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昔ながらの変人と、一攫千金を夢見るエンジニア――『ウォッチドッグス2』の舞台、サンフランシスコ・ベイエリアのふたつの顔
公開日時:2016-12-03 18:00:00
Text by Mill “ntheweird” Yoshimura
Watch Dogs 2の舞台であるサンフランシスコ(SF)・ベイエリアは、さまざまな顔を持つ多様性に富んだ不思議な街だ。人によってはヒッピーに始まりカリフォルニアパンクや悪魔教会からLGBTQなどの文化まで包み込むカウンターカルチャーの牙城であり、別の人にとってみればシリコンバレーに代表されるデジタル時代の世界的爆心地でもあり、サンクスギビングの週末には地下鉄のチケットシステムがハッキングされて公式にタダ乗りオーケーという、まるでゲームのような話が本当に起こる街である。
そして経済的にも絶好調。なんせ、GoogleもAppleもYahooもTwitterもFacebookも全部、本部があるのはベイエリアだ。しかし「やったぜ、世界が俺たちのものだ!」とベイエリア住人のみんなが喜んでいるかというと、そうじゃないのが面白いところ。むしろ高給取りのエンジニアたちが乗る通勤バスが地元住人の抗議活動で立ち往生するなんてことも珍しくない。「ブルーム(Blume)みたいな扱われ方だな」って人は鋭い。そう、実は『ウォッチドッグス2』の内容はベイエリアの現在の情勢を反映しているのだ。
ハクティビズムとカウンターカルチャー†
主人公マーカスが所属するハッカーグループ、デッドセック(DedSec)の元ネタとなっているのが、AnonymousやLulzSecといったハッカー集団、特に“ハクティビスト”(行動主義的ハッカー)と呼ばれる、ハッキングを政治的主張や抗議のための手段として選ぶ人々だ。ちなみにハクティビズム(ハッキング行動主義)という概念を生み出したハッカー集団の名は“Cult of the Dead Cow”(cDc)と言う。このcDcの“De(a)d”とLulzSecの“Sec(urity)”を足して“DedSec”なのかまではわからないが。
根底に“情報社会での自由やプライバシーの確保”というシリアスな目的がありつつも、デッドセックがアスキーアートをモチーフとして使ったり、外側からはジョーク交じりだったり、巻き込まれた側にとっちゃはた迷惑なイタズラにしか見えなかったりする、どこまで本気かわからない道化師的スタンスなのは、このcDcの頃から変わらない(もともとハッカー文化自体が内輪のギークジョークだらけだけども)。だから「大層なこと言って、やってるのほとんどイタズラじゃねぇか」と思った人は正しい! これはそういう文化なんだから。ちなみにcDcのビデオにはマスクをかぶったメンバーやアスキーアートのTシャツが出てきて、かなり“DedSec”である。
実際にはハクティビズムがSFベイエリアで特に根強いといったことはないんだけど、こうした活動は、少なくともベイエリア一帯の反体制的なカウンターカルチャーや、それを支えてきた多様性や寛容性の土壌とは親和性が高い。だから収録トラックにデッド・ケネディーズやランシドといった新旧のベイエリアパンクが収録されているのも、ある意味当然といったところ。昔のベイエリアパンクスがライブで中指を突き立てる代わりに、ネットワークコードで監視システムの穴を暴露して笑いものにするというのがデッドセック(DedSec)スタイルというわけである。
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▲ゲーム中のラジオステーションの選曲がツボを押さえているのは、地元レコード屋のAmoeba Musicが協力しているからだろう。その関係もあって、ゲーム中にも登場する(現実同様にヘイトアシュベリーにあるが、実物はもっとバカでかい)。発祥はイーストベイのバークレーだが、サンフランシスコ住人に愛されてきたレコード屋だ。 |
ランシドは地元バークレーをはじめとするベイエリア一帯のことをよく曲のテーマとして扱っていて、本作の収録曲“Journey to the End of the East bay”も、まさにそんな曲のひとつ(イーストベイとはサンフランシスコ湾の東側、バークレーやオークランドを指す)。2014年に出たアルバム“Honor Is All We Know”では、メンバーがアルバムのサウンドに合わせてイーストベイやサンフランシスコをクルマでぐるっと流すという30分超のプロモビデオも公開している。『ウォッチドッグス2』をプレイした後なら「あれはこの辺かな?」と気づくかもしれない。
