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「『ラグナロクオンライン』に足りないのは、ばかです!」~もしオンラインゲーム運営者がドキュメンタリー番組に出演したら(4/5)

ドキュメンタリー番組に取り上げられると、その業界がとても魅力的に見える。オンラインゲームを盛り上げるヒントが隠されている気がするので、『ラグナロクオンライン』運営チームに協力してもらってドキュメンタリーっぽい記事を作ってみた。

●ふつうの人の話でもドキュメンタリーっぽくなるか

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▲デザイン担当の松尾さん。職場にもおしゃれをしてくる。女子力高め。

 中村さんと栗山さんに取材したぶんは、内容も写真もそれなりにドキュメンタリーっぽくなっていると思う。

 とはいえ、彼らがやや特異な経歴の持ち主だから、という可能性もある。今回のメソッドがふつうの人にも通用するか試したい。

 そこで、デザイン担当の松尾望さんにも協力してもらうことにした。“写真に華がない”という弱点も解消されるので、とても助かる。

 松尾さんが『RO』に出会ったのは、北海道のゲーム開発会社でグラフィッカーを務めていたとき。ドット絵のアニメーションに苦戦していた彼女は、勉強として『RO』に触れてみることにした。『RO』のドットデザインの秀逸さは、同業者にもよく知れ渡っていたのだ。

 そのグラフィックにほれ込み、仕事とは無関係にのめり込んでいく松尾さん。やばいやばいと思いながらもハマッていく。いまの言葉で言うと“沼”だろうか。


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▲『RO』沼にようこそ。奥には先輩の沼住人がいるよ。

 ちょうど前の開発会社を退社予定だった松尾さんは、自分の好きなゲームに関わりたいと一念発起。RJC2011で実施されていた就職セミナーや面接で北海道と東京を何往復もしつつ、見事にガンホー入社を果たした。

 彼女がゲーム業界に入ったのは“好きなゲームを作りたい”という夢があったから。夢をかなえた彼女ではあるが、移動や引越しで出費がかさみ、しばらくは節制した生活を送ることになった。


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▲節約のためにカップ焼きそばばかり食べていた過去をドラマチックに表現。

●絵を描ける運営スタッフは貴重な戦力

 松尾さんの最初の担当はメンテナンス作業。得意分野はグラフィックデザインだが、向き不向きを知るために、一通りの業務を担当したいと自分から申し出た。夢をかなえてテンションが上がっているかと思いきや、冷静。

 メンテナンス担当は言わば最後の砦だ。自分のミスがそのままプレイヤーの手に渡る可能性もあるので緊張感がすごい。そのぶんプレイヤーの反応がすぐに返ってくるのがうれしい。


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▲がっつり開発の内側にいた前職のころとは違い、プレイヤーとの距離が近い。

 現在の作業はグラフィック周りが中心だ。衣装装備がランダムで手に入る“コスたま”のラインナップを考えたり、開発会社から上がってきたドット絵を修正したり。

 コスたまの衣装装備にはプレイヤーからデザインを募集したものも含まれている。絵をそのまま開発会社に渡すのではなく、可能な限りデザインの意図を読み取り、細部まで指定を書き込んで発注する。

 ちなみに、松尾さんはユーザー時代にアイテムデザインコンテストに応募したことがあるが、あまりにも細かいデザインだったため、「これは再現できないんじゃないか?」とボツになったそうだ。松尾さんが間に入ってくれるいまなら、超細かいデザインも制作可能かもしれない。


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▲デザイン案を開発会社に丸投げしたりはせず、アニメーション関係も指定する。

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▲松尾さん本人はいろいろなタイプの絵を描ける。「○○みたいな装備を作りたい」という意図を汲んでイラストを起こせるので、スムーズにアイテムを制作できるようになった。

 松尾さんはゲーム内イベントの企画を担当することもある。プレイヤーからモンスターの配置などを募集した“アドベンチャーズタワー”は松尾さんが担当した企画だ。

 各階にはコンセプトを説明するNPCがいて、クリックするとプレイヤーが用意したイラストが表示されるようになっている。これはデザイナーならではの発想だろう。ちなみに、100階のNPCで表示されるイラストは松尾さん作。ちゃっかり自分の絵をいいところに配置している。


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▲“アドベンチャーズタワー”はプレイヤーのアイデアを実装した珍しいダンジョン。

 松尾さんは絵やデザインに対するこだわりが人一倍強いのだ。1ドットのズレすら見逃さず、開発元から上がってきた装備は複数のキャラクターに着させてチェックする。見た目がきれいでも『RO』に合わなかったら意味がない。

 この熱意は仕事をお願いするイラストレーターの選定にも関係する。どんなにうまくても『RO』に合わない人は起用しない。『RO』熱の高い作家を探すため、2次創作系の即売会の視察も怠らない。自分の正体を明かしていないらしいが、この記事でバレるぞ。

 本来なら運営会社にグラフィッカーは不要な職種だ。だが、松尾さんのおかげで開発会社に具体的な提案ができるようになり、アイテムグラフィックの質は確実に向上。それが日本のみならず韓国や台湾でも好評を博している。

 松尾さんは『RO』における2Dアイテムデザインのクオリティーを引き上げた立役者なのである。


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▲デザイナーとしてのこだわりが心に響いたらこちら。