ニコニコ自作ゲームフェス4 セレクション

“ニコニコ自作ゲームフェス4 セレクション”は、ニコニコ動画で開催されている自作ゲームの祭典“ニコニコ自作ゲームフェス4”の参加作品の中から、ゲームフェス運営が選んだゲームを毎週紹介していくコーナー。

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現実と幻想のグラデーションが光る『幻想乙女のおかしな隠れ家』【ニコニコ自作ゲームフェス4 セレクション 第7回】

2014-09-26 18:00:00

▽ 幻想乙女のおかしな隠れ家 【紹介動画】

『幻想乙女のおかしな隠れ家』
【著作権者】サークル「ブリキの時計」
【対応環境】Windows 2000 / XP / Vista / 7 / 8
【ジャンル】 ダークファンタジーADV
【作者のページ】 genkaku.kakurezato.com/

“ニコニコ自作ゲームフェス4 セレクション”は、ニコニコ動画で開催されている自作ゲームの祭典“ニコニコ自作ゲームフェス4”の参加作品の中から、キラリと光るゲームを取り上げて紹介していくコーナー。今回は、『幻想乙女のおかしな隠れ家』を紹介していく。

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●『幻想乙女のおかしな隠れ家』の「お菓子な」ストーリー

気弱な少年ベルントと、しっかり者の少女アンジェは、森で小さな家に迷い込んでしまう。そこは二人が小さな頃に過ごしたことのある、「お菓子の隠れ家」だった……という冒頭の導入部分。

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▲少年ベルント。どこか幼さの残る顔立ちで、気弱な性格。

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▲少女アンジェ。しっかり者のお姉さんといった性格で、ベルントとは幼なじみ。

アンジェが感嘆の声をあげるのは、夢のようなお菓子の家。まるで童話「ヘンゼルとグレーテル」を思わせるような展開に、思わず心躍ること間違いなしだ。妖精や、過去に死んでしまったはずの少女シンシアも現れて、非常に賑やかなお菓子の家が演出される。

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▲ロールケーキのタンス、チョコレートでできた机、床もお菓子!

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▲ドット絵やキャラクターイラストなども、とても可愛らしい!

なぜかお菓子の家に閉じ込められてしまうベルントとアンジェ。幽霊のシンシアは、ここで起こる困り事を解決してお菓子をもらうことを提案する。それをカラスの交換屋に頼んでパンくずと変えてもらい、そのパンくずを時計のなかに住む小鳥にあげることで、家から出るヒントを貰おうというわけだ。妖精たちが相談してくる困り事は、脱出ゲームのような謎解き形式になっている。

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▲そのパンくずはアンジェが森に落としておいた目印なのだが……

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▲一日が終われば妖精たちとのパーティが催される。

ゲーム中では右上に曜日が表示されているが、シンシアは「土曜日までにここを出ないと大変なことになる」と意味深なことを言う。人の一生を一週間になぞらえて歌ったマザー・グースの詩『ソロモン・グランディ』が壁にかかっており、非常に意味深だ。

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▲マザー・グースの詩はどこか不気味な印象を与えるモチーフとして活用されている。

と、ここまでが『幻想乙女のおかしな隠れ家』の「お菓子な」ストーリーだ。

●『幻想乙女のおかしな隠れ家』の「おかしな」ストーリー

しかし、何かがおかしい。

このお菓子の隠れ家は何なのだろうか?なぜここにシンシアの幽霊がいるのか?妖精が発する謎めいたセリフの真意とは?どこか不可解なベルントの態度は一体何を意味するのか……?疑問は尽きない。

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▲少しずつ変わっていく色彩とドット絵。グラフィック演出が非常に見事だ。

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▲「様子がおかしい」というアンジェに対して、ベルントは……

