チェイサーゲーム

現代のゲーム業界を舞台にくり広げられるお仕事マンガ。第13話まで無料公開中です。また、原作者であるサイバーコネクトツー松山洋(まつやまひろし)社長のエッセイ「デバッグルーム」も必読。マンガが収録されている単行本は、最終巻第7巻まで発売中。気になる方はぜひチェックしてみてください。

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【週刊ファミ通6/6発売号掲載】『チェイサーゲーム』インタビュー完全版ーー作品に込めた最大のテーマはあのセリフ!

2019-06-14 11:00:00

 週刊ファミ通6月6日発売号の『チェイサーゲーム』大特集に掲載された“松山洋氏×松島幸太朗氏 『チェイサーゲーム』はこうして生まれた”のインタビュー完全版を未公開写真とともにお届け! 作品に込められたメッセージや、今後の展開についても触れているので、誌面で目を通した人も要チェックだ!

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▲左が『チェイサーゲーム』原作者にして、サイバーコネクトツー代表取締役、松山洋氏。右が、サイバーコネクトツー所属のサラリーマンマンガ家、松島幸太朗氏。



■■『チェイサーゲーム』誕生前夜■■

―― なぜ、ゲーム業界を舞台にしたマンガ『チェイサーゲーム』を描こうと思ったのですか?

松山 2017年11月に、『.hack//G.U. Last Recode(ラストリコード)』が発売されると同時に、『エンターテインメントという薬 -光を失う少年にゲームクリエイターが届けたもの-』(詳細はこちら。以下、『エンタメ薬』)という本を出しました。この本は、フジテレビで再現ドラマ化されたのですが、その話が来るのと同じくらいのタイミングで、現在『チェイサーゲーム』の構成を担当している柚木さんから、アプローチがあったんです。

―― アプローチというのは、『チェイサーゲーム』に関してですか?

松山 いえ。柚木さんは“背景美塾”という背景に特化したマンガ家育成のスクールを運営されていて、以前から面識があったのですが、その彼から「『エンタメ薬』に感動しました! ぜひ“背景美塾”でコミカライズさせてもらえませんか」と。

―― 最初は、『エンタメ薬』をマンガにしようとしていたのですね。

松山 はい。それでKADOKAWAさんの担当編集者と3人で打合せをしたんです。そして企画が進み、当時“背景美塾”で講師をしていた松島幸太朗がマンガを担当して制作することになりました。

―― 『チェイサーゲーム』の3人が揃って、別の作品を作ろうとしていたのですね。

松山 ただ、それからほどなくして幸太朗からネームが上がってきたのですが……、「何もおもしろくないね」と(笑)。小説にしろ何にしろ、原作をコミカライズする企画ってたくさんあると思うんですけど、そのままマンガにするだけなら「本読めばよくね?」という話で。マンガにはマンガのよさ、強みがあるわけですから、それが出せないならやる意味がない。それで、どうせマンガを作るのなら、「ゲーム業界を舞台にしたマンガにしよう」と企画をゼロから仕切り直しました。

―― ゼ、ゼロに!? ネームを描かれた松島さんは、松山さんの判断をどう思われましたか?

松島 『エンタメ薬』は、マンガ的におもしろくなる要素を入れる余地がなかったので、正直なところ、描きながら「これはちょっときびしいかな」と思っていました。

松山 それ、そのときに言ってよ!(笑)

松島 一方、ゲーム業界を舞台にするマンガは、僕のように業界外の人間から見ると、謎の部分が多かったんです。だから、企画を聞いたときに、「すごくおもしろくなりそうだ」と感じました。

松山 過去にもゲーム業界を舞台にした物語、たとえば『東京トイボックス』とかありましたけど、あれももう10年前なんですよね。私も20数年、ゲーム業界でやってきて、そのリアルをよく知っている身だからこそ、業界のいま現在、最先端の現場で働く若者の苦悩や喜びを本当の意味でリアルに表現できるし、エンターテインメントとしての商品力も十分にあるだろう、と。そういったわけで、担当編集者のところに「ごめん、コミカライズやめます。こっちでお願いします」と『チェイサーゲーム』の企画を持って行ったのが、2018年の春ですね。そして、なんとか企画が進む中、事件が起きたんです。

―― 事件とは、どのような?

