チェイサーゲーム

現代のゲーム業界を舞台にくり広げられるお仕事マンガ。第13話まで無料公開中です。また、原作者であるサイバーコネクトツー松山洋(まつやまひろし)社長のエッセイ「デバッグルーム」も必読。マンガが収録されている単行本は、最終巻第7巻まで発売中。気になる方はぜひチェックしてみてください。

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【単行本第5巻発売決定!】特別企画『鉄拳』プロデューサー、原田勝弘氏・『チェイサーゲーム』原作、松山洋社長の特別対談!

2020-11-30 18:00:00

2019年10月。これは、松山社長に宛てられたある一通の手紙から始まった。

この手紙を書いたのは、『鉄拳』シリーズのプロデューサーなどで知られる、バンダイナムコエンターテインメントの原田勝弘(はらだかつひろ)氏。松山社長とは旧知の仲ということで、この手紙は原田氏から松山社長への激励の手紙であることは間違いないのだが、この手紙に書かれていたある一言がきっかけでふたりの戦いの火ぶたが切って落とされた。

一言

そうこれは、ある男たちの拳と拳を交えた、「すべったすべってない」論争の元年を宣言するものであった……。



という前置きはここまでにいたしまして、この手紙は『チェイサーゲーム』の単行本第1巻、第2巻が刊行されたころに原田氏が松山社長に宛てたものになります。

手紙の中でとくに注目していただきたいのは、デベロッパーとパブリッシャーの関係を描くべきだという助言の部分です。まさに現在連載中の『プロデューサー編』が、この原田氏の示唆している部分の内容になっていませんか?

ということで、『プロデューサー編』の内容の感想をお聞きしつつ、いまの『チェイサーゲーム』をどう思われているのか伺うべく、原田氏と松山社長にリモート取材をしました。今回はその模様をお伝えいたします。


原田氏と松山社長の『チェイサーゲーム』特別対談!

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(以下文中では、原田、松山)

―おふたりの出会いは

松山:きっかけは、バンダイとナムコの経営統合だよね

原田:松山のことは、雑誌の記事やインタビューで名前は知っていたけれど、仕事上で会うことはなかったです。

松山:自分もナムコに『鉄拳』の原田がいることは知っていたけれど、直接接点はなかったね。経営統合する前は、ナムコはほかの会社と交流を持たないイメージがあったね。

原田:当時のゲーム業界は、ひとつの会社で開発と発売を担っていることが多かったですね。その場合、入り口から出口まで社内で完結してしまうこともあって、ほかのメーカーとの交流がほとんどなかったです。

松山:バンダイナムコエンターテインメントができる以前は、バンダイにゲーム開発に関して経験がある人がいなくて開発の相談をする相手がいなかったけれど、開発を持つナムコといっしょになると聞いてうれしかったですね。経営統合して最初のうちはまったく交流がなかったけれど。初めて話したのは、Japan Expoで海外出張したときでしたね。

―最初のお互いの印象はどうでしたか。

松山:ようしゃべるなぁと。開発者って寡黙な人が多かったからその中でも目立っていた。

原田:開発現場のスタッフは不器用でしゃべらない職人気質の人が多いなか、自分はしゃべる役回りが多かったので、そんなふうに思われたのかもしれないですね。自分から見た松山の印象は、声のボリュームの調整が利かないやつだなと。

松山:それはよく言うよね。

原田:大笑いの声も、内緒話も全部聞こえてしまうんですよね。良くも悪くも裏表がなく、印象どおりの人なんだろうなと思います。

声

―そうだったんですね。今日はお尋ねしたいことがいくつかあるんです。ひとつ目は以前に松山さんが公開なさっていた、原田さんから松山さんへの手紙のことです。あれはどういった経緯で渡そうと思われたのでしょうか。

松山:ちょっと私から補足すると、『チェイサーゲーム』の単行本第1巻・第2巻が発売になったときに、勝弘を含め、ほうぼうの知り会いに単行本を送ったんです。単行本第5巻にも掲載しているように、感想をもらうためだったのですが、勝弘からは一切連絡がなかったです。それから、しばらく経って急に長い手紙が届いたんです。

原田:単行本が届いたときに読んでいたのですが、周りの感想とは違った視点からの感想を言いたいと思っていたので、ほかの方の反応が出てくるのを待っていました。あと、ゲーム業界をテーマにしようと考える人はたくさんいると思うんですが、実際に『チェイサーゲーム』のような切り口で扱った作品は多くはありませんから、どんな人がこのマンガを読むんだろう、どんな感想を持つんだろうって興味がありましたね。新しいジャンルのゲームがヒットしたときに、その理由を分析する癖がついていたので、そういう視点で観察していました。

