お金を出して買ってくれた時点で、ゲームは買ってくれた人のものですから、好きなペースでスタイルで遊んでください。
――あえて伺いますが……タイトル名の由来は?
楢村 2Dの探索ゲームを作ろうというところからスタートして、それなら考古学をモチーフに使おうという形で開発を始めました。数ヵ月、主人公の名前もタイトルも決めずに開発していたため、そろそろタイトルを決めようかとなっても、なかなかイメージが湧きませんでした。
 ちょうどそのころ、BGM代わりにレンタルしてきた『重戦機エルガイム』というアニメを作業中に流していて、そこに“ワガマイ”という名前の遺跡が出てきたんです。「こんな感じの不思議な響きの造語がいい」と仲間に話すと、この“ワガマイ”というのは“今川”を逆さまから読んだものだとわかりまして。それなら自分の名前を逆さから読んで“ラムラナ”でいいやと。なんとなく遺跡っぽい名前だったので、それで決まりました。
――記事をご覧になっている方にメッセージをお願いします。
楢村 最初に作ってから、もう何年も付き合っているタイトルなのですが、幸か不幸かそれほど知名度が高くありません。これから続編(『LA-MULANA2』)を作ることになったためか、まだまだいろいろな環境に移植しないかという話が出ています。
 ダウンロード販売のゲームなので、売り切れることはありませんから、遊んでみたいと思う環境で販売されていて、目についたら思い出してみてください。きっと我々が一生付き合っていくタイトルになると思いますので、遊びたいときに遊んでください。

■著者紹介:石田賀津男
ジャンルを問わず、おもしろそうなことを追いかけるフリージャーナリスト。最近はインディーゲームを追いかけることが増えましたが、本業は「最近ゲームやってないなあ」とつぶやきながら、右手が勝手に“阿武隈改”を出撃させる提督業です。



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