松山 去年の秋ぐらいに柚木さんが会社にやってきて、「松島幸太朗先生ですが、“背景美塾”との講師の契約が切れます。『チェイサーゲーム』のマンガ家はどうしますか?」と。マンガ家を途中で変えるわけにもいかないので、松島さんに、“フリーのマンガ家としてサイバーコネクトツーと契約するか”、それとも“サイバーコネクトツーの社員になるか“と、提案したんです。そうしたら、「奥さんと相談してきます」と。

―― 奥様は、なんと言われたんですか?

松島 「ずっと言えなかったけれど、私がいちばん好きな言葉は“安定”です」と言われました(笑)。それで入社することを決断しました。

松山 「それなら、これからは私の部下だ」ということで、サラリーマンマンガ家の松島幸太朗が誕生しました。じつはサイバーコネクトツーは現在、ゲームだけじゃなくてマンガやアニメも作っていこうと新体制になり、マンガの事業部“マンガ室”も立ち上げています。もともとゲーム業界を舞台にしたマンガをやりたいという気持ちもあって、社内外にもそういう話をさせていただいていたところだったのですが、タイミングも合ったので『チェイサーゲーム』をきっかけにさせてもらった感じです。


■■『チェイサーゲーム』の作りかた■■

―― 『チェイサーゲーム』では、原作が松山さん、構成が柚木さん、マンガが松島さんとクレジットされていますが、具体的には、それぞれどのような作業を担当されているのですか?

松山 最初は、私が話した内容を、柚木さんに原稿に起こしてもらって、それを幸太朗がマンガにする形でした。でもそれだとなかなか伝わりにくい部分があって、最近ではセリフや座る位置、顔の表情まで、自分で書いちゃっていますね。手描きで細かく書き込んでいるので、もう真っ赤です(笑)。

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▲インタビューは膨大な資料、ネーム、原稿を前に行われた。真っ赤に染まっているのが、松山社長による手描きの原作原稿。

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▲ぎりぎりネタバレにならない範囲で、貴重な原作原稿を公開!


―― この松山さんが描いた手描きの真っ赤な原稿から、松島さんがマンガの形にされているのですか?

松山 これはこれで渡しますが、もう一度柚木さんにテキストを直してもらって、幸太朗が両方を見ながらネームを描く形で進めています。

―― 松島さんは、これまでにも原作ありのマンガをたくさん手掛けておられますが、松山さんの原作はいかがですか? 作画はしやすい?

松島 原作として困ることはないですね。読むと頭の中に映像が流れてくるので、それをコマに落としていく感じで進められます。

松山 でも、幸太朗は筆が遅いんですよ。かつて『週刊少年チャンピオン』で週刊連載をやっていたのに! 私としては、現在の3週に1話の掲載ペースを、可能なら隔週にしたいのですが。

松島 (苦笑)。

松山 付き合いのあるマンガ業界の人間からは、作りかたが独特だと言われていますが、じつは『チェイサーゲーム』の作中にも出ているガントチャートで進捗を管理しているんです。

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▲こちらが実際に『チェイサーゲーム』の進捗を管理しているガントチャート。


―― ゲーム制作のノウハウをマンガ制作にも活用しているんですね。

松山 まさにそうです。アシスタントを含めた各スタッフの作業状況を、毎週2回更新してもらって管理しています。ただ、ネーム自体が決まらないと、アシスタントが先行して背景を作れないんですよ。アシスタントは基本、2~3人体制でやっていて、ものすごく強力なアシスタントも入っているんですけど、背景の中にはめちゃくちゃ時間がかかるものもあって、たとえば社内で150人が集まる朝礼の場面とか、交通量もある博多駅前とか……。「幸太朗、いつまで足止めしているの?」、「来週が締切だから、今週中に50%超えないとおかしいよね?」というような話を、毎週チクチクと幸太朗に言っています(笑)。

松島 『チェイサーゲーム』第1話の上田さんの気持ちが、わかりすぎるくらいわかりますね(笑)。

―― えっ、上田さん側に共感しちゃうんですか!?

