『ファークライ5』の世界をより深く知るキーワード“プレッピング”とは? 研究者が語る現実

公開日時:2018-03-22 14:33:00

 『ファークライ5』の世界を理解するうえで、重要なキーワードとなるのが“プレッピング(Prepping)”。「Prep(準備する)」という意味の言葉から派生した、災害などに備えて準備する行為を示す単語でもあります。災害などの有事に備えて物資などを整える行動自体は、特別なものではありません。その中でも、いつか世界は終焉を迎えて人類は審判されるという終末思想と紐づけて、大規模な準備を整える人がいます。それが“プレッパーズ(Preppers)”と呼ばれる人たちです。アメリカ・モンタナ州を舞台にした『ファークライ5』の世界観には、プレッパーズの存在が大きな影響を与えています。

 そこで、プレッパーズの実情とその社会的背景を研究するイギリス・ケト大学のマイケル・ミルズ博士による、プレッピングのパネル・ディスカッションの模様をお届けしましょう。アメリカにおける終末思想とプレッパーズの関係性は、エデンズ・ゲートとホープカウンティの住民との関係を理解するためにも重要なサブテキストとなるのは間違いありません!

マイケル・ミルズ博士によるプレッピング講座

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 アメリカにおけるプレッピングとは、大惨事の際、ライフラインの確保や、政府による救済が困難な場合に備えて、個人が自己供給できるようにすること。アメリカで突出した現象で、ほかの国ではあまり見られません。アメリカではここ10年ほど注目を集めており、いまや300~500万人がプレッピングに従事していると言われています。その人気に呼応して、保存用食料品、医療品業界は収益を上げており、サバイバル向けのイベントでは保存用食料や飲料水用の濾過フィルターシステムの紹介、エキスパートによるワークショップなどが開催され、何千人もの参加者が集まるほどです。

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全米で開催されているプレッパーズ向けのイベントを紹介するサイト“Preppers Show USA”。各所でイベントが開催されていることがわかります。

※画像クリックで公式サイトへ

 プレッピングのポイントは以下の5つです。

(1) 食料品の備蓄。長期保存が可能な缶詰だけでなく、卵や牛乳、チーズなどを確保するために、鶏や牛、羊にウサギなどの飼育まで視野に入れています。
(2) 水の備蓄。大量の水を確保するために、汚水をフィルターでろ過できる装置は必須です。
(3) 医療対策の確保。包帯や薬品の備蓄はもちろん、応急手当てができる訓練も受けるようにしています。
(4) 自己防衛手段の確立。暴力からの防衛が目的ですが、武器弾薬の備蓄から、射撃訓練を受けて防衛手段を強化します。
(5) シェルターの構築。個人もしくは家族、より規模の大きい集団の居場所を確保します。自分の家・敷地内にシェルターを作成する(Bug In)、もしくは孤立した場所に作成する(Bug Out)方法があります。

 このような動きは過去にもあり、1970年代中頃から90年代後半にかけて、大きなムーブメントが起きました。これは、当時流行した“世界の崩壊”の言説に備えた活動でしたが、2001年には鎮火しました。しかし、2008年以降から、サバイバル活動の人気が上がっているのです。現在のプレッピングは、過去のサバイバリズムの影響を受けています。

 過去のサバイバリズムは、ラディカルな右翼運動や、極端な宗教的神学に影響を受けていましたが、いまのプレッピングにおいては、“アポカリプス(黙示録)”で人類が終焉を迎えると考える人は非常に少ない。彼らは将来、何らかの事件や事故が起きた場合、数週間から数ヵ月間は生きて行けるように準備しているだけなのです。その理由もテロ、国家間戦争、侵略、天災などが上がっていて、ひとつの理由を信じているわけでありません。あくまでも予防措置行動であり、「保険だ」と説明する人もいます。

 アメリカ人には、政府や機関に依存せず「自分のことは自分で」という個人的思想があります。広大な土地があり、地方ではすでに自給自足の生活が根付いているので、災害への準備は珍しいことではありません。天災が頻繁に起きることも要因となっています。プレッパーズの年齢層は、アメリカでは平均50歳以上で、70%が男性です。子どものために活動をしている人が多い。所有物や安定を失うことに脅威を感じており、住宅や生活のレベル、家族を保護したいと考えています。活動には、ある程度の余裕がなくてはできないため、中産階級層が多いと言えますね。しかし、私の調査では、“終末は近い(End is near)”と考えている人たちは、おそらく5%以下くらいでしょう。

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ゲーム内でもこのような施設が登場しますが、プレッパーズの豊富な備蓄や敵に対する自衛の準備が、プレイヤーには大きな助けとなるわけです。

 いまのプレッピングをカルチャーとするなら、その要素はゲームで描かれるテーマとマッチしている部分はあります。ジョセフ・シード率いるエデンズ・ゲートは終末思想を持っていますが、そんなカルトに抵抗する人たちもプレッパーズです。彼らは、何らかの攻撃からサバイバルできるように備えている人たちですから。私がプレッピングに興味を持ったきっかけは、ナショナル ジオグラフィック(National Geographic)のチャンネルで放送された『Doomsday Preppers』と言う番組(※編註:日本でも『プレッパーズ~世界滅亡に備える人々~』というタイトルで放送されています。番組サイトはコチラ)。

 興味を惹かれたのは、この番組の題材となっている人たちが、現実社会への期待をあきらめ、将来的に何らかの形でより良い社会が形成されることを願っており、物事が悪い方向に進むことへの準備が正しいと完全に信じて行動しています。彼らは終末思想の持ち主であり、未来に起こることへ、ある考えを持っているのです。社会学者として、個人が社会から断絶されてもいいと思うのは特有な考え方だと感じました。

 ゲームでは、こういったサバイバル・カルチャーを極端なレベルで描いていますが、プレイヤーが興味を持てるように扱っています。ジョセフのような極端な思想の持ち主と、プレッパーズのあいだにある不一致は、現実のアメリカでもよく起こっていることなのです。

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 実際にゲームでもサブ要素に“プレッパーの宝”というコンテンツが登場し、各地にプレッパーのお宝を集めるミニミッションが発生します。住民の中にもプレッパーがいて、彼らとの会話で、モンタナ州という独立心の強い土地柄をうかがい知ることもできます。ぜひ、ゲームの中で彼らと出会ってみてください。

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『ファークライ5』特設サイト How to PRAY Far Cry 5

UBI SOFT 公式サイト

『ファークライ5』公式サイト

●GAME SPEC

タイトル:ファークライ5
ハード:プレイステーション4、Xbox One、PC
メーカー:ユービーアイソフト
発売日:2018年3月29日
価格:各8400円[税抜](各9072円[税込])
ジャンル:アクションアドベンチャー
CERO:18歳以上のみ対象

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