またついでに紹介しておくと、とあるファンが名曲“Roots Radicals”に合わせて中学生ぐらいのノリで踊りながら、ランシドの曲に登場したベイエリアのストリートや地名をひたすら紹介していく“Roots of Rancid”というビデオもなかなか最高なので、気になる人はこちらもチェックしてみて欲しい。こちらも『ウォッチドッグス2』に出てくる場所がちらほらある。
話が音楽寄りになりすぎたので、ハッキングの話に少し戻そう。サンフランシスコにはネット上の言論の自由やプライバシーの確保のために活動するEFF(電子フロンティア財団)の本部があったりもする。同じくサンフランシスコに本部があるインターネット・アーカイブと並び、より良いネット社会を目指して活動する非営利団体の大物だ。EFFは過去にはネットを匿名で利用するためのツールであるTorをバックアップしていたし、しばしば政府や大手ネット企業の個人情報収集に抗議している。『ウォッチドッグス2』に近いところで行けば、オークランド警察のパトカーが搭載している自動バンパー撮影システムがどのように使われ、あるいはどのような問題があるのか、データの公開請求をして解析していたりもする。
テック企業のエンジニアと超高い家賃†
一方で、ctOSを通じた監視社会を作ろうというブルームは、シリコンバレーをはじめとするベイエリアのさまざまな巨大インターネット企業を合わせたような存在だ。Googleが“nudle”だったり、Twitterが“!NViTE”として登場したりするけど、ちょっとぐらいのプライバシーよりもテクノロジーの進化による効率化(とそこから生まれる莫大な利益)を重視するその感覚は、まさしくベイエリアの「新しい住人」のものだ。
シリコンバレーとは地域的にはサンマテオからサンノゼ辺りまでのサウスベイを指していて、厳密には“サンフランシスコ市”の産業ではないのだが、サンフランシスコの市政とは大いに関係がある。というのは、南のシリコンバレーで働く高給取りのエンジニアは若いので、遊ぶ場所があんまりないサウスベイよりも、できればファンキーで楽しいサンフランシスコで暮らしたい。だから南で働いて北に帰る(ここで言う北とはノースベイではなくサンフランシスコ)というのがよくあるライフスタイルだ。
だからシリコンバレーの大企業は、従業員のために毎日、サンフランシスコと会社の間を結ぶチャーターバスを走らせている。これをベイエリアの格差の象徴と捉える人もいる。なぜならこれらのチャーターバスは市営バスの停留所を借用するが、普通のバスには低所得者層が乗るからだ(しかも今は市にお金をいくらか払っているが、以前は停留所をタダで流用していたのでデモが起こる事態になった)。
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▲WD2でしばしば見かけるシンプルな外装のリムジンバスは、シリコンバレーの大企業の通勤用バスをイメージしている(nudleのバスはロゴ付きだし、現実でも某大手ゲームメーカーのバスはロゴやキャラ付きだが)。これは乗客が有名企業に勤める高給取りのエンジニアであるのがバレることでトラブルが起こるのを避けるため。 |
さらにシリコンバレーだけでなく、(Twitterが2011年に移転を匂わせたのを引き止めるために)テック企業向けの優遇税制ができたこともあって、サンフランシスコ市内にも次の一攫千金を狙おうというスタートアップ企業もぼんぼん出来るようになったので、ますます人が流れ込んでくる。その結果生まれたのが家賃や不動産の高騰で、サンフランシスコは今やアメリカいち家賃が高い地域になってしまった(6位はサウスベイにあるサンノゼ)。
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▲Twitterが元ネタのテック企業“!NViTE”。Twitterはサンフランシスコ市との取引により、税制優遇と引き換えに再開発計画に協力し、治安の悪いSOMAとテンダーロインの境目に本社を構えていて、ゲーム中でもほぼ同じ場所に存在する。 |