松山 原作を読んで、ネームを描いているときの第一声が「胃が痛い」でしたからね(笑)。

松島 「だから毎日何とかするつもりだったんだよ!!」というところが、とくに(笑)。

松山 マンガ雑誌で週刊連載をしていたときと違って3週間あるから、彼はめちゃめちゃ作画にこだわるんですよ。「そこはオーケーだから、まだ埋まってないところをやって」と話をするんですけど、戻って来てみると、まだ同じコマをずっと描いていたり。

―― まさに第4話のエピソードですね。「そこは60%でいいのに!」と。

松山 そうなんです! 弊社のゲームクリエイターとまったく同じで、オーケーが出ているのに作り込むんですよ。「クオリティーをさらに上げるべきところは、最後に指示をするから!」と言っているのですが。

―― スケジュール管理以外に、ゲーム作りのノウハウを活かした部分はありますか?

松山 ひとつはデバッグ関係ですね。完成した原稿は、ゲームの制作と同様に、社内に専用チームを作ってチェックしています。ふだん記事原稿の校正をしている宣伝チームとか、マンガをよく知っている人など十数人が毎回確認しています。それと、登場人物のモデルになった人にも、原稿に目を通してもらっています。

―― 上田さんからは何か言われませんでしたか?

松山 本人は喜んでいましたが、ほかのスタッフから「社長、いくらなんでも上田さんの扱いがひどすぎる!」、「上田さんにも家族がいるんです。あなたは鬼ですか!」と辛らつなメールが来ました(笑)。それを読んで、「よし! 完全に成功した!」と、そのまま完成させました。

―― まさに、そう感じさせるように描いていたわけですものね。

松山 はい。ちなみに上田はTwitterをやっているのですが、フォロワー数も増えたみたいです(笑)。いちばん悪い奴なのに、おいしい思いをしているんですよ。

―― そのほかに、ゲームのノウハウが活きたところはありますか?

松山 許諾関係です。作中に登場するゲームはもちろんですが、TwitterやLINEなどのサービスも使用許可を取って実名で出せるようにしています。

―― そのものではなく、それっぽいものをボカして描いたほうが、手間は省けそうですが……。

松山 出版業界だと、そういう形は多いですよね。あるいは、許諾を得ずに黙って載せたりとか。でも、我々は、ゲームで許諾を取ることをいままでも一生懸命行ってきているので、とりあえず交渉してみようと。ダメだったらダメで仕方ないけど、やるだけやってみる。だって、Twitterの話が出てくるのだったら、やっぱり実名のほうがリアリティーが増すじゃないですか。結果、ほとんど許諾いただいています。もう少し先の話になりますが、『機動戦士ガンダム』に関しても、背景としてそのまま出てきたりしますよ。


■■“リアル”だけど“エンタメ”■■

―― LINEやTwitterから『ガンダム』まで、ちょっとした小道具にいたるまで手を抜かずにリアルさを追求されているのですね。

松山 ただ、『チェイサーゲーム』はあくまでエンタメです。おもしろくなければ、マンガではないですから。“実際のゲーム制作現場はこうです”と現実を突き付けるだけだったら、そもそもマンガでやる必要なんてないんですよ。正直、現実はそんなにおもしろくない。ただ、おもしろさの源泉はたくさん潜んでいるので、それをエンターテインメントという形で表現しているんです。とはいえ、お仕事マンガである以上は、働いている人たちに共感してもらえなければいけないので、そこは意識していますね。昨日も、某マンガ編集部の方と話をしましたが、そのときに「いますよ~、ウチにも上田が!」と言われました(笑)。

