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「『ラグナロクオンライン』に足りないのは、ばかです!」~もしオンラインゲーム運営者がドキュメンタリー番組に出演したら(3/5)

ドキュメンタリー番組に取り上げられると、その業界がとても魅力的に見える。オンラインゲームを盛り上げるヒントが隠されている気がするので、『ラグナロクオンライン』運営チームに協力してもらってドキュメンタリーっぽい記事を作ってみた。

●世界チャンピオンがガンホー社員になった

 中村さんの場合はRJC以前からガンホーさんと付き合いがあったわけだが、RJCやRWC(RJCは国内大会、RWCは世界大会)そのものが縁で入社した人もいる。『RO』運営チームの栗山知也さんだ。

 彼は2012年に韓国で開催されたRWC2012の優勝ギルド“Greensleeves”メンバー。つまり元世界チャンピオンである。


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▲元選手ということで、透かしのロゴもスポーツ系ドキュメンタリーをイメージ。オンラインゲームのかたまり。

 プロスポーツ選手でいうところのセカンドキャリア真っ只中。彼の選手としての原点や現在の仕事ぶりに迫りたい。


●人とは少し違うプレイスタイル&ロジック

 2003年頃、友だちが遊んでいるのを見て『RO』に興味を抱いた栗山さん。「自宅で人とゲームができるなんて」と時代の流れを感じつつ、狩りやアイテム集めを楽しんでいた。

 プレイヤーが有志で開催していた対人戦イベントに興味を持ち、栗山さんは徐々に対人戦にのめり込んでいく。バランスやルールが整備されていないインディーズ対人戦時代。わいわい感が楽しかったのだと思う。

 ふとしたタイミングでRJCの存在を知った彼は、こう思ったそうだ。


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▲ちょっと近所のコンビニに行こうかな、くらいテンション。

 「出場しようかな」ではなく「優勝しようかな」。この時点で読者の共感を得られないのは確定的だが、強い気持ちで書き進めたい。

 栗山さんの思考の根底には、負けず嫌いな性格があるという。負けたらつぎは絶対に勝つ。“勝ちたい”ではなく“勝つ”。負けるたびに強くなっていく。そういうキャラ、バトルマンガで見たことある。

 「試合を見て“自分たちのほうが強い”という自信があったんですか?」と聞くと、少し迷った後にこう答えてくれた。


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▲優勝することを前提に、本番までに何をすればいいかを逆算して練習メニューを組んでいたそうだ。

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▲念のため説明しておくが、RJCは大会場で開催される大型イベントだ。ふつうはステージに立つだけで緊張する。

 思考のベクトルが微妙にずれている。勝つことは目標ではなく前提条件。この意識の差は大きい。基本的なロジックが、FPSなどに競技として取り組むプレイヤーに近いように感じた。

 ちなみに、栗山さん(Greensleeves)が初めて世界大会の代表になったのは、インドネシアで開催された“RWC2010”。アウェイにも関わらず大健闘の準優勝だったのだが、栗山さんはとくに喜んでいるように見えなかったという。


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▲文字に起こすといけ好かない感じですが、栗山さんは真面目な好青年です。

 冷静! み、見える。心のなかで眼鏡をクイッてやってる姿が見えるぞ!


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▲この記事がもとでイメージダウンするのも悪いので、こういう画像も載せておこう(発言内容は僕の想像です)。

●栗山さんの意外な才能

 思考パターンが特殊すぎて理解が追い付かないのだけど、栗山さんが極まったプレイヤーだということはよくわかった。そんな彼がなぜガンホーさんで働くことになったのか。

 RWC2012で世界一に輝いた後、Greensleevesメンバーを招いた優勝報告会が実施された。ここで、栗山さんが意外な才能を発揮する。人前でも緊張する様子も見せず、何より試合の分析がわかりやすかったのだ。


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▲関係者の証言風にした。

 ステージを見た関係者数人から「うちに入れたほうがいいんじゃないか?」という声が挙がった。プロ野球のスカウトみたいだ。どこで誰が評価しているかわからない。石油王が僕の仕事ぶりを見ている可能性もあるわけで、原稿を書く手に力が入る(連絡待ってます)。


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▲RJC2013では中村さんとともに試合の解説を務めた。

【スカウト(そんな人いないけど)の目から見た栗山さんの評価】
・素人なのに筋道立てて話すのがうまい
・人前に出られる人材としては、世界一はベストな経歴
・クレバーなタイプだから仕事もできそう
・うにせんべい(栗山さんのキャラ名)はうまい