次第に「おかしく」なっていく世界観。現実と幻想の区別がつかなくなってきた頃、冒頭で紹介されていた吸血鬼の伝説をプレイヤーは嫌でも意識せざるを得ない。

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▲吸血鬼は意外にそばにいるのかもしれない。

プレイヤーはクライマックスにかけて、二度も三度も期待を裏切られることになる。見ているものは真実なのか、一体正しいものは何なのか、何が「おかしかったのか」……、プレイヤーは何度も考えさせられることになる。

さあ、ここまでが紹介できる限度だ。ここから先はストーリーの核心に迫っていくことになる。ちなみに、アンジェの話が終わった後にはベルント視点で見たストーリーを見ることができ、ここからが本ゲームの本番ともいえる。一度観たはずのストーリーを、視点を変えてみるだけでこうも違うのか、という新鮮な驚きは、劇場や舞台での演出とどこか似ている。

●体験の連続性を追究した作品

本作の醍醐味はプレイ体験そのものにある。体験には「連続性」が伴う。例えば、「恋愛という体験」を例にとろう。出会いから別れまで、そこには連続性が存在する。相手のことを全く知らない状態から、相手のことを知り始めた状態、そして相手のことを知ってしまった状態――このように、状態が変化するごとに自分の感情が変化していくわけだが、「状態の変化と、それに対応する自分の感情の変化を楽しむ」ということ自体が、恋愛のみならず、連続性のある体験の醍醐味である。

本作のレビューが難しい理由もそこにある。本作はとても見事な作品だ。しかし、その一部を切り取って紹介できる類の作品でもない。本作は風景や色彩・グラフィックの変化、そして登場キャラクターの心理的変遷を追ったあと、それを違った視点からも見てみる……というように、余すところなく「変化のグラデーションを楽しむ」類の作品であり、その過程をいかに魅せるかということを追究した作品だ。

実際にゲームを体験したプレイヤーはその変化に翻弄される。そして自分の心理の変化そのものにすら、心地良い「酔い」を経験することになるのだ。

そういったわけで、是非読者の皆様におかれては、このゲームを是非「体験」してほしい。体験の方法は幾つかある。ひとつは自分でゲームをダウンロードし、プレイする方法。これが一番のオススメである。また最近では、ニコニコ動画などでの実況プレイなどで、実況者と一緒にゲームを追体験していくこともできる。もちろん、本稿を含め様々なレビューを読むことで少しなりとも興味を持ってもらうことも、その体験の一部になり得るだろう。「もぐらゲームス」でも、本作のレビューを行っている。

『幻想乙女のおかしな隠れ家』注目のフリーゲーム - もぐらゲームス

最後になったが、制作者「ブリキの時計」は小説化も決定している人気フリーゲーム『クロエのレクイエム』でも有名だ。最近インタビューが各所で出ているので、気になる方はこちらもご覧頂きたい。

『クロエのレクイエム』を手掛けた同人ゲーム制作サークル“ブリキの時計”インタビュー なぜ彼女たちは表現手段として“ゲーム”を選択したのか?

夏休みをゲーム制作に費やした少女たちがいた――16歳と19歳が生み出した傑作『クロエのレクイエム』誕生秘話

環境に関係なく様々な意欲的なゲームの創り手が出てきて、それが遊び手によってクローズアップされる流れが加速している。今後は彼女達のようなクリエイターが続々出てくるのかもしれない。そう思うと、楽しみでならない。

“ニコニコ自作ゲームフェス”では、このようにコンセプトが光る作品や、キャラクター、世界観で魅せるゲームなどが揃っている。今後も次々ゲームを紹介していくので、是非チェックしてみてほしい。

●ニコニコ自作ゲームフェス4とは

“ニコニコ自作ゲームフェス”は、ゲームを作る人、遊ぶ人、二次創作をする人をつなぎ、個人で作ったゲームがもっと多くのひとにプレイされるようになることを目指す祭典。4回目の開催となる“ニコニコ自作ゲームフェス4”は、2014年7月17日(木)から2014年10月12日(日)の間で作品募集を行い、11月中旬に受賞者を発表予定。9月18~21日に“東京ゲームショウ”の会場にて展示が行われた。

ライター:Noah(もぐらゲームス