―― どこにでもいる上田さん(笑)。

松山 一方、ゲーム会社の方から「私たちの会社にもいます」と、よく言われるのが、魚川ですね。ああいう、人間の心があまりない、天才肌のクリエイターも“業界あるある”です(笑)。ただ、いちばん伝えたいのはそこではなく、仕事と向き合って、日々苦労しつつも成長し続ける若者たちの姿なんです。

―― お仕事モノのマンガは、主人公が新入社員というケースが多いですよね。でも、本作はシニアという管理職から始まります。

松山 いま働いている人たち、歯を食いしばってがんばっている人たちに共感してほしいと思ってこの作品を作ったので、典型的な名ばかりの中間管理職であるシニアにしました。要するに『課長島耕作』が、なんで課長から物語が始まったか、ということなんです。ただの新人でもなく、中途半端な中間管理職で、名ばかりの地位。こういうポジションの人って、世の中にいっぱいいるじゃないですか! 急に責任を押し付けられて、ちゃんとしろと言われ、若手の面倒も見なくちゃいけない。正直やってられない、というのがリアリティーがありますよね。とくにゲーム業界の場合は、管理職になりたくてクリエイターになった人はほとんどいませんから。

―― 確かに、ゲーム会社で働く人は、ゲームを作りたくて入った人ばかりですよね。

松山 でも、会社としてはいつまでもいちクリエイターでは困るんです。会社組織である以上は、いずれは何人もの人間の面倒を見れるようになってもらわないと。そのジレンマにきちんと向き合った作品にしよう、と考えました。

―― そのリアルさが、業界内でも反響を呼んでいますね。

松山 「読むと胃が痛くなる」っていう変なキャッチコピーもつきましたしね(笑)。ゲームだけに止まらず、クリエイティブ業界の方には「刺さる」と言われます。一方で、業界の誤解を解いてもいるみたいで。

―― どんな誤解が解けたんでしょう?

松山 ゲーム会社っていまだに机の下で寝袋で寝ているみたいなイメージがあるらしくて、「意外と会社然としているんですね」って(笑)。いまのゲーム会社はそんなことないですから! それでも正直、現代の働きかた、世の中の認識とのギャップはあって、今後もそういったことを描いていくことになると思います。長い時間をかけて書いたプログラムほどバグが多いというのは業界では当たり前なんですが、かと言って短い時間で上げればいいってものでもない。クリエイティブの世界では努力が裏切ることだけは絶対にないので、時間をかけて努力すれば間違いなくいいものに近づく。この時間にまつわるジレンマは、我々には避けて通れないものです。

―― クリエイティブは甘くないぞ、というのが、これでもかと描かれているのを感じます。

松山 業界を目指す若者に対しては、それがいちばんのやさしさだと思っています。だますような形で憧れるだけ憧れて業界に入れて、現実を突きつけるようなやりかたは、私はよくないと思うので。最初からわかっていて入ってくれるなら、いっしょにやっていこう。でもそうじゃないなら、最初からやめたほうがいい、君には向いていないよ、と言ってあげることがやさしさなんじゃないかなと。

―― 『チェイサーゲーム』作中で、松山さんが込められたメッセージ、テーマというのはほかに何かありますか?

松山 6話の穴井のセリフ、「世の中とズレているのはオレたち」というのは、この作品のテーマにもなっていると思います。以前は違ったんです、子どもたちはみんなゲーム、ゲームで、誰もが業界に憧れていた。でも、この10年で娯楽が増え、子どもたちにとってゲームがすべてではなくなってしまった……。このことは我々もしっかり自覚しなくちゃいけません。きっとこのテーマは、作中でも形を変えて何度も出てくることになると思います。でも、私が本当に言いたいことって、ほとんど穴井に言わせているんですよ。主人公はあくまで龍也、私が出すぎると社長のマンガになっちゃいますからね。

―― 穴井さんは本当にカッコイイ、理想の上司になっていますよね。

松山 ただただかっこよすぎですね、これは幸太朗の仕業です(笑)。実際の穴井も元ヤンキーっぽいところがあったり、昔はバイクに乗っていたりと雰囲気は似ています。現実にはもう少し偉くなっているんですが、龍也とあまりに遠い存在だとコミュニケーションが取れないので、年齢も若くして、かつてのリードだった時代の穴井を切り取った感じですね。

―― 登場する社員の方は皆さん、実名なんですか?