松山:ゲーム業界の事情がわからないと読めないマンガにすると、読者層は狭くなってしまうので、どの業界で働いていても「こういう話“あるある”だよね」と感じてもらえる内容にしたいと思っていました。いただいた感想もそういうものが多かったです。

―原田さんはパブリッシャー側のことを描いてほしいと手紙に書いていらっしゃいましたね。

原田:自分の周りでは、リアルで変な汗が出たっていう意見が多かったです。たしかにリアリティはあります。ですが、登場人物の描写や美化されている部分と実際のゲーム業界とのギャップを考えると、今後熱くなる展開に繋がっていくのかが懐疑的だったんです。

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原田:例えばですが、『鉄拳』にも登場する『ウォーキング・デッド』(アメリカのテレビドラマ)のニーガンのようなとんでもない悪役が出てくるのが自分は好きなんです。役だとわかっていてなお演じている俳優のことまで憎くなってしまうくらいの悪役なのですが、それは自分がそれだけそのキャラクターに心を奪われているということでもあると思うのです。

 『チェイサーゲーム』の第1巻・第2巻の時点では、ゲームを作りたいという熱い想いを持つ人物しか出てきませんが、ゲーム業界にはそれとはかけ離れた、とんでもない人間性を持った人もいます。そういう人物をデフォルメして登場させるなりして、真っ直ぐな人だけではないということを描けたら、読者がより惹きつけられるのではないかと思っていました。

松山:いま掲載している『プロデューサー編』はすでに構想していたので、手紙をもらったときは、やはりこういうテーマは求められているのだなと納得しました。まさに更木は、私が20数年仕事をするなかで出会った数々の人の“悪い部分”を少しずつ抽出して作り上げた人物です。更木に対する読者からの反響も想像以上のものだったので、よかったと思っています。

もりや

―原田さんから見て、更木にはリアリティを感じますか

原田:更木はパンチのある悪役プロデューサーですが、さすがに更木のままの奴はいないだろうと笑いました。

 ただ、自分の知っている人を15人くらい掛け合わせると、組合せによってはこの男になるかもなとは思いました。更木の描写に関しては、いま描かれているような私利私欲にまみれた彼自身のパーソナリティだけでなく、なぜ彼のような男が生まれたのか、その環境や背景が見えてくるとおもしろくなるんだろうなと。

松山:パブリッシャーだけでなく、デベロッパーの中にももちろん悪があって、そこも描いて、クライマックスに向けてスパートをかけていこうと思っています。ですから、読者のみなさんにも、もう少しのあいだ更木の悪行に耐えていただければと。

原田:更木にいちばんリアリティを感じたのは、進捗がひっ迫しているときに、そんなことお構いなしに時間がない人を飲みに連れて行くくだりですね。昔はよく耳にした話です。

松山:本当に時間がないって言ってるのにねぇ。開発スタッフ全員を連れていくわけでなく、管理職の人を誘って親睦を深めましょうという名目で呼ぶんですよね。

原田:あと、松山を呼ぶな、現場だけでなんとかしろっていう部分もリアリティがありますね。

松山:最近これよく言われますね。、例えば、20代30代という若手のプロデューサーと、開発側の若手制作スタッフとの打ち合わせの場に私がいると、出席者が私に気を使って私の意見が優先されてしまい、若手同士の忌憚ない意見交換が生まれにくくなってしまうから、同席しないでくれって。

一緒

原田:たしかにそういう理由もあるかと思います。ただ更木の場合は、違う理由だと思います。更木の「無能の証明ですよ」というセリフがありますが、これは多分更木が考えた言葉じゃなくて、彼自身が上司から言われたことがある言葉なんだと思います。

サムネ

ーそうかもしれませんね。

原田:更木は自分が何をするかよりも、自分に与えられた権限を人に示すことに注意が向いているところがありますよね。ゲーム開発のアイディアを出すことに長けているとか、イラストを描くのがうまいとか、素晴らしい音楽を作れるというように、実際に現場でゲームを作ってきた中で自分の芯となるものやスキル、誰しもが認める実績を持っているプロデューサーは、より自分の能力を発散したいとなるので更木のような人物には育たないでしょう。