 栗山さんは翌年のRJC2013にゲスト解説として招待されるのだが、「近くで人間性が見たい」というガンホーさんの思惑もあったのではないかと思う。

 RJC2013終了後、スタッフ間で「栗山くん、ガンホーに入りたいって言ってたよ」と噂が流れた。ガンホーさんからは「興味があったらぜひ応募してくださいね」と形式ばった連絡を入れたそうだが、『RO』運営チームからすれば狙いどおりだろう。

 栗山さんはソッコーで履歴書を送り、2013年7月にガンホー入社が決定した。


●プレイヤーのために妥協は絶対しない

 栗山さんの初めての大仕事は2013年9月のゲーム内イベント“古代遺跡探険隊”。入社2ヵ月でイベント企画担当。むちゃ振りもいいところだが、『RO』の全体を統括する偉い人としては、経験を積ませる意図もあったという。「栗山君ならある程度はやってくれると思ったんです。周りのサポートもありますし」。

 ここで、栗山さんの対人戦ロジックが役に立つ。イベント完成像から作業スケジュールを逆算し、ぎりぎりまで要素を詰め込んでいった。


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▲完全に腑に落ちるまで上司とディスカッションをくり返す。

 「この期間でこんなの作ったらバグが出るかもしれないよ」、「でも、こうしたほうが絶対おもしろくなります」。ドラマだったら栗山さんは熱血新入社員役だが、めちゃくちゃ冷静に反論したんだろうなーと想像に難くない。

 情熱を心中に秘めて作られた“古代遺跡探険隊”は大成功。多くのプレイヤーが参加する人気企画となった。

 上司が心配するほど多くの要素を検討したのだから、そうとう忙しかっただろう。新人の作業量の常識の超えていたはずだ。帰宅時間とか大丈夫だったのだろうか。


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▲ですって。

 プレイヤーの視点を理解することが大切。このゲーム運営の基本を大切にしているからこそ、『RO』は12年以上も続いているのだ。

 栗山さんはプレイヤーとしての感性や知識を活かして、新たな境地に挑んでいる。RJC新ルールの策定だ。新ルールの基本コンセプトは“いろいろな職業が活躍できる大会”。

 これまでは職業ごとの強弱が明確にあり、チーム構成(1チームは7人)のマンネリ化が進んでいた。初めてメイン担当として関わったのはRJC2014。観戦者は多いものの、参加者数は頭打ちだと感じた。


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▲移動中にも話を聞いて密着取材感を出す。タクシー移動中の構図も鉄板だが、タクシー代がもったいなかったので諦めた。

 いつの世も、若い力が壁を打ち破るものだ。ドキュメンタリーっぽくなってきたぞ。栗山さんはまず社内の『RO』プレイヤーから意見を求めた。すると、いくつかの課題が浮き彫りになった。

 そもそも7人も精鋭メンバーを集めるのが難しい。これまでのRJCは7人が連携してひとりを討ち取る戦いだった。精密機械どうしのような戦いになるため、見ている側が「自分が参加しても勝てないだろうな」と、壁を感じるのも当然だ。

 そこで、1チームを5人に減らし、人気コンテンツ“攻城戦”でよく使われている装備を使用可能にした。装備によってキャラクター特性が変化するため、チーム構成の選択肢は一気に増える。


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▲栗山さんは「定石」と言ったけど「常識」のほうがかっこいいので、こっちにした。意味は似てるし。なお、発言内容はかっこいいけどバックの写真は自動販売機でお茶を買ってるところ。

 うおおおおお! それっぽい! このセリフ、ドキュメンタリーっぽい! ドキュメンタリー好きとしては興奮を隠し切れない。栗山さん、おれ一生ついていきます!

 気を落ち着けて解説する。たとえば、これまでの定石では、スキル使用後のディレイを軽減できるミンストレルは必須の職業だと言われていた。だが、解禁された装備アイテムの中にはスキルディレイをカットするものも含まれている。ミンストレルなしの構成も実用的なラインになってきたのだ。

 自由度が高くなるのはすばらしいことだが、変化を嫌う人は少なくない。イチから考えなければならないことをハードルに感じる人もいるだろう。

 もちろん、そのへんのフォローも考えられている。現在は練習用の特設ワールドがオープン中。オートマッチング機能も備えているため、ひとりでも練習できる。ここで息の合う人を見つけてチームを組むのもいいだろう。


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▲プレイヤー目線で作られた新しいRJCは、2015年10月3日に決着する。

 ふつうにいい話になってるなーと思っていたところ、ど真ん中に「常識を、破壊する」という剛速球が決まった。もう1軒行くぞ! みたいな気持ちでさらに話を聞きたい。つぎはもう少し親近感がわく人がいい。


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▲栗山さんのロジックに興味がある人はこちら。