松山 そうです、顔も性格もわりとそのまんま(笑)。龍也と勇希、それに美園はオリジナルで、私も含めスタッフの集合体のような形で融合してキャラクターを作っています。実在のモデルがいるキャラももちろん、名前やモチーフを使いつつ、ちゃんとキャラとして立つようにしていますよ。年齢も読者に共感しやすいところに変更しているし、みんなが同じような背格好にならないように身長のバランスも取っていますし。

―― ちなみに、200名もいらっしゃるスタッフの中から登場人物として選ばれたのは、どういう人選があったんでしょう?

松山 そもそも、アニメーションチームがいちばん物語として描きやすいと思ったんですね。アニメーションって「このままでもいいけど、なんか気持ちよくないよね?」とか言われて迷路に迷いこみやすく、苦労も多い。それに、アニメーション、エフェクト、シネマティックとチームにもしやすいので、その中からメンバーを選びました。実際にチームを組んでいるわけじゃなくて、いろんな部署から引っ張ってきたメンバーです。

―― そんな主要キャラたちの制作秘話をお聞きしたいのですが、まずはなんといっても、この松山洋社長。

松山 実際の私とはもちろん違うんですけど、スタッフからはだいたいこんな感じで見えてる、と言われます(笑)。

―― 松島さんはそのあたりいかがですか?

松島 なんとなくわかるなあ、と(笑)。打ち合わせをしているあいだにこっそり観察とかしてました。こういうポーズ取るんだなとか、運動してる感じはないけど、けっこう腕の筋肉はあるなとか。

松山 そんなとこ見てたのかよ!(笑) 最初はね、前髪をサービスしてくれてたんですよ。でも、そこはサービスしなくていいから、キャラを立てる意味でおでこはわかりやすく出して!ってリクエストしました。それから、狂気感があったほうがキャラ的にもいいだろうって話をして、こういう形になりましたね。

―― では、大人気の上田さんは?

松山 上田がいちばん顔が似てますよ! 先ほども言った通り、上田は社内でも物議を呼んだんですが、“年上の部下”というどこにでもいる典型的なキャラで、絵面的にもわかりやすい人間を選びました。

松島 最初はやっぱり嫌な役どころなので、怒られるんじゃないかと不安もありました……。はじめに顔写真を見せていただいて、性格なども聞いてキャラクターデザインをしたんですけど、やっぱり写真だけだとわからないことも多いので、福岡本社とテレビ会議でつないで取材という名の面談をさせてもらったんです。で、いざ上田さんがカメラ越しに出てきたときに、すでに描いていた服装とまったく同じ格好をして出てきて(笑)。

―― すばらしい人間観察力!(笑) それくらいイメージしやすいキャラだったんですね。

松島 いちばん描きやすく、描いていても楽しいです。

松山 結果的に、いちばんおいしいキャラになりましたね。

―― では、もうひとりの人気キャラ、魚川は?

松島 最初に天才的なエピソードをいろいろと聞いて、そのイメージ優先で描いてますね。メガネとか、ネクタイとか。

松山 魚川本人は確かに天才肌なんですが、あんなクールな感じじゃないです。関西出身で、ひょうきんなやつですね。能力も高いけど、それを凌駕するほどのバカなエピソードも多いという、社内ではバカキャラで通ってます(笑)。ネームを見せたときに、魚川のキャラは天才肌でシュッとしてるし、「1話掲載までにダイエットします」って言ってだいぶ痩せましたけど、まだまだ道半ばです。


■■松島氏のこだわりが生む世界■■

―― 松山さんと松島さんは、それぞれお互いのお仕事ぶりについて、どう感じていますか?