となるとたまらないのが、以前から住んでいる、別にネット企業に勤めてるわけではない人たちだ。借り手を守る法律はあるのだが、ここまで高騰するとなると、大家もあの手この手で家賃を上げたり、借り手を追い出して改装しようとする。「先月まで月18万円の物件がいきなり80万円請求された」、「老人がこんな追い出され方をした」、「あの歴史ある名店も閉店。大家はリッチなコンドミニアムにしたいらしい」といったニュースが流れない日はない。ちなみにその月18万の物件、日当たりは良好で場所も部屋数もいいが、サンフランシスコの例に漏れず結構ボロボロで、映像を見れば「これで?」と驚くだろう。
とまぁそんなわけで、サンフランシスコの昔からの住人にはテック企業に勤めるエンジニアを“Techie”(コンピューターオタク)と呼んで軽蔑する人もいる。もちろんエンジニア個人が悪いわけではないのだが、非エンジニア系の給料で住める所がどんどんなくなり、日常を過ごしていたスポットがTechie向けの小洒落たバーやカフェやヨガスタジオやフィットネスクラブになって、どんどんサンフランシスコの持っていた(小汚くも)ユニークな部分が消えていくんだから、「お前らなぁ」と嘆くしかないのだ。
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▲半裸の多分ゲイの兄貴、ヒッピーテイストのタイダイ柄のTシャツ売り、ストリートアート、420の隠語で知られる“医療用”の何かの販売店(ちなみに420と呼ばれるようになったのは、ノースベイの街サンラファエルの高校生たちが発端と言われている)。いかにもサンフランシスコ的な風景。 |
イーストベイ vs. サンフランシスコ†
それに対してマーカスが住むイーストベイはまだマシな方、というより、比較的家賃が安いどころか、場所によっては依然として強盗や車上荒らしの発生件数が全米トップクラスの危険地帯だったりもする。道路を勝手に封鎖してドリフトしまくる“サイドショー”文化なども未だに健在で、日本で言えば「IT企業が立ち並ぶ六本木の横がいきなり昭和のヤンキー文化のメッカだった」というような感じだろうか。
イーストベイ住人には、単にサンフランシスコのベッドタウンというわけではない、イーストベイ独特の雰囲気に誇りを持っている人も多い。だからゲーム中でイーストベイからサンフランシスコに行って戻ってきた時に、どこか違う感覚を味わったとしたら、このベイブリッジを挟むギャップがうまく表現できているということだ(なおサンフランシスコとイーストベイを結ぶのはサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジで、有名な“ゴールデンゲートブリッジ”はサンフランシスコとノースベイを結ぶ橋)。
ちなみにダウンタウンに見えるひときわ大きな超高層タワーのひとつは、ビジネス用ソフトウェアサービスの大手セールスフォース・ドットコムが命名権を持っている実際に建設中のタワー“セールスフォースタワー”を再現したもの。その対岸、オークランドの南にあるブルームのスタジアムは、地元のNBAチームであるゴールデンステイト・ウォーリアーズの本拠地オラクル・アリーナが元ネタだ(もちろんデータベース企業のOracleが命名権を持っている)。ベイエリアではランドマークだってテック企業のものなのである。
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▲ゲーム中にも出てくるTransamerica Pyramidを抜いてSFいちの高層ビルになる予定のセールスフォースタワー(旧称Transbay Tower)。 |
だから『ウォッチドッグス2』でマーカスがイーストベイ側からサンフランシスコのダウンタウンを望む時、そこにはタフなオークランドで生きながらコンピューターを学んできた黒人としての、システムに弾き出された反体制のハクティビストとしての、そしてイーストベイ住人としてのさまざまな思いが混在しているはずなのだ。
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●GAME SPEC
タイトル:ウォッチドッグス2
ハード:プレイステーション4、Xbox One、PC
メーカー:ユービーアイソフト
発売日:2016年12月1日発売予定
価格:各8400円[税抜](各9072円[税込])
ジャンル:アクション
CERO:18歳以上のみ対象
備考:ダウンロード版は各7500円[税抜](各8100円[税込])、『デラックスエディション』は各8700円[税抜](各9396円[税込])、『ゴールドエディション』は各12300円[税抜](各13284円[税込])、PCはダウンロード版のみ発売
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