 更木は、“自分でないとできないこと”をほとんど持っていない人なのだと思います。そして更木は過去にも、自分の上司が保身のために無能の証明という言葉を使って人に圧をかける場面を観てきたのだろうなと。いま更木はそれと同じことを外部に対してしているのだと思います。そういう視点から見ると更木という人物にも同情をしてしまいますね。

―よくない連鎖に取り込まれてしまったひとりであると。

 更木のようなプロデューサーが誕生する背景には、現状の日本のゲーム業界の抱える問題もあるかと思います。昔と違い、いまはパブリッシャーでいきなりプロデューサーとして起用されても、コンプライアンスやセキュリティーの関係でゲーム開発現場に入ることがなかなかできません。ですから、現場でどんな仕事が行われているかを確認し、そこでみずからも学びながらゲームを作っていくという環境で仕事をできないことがあります。その場合、“○○というゲームのプロデューサー”という肩書きだけは増えていくのですが、自分が作ったとは言えないのではないかという葛藤に悩んでしまう人もいます。

 あまり知られているところではないのですが、世代によっても、会社によってもプロデューサー像は違うので、そういう予備知識を持ったうえでマンガを読むと、よりおもしろいのではないでしょうか。

―原田さんは今後『チェイサーゲーム』にどのような展開を期待しますか。

原田:ゲームファンから見たときに酷い出来のゲームが生まれたり、売り方が最悪になってしまったりするケースがあるのはなぜなのか、その背景を描いてほしいですね。邪悪な想いから生まれてしまったわけではなく、それを生み出してしまう構造があるということを描いてほしいです。

松山:たしかにそういうのあるね。

原田:外から見ると、ゲームを愛していない絶対的な悪みたいな人がゲーム会社にいて、その人のせいで生まれてしまったと思うかもしれません。でも、実際にはそうではなく、さまざまな人の想いなどが複雑に絡み合い、不本意にも負の方向に作用してしまった結果であるケースがほとんどです。それを描いて解説するのは、フィクションの世界が適していると思います。

松山:『チェイサーゲーム』は、当初からゲーム業界の素晴らしい部分とともに、抱えている問題もしっかり描くことを目的としているマンガです。『プロデューサー編』はすでに完結まで話を作り終えていますから、いまから勝弘が提案してくれたことを入れるのは難しいですが、今後よきタイミングでネタとして入れられたらいいなと。ただ、こんな酷いことがありましたとか悪いやつがいましたって話ではなく、エンタメとして楽しんでもらえるストーリーにするというのが、まずありきです。

原田:暴露本にしてほしいわけでないんですよ(笑)。誇張した上で象徴的なフィクションにしてください。

松山:わかっています(笑)。

原田:あと、話は変わりますが、魚川さんが僕の席はここですといったエピソードがありましたよね。あれ、自分が入社2年目で『鉄拳』プロジェクトのディレクターになって、開発チームにあいさつにいったとき、「格闘ゲームに関しては僕が最も理解しているので、今日からは僕の言うことを聞いてください」的なことを大先輩の人に言ってまわりました。数年後、先輩から「実際おまえがいちばんわかっていたからみんな素直にきいていたけれど、あの時全員ドン引きしていて、めちゃめちゃ嫌われていたぞ」と言われました。魚川くんは嫌われてないの?

4確定申告

5席

松山:ふつうに、嫌われているよ。

原田:それはよかった。あのマンガにはそこが描かれていなかったから。

松山:でも本人も自覚があって、この前も飲みにいったときに「全部わかってやってますからね」って、また生意気言ってました。そこがまた魚川らしいんですけどね。

原田:俺は嫌われているなんて微塵も思っていなかったけどなあ(笑)。だからそれを言われたときはめちゃくちゃへこんだよ。

以上、原田氏と松山社長の特別対談でした。

みなさんは更木という人物をどう思いますか。担当は原田さんのお話を聞いて、少し更木への見方が変わったかもしれません。この更木が大活躍(?)する『プロデューサー編』がどのような展開になっていくのか、より気になっていただけたらうれしいです!

そして蛇足ですが、「すべったすべっていない」論争は忘れられたものの、今度は「嫌われている嫌われていない」論争が勃発したのでした……。


そして、本日(11月30日)は単行本第5巻の発売日です! 第5巻の本の帯は今回対談にご協力をいただいた、原田さんからいただいた力強いコメントを掲載しています。また、単行本には更木が活躍中の『プロデューサー編』の他にも、魚川の葛藤を描いた外伝も収録。そのほか、単行本でしか読めない、“ゲーム業界あるある”も掲載していますので、是非チェックしてみてください。