松島 松山社長は、マンガの読書量がものすごいんです。上がってくる原作からも、意識して少年誌的な引きを作られていることがよくわかります。とてもマンガにしやすい原作ですね。

松山 部下になったので、面と向かっては言っていませんが、マンガ家松島幸太朗とは、相性のよさも含めて“運命の出会い”だと思っています。『チェイサーゲーム』の作画が、松島幸太朗で本当によかったと。彼は、私が手掛けた原作を、そのままマンガにしているわけではないんです。ネームの段階から、松島幸太朗というマンガ家の演出が入っている。必要がない部分は切るし、「そこまで書いてないけど、わかるかな?」と思いながら渡した部分も、ちゃんと立てて描いてくれている。女性キャラの妙に色気のあるところとか、私は何にも注文を出していないのに、きっちり描いてくるんですよ。

―― 確かに登場する女性はみんなかわいいです。

松山 たとえば、3話の久井田がお辞儀する場面は、原作では“「期日を延ばしてほしい」とお願いする”としか書いていないんです。ですが、上がってきた絵は、背中とうなじが見えて女性の柔らかさを感じられるし、絵にするのがいちばん面倒なボーダーの服を着ているし……(笑)。

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▲松山社長イチ推し、渾身の久井田のうなじシーン!


―― 登場人物の服装は、松島先生が決めているんですか?

松島 毎日同じ服を着て会社に来る人はいないと思うので、キャラクター性を崩さない範囲で、服は変えるようにしています。

松山 すごくこだわって描いていますね。「力の抜きどころを覚えて、もうちょっと軽く描きなさい」とは言っているんですけど……。

松島 やはり、女の子は描いていて楽しいんです。ただ、体力も気力も充実しているときに、力を入れて描いたりすると、疲れているときも、そのレベルに合わせないといけなくなるので、それがプレッシャーに感じることもあります。

松山 そういうこだわりも“クリエイターあるある”ですが、一度だけどうしてもネームが上がってこなかったときがあったんですよね。

―― それは第何話ですか?

松山 9話(6月17日公開!)です。ネームがいつになっても上がらないので、急きょミーティングを行ったんです。そうしたら、「6話から登場しているインターンの学生の黒田くんが報われる展開に変更したい」と言ってきたんです。幸太朗は、アーティスト気質を持つ黒田くんの気持ちがわかりすぎるくらいわかる一方で、マンガ家として「原作をまったく違う方向に変えていいのか?」という葛藤もあって、言い出せなかったらしいのですが……。上がってきたネームを読んだら、私の原作よりもよかったんです。松島幸太朗は、やっぱりプロのマンガ家だな、と思いました。

松島 いい話だなぁ。

松山 あなたの話だよ(笑)。

―― 松島さんは、そのまま原作通りにネームを上げることも、できたわけですよね。

松島 それはそうですけれど、黒田くんはこうじゃないだろう、という想いが自分の中にありました。ですから、9話で感動してもらうために、7話8話の黒田くんの表情を9話につながるように描いていたんです。

―― 7、8話の時点で9話の展開になるように、描き分けていたのですか?

松島 はい。いちばん効果的にしたいという思いで伏線を張りました。

―― ということを、松山さんは9話になって知らされたことになりますね。

松山 おもしろければぜんぜんオーケーです。本当にすばらしい9話になっていますから。あまり言わないほうがいいと思うのですが、読むたびに同じページで感動します。

―― 楽しみにしています。『チェイサーゲーム』は今後、どのような展開になっていくんでしょうか?

松山 13話で第1部が終わり、第2部からは主人公の龍也と幼なじみの勇希の専門学校時代のエピソードが始まります。時間が10年前に戻るんです。第1部は2015年の設定だったので、10年前はプレイステーション2の全盛期。いわゆるゲームバブルだったころで、彼らはその時代にゲーム業界に入ってきた世代。第2部は業界を目指す若者の視点で描かれるわけですが、『チェイサーゲーム』はゲーム業界のこの10年の物語となります。

―― 最後に。『チェイサーゲーム』というタイトルには、どんな意味があるのでしょうか?

松山 それは13話でわかりますよ。第1部の結びとして表現しているので、ぜひ楽しみにしていてください!